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「ミナ・フォレスト公爵令嬢! 貴様との婚約を、今この瞬間をもって破棄することを宣言する!」
きらびやかなシャンデリアが輝く、卒業パーティーの真っ最中。
第一王子ジュリアン殿下の朗々とした声が、ホール全体に響き渡った。
手に持っていたカナッペを口に運ぼうとしていた私は、その場でピタリと動きを止める。
(……え、今? このサーモンのムースが一番美味しいタイミングで?)
私はゆっくりと視線を上げ、豪華な壇上に立つ元婚約者を見据えた。
彼の隣には、守ってあげたくなるような儚げな美少女、聖女候補のリリア様がぴったりと寄り添っている。
これはいわゆる、歴史の教科書で見たことがある「断罪」というやつだろうか。
「……殿下。今、なんと仰いました?」
「耳まで腐ったか! 貴様との婚約は破棄だと言ったのだ! リリアに対する数々の嫌がらせ、もはや看過できん!」
ジュリアン殿下は、まるでお芝居の主役のような大げさな身振りで私を指差した。
会場に集まった貴族たちの視線が、一斉に私へと突き刺さる。
悲鳴、嘲笑、困惑。周囲の反応は様々だが、私の頭の中は別のことで忙しかった。
「婚約破棄、ですね。承知いたしました。……で、殿下、本題に入りましょう」
「……は? 本題だと?」
「はい。まず、婚約破棄の成立に伴う慰謝料の算定、およびこれまで我がフォレスト家が王家に献上してきた寄付金の返還スケジュールについてです。一括ですか? それとも分割をご希望ですか?」
「何を……何を言っているんだ貴様は! この状況で金の話か!?」
ジュリアン殿下が顔を真っ赤にして叫ぶ。
私は手元のカナッペをそっと皿に戻し、扇を取り出してパサリと開いた。
悲劇のヒロインを演じる時間は無駄だ。時間は金なり、である。
「当然でしょう。婚約は法的な契約です。一方的な破棄であれば、当然それ相応の違約金が発生します。私の貴重な17年間を拘束した対価、安くはありませんよ?」
「き、貴様には反省という色がないのか! リリアがどれほど傷ついたか、その薄汚れた心で考えたことはないのか!」
「ええ、ありません。そもそもリリア様と直接お話ししたのは、三ヶ月前の茶会で『そのスコーン、ジャムを塗りすぎでは?』とアドバイスしたのが最後ですから」
隣で震えていたリリア様が、ひょこっと顔を上げた。
彼女の潤んだ瞳が、私を不思議そうに見つめる。
「あ、あの……ミナ様。私、あの時のアドバイスのおかげで、今は適切なジャムの量を知ることができました。ありがとうございました……」
「リリア!? 君は何を言っているんだ! この女は君をいじめていたんだろう!?」
「えっ……? いじめ……ですか? ええと、お茶会で私のドレスの裾にゴミがついているのを、扇で華麗に払ってくださったのは覚えていますけれど……」
会場に妙な空気が流れた。
殿下だけが一人、空回りしているような、なんとも言えない滑稽な空気である。
私はその隙を逃さず、追い打ちをかけるように告げた。
「殿下、証拠は? 私が彼女をいじめたという、客観的かつ法的に有効な証拠は揃っていらっしゃるのでしょうね? まさか王族ともあろうお方が、噂話だけで断罪を始めたわけではないでしょう?」
「そ、それは……これから調べるつもりだったのだ!」
「……なるほど。つまり、見切り発車での冤罪未遂というわけですね。素晴らしい。これは慰謝料にさらに『名誉毀損』の項目を上乗せできそうです」
私は脳内のそろばんをパチパチと弾く。
このままここにいても、美味しい食事はもう楽しめそうにない。
だったら、さっさと荷物をまとめて、新しい人生の軍資金を確保しに行くべきだ。
「ジュリアン殿下。婚約破棄の件、謹んで、かつ爆速でお受けいたします。明日、我が家の顧問弁護士をそちらに向かわせますので、印鑑の準備だけは忘れないでくださいね」
「待て! 話はまだ終わっていない! 跪いて謝罪しろ!」
「お断りします。私、膝の関節を無駄遣いしない主義ですので。それでは皆様、ごきげんよう。……あ、そこの給仕の方。このお肉料理、包んでいただけますか? 捨てるのは勿体ないので」
私は呆然とする群衆をかき分け、背筋をピンと伸ばしてホールを後にした。
背後でジュリアン殿下が何か喚いているが、もう私の耳には届かない。
(さて、これからどうしましょう。実家に戻っても、あの堅物のお父様のことだわ、きっと私を勘当するでしょうね)
夜風に吹かれながら、私は夜空を見上げた。
絶望? 悲しみ? いいえ、あるのは清々しいほどの「自由」だ。
前世の記憶なんて便利なものはないけれど、私にはこの「口の達者さ」と「図太さ」がある。
「あーあ、明日の朝食は何を食べようかしら。……そうだ、お隣の国にでも行ってみよう。あそこの王子様、すごく偏屈で通訳が必要だって噂だし」
私は馬車に乗り込み、新しい履歴書の内容を考え始めた。
悪役令嬢としてのキャリアは終わったが、ミナ・フォレストの快進撃は、ここからが本番である。
きらびやかなシャンデリアが輝く、卒業パーティーの真っ最中。
第一王子ジュリアン殿下の朗々とした声が、ホール全体に響き渡った。
手に持っていたカナッペを口に運ぼうとしていた私は、その場でピタリと動きを止める。
(……え、今? このサーモンのムースが一番美味しいタイミングで?)
