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お引っ越し当日

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 ラハシアは翌日午前中に仕事の引き継ぎをして、家に帰り、寮の部屋の片付けをした。
 ベッドとクローゼットは寮の部屋の物なので、自分で購入した服と食器、毛布と少しずつ貯めていた貯金に、両親の形見くらいである。
 制服というものは基本なかったので、戻すものと言っても鍵のみ。



 翌日言われていた時間にギルドの入り口に待機していると、長身のアルスが近づいてきた。

「あぁ、ラハシアだったか?」

 長い髪をハーフアップにして、ポンチョ姿のアルスは姉の腕の中で寝ぼけてぐずっているフィーアを覗き込む。

「おぉ~可愛いおチビだな。どうした~?」
「くっきー!」
「あ、すみません、おととい、リーダーにお菓子をいただいたのですが、とても美味しかったので、また食べたいと……」
「そっかぁ、美味しかったよな。俺もあのクッキー好きなんだ。アレは今ここにないんだが、干し果実のケーキならあるぞ? 食べるか?」

 その言葉にフィーアが目を輝かせる。

「うん!」
「フィーア?」
「いい、いい。どうせ、ちょっと用事があるからギルドに寄るつもりだったし、待っててもらう間にそこで食べていてくれ。よーし! フィーアって言ったかな? おじちゃんとケーキ食べに行こう」
「けーち!」

 アルスがニコニコと手を差し出すと、素直に抱っこされる。



 そして、また応接室に今いるのだが……

「けーち、おいちぃ!」

 アルスが切り分けたケーキをパクパク食べる。
 周りがケーキの屑で大変なのだが、フィーアを膝に乗せたアルスも、向かいの椅子に座り様子を見ているミュリエルも全く意に解さない。

「ラハシア。食べなさい。美味しいよ」
「は、はい。あの、リーダー……薬師先生、申し訳ありません」
「何が?」
「まだきちんと食べられないので……」
「そりゃ、まだこの歳の子にきちんとフォークを使えとか、音を立てるなとか、ポロポロこぼすななんて言えないぞ。ラハシア。それより、フィーア、ケーキ美味しいよなぁ?」

 アルスはフィーアに冷ました薄いお茶を飲ませ問いかける。

「あい! おいちぃ!」
「うんうん。食べられて美味しいのが一番だ。それに汚しても拭いたりゴミを片付けたら済むんだからいいだろう? うちじゃ、兄貴や母さんはものを破壊する名人なんだ。壊されるよりマシさ」
「そうそう。それに、ラハシア。前に心配していただろう? フィーアが食が細くて心配だって。でもケーキをこんなに食べて、美味しいって笑ってるんだから、きっとすぐに元気に遊び出すよ」

 手に持っていたフォークをそっと取って代わりにコンフェイトを握らせたアルスは、頭を撫でる。

「きいろ! あめちゃん」
「おぉ! 黄色の飴だったのか~。色もわかるなんてフィーアは賢いな!」
「おいちぃ! あめちゃん」
「フィーアはアルスが遊んでもらっているから、ラハシアはゆっくり食べなさい。焦らなくていいよ。どうせアルスの持ってきたポーションの鑑定もあるからね」
「今回はいい出来だった。きっと高額になる」

 フフーンと楽しそうなアルス。
 手が汚れたと自分の手を差し出して見せるフィーアの手を拭きながら、自分の分のお茶をゆっくりと口に運んでいる。
 少々落ち着かなかったものの、準備はしたものの、朝は最後の片付けと昨日遅くまで眠れなかったフィーアを起こして着替えさせたりと忙しなく動いていたこともあって、お茶を飲み、フォークでケーキを切り分け一口食べる。

「……うわぁ……えっ? ベリーとリンゴですか? 甘いけれど少し甘酸っぱい……こっちも生地がしっとりしてて美味しい……」
「だろう? これは俺も作るの手伝ったんだ。今日は持ってきてないが、お茶のケーキとかも作ったぞ」
「すごいです! 作ったのですか? お店で売っているのかと」
「これは作ったぞ。基本のレシピを覚えたら楽なんだ。うちは父さんが料理上手だから、俺はそんなに料理はしないんだが、このケーキはまた作るつもりだ。フィーア、おじちゃんがお菓子作ったら、フィーアにお仕事を頼むからな」
「おちごと!」

 幼いながらに姉が朝から晩まで働いていることを理解しているフィーアは、やる気十分である。

「フィーアのお仕事は、おじちゃんの作ったお菓子の味見。頼むな~?」
「がんばゆ!」

 その後、アルスと遊び疲れて寝入ったフィーアと、朝早くに起き出し準備をしていたラハシアも眠気に襲われうつらうつらしていたが、その間にポーションの査定が終わっていた。
 そして、眠るフィーアを抱いたアルスに連れられ向かった喫茶店を見て絶句するのだった。
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