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(……いやだ。絶対にいや。なんで私の聖域(引きこもりシェルター)に、知らないおじさまたちがゾロゾロやってくるのよ!)
私は、窓の隙間から屋敷の門へと続く道を見下ろし、ガタガタと震えていた。
道の先には、カイル様の国——隣国の公式な紋章を付けた馬車が数台、厳粛な空気でこちらへ向かってきている。
どうやらカイル様がこの領地の「開発状況」を報告した際、私の魔改造ライフ……もとい、数々の発明品が本国の偉い人たちの耳に入ってしまったらしい。
「……っ」
私は恐怖のあまり、無意識に杖を握りしめた。
(来ないで! 帰って! 今の私は、昨日から同じ髪型のまま、魔法理論の難解な数式を壁に落書きしていただけの、ただの引きこもりなの!)
「……ルミール。そんなに殺気立たないでくれ。門番の石像たちが、君の殺気に反応して戦闘形態(バトルモード)に入りかけているよ」
背後から、いつものようにカイル様がひょっこりと現れた。
(カイル様! 早くあの人たちを追い返して! 私、知らない人と喋ったら、その場で心臓が爆発して、辺り一帯を焦土に変える自信があるわよ!)
「ははは、心臓爆発で焦土化か。相変わらず君の比喩はスケールが大きくて安心するよ。……大丈夫だ、彼らには君のことを『我が国が誇る、隠棲中の伝説的な賢者』だと伝えてある」
(……けんじゃ? 何それ、美味しいの?)
私はカイル様を、これ以上ないほど鋭い眼光で睨みつけた。
「……嘘、つき」
(「とんでもないデタラメを吹き込んでくれましたね、このペテン師公爵!」という、烈火のごとき抗議!)
「嘘じゃないさ。あの洗濯機や温泉の術式を見れば、誰もが納得する。……さあ、準備はいいかい? あ、その『筆談ボード』を忘れないように」
カイル様は私の背中を優しく押し、一階のサロンへと促した。
そこには、隣国の魔導省の重鎮らしき、髭の立派な老人たちが数名、緊張した面持ちで立っていた。
(ひっ……! 威厳がすごい! 知識の塊みたいな顔してる! 怖い、帰りたーーーい!!)
私は、緊張が極限に達した結果、顔面を「今まさに禁忌の呪いで王都を沈めようと企む、深淵の魔女」のような表情で固定した。
「……っ」
私が一歩踏み出した瞬間、老人たちが一斉に肩を震わせ、姿勢を正した。
「(……な、なんというプレッシャーだ。若きカイル公爵が心酔するのも無理はない。この眼光……数多の真理を暴き、深淵を見てきた者特有の鋭さだ!)」
(え、何? この人たち、なんで私を見て拝んでるの? 石像みたいに固まっちゃって……あ、私の顔が怖すぎて、石化の呪いでもかかったと思われてる!?)
私は慌てて、筆談ボードを掲げた。
『遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。辺境の拙宅ではございますが、ごゆっくりとお過ごしください』
ボードに浮かび上がる気高く美しい文字。それを見た老人たちの瞳に、さらなる驚愕が走った。
「お、おぉ……! これほどの魔力を持ちながら、これほど謙虚で美しい言葉を選ばれるとは! まさに『至高の賢者』ルミール様だ!」
「カイル閣下、この御方こそ我が国の魔導技術を百年先へ進める、救世主でございますな!」
(……救世主!? 違う、私はただ、洗濯物を手で畳みたくなかっただけの、怠惰の極致にいる女よ!)
私の内面の全力ツッコミは、カイル様にしか届かない。
カイル様は満足げに頷き、私をエスコートするように横に並んだ。
「さあ、皆さん。まずはルミール嬢が開発した『全自動・精神安定型温泉システム』を視察していただこう。入浴した瞬間に魔力の乱れを整え、美肌効果まで付与される、魔導工学の奇跡だ」
(ちょっと待って、カイル様! 勝手に変な名前付けないで! あれはただの『お肌ツルツルお風呂』でしょ!?)
私は老人たちに囲まれながら、温泉へと案内することになった。
(……あああああ、もうどうにでもなれ! とりあえず、この人たちが私の顔を見て気絶しないことだけを祈るわ!)
視察が進むにつれ、老人たちは「石像執事」の精巧さに涙し、「芝刈り魔王」の効率性に腰を抜かした。
彼らにとって、私はもはや人間ではなく、知恵の神そのものに見えているようだった。
(……スローライフ。私の静かな、誰にも邪魔されないスローライフは……どこへ行っちゃったの?)
夕暮れ時。視察を終えて感涙にむせぶ老人たちを見送りながら、私は玄関先で深いため息をついた。
「……はぁ」
(疲れた。魂が口から出て、今頃隣国まで飛んでいっちゃってるわよ)
カイル様は私の隣で、悪戯っぽく微笑んだ。
「お疲れ様、ルミール。おかげで君の『賢者』としての地位は揺るぎないものになった。……これで、アストレア公爵家も二度と君に手出しはできないだろう」
(……え? アストレア公爵家?)
「君の価値を、世界に知らしめたんだ。……もう、誰にも君を『無能』だなんて言わせない」
カイル様の瞳に宿る、強い意志。
(……そっか。カイル様、私のために、わざわざこんな大掛かりなことを……)
不覚にも、私の心臓がまた小さく跳ねた。
「(……ありがとう、カイル様。でも、次はもっと、目立たない方法でお願いね)」
私の「心の声」に、カイル様は優しく私の手を取り、唇を寄せた。
「善処するよ、僕の可愛い賢者様」
(……ひぎゃあああ! またそういうことする! 顔に出る! 怖い顔になっちゃうからやめてーーー!!)
