19 / 28
19
しおりを挟む
「……何かしら、あの腐敗した生ゴミのような悪臭は。セバス、空気清浄用の魔導具を最大出力にしなさい! 私の鼻腔が、美しくない粒子に汚染されてしまいますわ!」
新作発表会の会場。
華やかなドレスとスーツに身を包んだ隣国の貴族たちが集まる中、私は扇を広げて入口を指差しました。
そこに現れたのは、もはや人間というよりは「歩く不潔の塊」と化した、レオン様とミナさんの姿でした。
「き、キラリ……! 助けてくれ、キラリ! 私の肌が、私の顔が、もう限界なんだ!」
レオン様が這いずるようにして私に近づこうとしますが、護衛の騎士たちが即座に距離を取りました。
当然ですわ。
そんな汚れた手で、私の特製シルクドレスに触れられたら、一生の不覚ですもの。
「まあ、レオン様。……いえ、レオン様だった物体さん。そのお姿、まさに『絶望の果てに収穫し忘れたジャガイモ』のようですわね。そして隣のミナさん……。その肌荒れ、もはや現代医学では匙を投げられるレベルですわよ?」
「ひ、酷いわ! これでも一生懸命、水だけで洗顔したのよ……! でも、どうしてもキラリ様みたいにキラキラになれなくて……!」
ミナさんが泣き叫びますが、流れる涙さえも皮脂と混ざってドロドロです。
私は深く溜息をつき、壇上に設置された「それ」を指し示しました。
「いいでしょう。私の慈悲の心……いえ、探究心に火がつきましたわ。……皆様、ご覧ください! これこそが本日発表する、全自動・角質吸引機『ブラックホール・ビューティー一号』ですわ!」
それは、巨大な真鍮製の吸引口がいくつもついた、魔導仕掛けの恐ろしい機械でした。
見た目は拷問器具そのものですが、私にとっては救済の杖です。
「セバス! その不潔な二人を機械にセットしてちょうだい! 彼らの毛穴に詰まった『怠慢』と『未練』を、物理的に吸い出しますわ!」
「はっ! ……おい、そこの二人。光栄に思うがいい、お嬢様の最新兵器の実験台……失礼、モニターになれるのだからな」
「えっ、待っ……。何だこの吸引力は! 顔が、顔の皮が引っ張られるーっ!」
「いやあああ! 私の鼻が! 鼻の角栓が根こそぎ持っていかれるわぁああ!」
スイッチが入った瞬間、会場にレオン様とミナさんの絶叫が響き渡りました。
ゴゴゴゴ……という地響きのような音と共に、機械のタンクには、今まで見たこともないような「禍々しい色の老廃物」が溜まっていきます。
「見てください、皆様! あれが、美学を捨て、自分を愛することを忘れた者の末路ですわ! ……ああっ、素晴らしい吸引力! まるで王国の闇を掃除しているようですわね!」
私は興奮のあまり、アルベルト様の腕を掴みました。
アルベルト様は、機械から聞こえる「スポォォン!」という不気味な音を聞きながら、少しだけ顔を引き攣らせています。
「……キラリ。あれは、本当に死なないのか? レオン王子の顔が、三倍くらいに伸びているように見えるのだが」
「大丈夫ですわ、アルベルト様。美しくなるためには、一度魂が肉体から離れるくらいの衝撃が必要なのです。……見てください、あのタンクに溜まった泥のようなもの! あれこそが、彼らが私に押し付けていた事務作業のストレスの結晶ですわ!」
数分後。
機械が止まり、中から「抜け殻」のようになった二人が排出されました。
「……あ、ああ……。空気が……肌に当たる空気が、痛いくらいに澄んでいる……」
レオン様が、放心状態で自分の頬を触りました。
そこには、かつての不潔さが嘘のように消え、真っ赤に充血しながらも、余計なものが一切ない「生まれたての赤子(の茹で上がった状態)」のような肌が。
「ミナ様……。あなたの鼻、もはやイチゴではなく、ただのツルツルな球体ですわよ」
「……う、動けない……。でも、心なしか……体重が五キロくらい減った気がするわ……」
二人は床に転がり、もはや反論する力も残っていません。
私は冷たく二人を見下ろし、扇をパチンと閉じました。
「おめでとうございます。これであなたたちの身体から、目に見える『汚れ』は消えました。……ですが、心の中に溜まった『醜さ』は、私の機械でも吸い取ることはできません。……さあ、セバス! この清潔(物理)になった二人を、国境まで放り投げてきなさい!」
「かしこまりました。……おい、ゴミの分別は済んだ。あとは元いたゴミ捨て場に帰るだけだぞ」
セバスに引きずられていく二人を見送りながら、私は勝利の美酒を口にしました。
会場の貴族たちは、その圧倒的な洗浄力に恐れおののきながらも、「私も吸われたい……!」という禁断の欲望に瞳を輝かせています。
「ふふ、アルベルト様。これでまた、美容界に新しい伝説が刻まれましたわね」
「……ああ。君が世界一恐ろしく、そして世界一美しい掃除屋だということは、これで証明されたな」
アルベルト様の呆れた、しかし愛に満ちた言葉を背に、私は再び高笑いを上げました。
オーホッホッホッホ!
