23 / 28
23
「いやぁぁぁ! ここはどこぉ!? 暗い、狭い、カビ臭いぃぃ!」
リゾートの地下、最奥部。
普段は『キノコ栽培室』として使われている、湿度が高く薄暗い部屋に、ミナの悲鳴がこだました。
彼女は椅子に縛り付けられているわけではない。
ただ、部屋の中央に置かれたパイプ椅子に座らされ、周囲を屈強なドワーフたちと、殺気を放つ元近衛騎士たち(豚汁の恩義によりステファニー派)に囲まれているだけだ。
カツ、カツ、カツ。
静寂の中、足音が響く。
現れたのは、冷たい微笑みを浮かべた私――ステファニーと、不機嫌そうなクラウス大公だ。
「ごきげんよう、ミナ様。……いえ、この呼び方はもう不適切かもしれませんね」
私は手元の資料に目を落とし、ゆっくりと彼女を見下ろした。
「な、なによ! 私は男爵令嬢ミナよ! 将来の王妃よ! こんな扱いをして、タダで済むと思ってるの!?」
ミナはまだ虚勢を張っている。
そのピンク色の髪はボサボサで、エプロンは薄汚れているが、瞳だけはギラギラと欲望に燃えていた。
「男爵令嬢、ですか。……では、この書類をご覧いただけますか?」
私はマリアから一枚の羊皮紙を受け取り、ミナの目の前にかざした。
それは王国の中央戸籍管理課から取り寄せた(取り寄せさせた)、男爵家の家系図だ。
「『ミナ・フォン・バーグ』。確かにバーグ男爵家にはミナという娘がいました。……ですが、彼女は五年前、流行り病で亡くなっています。死亡診断書もここにありますわ」
「っ……!?」
ミナの顔が強張った。
「そして、貴女が社交界に現れたのは一年前。バーグ男爵が『隠し子がいた』と公表して引き取ったことになっていますが……奇妙なことに、その時期、男爵家には多額の借金がありましたが、貴女が現れた直後に完済されています」
「そ、それがどうしたのよ! 偶然よ!」
「偶然? いいえ、必然です。貴女が金を持って現れ、男爵に『戸籍を買った』のでしょう?」
私はズバリと言い放った。
戸籍売買。
没落寸前の貴族が、金持ちの平民に名前を売る犯罪行為だ。
「貴女の正体について、隣国の諜報機関にも協力してもらって調べ上げました。……本名『ミヨ』。下町の貧民街出身。かつては大商人の屋敷でメイドをしていましたが、主人の財布を盗んで解雇。その後、数々の商家を渡り歩き、偽名を使って詐欺を繰り返していた……通称『ピンクの女狐』。違いますか?」
「……」
ミナ――いや、ミヨの顔から血の気が引いた。
図星だ。
彼女は貴族でもなんでもない。
ただの、口が上手くて演技力のある、小悪党の詐欺師だったのだ。
「はっ……! だから何よ!」
開き直ったミヨは、椅子を蹴飛ばして立ち上がろうとしたが、ドワーフに肩を押さえつけられて座り込んだ。
「そうよ! 私はミヨよ! それがどうしたの! 平民が夢を見て何が悪いのよ!」
彼女は叫んだ。
その声は、もはや猫なで声ではなく、ドスの利いた地声だった。
「あんたたち貴族は、生まれた時からドレス着て、美味しいもの食べて、温かいベッドで寝てる! 私は残飯あさりながら生きてきたのよ! だから自分の力でのし上がってやろうと思ったの! 金で名前を買って、バカな男をたぶらかして、国一番の玉の輿に乗ってやるってね!」
「……バカな男とは、ギルバート殿下のことですか?」
「あんなチョロい男、初めてだったわ! 『可愛い』って言えば何でもくれるし、『貴方が正しい』って言えば喜ぶし! 最高のカモだったのに……あんたさえいなければ!」
ミヨは私を睨みつけた。
その目は、純粋な悪意と嫉妬で濁っている。
「あんたみたいな、冷たくて可愛げのない女より、私の方が殿下を幸せにできたはずよ! だって私は、彼が欲しい言葉を全部言ってあげたもの!」
「……なるほど。それが貴女の『愛』ですか」
私はため息をついた。
彼女は、ある意味では被害者なのかもしれない。
貧困が生んだモンスター。
だが、だからといって、国を滅茶苦茶にしていい理由にはならない。