私の「賢者」としての名声は、この日を境に、大陸全土へと広がっていくことになるのだった。
私は、窓の隙間から屋敷の門へと続く道を見下ろし、ガタガタと震えていた。
道の先には、カイル様の国——隣国の公式な紋章を付けた馬車が数台、厳粛な空気でこちらへ向かってきている。
どうやらカイル様がこの領地の「開発状況」を報告した際、私の魔改造ライフ……もとい、数々の発明品が本国の偉い人たちの耳に入ってしまったらしい。
「……っ」
私は恐怖のあまり、無意識に杖を握りしめた。
(来ないで! 帰って! 今の私は、昨日から同じ髪型のまま、魔法理論の難解な数式を壁に落書きしていただけの、ただの引きこもりなの!)
「……ルミール。そんなに殺気立たないでくれ。門番の石像たちが、君の殺気に反応して戦闘形態(バトルモード)に入りかけているよ」
背後から、いつものようにカイル様がひょっこりと現れた。
(カイル様! 早くあの人たちを追い返して! 私、知らない人と喋ったら、その場で心臓が爆発して、辺り一帯を焦土に変える自信があるわよ!)
「ははは、心臓爆発で焦土化か。相変わらず君の比喩はスケールが大きくて安心するよ。……大丈夫だ、彼らには君のことを『我が国が誇る、隠棲中の伝説的な賢者』だと伝えてある」
(……けんじゃ? 何それ、美味しいの?)
私はカイル様を、これ以上ないほど鋭い眼光で睨みつけた。
「……嘘、つき」
(「とんでもないデタラメを吹き込んでくれましたね、このペテン師公爵!」という、烈火のごとき抗議!)
「嘘じゃないさ。あの洗濯機や温泉の術式を見れば、誰もが納得する。……さあ、準備はいいかい? あ、その『筆談ボード』を忘れないように」
カイル様は私の背中を優しく押し、一階のサロンへと促した。
そこには、隣国の魔導省の重鎮らしき、髭の立派な老人たちが数名、緊張した面持ちで立っていた。
(ひっ……! 威厳がすごい! 知識の塊みたいな顔してる! 怖い、帰りたーーーい!!)
私は、緊張が極限に達した結果、顔面を「今まさに禁忌の呪いで王都を沈めようと企む、深淵の魔女」のような表情で固定した。
「……っ」
私が一歩踏み出した瞬間、老人たちが一斉に肩を震わせ、姿勢を正した。
「(……な、なんというプレッシャーだ。若きカイル公爵が心酔するのも無理はない。この眼光……数多の真理を暴き、深淵を見てきた者特有の鋭さだ!)」
(え、何? この人たち、なんで私を見て拝んでるの? 石像みたいに固まっちゃって……あ、私の顔が怖すぎて、石化の呪いでもかかったと思われてる!?)
私は慌てて、筆談ボードを掲げた。
『遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。辺境の拙宅ではございますが、ごゆっくりとお過ごしください』
ボードに浮かび上がる気高く美しい文字。それを見た老人たちの瞳に、さらなる驚愕が走った。
「お、おぉ……! これほどの魔力を持ちながら、これほど謙虚で美しい言葉を選ばれるとは! まさに『至高の賢者』ルミール様だ!」
「カイル閣下、この御方こそ我が国の魔導技術を百年先へ進める、救世主でございますな!」
(……救世主!? 違う、私はただ、洗濯物を手で畳みたくなかっただけの、怠惰の極致にいる女よ!)
私の内面の全力ツッコミは、カイル様にしか届かない。
カイル様は満足げに頷き、私をエスコートするように横に並んだ。
「さあ、皆さん。まずはルミール嬢が開発した『全自動・精神安定型温泉システム』を視察していただこう。入浴した瞬間に魔力の乱れを整え、美肌効果まで付与される、魔導工学の奇跡だ」
(ちょっと待って、カイル様! 勝手に変な名前付けないで! あれはただの『お肌ツルツルお風呂』でしょ!?)
私は老人たちに囲まれながら、温泉へと案内することになった。
(……あああああ、もうどうにでもなれ! とりあえず、この人たちが私の顔を見て気絶しないことだけを祈るわ!)
視察が進むにつれ、老人たちは「石像執事」の精巧さに涙し、「芝刈り魔王」の効率性に腰を抜かした。
彼らにとって、私はもはや人間ではなく、知恵の神そのものに見えているようだった。
(……スローライフ。私の静かな、誰にも邪魔されないスローライフは……どこへ行っちゃったの?)
夕暮れ時。視察を終えて感涙にむせぶ老人たちを見送りながら、私は玄関先で深いため息をついた。
「……はぁ」
(疲れた。魂が口から出て、今頃隣国まで飛んでいっちゃってるわよ)
カイル様は私の隣で、悪戯っぽく微笑んだ。
「お疲れ様、ルミール。おかげで君の『賢者』としての地位は揺るぎないものになった。……これで、アストレア公爵家も二度と君に手出しはできないだろう」
(……え? アストレア公爵家?)
「君の価値を、世界に知らしめたんだ。……もう、誰にも君を『無能』だなんて言わせない」
カイル様の瞳に宿る、強い意志。
(……そっか。カイル様、私のために、わざわざこんな大掛かりなことを……)
不覚にも、私の心臓がまた小さく跳ねた。
「(……ありがとう、カイル様。でも、次はもっと、目立たない方法でお願いね)」
私の「心の声」に、カイル様は優しく私の手を取り、唇を寄せた。
「善処するよ、僕の可愛い賢者様」
(……ひぎゃあああ! またそういうことする! 顔に出る! 怖い顔になっちゃうからやめてーーー!!)
私の「賢者」としての名声は、この日を境に、大陸全土へと広がっていくことになるのだった。
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