私はゆっくりと視線を上げ、豪華な壇上に立つ元婚約者を見据えた。
彼の隣には、守ってあげたくなるような儚げな美少女、聖女候補のリリア様がぴったりと寄り添っている。
これはいわゆる、歴史の教科書で見たことがある「断罪」というやつだろうか。
「……殿下。今、なんと仰いました?」
「耳まで腐ったか! 貴様との婚約は破棄だと言ったのだ! リリアに対する数々の嫌がらせ、もはや看過できん!」
ジュリアン殿下は、まるでお芝居の主役のような大げさな身振りで私を指差した。
会場に集まった貴族たちの視線が、一斉に私へと突き刺さる。
悲鳴、嘲笑、困惑。周囲の反応は様々だが、私の頭の中は別のことで忙しかった。
「婚約破棄、ですね。承知いたしました。……で、殿下、本題に入りましょう」
「……は? 本題だと?」
「はい。まず、婚約破棄の成立に伴う慰謝料の算定、およびこれまで我がフォレスト家が王家に献上してきた寄付金の返還スケジュールについてです。一括ですか? それとも分割をご希望ですか?」
「何を……何を言っているんだ貴様は! この状況で金の話か!?」
ジュリアン殿下が顔を真っ赤にして叫ぶ。
私は手元のカナッペをそっと皿に戻し、扇を取り出してパサリと開いた。
悲劇のヒロインを演じる時間は無駄だ。時間は金なり、である。
「当然でしょう。婚約は法的な契約です。一方的な破棄であれば、当然それ相応の違約金が発生します。私の貴重な17年間を拘束した対価、安くはありませんよ?」
「き、貴様には反省という色がないのか! リリアがどれほど傷ついたか、その薄汚れた心で考えたことはないのか!」
「ええ、ありません。そもそもリリア様と直接お話ししたのは、三ヶ月前の茶会で『そのスコーン、ジャムを塗りすぎでは?』とアドバイスしたのが最後ですから」
隣で震えていたリリア様が、ひょこっと顔を上げた。
彼女の潤んだ瞳が、私を不思議そうに見つめる。
「あ、あの……ミナ様。私、あの時のアドバイスのおかげで、今は適切なジャムの量を知ることができました。ありがとうございました……」
「リリア!? 君は何を言っているんだ! この女は君をいじめていたんだろう!?」
「えっ……? いじめ……ですか? ええと、お茶会で私のドレスの裾にゴミがついているのを、扇で華麗に払ってくださったのは覚えていますけれど……」
会場に妙な空気が流れた。
殿下だけが一人、空回りしているような、なんとも言えない滑稽な空気である。
私はその隙を逃さず、追い打ちをかけるように告げた。
「殿下、証拠は? 私が彼女をいじめたという、客観的かつ法的に有効な証拠は揃っていらっしゃるのでしょうね? まさか王族ともあろうお方が、噂話だけで断罪を始めたわけではないでしょう?」
「そ、それは……これから調べるつもりだったのだ!」
「……なるほど。つまり、見切り発車での冤罪未遂というわけですね。素晴らしい。これは慰謝料にさらに『名誉毀損』の項目を上乗せできそうです」
私は脳内のそろばんをパチパチと弾く。
このままここにいても、美味しい食事はもう楽しめそうにない。
だったら、さっさと荷物をまとめて、新しい人生の軍資金を確保しに行くべきだ。
「ジュリアン殿下。婚約破棄の件、謹んで、かつ爆速でお受けいたします。明日、我が家の顧問弁護士をそちらに向かわせますので、印鑑の準備だけは忘れないでくださいね」
「待て! 話はまだ終わっていない! 跪いて謝罪しろ!」
「お断りします。私、膝の関節を無駄遣いしない主義ですので。それでは皆様、ごきげんよう。……あ、そこの給仕の方。このお肉料理、包んでいただけますか? 捨てるのは勿体ないので」
私は呆然とする群衆をかき分け、背筋をピンと伸ばしてホールを後にした。
背後でジュリアン殿下が何か喚いているが、もう私の耳には届かない。
(さて、これからどうしましょう。実家に戻っても、あの堅物のお父様のことだわ、きっと私を勘当するでしょうね)
夜風に吹かれながら、私は夜空を見上げた。
絶望? 悲しみ? いいえ、あるのは清々しいほどの「自由」だ。
前世の記憶なんて便利なものはないけれど、私にはこの「口の達者さ」と「図太さ」がある。
「あーあ、明日の朝食は何を食べようかしら。……そうだ、お隣の国にでも行ってみよう。あそこの王子様、すごく偏屈で通訳が必要だって噂だし」
私は馬車に乗り込み、新しい履歴書の内容を考え始めた。
悪役令嬢としてのキャリアは終わったが、ミナ・フォレストの快進撃は、ここからが本番である。
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