「貴女のついた嘘と甘言で、国庫は空になり、多くの民が苦しみました。貴女が欲しがったドレスの一着で、何人の子供がパンを食べられたと思いますか?」
「知らないわよ! 私が幸せならそれでいいの!」
「……救いようがないな」
それまで黙って聞いていたクラウス大公が、吐き捨てるように言った。
「俺はてっきり、隣国のスパイか、あるいは何らかの政治的意図を持った工作員かと警戒していたが……。蓋を開けてみれば、ただの強欲な詐欺師か。……つまらん」
大公の冷ややかな視線は、ミヨをゴミ屑のように見下ろしていた。
ミヨはその美貌に一瞬見惚れたが、すぐに恐怖で震え上がった。
「さあ、罪状は確定しました」
私は裁判官のように宣言した。
「詐欺罪、公文書偽造罪、王族に対する不敬罪、国家転覆未遂、そして……私のリゾートへの放火未遂。これらを合わせると、通常なら極刑ですが」
「い、嫌! 死にたくない! 許して! 私、まだ美味しいもの食べてない!」
ミヨが泣き叫ぶ。
本当に、欲望に忠実な生き物だ。
「安心してください。私は効率主義者です。死刑は労働力を無にするので採用しません」
「ほ、本当?」
「ええ。その代わり、貴女には『更生』していただきます」
私は一枚の地図を広げた。
指差したのは、北の果てよりもさらに北。
極寒の孤島にある、一つの施設だ。
「『北限の修道院』。そこへ行っていただきます」
「しゅ、修道院……? なーんだ、お祈りするだけ?」
ミヨが安堵の表情を浮かべた。
甘い。
「そこは『沈黙と清貧』を旨とする、大陸で最も厳しい矯正施設です。一日のスケジュールは、朝四時起床、五時から農作業(雪の中)、昼食は黒パンと水のみ、午後は機織り労働、私語は一切禁止。破れば断食の刑です」
「はぁぁぁ!? 無理よ! 私、寒いの嫌い! 美味しいもの食べたい! お喋りしたい!」
「貴女に選択権はありません。……マリア、護送の手配を」
「御意。屈強なシスターたちが、すでに迎えに来ております」
「いやぁぁぁ! ギルバート様ぁ! 助けてぇぇぇ!」
ミヨが暴れるが、ドワーフたちに担ぎ上げられる。
そこへ、タイミングよく(あるいは悪く)、トイレ掃除用具を持ったギルバート元殿下が通りかかった。
「……え? ミナ?」
ギルバートは、鬼の形相で連行されていく元恋人を見て、ポカンと口を開けた。
「ギルバート様! 助けて! 私、本当は貴方のこと愛してたのよ! 嘘じゃないわ!」
ミヨが必死に叫ぶ。
だが、ギルバートは彼女の「地声」と、その醜悪な形相を見て、何かを悟ったように一歩下がった。
「……君、誰?」
「えっ?」
「僕の知っているミナは、もっと可愛くて、か弱くて……そんな、酒焼けしたような声で叫ぶ女じゃない……」
ギルバートは首を振った。
「君は……僕の幻想だったんだね……」
「ふざけんなこの能無し王子ぃぃぃ! あんたなんか金づるだったんだよぉぉぉ!」
最後には本性を爆発させ、罵詈雑言を撒き散らしながら、ミヨは闇の奥へと消えていった。
残されたのは、静寂と、少しのカビの匂いだけ。
「……終わりましたわね」
私は手元の資料を閉じた。
これで、王国の騒動の元凶は全て排除された。
スッキリしたかと言われれば、まあ、胸のつかえが取れた程度には爽快だ。
「……ステファニー」
ギルバートがおずおずと話しかけてきた。
その目は、どこか憑き物が落ちたように澄んでいる。
「あいつ……ミナは、本当に詐欺師だったのか?」
「ええ。貴方はただのカモにされていただけです。……高い授業料でしたね、国を一つ傾けるほどの」
「そうか……。僕は、何を見ていたんだろうな」
ギルバートは力なく笑った。
その笑顔は、かつての傲慢な王太子のそれではなく、失敗を知った人間の、弱々しくも人間味のあるものだった。
「さあ、感傷に浸っている暇はありませんよ、ギルバートさん。三階のトイレ掃除は終わりましたか?」
