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「おーっほっほ! 皆様、本日は建国記念式典へようこそ! そして保守派の皆様、特等席へご案内いたしますわ!」
王宮の広大な中庭。
伝統あるバラの花々に囲まれた式典会場で、私はひときわ鮮やかな深紅のドレスを翻しました。
周囲には、私のトウガラシ事業を苦々しく思っている「バラ派」の貴族たちが、これ見よがしに高価なバラの香水を振りまいて座っています。
「ロザリア嬢。……ふん、相変わらず騒々しい。今日こそは、貴女の野蛮な野菜が、我が国の伝統的な美学に屈する姿を見せていただきますよ」
ローズガルテン公爵が、自慢の白い髭を蓄えながら、軽蔑を込めて杖を鳴らしました。
私は不敵に微笑み、控えていた執事たちに合図を送ります。
「公爵様、そんなに急がないでくださいませ。……本日は、皆様の『高貴な舌』にふさわしい、究極の芸術品を用意いたしましたの。……さあ、ご覧になって!」
運ばれてきたのは、銀の皿に乗った、透明感のある美しい氷菓子でした。
精巧な彫刻によって作られたそれは、どこからどう見ても、朝露に濡れた「一輪のバラ」そのものです。
「ほう。……これは、素晴らしい。氷細工の中にバラのエキスを閉じ込めたのですか。……ふむ、これならば我がバラ派の美学にも通ずるものがある」
「ええ。名前は『紅蓮の氷薔薇』。……一口食べれば、バラの香りが全身を駆け抜け、皆様を別世界へと誘いますわ」
公爵は満足げに頷くと、スプーンでその美しい花弁をひと掬いし、口へと運びました。
他の保守派貴族たちも、我先にとその「芸術」を堪能し始めます。
「……ふむ、冷たくて心地よい。……そして、バラの芳醇な香りが鼻を抜ける。……ロザリア嬢、貴女もようやく改心し……」
そこまで言ったところで、公爵の動きがピタリと止まりました。
一秒、二秒。
静寂の後、公爵の顔が、彼が愛するバラよりも深い「真紅」に染まり始めました。
「…………ッッッッ!!!!」
「あら、公爵様。お顔が大変情熱的ですわよ?」
「が、はっ、……ッ! あ、熱、熱いッ! 何だこれは! 最初は冷たかったのに、今は口の中で爆薬が爆発している! 火だ、火を吹くぞこれぇっ!」
「ぎゃあああ! 痛い、喉が焼ける!」
「冷たいのに熱い! この氷、悪魔の仕業ですわっ!」
会場のあちこちで、気品溢れる貴族たちが椅子を蹴り飛ばし、噴水へと猛ダッシュを開始しました。
これこそが、超高濃度カプサイシンを氷の中に結晶化させた、私の自信作ですわ。
「公爵様、落ち着いてくださいませ。それはバラの香りとトウガラシの刺激が融合した、新時代の気品ですわよ! ほら、汗と一緒に古い伝統が流れ出していくのがわかりますでしょう?」
「ふざけるな! 殺す気か! み、水……! 誰か牛乳を、ミルクを樽で持ってこい!」
ローズガルテン公爵は、杖を放り出して、自身の白い髭を真っ赤な汗で染めながら悶絶しています。
その阿鼻叫喚の最中、シリウス殿下が私の隣に並びました。
「……ロザリア。貴様、ついにやり遂げたな。あの頑固なバラ派を、物理的に根こそぎにしたというわけか」
「あら殿下。私はただ、彼らに『刺激的な思い出』をプレゼントしただけですわよ。……で、殿下。この騒ぎに乗じて、何かおっしゃりたいことがあるのでは?」
私は、チラリと陛下の方を見ました。
陛下は、阿鼻叫喚の貴族たちを肴に、自分用の激辛ソルベを美味しそうに食べています。
シリウス殿下は、意を決したように私の両手を取りました。
「ロザリア。……父上、そして国民の皆様! この混乱の最中ではあるが、私は今ここで、重大な発表をしたい!」
殿下の声が、広場に響き渡りました。
噴水で口を濯いでいた貴族たちも、何事かとこちらを振り返ります。
