断罪されているはずが、なぜか殿下が追いかけてくる

萩月

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「……素晴らしい。視界の端から端まで、私の愛した『赤』で埋め尽くされている。これこそ、私が夢見た王都の姿ですわ!」

 王都中央広場。
 特設ステージの上に立つ私は、眼下に広がる異様な光景を見て、感極まって震えていました。
 広場を埋め尽くす市民たちの手には、真っ赤なトウガラシの枝。
 出店からは鼻を突くような刺激的な蒸気が立ち上り、空には赤い風船が舞っています。

 そして何より、今の私の姿です。
 前回の宣言通り、新調した『セルフ断罪ドレス』は、生地にトウガラシの繊維を特殊加工で織り込んだ、まさに歩く劇物。
 着ているだけで全身がカッカと熱く、血行が良くなりすぎて、頬は常に熟したトマトのように赤らんでいます。

「ロザリア、貴様……。今日のその姿、あまりにも……あまりにも眩しすぎる! その赤さは、私の情熱を直接網膜に叩き込んでくるようだ!」

 ステージの袖で、シリウス殿下が悶絶していました。
 彼もまた、今日は正装ではなく、上半身に『激辛』と大きく刺繍された特製の半纏(はんてん)を羽織っています。
 その背後には、彼が担ぐための巨大な『トウガラシ神輿(みこし)』が、重々しく鎮座していました。

「あら、殿下も素敵ですわよ。その半纏、筋肉の隆起が際立って、まさに『働く王族』の鑑ですわ。……さて、そろそろ時間ですわね。カイル殿下、準備はよろしいかしら?」

「ええ。王都全体のミルク供給ルートの確保、および、刺激によるパニック発生時の避難誘導路の確認。すべて完了しています。……ロザリア様、貴女がそのドレスで動くたびに、周囲のカプサイシン濃度が微増しているのが計算で出ていますが……まあ、お祭りですからね」

 カイル殿下は、防護マスクを装着しながら、冷徹な手つきで開始の合図を送りました。
 私は大きく息を吸い込み、広場に集まった何万もの群衆に向かって、扇をバサリと広げました。

「王都の皆様! そして、刺激に飢えた迷える子羊たちよ! 本日ここに、第一回『レッド・ホット・カーニバル』の開幕を宣言いたしますわ!」

 わあああああ!! という地鳴りのような歓声。
 
「今この瞬間より、この街で辛くない料理を出すことは禁じます! 痛みを恐れるな! その先にある、至高の多幸感(ハイ)を掴み取るのです! さあ、収穫の始まりですわ!」

 私が合図のトウガラシ・バズーカを空に向けて放つと、中から真っ赤な紙吹雪が舞い散りました。
 
「ワッショイ! ワッショイ! 激辛ワッショイ!!」

 シリウス殿下が、巨大な神輿を一人で担ぎ上げ、ステージから広場へと飛び降りていきました。
 
「見ろ、これが王家の情熱だ! この神輿に触れた者には、一年分の激辛な幸運が訪れるぞ! さあ、私を止められるか、王都の民よ!」

「殿下、暴走しすぎですわ! カイル殿下、レオナルト殿下! 殿下が市民をなぎ倒さないように、しっかりガードしてくださいませ!」

「分かっています、ロザリア! 俺がこの神輿の進路を切り開く! 邪魔だ邪魔だ、トウガラシの通り道だぞ!」

 レオナルト殿下が、抜いた剣の代わりに巨大なトウガラシのオブジェを振り回して、シリウス殿下の先導を始めました。
 カイル殿下は、その後ろで「心拍数が上がりすぎです。効率的な呼吸を心がけなさい」と冷静に指示を飛ばしています。

 私はステージの上で、リリア様と顔を見合わせました。
 リリア様もまた、今日はトウガラシのアクセサリーを全身に纏い、輝くような笑顔を浮かべています。

「ロザリア様、すごいですわ! 見てください、あの屋台の列を! みんな泣きながらカレーを頬張って、それでも笑顔ですわ!」

「ええ、リリア様。これが私の求めていた世界。……婚約破棄をされたあの夜、バラを捨ててトウガラシを選んだ私の判断に、間違いはなかったということですわ」

 私は、ドレスの刺激で熱くなった首筋を扇で仰ぎながら、広場を闊歩するシリウス殿下の姿を追いました。
 彼は神輿を担ぎながら、時折こちらを振り返り、満面の笑みで親指を立てています。

「ロザリアー! 最高だ! 私は今、人生で一番、自分が燃えていると感じるぞー!」

「殿下ー! そのまま王宮の門まで突っ込んでくださいませー! 門番たちにも激辛の洗礼を授けるのですわー!」

 私の無茶振りに、殿下は「御意ッ!!」と力強く答え、本当に騎士団の駐屯地に向かって猛進し始めました。

「……あ、これ、後で国王陛下に怒られるやつですわね」

「ふふ、でも陛下も今頃、特等席で激辛ピザを食べていらっしゃるはずですから、大丈夫ですわよ」

 リリア様と笑い合いながら、私は広場へ降りました。
 一歩踏み出すごとに、ドレスから芳醇なトウガラシの香りが振り撒かれ、通りかかる人々が「お、お嬢様……いい匂いだが、目が、目が痛い!」と悶絶しながらも道を開けてくれます。

 収穫祭は、まだ始まったばかり。
 
 真っ赤なドレスに身を包んだ悪役令嬢と、泥と汗にまみれた王子たち。
 そして、辛味に覚醒した国民たち。
 
 
 王都は今、歴史上最も「熱い」一日を刻もうとしていたのでした。
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