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「……ふう。昨夜の冷却パックの感触、今思い出しても最高の仕上がりでしたわ。レオン様の絶叫のピッチと、パックの密着度が完璧な不協和音を奏でていましたもの」
私は、アルベルト様から贈られた「鏡の間」で、優雅に朝のルーティンをこなしていました。
鏡に映る自分に、特製のゴールデン・シルクパウダーを叩き込みながら、私は満足げな溜息をつきました。
レオン様という「不潔な過去」を完全にパージしたことで、私の肌の透明感はついに限界突破の領域に達したようですわ。
「お嬢様、アルベルト閣下がお見えです。……何やら、非常に重厚な巻物を抱えておられますぞ」
セバスが扉を開けると、そこには正装を身に纏ったアルベルト様の姿がありました。
彼の表情は真剣そのもので、まるで建国宣言でもするかのような威厳を放っています。
「キラリ。……昨夜のレオン王子の件で、私は確信した。君のその類稀なる能力は、単なる公爵夫人の枠に収めておくにはあまりにも惜しい」
「あら、アルベルト様。私の美しさが世界を狭く感じさせているということかしら? 罪な女ですわね、私は」
「いや、造形の話だけではない。君の『美学』に基づいた論理、そして他者の肌……いや、人生を劇的に改善させてしまうその苛烈なまでの情熱だ。……私は兄上……国王陛下と協議し、新たな官職を設けることにした」
アルベルト様が、手に持っていた黄金の巻物を恭しく広げました。
そこには、王家の紋章と共に、見たこともない新しい役職名が記されていました。
「キラリ・フォン・ルミナス。君を、我が国の初代『美の法務大臣』に任命したい。……これが、正式な任官状だ」
「……美の、法務大臣?」
私はその言葉を口の中で転がしてみました。
法務大臣……つまり、法をもって裁く者。
それが「美」という言葉を冠した時、一体どのような権能を持つことになるのか……。
「法務大臣ということは……アルベルト様。私、この国の法律に『美学』を組み込んでもよろしくて?」
「ああ。君の判断基準で、この国の風紀……いや、美意識を正してほしい。不当な肌荒れを放置する者、不衛生な環境で他者の審美眼を汚す者……それらを法の名の下に裁き、更生させる権利を君に与える」
私は目を見開き、それから全身を震わせるほどの感動に包まれました。
なんて素晴らしい響きかしら!
ただの公爵夫人ではなく、国家の「美」を司る裁定者!
「まあ……! ということは、隣国の国境で『無精髭のまま入国しようとする不届き者』を現行犯で逮捕し、強制的にシェービングと保湿を行うことができるのですの!?」
「……法的には可能になるだろうな」
「さらに! 王宮の掃除を怠り、廊下の隅に埃を溜めて私の視神経を逆撫でする役人を、『不敬罪ならぬ不潔罪』で起訴し、一週間のスクラブ洗顔刑に処すことも!?」
「……君がそれを正義だと判断するならば、私は止めない」
アルベルト様は、少しだけ遠い目をしながらも、力強く頷きました。
彼は分かっているのです。
私が法を司ることで、この国の生産性が「ストレスフリーな美肌」によって劇的に向上することを!
「お受けいたしますわ、アルベルト様! このキラリ・フォン・ルミナス、法典をバラの香りで染め上げ、この国を世界で最も『眩しい』国家へと導いて差し上げます!」
「……期待しているよ。……ただし、私を『表情筋の怠慢』で起訴するのは、週に一度までにしてくれないか?」
「あら、それはアルベルト様の努力次第ですわ。……セバス! すぐに大臣用の執務室を整えなさい! 壁は全面鏡張り、机は最高級の白大理石。そして……私の印章は、キスマークの形をした特注品を用意してちょうだい!」
「かしこまりました。……いやはや、ついに国政が『お嬢様の色』に染まる日が来るとは。……ルミナス王国の二の舞にならぬよう、精一杯お支えいたしますぞ」
セバスが深いお辞儀をしました。
私は鏡の中の自分に向かって、最高に邪悪で、最高に美しい微笑みを投げかけました。
「待ってなさい、隣国の民たち! 今日からあなたたちに『妥協』という言葉は許されませんわよ! 私の法典が、あなたたちの毛穴の奥まで監視して差し上げますから! オーホッホッホッホ!!」
隣国の青空に、私の新たな野望を告げる高笑いが響き渡りました。
追放された悪役令嬢が、法をもって美を統治する。
前代未聞の「美の独裁(セラピー)」が、今ここに幕を開けたのですわ!
