婚約破棄を受け入れたら溺愛ルートに突入。没落する暇もありません!

萩月

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「……セバス。ここが、あのミナさんが送られたという『聖アイアン修道院』ですの? ……まあ、なんてこと。この石造りの壁、カビとコケのコンディションが最悪ですわ。これはもはや、建物に対する虐待です!」

私は、隣国の「美の法務大臣」としての公式巡察用馬車から降り立ち、扇で鼻を押さえました。
ルミナス王国の辺境にあるこの修道院は、規律が厳しいことで有名ですが、私に言わせれば単なる「美意識の墓場」ですわ。
窓枠は歪み、空気は乾燥しきっています。

「お嬢様……いえ、大臣閣下。本日はあくまで『隣国との友好親善および、矯正施設の美的状況調査』という名目であることをお忘れなきよう。……決して、個人的なトドメを刺しに来たわけではございませんな?」

「失礼ね、セバス。私は慈悲の塊ですわよ。……さあ、案内してちょうだい。この国の『負の遺産』が、どれほどお肌を荒らしているのか確認しなくては」

修道院の重い扉を開けると、そこには質素という言葉では片付けられないほど、殺風景な光景が広がっていました。
修道女たちに案内され、中庭へ出ると……そこには、ボロボロの修道服を着て、必死に雑草を抜いている女性の姿がありました。

「……あら。そこに転がっている、色褪せたジャガイモのような方は、どなたかしら?」

私が声をかけると、その女性がゆっくりと顔を上げました。
……まあ! 驚きですわ!
かつての「男爵令嬢ミナ」の面影は、そこには微塵も残っていませんでした。
髪はパサパサの鳥の巣状態、頬はこけ、何より……肌のキメが、全盛期の砂漠よりも荒れています!

「き、キラリ……様……? どうして、あなたがここに……っ!」

ミナさんが、震える手で地面を掴みました。
彼女の爪は欠け、泥が入り込んでいます。
ああっ、私の視神経が、この不潔な光景に悲鳴を上げていますわ!

「ミナさん。お久しぶりですわね。……でも、そのお顔で私を呼ばないでくださる? 私の鼓膜が、あなたの乾燥した声で傷ついてしまいますわ。……今のあなたは、法務大臣としての私の管轄では『一級美的犯罪者』に相当しますわよ」

「な……っ、何を……! 私は、レオン様に捨てられ、ここに閉じ込められて……毎日、冷たい水で床を磨いて、硬いパンを食べて……っ! あなたが、あなたが全部奪ったからよ!」

ミナさんが叫びましたが、その勢いで口角が割れて血が滲みました。
……ああ、保湿不足ですわね。実に見苦しい。

「奪った? 心外ですわね。私はただ、あなたが望んだ『レオン様の隣』という名の空虚な席を、お譲りしただけですわよ? ……それより、ミナさん。私は今日、あなたに最高の『救済』を持ってまいりましたの」

「救済……? 私を、ここから出してくれるの……?」

ミナさんの瞳に、微かな希望の光が宿りました。
私はニッコリと、最高に美しく、そして残酷な微笑みを浮かべました。

「いいえ。……セバス、例の『特製・連座制泥パック』を」

「はっ。こちらに。……お嬢様、これは一度塗ると三時間は剥がせない、強力な角質剥離タイプですな?」

「ええ。ミナさん、あなたはここで、心を入れ替えるための修行をしているのでしょう? ならば、その荒れ果てた肌を『強制的に』生まれ変わらせるのも、修行の一環ですわ」

私は自ら袖をまくり(もちろん、汚れないように特製の保護手袋をはめて)、ミナさんの顔にドロリとした漆黒の泥を塗りつけました。

「ちょっと! 何するのよ! 冷たい! 重い! ……これ、取れないわ!?」

「当たり前ですわ。これは三時間、微動だにせず、自分の犯した『不潔な罪』を反省するための沈黙のパックですのよ。……さあ、修道院長様。彼女には毎日、このパックを欠かさず行うよう、私から法的に命令いたしますわ」

「は、はい! 大臣閣下のお言葉通りに!」

修道院長が私の気迫に圧されて跪きました。
ミナさんは顔を真っ黒な泥で固められ、もはや声も出せません。
目元だけが、屈辱と驚愕で泳いでいます。

「いい? ミナさん。……あなたが私から奪おうとしたのは、地位や婚約者ではありません。……私の『美しい毎日』を邪魔しようとしたこと。それが最大の罪なのですわ。……この修道院で、一生かけて『自分を磨く』本当の意味を学びなさいな」

私は扇をパチンと閉じ、背を向けました。

「あ、それから。……レオン様も、近いうちにここの『美的特別房』に収監される予定ですわ。……お二人で仲良く、ドロドロの顔で愛を語り合えばよろしいんじゃありません? オーホッホッホッホ!!」

「……モゴッ、モゴゴゴォー!!(キラリィー!!)」

泥パックの下でミナさんが何かを叫んでいましたが、私の耳には届きません。
修道院を出る際、私は門柱に「美の法務大臣・公認施設」という、呪い……いいえ、祝福のプレートを掲げさせました。

「ふう、セバス。いい仕事をした後は、お肌の透明感が一段と増しますわね」

「左様でございますな、大臣閣下。……ルミナス王国の不浄が、これで一つ、物理的に塗り潰されたわけでございます」

私は隣国へと戻る馬車の中で、アルベルト様へのお土産(ミナさんの絶望顔のスケッチ)を確認しながら、満足げに微笑むのでした。
残るは、私たちの結婚式。
世界で最も美しく、最も隙のない「勝利の瞬間」が、すぐそこまで来ておりますわ!
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