新作発表会の会場。
華やかなドレスとスーツに身を包んだ隣国の貴族たちが集まる中、私は扇を広げて入口を指差しました。
そこに現れたのは、もはや人間というよりは「歩く不潔の塊」と化した、レオン様とミナさんの姿でした。
「き、キラリ……! 助けてくれ、キラリ! 私の肌が、私の顔が、もう限界なんだ!」
レオン様が這いずるようにして私に近づこうとしますが、護衛の騎士たちが即座に距離を取りました。
当然ですわ。
そんな汚れた手で、私の特製シルクドレスに触れられたら、一生の不覚ですもの。
「まあ、レオン様。……いえ、レオン様だった物体さん。そのお姿、まさに『絶望の果てに収穫し忘れたジャガイモ』のようですわね。そして隣のミナさん……。その肌荒れ、もはや現代医学では匙を投げられるレベルですわよ?」
「ひ、酷いわ! これでも一生懸命、水だけで洗顔したのよ……! でも、どうしてもキラリ様みたいにキラキラになれなくて……!」
ミナさんが泣き叫びますが、流れる涙さえも皮脂と混ざってドロドロです。
私は深く溜息をつき、壇上に設置された「それ」を指し示しました。
「いいでしょう。私の慈悲の心……いえ、探究心に火がつきましたわ。……皆様、ご覧ください! これこそが本日発表する、全自動・角質吸引機『ブラックホール・ビューティー一号』ですわ!」
それは、巨大な真鍮製の吸引口がいくつもついた、魔導仕掛けの恐ろしい機械でした。
見た目は拷問器具そのものですが、私にとっては救済の杖です。
「セバス! その不潔な二人を機械にセットしてちょうだい! 彼らの毛穴に詰まった『怠慢』と『未練』を、物理的に吸い出しますわ!」
「はっ! ……おい、そこの二人。光栄に思うがいい、お嬢様の最新兵器の実験台……失礼、モニターになれるのだからな」
「えっ、待っ……。何だこの吸引力は! 顔が、顔の皮が引っ張られるーっ!」
「いやあああ! 私の鼻が! 鼻の角栓が根こそぎ持っていかれるわぁああ!」
スイッチが入った瞬間、会場にレオン様とミナさんの絶叫が響き渡りました。
ゴゴゴゴ……という地響きのような音と共に、機械のタンクには、今まで見たこともないような「禍々しい色の老廃物」が溜まっていきます。
「見てください、皆様! あれが、美学を捨て、自分を愛することを忘れた者の末路ですわ! ……ああっ、素晴らしい吸引力! まるで王国の闇を掃除しているようですわね!」
私は興奮のあまり、アルベルト様の腕を掴みました。
アルベルト様は、機械から聞こえる「スポォォン!」という不気味な音を聞きながら、少しだけ顔を引き攣らせています。
「……キラリ。あれは、本当に死なないのか? レオン王子の顔が、三倍くらいに伸びているように見えるのだが」
「大丈夫ですわ、アルベルト様。美しくなるためには、一度魂が肉体から離れるくらいの衝撃が必要なのです。……見てください、あのタンクに溜まった泥のようなもの! あれこそが、彼らが私に押し付けていた事務作業のストレスの結晶ですわ!」
数分後。
機械が止まり、中から「抜け殻」のようになった二人が排出されました。
「……あ、ああ……。空気が……肌に当たる空気が、痛いくらいに澄んでいる……」
レオン様が、放心状態で自分の頬を触りました。
そこには、かつての不潔さが嘘のように消え、真っ赤に充血しながらも、余計なものが一切ない「生まれたての赤子(の茹で上がった状態)」のような肌が。
「ミナ様……。あなたの鼻、もはやイチゴではなく、ただのツルツルな球体ですわよ」
「……う、動けない……。でも、心なしか……体重が五キロくらい減った気がするわ……」
二人は床に転がり、もはや反論する力も残っていません。
私は冷たく二人を見下ろし、扇をパチンと閉じました。
「おめでとうございます。これであなたたちの身体から、目に見える『汚れ』は消えました。……ですが、心の中に溜まった『醜さ』は、私の機械でも吸い取ることはできません。……さあ、セバス! この清潔(物理)になった二人を、国境まで放り投げてきなさい!」
「かしこまりました。……おい、ゴミの分別は済んだ。あとは元いたゴミ捨て場に帰るだけだぞ」
セバスに引きずられていく二人を見送りながら、私は勝利の美酒を口にしました。
会場の貴族たちは、その圧倒的な洗浄力に恐れおののきながらも、「私も吸われたい……!」という禁断の欲望に瞳を輝かせています。
「ふふ、アルベルト様。これでまた、美容界に新しい伝説が刻まれましたわね」
「……ああ。君が世界一恐ろしく、そして世界一美しい掃除屋だということは、これで証明されたな」
アルベルト様の呆れた、しかし愛に満ちた言葉を背に、私は再び高笑いを上げました。
オーホッホッホッホ!
0
あなたにおすすめの小説
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる