断罪された悪役令嬢、行き先は推しの住む辺境ですが、何か問題でも?

萩月

文字の大きさ
5 / 28

5

しおりを挟む
馬車がヴォルカノフ城の正門へと続く坂道を登っている最中、私は懐から一通の手紙を取り出しました。

それは、屋敷を出る直前にお父様から手渡されたものです。

「……メリー、これを読みなさい。私がお前に伝えられる最後の言葉だ」

そう言って涙ながらに渡された手紙。王都にいた時は忙しくて開く暇もありませんでしたが、今こそ読むべき時でしょう。

「お嬢様、ようやく旦那様のお手紙を読む気になられたのですね。きっと、娘を思う父の愛が詰まっているはずですわ」

アンナが少しだけ、しんみりとした表情で私を見つめました。

私は厳かに封を切り、中身を広げました。そこには、お父様の震える筆跡でこう書かれていたのです。

『メリーへ。お前が家を出てから五分が経過したが、屋敷の中が驚くほど静かだ。お前の笑い声が聞こえないだけで、こんなにも耳が休まるとは思わなかった。追放という形にはなったが、正直に言おう。我が侯爵家は、今、かつてない平和に包まれている。お前も北の地で、思う存分その有り余るエネルギーを魔物にでもぶつけてきなさい。二度と戻ってくるなとは言わないが、戻ってくる時はせめて音量を半分にしてくれ。お達者で。父より』

「……お父様、最高ですわ!」

私は手紙を胸に抱き、天を仰ぎました。

「ええっ!? 今のは感動する場面でしたか!? 完全に『厄介払いができて清々した』って書いてありましたよね!?」

「何を言っているのアンナ。これはお父様なりの『信頼』の証よ。私のバイタリティがあれば、どこへ行っても生きていける、そう確信しているからこその言葉だわ!」

私は手紙を丁寧に折りたたみ、一番大事な荷物の中に仕舞いました。

「お父様、安心してください。私はこの北の地で、バートン侯爵家の名を(主に騒音と筋肉愛で)轟かせてみせますわ!」

「旦那様が聞いたら、泣きながら門を閉ざすでしょうね……」

アンナのツッコミをスルーし、私は窓の外を指差しました。

ついに、ヴォルカノフ城の巨大な鉄門が目の前に迫っていました。

「止まれ! 何者だ!」

門の上から、これまたガッシリとした体格の衛兵さんが声を張り上げます。

私は馬車の窓から身を乗り出し、王都仕込みの(ただし声量は三倍の)挨拶をぶちかましました。

「ごきげんよう! 王都から追放されて参りました、メリー・バートンです! 辺境伯閣下へ、婚約破棄のお祝いと愛の告白を持って参りました!」

「……はあ!? 婚約破棄のお祝い!? 愛の告白!?」

衛兵さんが槍を落としそうになっています。

「そうです! 今すぐ閣下に伝えてちょうだい! 『あなたの広背筋に埋もれたい女が来ました』と!」

「お嬢様! やめてください! それだけは本当にやめてください!!」

アンナが私の口を塞ごうと必死になりますが、私はその手を華麗にすり抜けました。

「さあ、開門を! 私は今日から、この城の空気を吸って、土を食らって(?)、閣下の肉体美を称えるために生きていくのです!」

「……おい、通せ。関わると長くなりそうだ」

門の奥から、諦めに満ちた声が聞こえ、巨大な鉄門がゆっくりと開き始めました。

重厚な音を立てて開く門の向こう側。そこは、装飾を削ぎ落とした、石と鉄だけの質実剛健な世界でした。

庭園にはバラの一本も植わっていません。代わりに、そこにあったのは――。

「……あ、見てアンナ! あそこで兵士さんたちが上半身裸で丸太を担いでいるわ!」

「ひえっ!? この極寒の中で、何をされているんですかあの人たちは!?」

「修行よ! パンプアップよ! 素晴らしいわ……あの、寒さで赤くなった肌と、そこから立ち上る熱気! これよ、これこそが私が求めていた『生命の躍動』だわ!」

私は馬車が止まるのも待たず、扉に手をかけました。

「お嬢様、まだ馬車は動いて……ああっ、お嬢様ー!?」

私は地面に着地すると同時に、猛然と走り出しました。

目指すは城の玄関。そして、その奥に座しているであろう、私の推し、アレクセイ・ヴォルカノフ辺境伯!

「アレクセイ様ー! メリー・バートン、ただいま参上いたしましたわー!」

私の叫び声は、ヴォルカノフ城の堅牢な壁に反響し、城中の人間を震え上がらせました。

こうして、私の「追放ライフ」という名の「推し活」が、華々しく幕を開けたのです。

お父様、お達者で! 私は今、人生で一番幸せです!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

処理中です...