「私はかつて、このロザリア・フォン・アルメリアに婚約破棄を突きつけた! ……だが、それは人生最大の過ちだった! 私は、彼女が作り出す『熱』なしでは、もう一歩も前へ進めない! ……ロザリア! 改めて、私の正式な婚約者になってくれ!」
会場が、一瞬だけ静まり返りました。
そして、どこからともなく「いけー、殿下!」「激辛王妃、万歳!」という市民たちの声が上がります。
「お断りしますわ、殿下」
「…………え?」
殿下が、時が止まったような顔で私を見ました。
私はフッと口角を上げ、彼の胸元を指で軽く突きました。
「婚約者、なんて生ぬるい関係はもう間に合っておりますわ。……私が求めているのは、もっと強固で、もっと刺激的な関係。……殿下、貴方は私の『共犯者』になる覚悟はありますの?」
「……共犯者?」
「ええ。これからこの国を、そして大陸全土を、トウガラシの炎で焼き尽くす。……そのための『終身ビジネスパートナー』兼『人生のスパイス担当』。……それが、私の提示する契約条件ですわ」
シリウス殿下は、一瞬呆然としましたが、やがて腹の底から笑い声を上げました。
「ははは! いいだろう! 婚約ではなく、契約、そして共犯か! 貴様らしい、最高に辛口な返事だ! ……喜んで、その契約にサインしよう!」
殿下は、私の腰を引き寄せ、大勢の前で宣言しました。
「今日、この日をもって、ロザリアとの『真の婚約』を成立させる! ……ただし、これは単なる結婚ではない! 我が王国を、世界一熱い激辛国家へと導くための、最強のタッグの誕生だ!」
わあああああ!! という歓声。
ローズガルテン公爵が、噴水の中から「……勝手にしろ、この大馬鹿共め!」と叫んでいるのが聞こえましたが、その手にはなぜか、二個目のソルベが握られていました。
「……あら。公爵様、すっかり癖になっていらっしゃいますわね」
「ふふ、ロザリア様。……私たちの『赤い帝国』は、これで安泰ですわね」
リリア様が、私にウインクを送りました。
婚約破棄から始まった私の物語。
ついに、王子の心を(物理的な刺激で)射止め、国を(激辛で)統一することに成功しました。
……ですが、私の野望は、まだこれだけでは終わりませんわよ?
王宮の広大な中庭。
伝統あるバラの花々に囲まれた式典会場で、私はひときわ鮮やかな深紅のドレスを翻しました。
周囲には、私のトウガラシ事業を苦々しく思っている「バラ派」の貴族たちが、これ見よがしに高価なバラの香水を振りまいて座っています。
「ロザリア嬢。……ふん、相変わらず騒々しい。今日こそは、貴女の野蛮な野菜が、我が国の伝統的な美学に屈する姿を見せていただきますよ」
ローズガルテン公爵が、自慢の白い髭を蓄えながら、軽蔑を込めて杖を鳴らしました。
私は不敵に微笑み、控えていた執事たちに合図を送ります。
「公爵様、そんなに急がないでくださいませ。……本日は、皆様の『高貴な舌』にふさわしい、究極の芸術品を用意いたしましたの。……さあ、ご覧になって!」
運ばれてきたのは、銀の皿に乗った、透明感のある美しい氷菓子でした。
精巧な彫刻によって作られたそれは、どこからどう見ても、朝露に濡れた「一輪のバラ」そのものです。
「ほう。……これは、素晴らしい。氷細工の中にバラのエキスを閉じ込めたのですか。……ふむ、これならば我がバラ派の美学にも通ずるものがある」
「ええ。名前は『紅蓮の氷薔薇』。……一口食べれば、バラの香りが全身を駆け抜け、皆様を別世界へと誘いますわ」
公爵は満足げに頷くと、スプーンでその美しい花弁をひと掬いし、口へと運びました。
他の保守派貴族たちも、我先にとその「芸術」を堪能し始めます。
「……ふむ、冷たくて心地よい。……そして、バラの芳醇な香りが鼻を抜ける。……ロザリア嬢、貴女もようやく改心し……」
そこまで言ったところで、公爵の動きがピタリと止まりました。
一秒、二秒。
静寂の後、公爵の顔が、彼が愛するバラよりも深い「真紅」に染まり始めました。
「…………ッッッッ!!!!」