「あ、ああ。今から行くよ。……なんか、掃除をしてると無心になれて、少しだけ気が楽なんだ」
「それは結構。労働は裏切りませんから」
ギルバートはバケツを持って去っていった。
その背中は小さかったが、以前よりは地に足がついているように見えた。
「……さて、閣下」
私はクラウス大公に向き直った。
「これで私のリゾートを脅かすものはなくなりました。……祝杯でもあげますか?」
「ああ。だがその前に」
クラウスは私の手を取り、指先に軽く口付けた。
「お前が無事でよかった。……あの女狐に、傷一つ付けさせなくて本当によかった」
「……大袈裟ですわ」
私は少しだけ顔を赤らめて、手を引っ込めた。
この男は、時々こうして不意打ちで心拍数を上げにくるから油断ならない。
ミナ――もといミヨの正体は、拍子抜けするほど俗物的なものだった。
隣国のスパイでも、闇の組織のエージェントでもない。
ただの「欲深い人間」。
だが、それこそが、最も厄介で、そしてどこにでもいる「悪」の正体なのかもしれない。
「(まあ、修道院のシスターたちに鍛え直してもらえば、少しはマシな人間になるでしょう……たぶん)」
私は地下室を後にした。
地上では、今日も多くのお客様が笑顔で温泉を楽しんでいる。
その平和を守るためなら、私は何度でも鬼になり、計算機になり、そして――最強の管理人であり続けるだろう。
リゾートの地下、最奥部。
普段は『キノコ栽培室』として使われている、湿度が高く薄暗い部屋に、ミナの悲鳴がこだました。
彼女は椅子に縛り付けられているわけではない。
ただ、部屋の中央に置かれたパイプ椅子に座らされ、周囲を屈強なドワーフたちと、殺気を放つ元近衛騎士たち(豚汁の恩義によりステファニー派)に囲まれているだけだ。
カツ、カツ、カツ。
静寂の中、足音が響く。
現れたのは、冷たい微笑みを浮かべた私――ステファニーと、不機嫌そうなクラウス大公だ。
「ごきげんよう、ミナ様。……いえ、この呼び方はもう不適切かもしれませんね」
私は手元の資料に目を落とし、ゆっくりと彼女を見下ろした。
「な、なによ! 私は男爵令嬢ミナよ! 将来の王妃よ! こんな扱いをして、タダで済むと思ってるの!?」
ミナはまだ虚勢を張っている。
そのピンク色の髪はボサボサで、エプロンは薄汚れているが、瞳だけはギラギラと欲望に燃えていた。
「男爵令嬢、ですか。……では、この書類をご覧いただけますか?」
私はマリアから一枚の羊皮紙を受け取り、ミナの目の前にかざした。
それは王国の中央戸籍管理課から取り寄せた(取り寄せさせた)、男爵家の家系図だ。
「『ミナ・フォン・バーグ』。確かにバーグ男爵家にはミナという娘がいました。……ですが、彼女は五年前、流行り病で亡くなっています。死亡診断書もここにありますわ」
「っ……!?」
ミナの顔が強張った。
「そして、貴女が社交界に現れたのは一年前。バーグ男爵が『隠し子がいた』と公表して引き取ったことになっていますが……奇妙なことに、その時期、男爵家には多額の借金がありましたが、貴女が現れた直後に完済されています」
「そ、それがどうしたのよ! 偶然よ!」
「偶然? いいえ、必然です。貴女が金を持って現れ、男爵に『戸籍を買った』のでしょう?」
私はズバリと言い放った。
戸籍売買。
没落寸前の貴族が、金持ちの平民に名前を売る犯罪行為だ。
「貴女の正体について、隣国の諜報機関にも協力してもらって調べ上げました。……本名『ミヨ』。下町の貧民街出身。かつては大商人の屋敷でメイドをしていましたが、主人の財布を盗んで解雇。その後、数々の商家を渡り歩き、偽名を使って詐欺を繰り返していた……通称『ピンクの女狐』。違いますか?」
「……」
ミナ――いや、ミヨの顔から血の気が引いた。
図星だ。
彼女は貴族でもなんでもない。
ただの、口が上手くて演技力のある、小悪党の詐欺師だったのだ。
「はっ……! だから何よ!」
開き直ったミヨは、椅子を蹴飛ばして立ち上がろうとしたが、ドワーフに肩を押さえつけられて座り込んだ。
