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王都の一等街区。かつては由緒正しい宝飾店だった建物が、一夜にして「異様な空間」へと変貌を遂げていた。
看板には、無駄を一切省いた極細のフォントでこう記されている。
『ブリリアント効率化コンサルティング ―時間は金なり、無駄は罪なり―』
スゥは、ガランとしたオフィスの中央で、ストップウォッチを片手に仁王立ちしていた。
「……遅い。三・五秒、オーバーです」
彼女の視線の先では、山のような書類を運ぶ新米事務員たちが、生まれたての小鹿のように膝を震わせていた。
「も、申し訳ございません、スゥ代表! ですが、この配置ではどうしても角を曲がる際に減速せざるを得ず……!」
「言い訳はカロリーの無駄です。角の角度が急だと言うなら、棚の配置を十五度傾けなさい。そうすれば遠心力を利用して最短経路で突破できるはずです」
スゥは手元の計算盤をパチパチと弾き、新たなレイアウト図を事務員の顔面に突きつけた。
「いいですか、皆様。私が王家から毟り取った……いえ、正当に回収した慰謝料は、いわば『不採算な過去』を『高利回りな未来』へ変換するための種銭(シードマネー)です」
「は、はい……」
「内装に金をかけるのは最低限でよろしい。シャンデリア? 不要です。光量さえ確保できれば、裸電球の方がメンテナンス効率が高い。ふかふかの絨毯? 論外です。歩行抵抗が増えて、移動速度が秒速〇・三メートル低下します」
スゥの執務室は、もはや「部屋」というより「計算機の中身」のようだった。
壁一面には、王都の主要ギルドの収益予測グラフと、謎の数式がびっしりと書き込まれている。
そこへ、公爵家から派遣された会計責任者が、青い顔をして駆け込んできた。
「お嬢様……いえ、代表! 大変です! 王家から支払われた第一期分の慰謝料ですが……その半分が既に、無名の魔導具工房への投資に回されています! これはあまりにリスクが高すぎるのでは……」
「リスク? いいえ、これは確定した勝利への投資ですよ、会計士さん」
スゥは、窓の外を走る馬車を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた。
「私が投資したのは、若き魔導具師カイル・ヴァン・ランドール伯爵の工房です。彼は変人ですが、その回路設計の思想は極めて合理的。彼が開発中の『自動集計機』が完成すれば、この国の帳簿係の九割は不要になります」
「き、九割!? そんなことになれば、失業者が溢れて暴動が……」
「その失業者たちを、私が新たに立ち上げる『流通最適化ギルド』で再雇用する。これが私の描く、国家規模のリストラクチャリング(事業再構築)です。……無駄な労働を減らし、価値ある生産に人員を回す。これこそが愛という名のバグに惑わされない、真の統治というものですよ」
スゥは、机の上に置かれた一通の招待状を手に取った。
王家主催の、夜会への招待状。差出人は、あのリュカ王太子だ。
「……ふふ。婚約破棄した相手に、まだこんな紙切れを送ってくるなんて。インク代と紙代、そして配達人の人件費を合計すれば、パンが五つは買えるというのに」
「いかがなさいますか? 欠席の返事を出されますか?」
「いいえ。出席します。ただし、滞在時間は最短の十五分。その間に、王家がどれほど『非効率な浪費』で腐敗しているかを、招待客全員の目の前で数値化して差し上げます」
スゥは招待状をシュレッダー(自作の魔導具)に放り込んだ。
バリバリという快音とともに、王家の権威がただの紙屑へと変わっていく。
「さて、仕事に戻りましょう。……皆様、休憩時間はあと四十二秒で終了です。心拍数を整え、次のタスクへの初速を最大化させてください」
彼女の頭脳は、既に次の利益確定(利確)へと向かっていた。
慰謝料。
それは彼女にとって、愛の対価ではない。
世界を「最適化」するための、最強の武器なのだ。
その頃、王宮の執務室では、スゥがいなくなったことで山積みになった書類を前に、リュカ王太子が「スゥなら一瞬で終わらせていたのに……!」と頭を抱えていたが、スゥにとってそれは、もはや観測する価値もない統計データの一部でしかなかった。
