断罪された悪役令嬢、行き先は推しの住む辺境ですが、何か問題でも?

萩月

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「さあ、アンナ! 今日は城のメインホール、大階段の煤払いを敢行いたしますわよ!」


朝食を爆速で平らげた私は、鼻息も荒く宣言しました。


手には、特注の(勝手に倉庫の端切れで作った)超ロングモップを二本。これを両手に一本ずつ持つ姿は、王都の令嬢が見れば悲鳴を上げて逃げ出すことでしょう。


「お嬢様、そのモップ、重くないんですか? 一本でも普通の男性が両手で扱うようなサイズですよ」


アンナが引き気味に尋ねてきましたが、私はそれを軽々と頭上で振り回しました。


「重い? いいえ、これは『愛の重み』ですわ! この城の汚れは、アレクセイ様の美しい視界を曇らせる悪の化身……。それを一掃するのが、この掃除婦メリーの使命なのです!」


私は大階段の最上階に立ち、眼下に広がる広大なホールを見下ろしました。


北の地の城らしく、石造りの壁には長年の煤や埃がこびりついています。装飾は少ないですが、その武骨な造りこそが筋肉美を際立たせる最高の背景になるはず。


「行きますわよ! メリー・バートン、全力清掃モード・起動(エンゲージ)!!」


私は階段の手すりに飛び乗りました。


「ああっ、お嬢様!? 危ないですわ、降りて……!」


アンナの制止も虚しく、私は手すりを滑り降りながら、両手のモップを旋回させました。


シュバババババッ!!


「はあああああっ!!」


遠心力を利用した超高速の回転。壁に溜まった埃が、私の通過と共に一瞬で霧散していきます。


着地と同時に、私は今度は床へと這いつくばりました。


「次は床磨きですわ! 脚力、背筋、そして腕力を一点に集中……! 名付けて『サイクロン・クリーニング』!!」


私は雑巾を両手に、猛烈な勢いで回転し始めました。


その動きはもはや人間の域を超えていました。高速回転する私を中心に、強い風が巻き起こり、周囲の埃を吸い込んでいきます。


「……な、なんだ!? 竜巻か!?」


「いや、違う! またあのお嬢様だ! 掃除婦の服を着た何かが、光速で床を磨いているぞ!!」


訓練に向かおうとしていた騎士たちが、通路の端に寄って震えていました。


私の通った後には、一点の曇りもない鏡のような床が出現します。あまりの美しさに、通りかかったメイドさんが「私の仕事がなくなってしまう……」と涙を流すほどでした。


「ふぅ……。いい負荷(パンプアップ)ですわね」


私は立ち上がり、額の汗を拭いました。


その時です。二階の回廊から、こちらを見下ろす人影がありました。


「……メリー・バートン。貴様、何をしている」


アレクセイ様です。今日はいつにも増して低い声。その表情は、驚きを超えて、もはや未知の生物を観察するような困惑に満ちていました。


「アレクセイ様! 見てください! このホールの輝き! 閣下の腹筋と同じくらい、眩しく磨き上げましたわ!」


「……私の腹筋を基準にするな。……それに、なんだその動きは。残像が見えていたぞ」


アレクセイ様は手すりを握りしめ、身を乗り出しました。


「筋肉が呼んでいたのです。もっと速く、もっと強く磨けと……! 閣下、今の私の広背筋、いい感じに仕上がっていると思いませんか?」


私は閣下に向けて、バッ!と背中を向けました。掃除服の背中部分は、動きやすさを重視して(勝手に)十字に切り裂いてあります。


「……っ!? 貴様、背中が丸見えではないか! 女がそんな、はしたない格好を……!」


アレクセイ様が顔を赤くして(怒りのせいでしょうね!)、手で目を覆いました。


「いいえ、これは『機能美』ですわ! 皮膚の呼吸を妨げず、筋肉の躍動を最大限に伝える……。閣下、三メートルルールは守っておりますから、どうぞじっくりとご鑑賞ください!」


「鑑賞などせん! エドワード! 今すぐ毛布を持ってこい! この暴走令嬢を包んで隔離しろ!!」


アレクセイ様の絶叫がホールに響き渡りました。


「ああっ、閣下! 照れないでください! 私の掃除はまだ始まったばかりですわよー!!」


私は追いかけてくるエドワードさんを、華麗なフットワークでかわしながら、さらなる汚れを求めて城の奥深くへと消えていくのでした。


「お嬢様……。もう掃除じゃなくて、ただの不審者による城内マラソンになってますよ……」


アンナのため息が、ピカピカに磨かれた床に虚しく反射していました。


悪役令嬢メリー。追放された先で、彼女は「掃除」という名の新たなトレーニング方法に目覚めてしまったのです。
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