「あら、公爵様。お顔が大変情熱的ですわよ?」
「が、はっ、……ッ! あ、熱、熱いッ! 何だこれは! 最初は冷たかったのに、今は口の中で爆薬が爆発している! 火だ、火を吹くぞこれぇっ!」
「ぎゃあああ! 痛い、喉が焼ける!」
「冷たいのに熱い! この氷、悪魔の仕業ですわっ!」
会場のあちこちで、気品溢れる貴族たちが椅子を蹴り飛ばし、噴水へと猛ダッシュを開始しました。
これこそが、超高濃度カプサイシンを氷の中に結晶化させた、私の自信作ですわ。
「公爵様、落ち着いてくださいませ。それはバラの香りとトウガラシの刺激が融合した、新時代の気品ですわよ! ほら、汗と一緒に古い伝統が流れ出していくのがわかりますでしょう?」
「ふざけるな! 殺す気か! み、水……! 誰か牛乳を、ミルクを樽で持ってこい!」
ローズガルテン公爵は、杖を放り出して、自身の白い髭を真っ赤な汗で染めながら悶絶しています。
その阿鼻叫喚の最中、シリウス殿下が私の隣に並びました。
「……ロザリア。貴様、ついにやり遂げたな。あの頑固なバラ派を、物理的に根こそぎにしたというわけか」
「あら殿下。私はただ、彼らに『刺激的な思い出』をプレゼントしただけですわよ。……で、殿下。この騒ぎに乗じて、何かおっしゃりたいことがあるのでは?」
私は、チラリと陛下の方を見ました。
陛下は、阿鼻叫喚の貴族たちを肴に、自分用の激辛ソルベを美味しそうに食べています。
シリウス殿下は、意を決したように私の両手を取りました。
「ロザリア。……父上、そして国民の皆様! この混乱の最中ではあるが、私は今ここで、重大な発表をしたい!」
殿下の声が、広場に響き渡りました。
噴水で口を濯いでいた貴族たちも、何事かとこちらを振り返ります。
「私はかつて、このロザリア・フォン・アルメリアに婚約破棄を突きつけた! ……だが、それは人生最大の過ちだった! 私は、彼女が作り出す『熱』なしでは、もう一歩も前へ進めない! ……ロザリア! 改めて、私の正式な婚約者になってくれ!」
会場が、一瞬だけ静まり返りました。
そして、どこからともなく「いけー、殿下!」「激辛王妃、万歳!」という市民たちの声が上がります。
「お断りしますわ、殿下」
「…………え?」
殿下が、時が止まったような顔で私を見ました。
私はフッと口角を上げ、彼の胸元を指で軽く突きました。
「婚約者、なんて生ぬるい関係はもう間に合っておりますわ。……私が求めているのは、もっと強固で、もっと刺激的な関係。……殿下、貴方は私の『共犯者』になる覚悟はありますの?」
「……共犯者?」
「ええ。これからこの国を、そして大陸全土を、トウガラシの炎で焼き尽くす。……そのための『終身ビジネスパートナー』兼『人生のスパイス担当』。……それが、私の提示する契約条件ですわ」
シリウス殿下は、一瞬呆然としましたが、やがて腹の底から笑い声を上げました。
「ははは! いいだろう! 婚約ではなく、契約、そして共犯か! 貴様らしい、最高に辛口な返事だ! ……喜んで、その契約にサインしよう!」
殿下は、私の腰を引き寄せ、大勢の前で宣言しました。
「今日、この日をもって、ロザリアとの『真の婚約』を成立させる! ……ただし、これは単なる結婚ではない! 我が王国を、世界一熱い激辛国家へと導くための、最強のタッグの誕生だ!」
わあああああ!! という歓声。
ローズガルテン公爵が、噴水の中から「……勝手にしろ、この大馬鹿共め!」と叫んでいるのが聞こえましたが、その手にはなぜか、二個目のソルベが握られていました。
「……あら。公爵様、すっかり癖になっていらっしゃいますわね」
「ふふ、ロザリア様。……私たちの『赤い帝国』は、これで安泰ですわね」
リリア様が、私にウインクを送りました。
婚約破棄から始まった私の物語。
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