看板には、無駄を一切省いた極細のフォントでこう記されている。
『ブリリアント効率化コンサルティング ―時間は金なり、無駄は罪なり―』
スゥは、ガランとしたオフィスの中央で、ストップウォッチを片手に仁王立ちしていた。
「……遅い。三・五秒、オーバーです」
彼女の視線の先では、山のような書類を運ぶ新米事務員たちが、生まれたての小鹿のように膝を震わせていた。
「も、申し訳ございません、スゥ代表! ですが、この配置ではどうしても角を曲がる際に減速せざるを得ず……!」
「言い訳はカロリーの無駄です。角の角度が急だと言うなら、棚の配置を十五度傾けなさい。そうすれば遠心力を利用して最短経路で突破できるはずです」
スゥは手元の計算盤をパチパチと弾き、新たなレイアウト図を事務員の顔面に突きつけた。
「いいですか、皆様。私が王家から毟り取った……いえ、正当に回収した慰謝料は、いわば『不採算な過去』を『高利回りな未来』へ変換するための種銭(シードマネー)です」
「は、はい……」
「内装に金をかけるのは最低限でよろしい。シャンデリア? 不要です。光量さえ確保できれば、裸電球の方がメンテナンス効率が高い。ふかふかの絨毯? 論外です。歩行抵抗が増えて、移動速度が秒速〇・三メートル低下します」
スゥの執務室は、もはや「部屋」というより「計算機の中身」のようだった。
壁一面には、王都の主要ギルドの収益予測グラフと、謎の数式がびっしりと書き込まれている。
そこへ、公爵家から派遣された会計責任者が、青い顔をして駆け込んできた。
「お嬢様……いえ、代表! 大変です! 王家から支払われた第一期分の慰謝料ですが……その半分が既に、無名の魔導具工房への投資に回されています! これはあまりにリスクが高すぎるのでは……」
「リスク? いいえ、これは確定した勝利への投資ですよ、会計士さん」
スゥは、窓の外を走る馬車を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた。
「私が投資したのは、若き魔導具師カイル・ヴァン・ランドール伯爵の工房です。彼は変人ですが、その回路設計の思想は極めて合理的。彼が開発中の『自動集計機』が完成すれば、この国の帳簿係の九割は不要になります」
「き、九割!? そんなことになれば、失業者が溢れて暴動が……」
「その失業者たちを、私が新たに立ち上げる『流通最適化ギルド』で再雇用する。これが私の描く、国家規模のリストラクチャリング(事業再構築)です。……無駄な労働を減らし、価値ある生産に人員を回す。これこそが愛という名のバグに惑わされない、真の統治というものですよ」
スゥは、机の上に置かれた一通の招待状を手に取った。
王家主催の、夜会への招待状。差出人は、あのリュカ王太子だ。
「……ふふ。婚約破棄した相手に、まだこんな紙切れを送ってくるなんて。インク代と紙代、そして配達人の人件費を合計すれば、パンが五つは買えるというのに」
「いかがなさいますか? 欠席の返事を出されますか?」
「いいえ。出席します。ただし、滞在時間は最短の十五分。その間に、王家がどれほど『非効率な浪費』で腐敗しているかを、招待客全員の目の前で数値化して差し上げます」
スゥは招待状をシュレッダー(自作の魔導具)に放り込んだ。
バリバリという快音とともに、王家の権威がただの紙屑へと変わっていく。
「さて、仕事に戻りましょう。……皆様、休憩時間はあと四十二秒で終了です。心拍数を整え、次のタスクへの初速を最大化させてください」
彼女の頭脳は、既に次の利益確定(利確)へと向かっていた。
慰謝料。
それは彼女にとって、愛の対価ではない。
世界を「最適化」するための、最強の武器なのだ。
その頃、王宮の執務室では、スゥがいなくなったことで山積みになった書類を前に、リュカ王太子が「スゥなら一瞬で終わらせていたのに……!」と頭を抱えていたが、スゥにとってそれは、もはや観測する価値もない統計データの一部でしかなかった。
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