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27話:スーパーフットクラッシャー

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 優勝した石角たちは、表彰式の時間まで待つ事になった。勿論2位、3位の学校も待っており、待ち時間は車をどう使うかの話をしていた。

「なぁ、水素自動車って言ってもどんな仕組みなんだろうね…。ほらよく言うじゃないの、まだ試験段階で燃料補給場は作られてないとかさ」
「でも水素だからなぁ…壊しそうなやつはいそうたけど…」

 欅と石角が見た視線の先にはフットクラッシャーでお馴染みの寺野、USBクラッシャーの湯田が座っていた。今回の優勝でもらった水素自動車はとても高性能なものだった。

「この説明を見る限り、自動運転が搭載されていて更に水素とガソリンも大丈夫になってる。両用なのはありがたい」
「どれくらいの大きさなことか…」

 物理部トップ2人が話していると、表彰式が始まった。賞状とトロフィーを受け取るのは我らが物理部の石角だ。

「石角柊太部長。あなた方はこの爪楊枝タワー大会で見事な成績を残したことをここに表します。副賞として新型の水素自動車、爪楊枝をモデルにしたお菓子、かりんとう1年分を贈呈します」

 2位と3位は賞状とトロフィーを貰ったが、今年の副賞が豪華だったので悔しがっていた。自動車のお披露目になった時、石角たちは拍手した。特に下原と左右田は興味深く見ていた。

「これデカいね。バス並みだけど山も登れるかつ災害時にも対応できるUSB充電も可能になってる。そして何よりも、ドアがスライドだから乗りやすい」
「それも分かるけど誰が運転するの?うちらは運転できる人いないよ?梓馬に頼もうぜ」

 左右田は大会の会場を片づける梓馬に運転を頼んだ。梓馬はあっさり承諾した。

「ならこの片付け終わったあと行こうか!俺が打ち上げとして焼肉奢ってやる」
「マジっすか先生!太っ腹やわー」

 すぐに物理部一同に話をした。ここからは梓馬の片付けが終わるまで、それぞれ個人で楽しむ事にした。喬林と鶴居と加賀木はガールズトーク、下原は1人ゲーム、左右田と欅はパソコンで化学部の実態掴み、石角は走り込みを行った。しかし、寺野と湯田は暇そうにしていた。暇を潰すべく自動車の中を見てみた。

「おい湯田!お前の好きなUSBをここに充電出来るぞ」
「やめてよ!そんな寺野君もリクライニングで蹴らないでよね、蹴ったら車壊れるから」

 普通に考えれば、車を大事に乗りなさいと突っ込まれる所だが水素自動車の周りにいるのは2人だけで誰も聞かれることはなかった。そうこうするうちに梓馬の片付けが終わり、物理部員は水素自動車へと乗り込んだ。が…

「運転手含めてこの車6人乗りなんだよなぁ…今日来てる人数は…俺含めて11人か」

 5人余るためどうするべきか考えた。しかし下原はまたも空気が読めない考えを提示した。

「よく働いた人は乗って働いてない人は乗らない、でどうでしょうか?」
「お前は黙っとけ!働いてないくせによく言えるよ。下原はゲームばっかりしてただろ」

 ど正論を鶴居は下原にぶつけた。中立な立場である石角は、男らしいというより部長らしい考えを示した。

「それならレディーファーストということで加賀木さん、鶴居さん、喬林さんは確定で乗って残りの2枠を7人で決めましょうよ」

 物理部員は納得した。問題はどのように決めるのかをここから話し合った。

「そしたら、下原君と寺野君、富林君、左右田君、湯田君、欅君、僕の中で2人乗る人決めよう!正当なのはジャンケンで決めるのが早いけど何か良い案ある?」

 悩んだ男子部員だったが、ジャンケンで決めることにした。結果はすぐに決まった。

「このジャンケンで勝ったのは欅君と湯田君だね!文句無しということで決定するよ」

 選ばれし2人はすぐに乗車した。残りの人はそのまま歩くなり公共交通機関を利用するなりとそれぞれが焼肉会場へと向かった。

「よし、エンジンかけて運転するからシートベルト確認しとけよ!」

 爪楊枝タワー大会が終わり、疲れたのか欅はぐっすり寝ていた。物理部女子も椅子の座り心地が良かったのか、そのまま眠った。湯田は相変わらずオンラインゲームをイヤホンで聴きながらプレーした。

「みんな寝ちゃったなぁ…。よし、とりあえず充電も少ししかないからUSB充電器で充電しようかな」

 グイッとUSBを刺した時、ビリビリっと音が聞こえた。運転していた梓馬も聴こえてたのか、すぐに応答した。

「なんかすごい音聞こえたけど大丈夫か?」
「あ…大丈夫です。問題ないです」
「そうか、もうすぐ着くから寝ているみんなを起こさないとな」

 梓馬はそのまま運転して湯田は笑っていた。

(やばい…またやらかした。放電してるよ…大丈夫かな…)

 どうしようと考えてるうちに焼肉のお店へと到着した。梓馬は寝ていた部員たちを起こして、乗れなかった組の合流を待った。

「先生、まだ誰も到着してないですね…」
「加賀木の言う通りそうだなぁ…片付けてる間に予約取ったから先入っとくか」

 梓馬と車に乗った部員は店に入った。その数分後、寺野と石角たちが走って到着した。

「ここか!良い距離だけど遠かった~」
「それは分かるけど、まだ走りたいって足が言ってる」

 フットクラッシャー寺野は焼肉の店周りを走りまくった。急に入った車に驚いて飛んで避けたがその先が最悪だった。

「危なかった…この車を踏み台にしたけど大丈夫かな…。まぁ梓馬に言っとけば問題ないやろ…」
「良かった…て、寺野君その踏み台にした車…よく見て…」

 石角が笑いを我慢しながら説明して寺野はその通りに見た。そこにはフロントガラスとエンジンが綺麗に潰れてめり込んだ足が見えた。寺野は事実を受け入れられなかったのか、腹抱えてバカ笑いした。

「梓馬の今日運転もらった自動車だよ。やべぇ…どうしよう」
「知らんし…自分でしてしまったから自分で考えろや」

 続々と到着した男子部員だったがその光景を見て爆笑した。

「それはやばすぎる。どうすんの?俺は喬林に借りてる金が規格外だから無理だけど…」
「流石フットクラッシャーや。人間でもなく猿でもなく、ロボットを超えたようだね」

 下原の冷たい笑みと左右田の一言が寺野の心に突き刺さった。富林はこの光景が面白いと思ったのか、写真を撮りまくった。

「黒歴史製造機寺野陽一爆誕!だな」

 富林の一撃に大爆笑したと同時に車が大爆発した。エンジンの損傷と水素が原因の水素爆発が起きた。爆発音に気づいた食事中の梓馬とその一同は、すぐに外へ出た。爆発した新型水素自動車と、車を壊して笑い転けた寺野の態度をを見て泣き怒った。

「このバカタレが!何でお前エンジンに片足突っ込んでぶっ壊してんだよ。いくらすると思ってるの?完全に廃車やないかい」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 結局大会後、寺野は梓馬に追いかけられてそのまま走り去って他の人たちはそれぞれの家へ帰宅した。それも面白い話という名の優勝旗をテイクアウトした。
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