「そうよ! 私はミヨよ! それがどうしたの! 平民が夢を見て何が悪いのよ!」
彼女は叫んだ。
その声は、もはや猫なで声ではなく、ドスの利いた地声だった。
「あんたたち貴族は、生まれた時からドレス着て、美味しいもの食べて、温かいベッドで寝てる! 私は残飯あさりながら生きてきたのよ! だから自分の力でのし上がってやろうと思ったの! 金で名前を買って、バカな男をたぶらかして、国一番の玉の輿に乗ってやるってね!」
「……バカな男とは、ギルバート殿下のことですか?」
「あんなチョロい男、初めてだったわ! 『可愛い』って言えば何でもくれるし、『貴方が正しい』って言えば喜ぶし! 最高のカモだったのに……あんたさえいなければ!」
ミヨは私を睨みつけた。
その目は、純粋な悪意と嫉妬で濁っている。
「あんたみたいな、冷たくて可愛げのない女より、私の方が殿下を幸せにできたはずよ! だって私は、彼が欲しい言葉を全部言ってあげたもの!」
「……なるほど。それが貴女の『愛』ですか」
私はため息をついた。
彼女は、ある意味では被害者なのかもしれない。
貧困が生んだモンスター。
だが、だからといって、国を滅茶苦茶にしていい理由にはならない。
「貴女のついた嘘と甘言で、国庫は空になり、多くの民が苦しみました。貴女が欲しがったドレスの一着で、何人の子供がパンを食べられたと思いますか?」
「知らないわよ! 私が幸せならそれでいいの!」
「……救いようがないな」
それまで黙って聞いていたクラウス大公が、吐き捨てるように言った。
「俺はてっきり、隣国のスパイか、あるいは何らかの政治的意図を持った工作員かと警戒していたが……。蓋を開けてみれば、ただの強欲な詐欺師か。……つまらん」
大公の冷ややかな視線は、ミヨをゴミ屑のように見下ろしていた。
ミヨはその美貌に一瞬見惚れたが、すぐに恐怖で震え上がった。
「さあ、罪状は確定しました」
私は裁判官のように宣言した。
「詐欺罪、公文書偽造罪、王族に対する不敬罪、国家転覆未遂、そして……私のリゾートへの放火未遂。これらを合わせると、通常なら極刑ですが」
「い、嫌! 死にたくない! 許して! 私、まだ美味しいもの食べてない!」
ミヨが泣き叫ぶ。
本当に、欲望に忠実な生き物だ。
「安心してください。私は効率主義者です。死刑は労働力を無にするので採用しません」
「ほ、本当?」
「ええ。その代わり、貴女には『更生』していただきます」
私は一枚の地図を広げた。
指差したのは、北の果てよりもさらに北。
極寒の孤島にある、一つの施設だ。
「『北限の修道院』。そこへ行っていただきます」
「しゅ、修道院……? なーんだ、お祈りするだけ?」
ミヨが安堵の表情を浮かべた。
甘い。
「そこは『沈黙と清貧』を旨とする、大陸で最も厳しい矯正施設です。一日のスケジュールは、朝四時起床、五時から農作業(雪の中)、昼食は黒パンと水のみ、午後は機織り労働、私語は一切禁止。破れば断食の刑です」
「はぁぁぁ!? 無理よ! 私、寒いの嫌い! 美味しいもの食べたい! お喋りしたい!」
「貴女に選択権はありません。……マリア、護送の手配を」
「御意。屈強なシスターたちが、すでに迎えに来ております」
「いやぁぁぁ! ギルバート様ぁ! 助けてぇぇぇ!」
ミヨが暴れるが、ドワーフたちに担ぎ上げられる。
そこへ、タイミングよく(あるいは悪く)、トイレ掃除用具を持ったギルバート元殿下が通りかかった。
「……え? ミナ?」
ギルバートは、鬼の形相で連行されていく元恋人を見て、ポカンと口を開けた。
「ギルバート様! 助けて! 私、本当は貴方のこと愛してたのよ! 嘘じゃないわ!」
ミヨが必死に叫ぶ。
だが、ギルバートは彼女の「地声」と、その醜悪な形相を見て、何かを悟ったように一歩下がった。
「……君、誰?」
「えっ?」
「僕の知っているミナは、もっと可愛くて、か弱くて……そんな、酒焼けしたような声で叫ぶ女じゃない……」
