もう行き詰まったので、逃亡したい私〜異世界でこの中途半端な趣味を活かしてお金を稼ぎたいと思います〜

刹那玻璃

文字の大きさ
65 / 102

ようこそ、玉響へ

しおりを挟む
 石畳の道を抜け、少し森に近い場所に、低木と垣根が現れた。
 アルスは、フィーアを肩車して、フィーアにというよりラハシアに道を説明しつつ歩いていく。

「この道まっすぐだ。そしてこのベリーの木のアーチをくぐると……フィーアとお姉ちゃんの新しいお家な。ここはお店の入口も兼ねた玄関。この右の奥に裏口というか俺がよく使う畑からの半地下の入り口と、そのまた回った奥に勝手口がある。でも、遠回りになるし、みんなここから基本出入りする。フィーア、ここの紐を引っ張ってくれるか?」
「あーい!」

 ノックのための金具と、その横に細いロープのついたベルがあるので、ベルの方をフィーアに頼むと、お手伝いが楽しい3歳児は、ロープを引っ張った。

 カランカランカラン……

 少し低い……カウベルのような音が響いて、すぐにドアが開かれる。
 小柄な黒髪の女性がニコニコと笑う。

「ようこそ……じゃなかった。おかえりなさい。アルスさん、ラハシアさん、そしてフィーアちゃん」
「あぁ、ただいま。コトハ。フィーア。その紐外して、このお姉さんにただいま~って言おうな?」
「あい!」

 アルスに言われたようにロープを離し、そして、肩から腕に下ろしてもらってから、ペコンと頭を下げた。

「ねえたま、んっと……ただいま~」
「はい、おかえりなさい。お仕事ご苦労様でした。さぁ、入って。ラハシアさんもね」
「あ、あの、よ、よろしくお願いします」

 促されるようにゆっくり家に入ると、入り口からは想像できない広さと奥行きに驚く。
 入ってすぐは横広いテーブルが置かれ、そこには沢山の箱がある。
 その横に受付らしき場所と、その奥はちょっとした台所のような場所。
 そしてテーブルの向こうには明るく、陽の光が入る大きな窓の空間と、テーブル、窓に並んだ机……ここがカフェスペースらしい。
 ラハシアが見入っている間に、アルスはフィーアを下ろし、手を繋いで奥に歩いていく。

「ここは、また後で説明するけれどカフェスペースです。ここでは奥に本棚があって、自由に本を読みながらお菓子と飲み物を飲むことができるの。そのかわり時間制になってます。2時間お菓子と飲み物一杯だと、3銅貨。飲み放題の場合は少し値段を上げることを考えてます。そして、お昼の軽食……パンやスープなどのセットは別料金です。少し高いかもしれないけれど、その分美味しいお菓子や飲み物をお出しして、居心地の良い場所にしようと思っているの」

 琴葉を追いかけるようにゆっくりと奥に入っていく。
 テーブル席は二つ、窓際に長い机と椅子の席を設けていて足元には籠もある。
 そして、低めの棚に囲まれた奥は、マットが敷かれ、その場所に靴を脱いだアルスとフィーアが入り、遊び始めた。

「あ……」
「あの場所は子供の遊ぶスペースなの。靴を脱いで過ごせるのよ。おもちゃも置いているし、誰かが気に掛けていれば大丈夫だと思うの。ヴァーロくんやうちのチャチャも遊ぶし」
「……天国みたいなところですね……」
「そうかな? そう思ってもらえると嬉しい。その階段から上は休憩スペースというか、まだ準備中のスペースなの。地下も書庫になる空間があるけれど、まだ本が整理できていないのでまだお客様はお迎えできないの。ラハシアさんがお手伝いしてくれるから、このお店では私の作ったバッグを売ったり、手作りの作品を一緒に作ったりして、それを教える講師もしようと思ってるの」

 ニコニコ笑いながら、テーブル席を勧める。

「もう少ししたらお昼だから、お昼の後にみんなで住む居住スペースに案内するね」
「……あの、本当に私たちで構わないのですか?」
「えぇ。逆に色々とご迷惑かけないかなぁと、前もって謝っておきます」

 頭を下げた後、首をすくめる。

「私は普通だと思っているのだけど、世間知らずって言われるの。えと、前もって言っておくのだけれど、お給料、本当に大丈夫かしら? あのね? このお店のお茶とお菓子のセット二人分なのよ? もうちょっと払った方がいいかと思っているのに、ヴァーロくんやアルスさんが、これで大丈夫っていうの……」

『いや、大丈夫だから! やめなよね!』

 白モフ姿のヴァーロはその頭の上にチャチャを乗せ姿を見せる。

『やっ! ラハシア。おかえり~。それより、今いうの? 後で確認した方がいい! 絶対いい! ボクだって、ここまでしてくれるとは思わなかったんだから!』

「そうかなぁ?」

 おっとりとした琴葉の金銭感覚が、この世界の人間からすると文字通り狂っているとラハシアが思い知ったのは、昼食の後のことだったのはいうまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

落ちてきた神様は、捨て子じゃありません! ちょっと“学び直し”に出されただけ。

香樹 詩
ファンタジー
舞台は、天界と人間界。 天界に住む女神ディセルネは、 その美しさに甘やかされて育った、少しワガママで自己中心的な神様。 ある日、そんな彼女は 自らが生み出した人間界〈ベネディグティオ〉へと、罰として落とされてしまう。 神の力も、居場所も失い、 小さな少女の姿になって辿り着いたのは—— 優しいけれど、どこか不器用な青年と、謎の神獣が暮らす世界だった。 人と関わることも、 誰かを気遣うことも知らなかった女神が、 初めて向き合う「自分以外の心」。 これは、 ちょっとワガママで純粋な女神が、 人間の世界で“やり直し”をしながら、少しずつ大切なものを知っていく物語。

処理中です...