もう行き詰まったので、逃亡したい私〜異世界でこの中途半端な趣味を活かしてお金を稼ぎたいと思います〜

刹那玻璃

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【番外編】琴葉の言の葉[猫の日に間に合わなかった……その2]

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『……こ、これ、コイツ何でいるの?』

 今日も楽しく遊び、おやつを食べに来た白毛玉ことヴァーロは、キッズスペースにいるグレーの巨大な毛玉に足を止めた。
 モフ毛の間からチラッと覗くのは宝石のような瞳。
 体はヴァーロよりも大きく、足も太い。

『……あぁぁ~! お前、もしかして 族名詐称生物猫らしきイキモノか!』
『黙れ! 種族詐称生物人かドラゴンかわからないイキモノ!』

 フシャー!

 毛を逆立てる猫。
 一応、猫というのは大まかな種族区分であり、この世界では世界に分布している。
 この国には、一応、2種類いて、家猫系は北のマルムスティーン領に生息しているのだが、平均的な大きさは地球の家猫よりほんの少し小さめサイズ。
 巨大化しても、5キロまでなのだが、目の前の灰毛玉は生まれた時には他の兄妹猫と変わらなかったのだが、どんどん大きくなり、現在、馬にも迫るほど……年もすでに100年近くは生きている。
 一応ヴァーロは見た目に見合わぬ超高齢ドラゴンであり、この灰色猫には何度か遭遇している。
 結構プライドの高いツンツン猫とは何となくソリが合わない気がしていたのだが……。

「あら? 淡墨うすずみさん。ヴァーロくんとお友達ですか?」

 新作の、本人曰く手抜きのスウィートポテトと飲み物のグラスを乗せたトレイを手にして現れた琴葉は、ニコニコと近づく。

『琴葉~? コイツ知り合い?』
「お友達ですよ。淡墨さんと言います」

 スウィートポテトをテーブルに置き、ヴァーロと淡墨の前に置いた琴葉は、正座して飲み物も配る。
 追加のピッチャーはすでに設置済みである。

『淡墨?』
「墨というインクがあるのですが、濃淡があるのです。それに、薄い墨で書いた文字は悲しみを現したりするのですが、私は、冬の終わりで春のイメージなのです。寒い冬の間は固く閉じている蕾が、暖かさを感じて綻んでゆっくり開いていきます。蕾は濃い色ですが、開くと淡いピンクから白を経て、散りぎわには少しくすんだ色になってハラハラと散っていく。潔く、冬を連れ去る花は美しいので、その桜のお名前です」
『汚い色といわれて来たが……コトハにそう言われて、少し嬉しい』

 尻尾をゆったり振る淡墨に、むむむっと唸るヴァーロ。
 大好きな琴葉に名前をもらった毛玉に嫉妬している。

『……ズルい……ボクにもつけて~!』
「ネーミングセンスに乏しいので、お勧めできません……」
『なんで~!』
「ヴァーロくんの髪の色の青色をイメージするのですが、浅葱あさぎ花色はないろ薄花色うすはないろとしか思いつかなくて……藍という植物から採れた染料で染めると現れる色なのですが、一度に染まらないので、何度も液に浸けて、空気をあててを繰り返すのです。色が少しずつ染まるごとに、色の名前が変わると思ってください。浅葱は淡い方で、イメージは緑の混じった明るい空色、濃くなるごとに薄花色、花色、薄花桜になります。途中の色ですと、少し……薄鼠うすねず錆鼠さびねずという感じになるので……」
『さびねず?』
「錆びた鼠と書きます」

 ヴァーロと淡墨は考え込む。
 想像もつかない色なのである。
 言葉というのは難しい。
 すると、大きな本……図鑑を手に近付いて来たのは桜智である。

『はい。色事典よ。琴葉が言ってるのは、青系の古い色事典ね。少し落ち着いた色と思えばいいわ。あら、猫? 綺麗な毛色の猫じゃない!』

 淡墨を見て声を上げる。

『本当! 淡墨色っていうのかしらね。それより、琴葉の言う通り、淡墨桜をイメージしたくなるわ』
『……少し照れくさくある』

 顔を洗う仕草をする淡墨に、ドールの手でそっと頭を撫でる桜智。
 その横で事典をめくり、本を差し出す。

「この色です! 花色です」
『花色っていうから、どんな色かと思ったら青?』
「ですから、センスはありませんって言いましたよ~。ですけど、青よりたくさんイメージが湧く名前だと思うんです。昔は花田色はなだいろ縹色はなだいろとも言っていたらしいですけど、この色事典にはまた別の色になっているのです」
『……ふーん……』
「本当は、月白つきしろという言葉も思いついたのですが、こちらはもっと淡い今のモフモフ毛の色に近いですので……」

 ヴァーロは顔を上げる。

『月白?』
「はい。月白げっぱくとも読めるのですが、私は月白つきしろと読むのが綺麗だなぁと。月の光のような薄い青みを含んだ白……えっと、月の光は表しにくいですので、夜、月が昇る時に、空がだんだん明るく白んでいく感じでしょうか。ヴァーロくんは太陽の強い光より月の優しい光のようです」
『……月白……』

 ヴァーロは琴葉を見上げ、その音を繰り返す……。
 そしてにっこり笑った。

『うん、ありがとう』
「えぇ~? ちょ、ちょっと待ってください。月白はイメージです! イメージ! ヴァーロくんはヴァーロくんでいいと思いますよ?」

 慌てて、琴葉は首を振る。
 本当は淡墨も、いいイメージではないのだ。
 薄墨と書くと、故人を偲ぶ色となり、葬儀の時の香典の上に書き込む筆の色になる。
 でも、淡墨桜となると、しっとりとした優しい色のイメージに変わる。
 月白も、青色を含んでいるとは言え白色が強く、色が淡すぎて、ヴァーロの色と違うような気がする。
 自分のセンスというか、言葉の知識のなさを悔いながら、ヴァーロを見た。

「うーん、そう?」

 いつのまにか、少年の姿になっていたヴァーロがにっこりと笑う。

「ボクは気に入っちゃった。嬉しいな」
『あんたはただ、琴葉がこの淡墨に名前をつけたから、嫉妬しただけでしょ』

 桜智に突っ込まれたものの、ヴァーロは、この名前を大事にするのだった。



 そして、淡墨は、時々現れては琴葉の作るご飯を食べ、最終的にはここにいつくことになるらしい。
 ……いつになるかは気まぐれな淡墨の気分次第。
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