私は、アルベルト様から贈られた「鏡の間」で、優雅に朝のルーティンをこなしていました。
鏡に映る自分に、特製のゴールデン・シルクパウダーを叩き込みながら、私は満足げな溜息をつきました。
レオン様という「不潔な過去」を完全にパージしたことで、私の肌の透明感はついに限界突破の領域に達したようですわ。
「お嬢様、アルベルト閣下がお見えです。……何やら、非常に重厚な巻物を抱えておられますぞ」
セバスが扉を開けると、そこには正装を身に纏ったアルベルト様の姿がありました。
彼の表情は真剣そのもので、まるで建国宣言でもするかのような威厳を放っています。
「キラリ。……昨夜のレオン王子の件で、私は確信した。君のその類稀なる能力は、単なる公爵夫人の枠に収めておくにはあまりにも惜しい」
「あら、アルベルト様。私の美しさが世界を狭く感じさせているということかしら? 罪な女ですわね、私は」
「いや、造形の話だけではない。君の『美学』に基づいた論理、そして他者の肌……いや、人生を劇的に改善させてしまうその苛烈なまでの情熱だ。……私は兄上……国王陛下と協議し、新たな官職を設けることにした」
アルベルト様が、手に持っていた黄金の巻物を恭しく広げました。
そこには、王家の紋章と共に、見たこともない新しい役職名が記されていました。
「キラリ・フォン・ルミナス。君を、我が国の初代『美の法務大臣』に任命したい。……これが、正式な任官状だ」
「……美の、法務大臣?」
私はその言葉を口の中で転がしてみました。
法務大臣……つまり、法をもって裁く者。
それが「美」という言葉を冠した時、一体どのような権能を持つことになるのか……。
「法務大臣ということは……アルベルト様。私、この国の法律に『美学』を組み込んでもよろしくて?」
「ああ。君の判断基準で、この国の風紀……いや、美意識を正してほしい。不当な肌荒れを放置する者、不衛生な環境で他者の審美眼を汚す者……それらを法の名の下に裁き、更生させる権利を君に与える」
私は目を見開き、それから全身を震わせるほどの感動に包まれました。
なんて素晴らしい響きかしら!
ただの公爵夫人ではなく、国家の「美」を司る裁定者!
「まあ……! ということは、隣国の国境で『無精髭のまま入国しようとする不届き者』を現行犯で逮捕し、強制的にシェービングと保湿を行うことができるのですの!?」
「……法的には可能になるだろうな」
「さらに! 王宮の掃除を怠り、廊下の隅に埃を溜めて私の視神経を逆撫でする役人を、『不敬罪ならぬ不潔罪』で起訴し、一週間のスクラブ洗顔刑に処すことも!?」
「……君がそれを正義だと判断するならば、私は止めない」
アルベルト様は、少しだけ遠い目をしながらも、力強く頷きました。
彼は分かっているのです。
私が法を司ることで、この国の生産性が「ストレスフリーな美肌」によって劇的に向上することを!
「お受けいたしますわ、アルベルト様! このキラリ・フォン・ルミナス、法典をバラの香りで染め上げ、この国を世界で最も『眩しい』国家へと導いて差し上げます!」
「……期待しているよ。……ただし、私を『表情筋の怠慢』で起訴するのは、週に一度までにしてくれないか?」
「あら、それはアルベルト様の努力次第ですわ。……セバス! すぐに大臣用の執務室を整えなさい! 壁は全面鏡張り、机は最高級の白大理石。そして……私の印章は、キスマークの形をした特注品を用意してちょうだい!」
「かしこまりました。……いやはや、ついに国政が『お嬢様の色』に染まる日が来るとは。……ルミナス王国の二の舞にならぬよう、精一杯お支えいたしますぞ」
セバスが深いお辞儀をしました。
私は鏡の中の自分に向かって、最高に邪悪で、最高に美しい微笑みを投げかけました。
「待ってなさい、隣国の民たち! 今日からあなたたちに『妥協』という言葉は許されませんわよ! 私の法典が、あなたたちの毛穴の奥まで監視して差し上げますから! オーホッホッホッホ!!」
隣国の青空に、私の新たな野望を告げる高笑いが響き渡りました。
追放された悪役令嬢が、法をもって美を統治する。
前代未聞の「美の独裁(セラピー)」が、今ここに幕を開けたのですわ!
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