断罪されているはずが、なぜか殿下が追いかけてくる

萩月

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「……はあ、はあ。ロザリア、ついにこの時が来たな。収穫祭のフィナーレ、ダンスパーティーの時間だ!」

 神輿(みこし)を担ぎ終え、全身から湯気を立てているシリウス殿下が、私の前に立ちました。
 彼の半纏(はんてん)は汗で色が変わっていますが、その瞳は夜空に打ち上がったトウガラシ型花火よりもギラギラと輝いています。

「あら殿下。神輿で体力を使い果たしたかと思いましたが、まだ踊る元気が残っていらしたのね。その、野生動物のような荒い鼻息が少し気になりますけれど」

「気にするな! 今の私はカプサイシンによって全細胞が活性化している! さあ、手を取ってくれ。我が王国の歴史を塗り替える、新たな舞踏を披露しようではないか!」

 シリウス殿下が差し出した手は、泥を洗ったばかりで少しふやけていましたが、驚くほど力強いものでした。
 私は優雅に……いえ、ドレスのトウガラシ成分で肌がヒリヒリするのを堪えながら、その手を取りました。

「皆様、注目ですわ! これより披露いたしますのは、王宮の退屈なワルツではございません! 我がアルメリア領に伝わる……いえ、今私が思いついた、大地と刺激の舞い『アルメリア・スパイシー・ステップ』ですわよ!」

 広場の中央、楽団が奏で始めたのは、三拍子の優雅な曲ではありませんでした。
 ズン、ズン、パッ! という、力強い太鼓の音と、どこか異国情緒漂う激しいリズム。
 これこそが、私のトウガラシ栽培における「開墾」と「収穫」の動きを音楽にしたものですわ。

「いくぞロザリア! まずは第一動作、開墾(かいこん)だ!」

 殿下が私の腰を引き寄せると同時に、力強く地面を踏み鳴らしました。
 右足でドン! そしてクワを振るうように腕を大きくスイング!
 周囲の貴族たちは「……え、あれがダンス?」と目を丸くしていますが、市民たちは「ワッショイ!」と合いの手を入れて盛り上がっています。

「次は第二動作、種まきと間引き! 軽やかに、かつ迅速に!」

 私は殿下の腕を潜り、くるくると回転しながら、指先で種を撒くような仕草を繰り返します。
 このドレス、回転するたびに繊維からトウガラシ粉末が微量に舞い散る仕様になっておりまして、周囲の観客たちが「お、おう……なんだか鼻がムズムズするが、気分が乗ってきたぞ!」と熱狂し始めています。

「素晴らしい、ロザリア! 貴様と踊っていると、まるで灼熱の畑で共に戦っているような錯覚に陥る! ……はあ、はあ、……この、胸の鼓動は……刺激のせいか、それとも……」

「殿下、ダンスの最中に余計な分析は不要ですわよ。さあ、クライマックス! 第三動作、豊作の喜び(ハーベスト・ジョイ)ですわ!」

 私と殿下は、互いの腕を組み、高く飛び上がりました。
 そして着地と同時に、左右に激しくステップを踏みながら、収穫したトウガラシを高く掲げるポーズ!

「……決まったな。ロザリア、見てくれ。誰もが我々のステップに釘付けだ」

 殿下は私を抱き寄せたまま、耳元で熱く囁きました。
 その距離、わずか数センチ。
 通常なら、ここでロマンチックな旋律が流れ、甘いキス……という展開になるのでしょう。

「ロザリア。……私は、決めた。……この収穫祭が終わったら、私は父上に……」

「殿下、汗が私のドレスに付いていますわ。このドレスに水分を与えると、成分がより活性化して、殿下の肌が大変なことになりますわよ?」

「……構わん! 痛覚など、この熱い想いに比べれば微々たるものだ! ロザリア、私は貴様を……貴様という名の『劇物』を、一生かけて解明していきたいんだ! ……結婚してくれ!」

 音楽の止まった一瞬。
 シリウス殿下の、本日何度目かわからない全力のプロポーズが響き渡りました。
 広場は静まり返り、国民たちは固唾を呑んで私の返事を待っています。

「…………殿下」

「……あ、ああ。……返事を、返事をくれ」

「……殿下。今のプロポーズ、非常に情熱的でしたが……」

 私は、殿下の半纏の隙間から見える、真っ赤に腫れた首筋を指差しました。

「……私のドレスの成分で、殿下、すでに全身が軽い炎症を起こしていますわよ? 愛を語る前に、まずは冷たいミルクの風呂に飛び込むのが先決ではありませんこと?」

「………………ッ!? あ、あつ、熱い!! 今気づいた、猛烈に熱いぞロザリア!! なんだこれ、皮膚が燃えている!」

「ですから申し上げたではありませんか。さあ、カイル殿下! 緊急搬送の準備を!」

「……やれやれ。兄上、あれほど密着するなと言ったのに。……救急班、第一王子を噴水まで運べ! いや、牛乳をバケツで用意しろ!」

 カイル殿下の冷静な指示により、感動のプロポーズシーンは、一転して「王子の緊急消火活動」へと変わりました。
 市民たちが「頑張れ殿下ー!」「ミルク負けるなー!」と応援する中、シリウス殿下は「……ロザリアぁぁ! 返事はミルクの後に聞くからなー!」と叫びながら運ばれていきました。

「……ふふ。全く、騒がしいお方ですわね」

 私は扇で顔を隠し、クスクスと笑い声を上げました。
 隣に並んだリリア様が、私の肩をポンと叩きました。

「ロザリア様。……あの方、あんなにボロボロになっても貴女を離そうとしないなんて、ある意味トウガラシよりもしぶといですわね」

「ええ。……でも、そのしぶとさこそが、私の激辛経営には必要なのですわ。……さて、リリア様。祭りはまだ終わりませんわよ。次は、陛下を巻き込んでの『激辛キャンプファイヤー』の準備に取り掛かりましょうか!」

「……キャンプファイヤーにまで何を混ぜるつもりですの!? 王宮が燃え落ちますわよ!」

 夜の王都に、私たちの笑い声が響きました。
 
 愛の言葉よりも先に、ミルクを求める王子様。
 それでも、私たちのステップは、確かに大地に刻まれていたのです。
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