ギルバートは首を振った。
「君は……僕の幻想だったんだね……」
「ふざけんなこの能無し王子ぃぃぃ! あんたなんか金づるだったんだよぉぉぉ!」
最後には本性を爆発させ、罵詈雑言を撒き散らしながら、ミヨは闇の奥へと消えていった。
残されたのは、静寂と、少しのカビの匂いだけ。
「……終わりましたわね」
私は手元の資料を閉じた。
これで、王国の騒動の元凶は全て排除された。
スッキリしたかと言われれば、まあ、胸のつかえが取れた程度には爽快だ。
「……ステファニー」
ギルバートがおずおずと話しかけてきた。
その目は、どこか憑き物が落ちたように澄んでいる。
「あいつ……ミナは、本当に詐欺師だったのか?」
「ええ。貴方はただのカモにされていただけです。……高い授業料でしたね、国を一つ傾けるほどの」
「そうか……。僕は、何を見ていたんだろうな」
ギルバートは力なく笑った。
その笑顔は、かつての傲慢な王太子のそれではなく、失敗を知った人間の、弱々しくも人間味のあるものだった。
「さあ、感傷に浸っている暇はありませんよ、ギルバートさん。三階のトイレ掃除は終わりましたか?」
「あ、ああ。今から行くよ。……なんか、掃除をしてると無心になれて、少しだけ気が楽なんだ」
「それは結構。労働は裏切りませんから」
ギルバートはバケツを持って去っていった。
その背中は小さかったが、以前よりは地に足がついているように見えた。
「……さて、閣下」
私はクラウス大公に向き直った。
「これで私のリゾートを脅かすものはなくなりました。……祝杯でもあげますか?」
「ああ。だがその前に」
クラウスは私の手を取り、指先に軽く口付けた。
「お前が無事でよかった。……あの女狐に、傷一つ付けさせなくて本当によかった」
「……大袈裟ですわ」
私は少しだけ顔を赤らめて、手を引っ込めた。
この男は、時々こうして不意打ちで心拍数を上げにくるから油断ならない。
ミナ――もといミヨの正体は、拍子抜けするほど俗物的なものだった。
隣国のスパイでも、闇の組織のエージェントでもない。
ただの「欲深い人間」。
だが、それこそが、最も厄介で、そしてどこにでもいる「悪」の正体なのかもしれない。
「(まあ、修道院のシスターたちに鍛え直してもらえば、少しはマシな人間になるでしょう……たぶん)」
私は地下室を後にした。
地上では、今日も多くのお客様が笑顔で温泉を楽しんでいる。
その平和を守るためなら、私は何度でも鬼になり、計算機になり、そして――最強の管理人であり続けるだろう。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
「あたしってこーゆー性格だから」は全然かまいません
あんど もあ
ファンタジー
騎士科のレパルスと婚約した淑女科のフローラ。ラブラブな二人なのに、「あたしってこーゆー性格だから」とずけずけ言う女が割り込んで来て……。
[完結]アタンなんなのって私は私ですが?
シマ
恋愛
私は、ルルーシュ・アーデン男爵令嬢です。底辺の貴族の上、天災で主要産業である農業に大打撃を受けて貧乏な我が家。
我が家は建て直しに家族全員、奔走していたのですが、やっと領地が落ちついて半年振りに学園に登校すると、いきなり婚約破棄だと叫ばれました。
……嫌がらせ?嫉妬?私が貴女に?
さっきから叫ばれておりますが、そもそも貴女の隣の男性は、婚約者じゃありませんけど?
私の婚約者は……
完結保証 本編7話+その後1話
婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。
八雲
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。
普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。