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馬車がヴォルカノフ城の正門へと続く坂道を登っている最中、私は懐から一通の手紙を取り出しました。
それは、屋敷を出る直前にお父様から手渡されたものです。
「……メリー、これを読みなさい。私がお前に伝えられる最後の言葉だ」
そう言って涙ながらに渡された手紙。王都にいた時は忙しくて開く暇もありませんでしたが、今こそ読むべき時でしょう。
「お嬢様、ようやく旦那様のお手紙を読む気になられたのですね。きっと、娘を思う父の愛が詰まっているはずですわ」
アンナが少しだけ、しんみりとした表情で私を見つめました。
私は厳かに封を切り、中身を広げました。そこには、お父様の震える筆跡でこう書かれていたのです。
『メリーへ。お前が家を出てから五分が経過したが、屋敷の中が驚くほど静かだ。お前の笑い声が聞こえないだけで、こんなにも耳が休まるとは思わなかった。追放という形にはなったが、正直に言おう。我が侯爵家は、今、かつてない平和に包まれている。お前も北の地で、思う存分その有り余るエネルギーを魔物にでもぶつけてきなさい。二度と戻ってくるなとは言わないが、戻ってくる時はせめて音量を半分にしてくれ。お達者で。父より』
「……お父様、最高ですわ!」
私は手紙を胸に抱き、天を仰ぎました。
「ええっ!? 今のは感動する場面でしたか!? 完全に『厄介払いができて清々した』って書いてありましたよね!?」
「何を言っているのアンナ。これはお父様なりの『信頼』の証よ。私のバイタリティがあれば、どこへ行っても生きていける、そう確信しているからこその言葉だわ!」
私は手紙を丁寧に折りたたみ、一番大事な荷物の中に仕舞いました。
「お父様、安心してください。私はこの北の地で、バートン侯爵家の名を(主に騒音と筋肉愛で)轟かせてみせますわ!」
「旦那様が聞いたら、泣きながら門を閉ざすでしょうね……」
アンナのツッコミをスルーし、私は窓の外を指差しました。
ついに、ヴォルカノフ城の巨大な鉄門が目の前に迫っていました。
「止まれ! 何者だ!」
門の上から、これまたガッシリとした体格の衛兵さんが声を張り上げます。
私は馬車の窓から身を乗り出し、王都仕込みの(ただし声量は三倍の)挨拶をぶちかましました。
「ごきげんよう! 王都から追放されて参りました、メリー・バートンです! 辺境伯閣下へ、婚約破棄のお祝いと愛の告白を持って参りました!」
「……はあ!? 婚約破棄のお祝い!? 愛の告白!?」
衛兵さんが槍を落としそうになっています。
「そうです! 今すぐ閣下に伝えてちょうだい! 『あなたの広背筋に埋もれたい女が来ました』と!」
「お嬢様! やめてください! それだけは本当にやめてください!!」
アンナが私の口を塞ごうと必死になりますが、私はその手を華麗にすり抜けました。
「さあ、開門を! 私は今日から、この城の空気を吸って、土を食らって(?)、閣下の肉体美を称えるために生きていくのです!」
「……おい、通せ。関わると長くなりそうだ」
門の奥から、諦めに満ちた声が聞こえ、巨大な鉄門がゆっくりと開き始めました。
重厚な音を立てて開く門の向こう側。そこは、装飾を削ぎ落とした、石と鉄だけの質実剛健な世界でした。
庭園にはバラの一本も植わっていません。代わりに、そこにあったのは――。
「……あ、見てアンナ! あそこで兵士さんたちが上半身裸で丸太を担いでいるわ!」
「ひえっ!? この極寒の中で、何をされているんですかあの人たちは!?」
「修行よ! パンプアップよ! 素晴らしいわ……あの、寒さで赤くなった肌と、そこから立ち上る熱気! これよ、これこそが私が求めていた『生命の躍動』だわ!」
私は馬車が止まるのも待たず、扉に手をかけました。
「お嬢様、まだ馬車は動いて……ああっ、お嬢様ー!?」
私は地面に着地すると同時に、猛然と走り出しました。
目指すは城の玄関。そして、その奥に座しているであろう、私の推し、アレクセイ・ヴォルカノフ辺境伯!
「アレクセイ様ー! メリー・バートン、ただいま参上いたしましたわー!」
私の叫び声は、ヴォルカノフ城の堅牢な壁に反響し、城中の人間を震え上がらせました。
こうして、私の「追放ライフ」という名の「推し活」が、華々しく幕を開けたのです。
お父様、お達者で! 私は今、人生で一番幸せです!
それは、屋敷を出る直前にお父様から手渡されたものです。
「……メリー、これを読みなさい。私がお前に伝えられる最後の言葉だ」
そう言って涙ながらに渡された手紙。王都にいた時は忙しくて開く暇もありませんでしたが、今こそ読むべき時でしょう。
「お嬢様、ようやく旦那様のお手紙を読む気になられたのですね。きっと、娘を思う父の愛が詰まっているはずですわ」
アンナが少しだけ、しんみりとした表情で私を見つめました。
私は厳かに封を切り、中身を広げました。そこには、お父様の震える筆跡でこう書かれていたのです。
『メリーへ。お前が家を出てから五分が経過したが、屋敷の中が驚くほど静かだ。お前の笑い声が聞こえないだけで、こんなにも耳が休まるとは思わなかった。追放という形にはなったが、正直に言おう。我が侯爵家は、今、かつてない平和に包まれている。お前も北の地で、思う存分その有り余るエネルギーを魔物にでもぶつけてきなさい。二度と戻ってくるなとは言わないが、戻ってくる時はせめて音量を半分にしてくれ。お達者で。父より』
「……お父様、最高ですわ!」
私は手紙を胸に抱き、天を仰ぎました。
「ええっ!? 今のは感動する場面でしたか!? 完全に『厄介払いができて清々した』って書いてありましたよね!?」
「何を言っているのアンナ。これはお父様なりの『信頼』の証よ。私のバイタリティがあれば、どこへ行っても生きていける、そう確信しているからこその言葉だわ!」
私は手紙を丁寧に折りたたみ、一番大事な荷物の中に仕舞いました。
「お父様、安心してください。私はこの北の地で、バートン侯爵家の名を(主に騒音と筋肉愛で)轟かせてみせますわ!」
「旦那様が聞いたら、泣きながら門を閉ざすでしょうね……」
アンナのツッコミをスルーし、私は窓の外を指差しました。
ついに、ヴォルカノフ城の巨大な鉄門が目の前に迫っていました。
「止まれ! 何者だ!」
門の上から、これまたガッシリとした体格の衛兵さんが声を張り上げます。
私は馬車の窓から身を乗り出し、王都仕込みの(ただし声量は三倍の)挨拶をぶちかましました。
「ごきげんよう! 王都から追放されて参りました、メリー・バートンです! 辺境伯閣下へ、婚約破棄のお祝いと愛の告白を持って参りました!」
「……はあ!? 婚約破棄のお祝い!? 愛の告白!?」
衛兵さんが槍を落としそうになっています。
「そうです! 今すぐ閣下に伝えてちょうだい! 『あなたの広背筋に埋もれたい女が来ました』と!」
「お嬢様! やめてください! それだけは本当にやめてください!!」
アンナが私の口を塞ごうと必死になりますが、私はその手を華麗にすり抜けました。
「さあ、開門を! 私は今日から、この城の空気を吸って、土を食らって(?)、閣下の肉体美を称えるために生きていくのです!」
「……おい、通せ。関わると長くなりそうだ」
門の奥から、諦めに満ちた声が聞こえ、巨大な鉄門がゆっくりと開き始めました。
重厚な音を立てて開く門の向こう側。そこは、装飾を削ぎ落とした、石と鉄だけの質実剛健な世界でした。
庭園にはバラの一本も植わっていません。代わりに、そこにあったのは――。
「……あ、見てアンナ! あそこで兵士さんたちが上半身裸で丸太を担いでいるわ!」
「ひえっ!? この極寒の中で、何をされているんですかあの人たちは!?」
「修行よ! パンプアップよ! 素晴らしいわ……あの、寒さで赤くなった肌と、そこから立ち上る熱気! これよ、これこそが私が求めていた『生命の躍動』だわ!」
私は馬車が止まるのも待たず、扉に手をかけました。
「お嬢様、まだ馬車は動いて……ああっ、お嬢様ー!?」
私は地面に着地すると同時に、猛然と走り出しました。
目指すは城の玄関。そして、その奥に座しているであろう、私の推し、アレクセイ・ヴォルカノフ辺境伯!
「アレクセイ様ー! メリー・バートン、ただいま参上いたしましたわー!」
私の叫び声は、ヴォルカノフ城の堅牢な壁に反響し、城中の人間を震え上がらせました。
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