自転車が回転して、世界が変わった日〜鶴姫

刹那玻璃

文字の大きさ
7 / 30

遊亀は、人に怯えています。

しおりを挟む
 目を覚めると、慣れない場所と共に眠る前のことを思い出した遊亀ゆうきは、



「キャァァァーー!」



悲鳴をあげる。



「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「遊亀様」



 さきは、そっと声をかける。



「大丈夫ですわ。傍におります」
「……さ、きちゃん……」
「ご安心下さい。周囲には私たちがしっかりといますので、安心して下さいませ」
「ご、ごめんなさい……」



 うえぇぇ……

泣きじゃくる遊亀を、そっと肩を押さえる。



「大丈夫ですよ。謝らなくてはいけないのは安成やすなりです。共に出掛けたのに、遊亀様をお守りできないとは……情けない」
「ち、違うよ。安成君は大丈夫。悪くないの……私が……怖くて……」



 しゃくりあげる。



「ごめんな……うちは……12才の時に……同い年の男数人に襲われかけて……怖くて、ダメなんよ。近づかれると硬直する。やけん……無理なんよ……」
「でも、安成に言われましたが、安房やすふさ様にあのようにひどい目に遭わされては、もっとお辛いでしょう……」
「大丈夫……えぇぇ?」



 左腕に棒が巻き付けられている。



「こ、これは……」
「何度も殴られ蹴られたそうですね。庇われた腕が折れているそうです。大事になさって下さいませ」
「か、帰る! 帰る!」
「どちらにですか?ここは島です。外に出ることなど……」
「帰る!」



 逃げ出そうともがく遊亀に、静かに近づいた安成は、



「無理です。遊亀どの。逃げることはできません。貴方は生きるのです。この島で!」
「何で? 私は!」
「生きなさい! 私にはあれ程言ったのに、尻尾を巻いて逃げるのですか?」
「なっ!」



遊亀は安成を見つめる。
 安成は、繰り返す。



「貴方は生きるのです。あの男一人に怯え、尻尾を巻いて逃げ出すのですか? 貴方の知っている未来に、この島を巻き込まれないように……! 前を向いて生きませんか? 遊亀!」
「うちは舟は解らんのよ! 大潮は解る! 新月と満月の時には、大潮! でも、満潮干潮とか……」
「それで?」
「それでってどうするんよ!」



 遊亀は食って掛かる。



「戦えっていうんやろ?」
「言ってませんが? 生きなさいと言っただけです。私にも言いましたよね? 未来は変わる。貴方が知っているのは伝説で、真実ではないと」
「でも……」
「『女は度胸、男は愛嬌』と言っていたのは誰でしたっけ?」



 悔しそうに、ムムムッ……と顔をしかめる。



「逃げられないのですよ。まずは生きませんか? 一緒に、道を見つけませんか? 大丈夫ですよ。姉も、周囲の皆も、貴方を信じていますよ」
「そんなこと、簡単にいうなって言ってるの!」
「はいはい。では、ちゃんと元気になって下さいね? 良い子にしていて下さい」
「腹立つ~! 安成君の癖に~!」



 癇癪を爆発させる遊亀に、



「はいはい。では、休んで下さいね」
「あぁ~! 益々~!」
「遊亀様。お休み下さい。又、湿布生活ですよ。お薬も届いております」



さきの一言に、



「わぁぁん! 不味い~! 寝てなきゃいけない……うぅぅ……勉強する……負けるもんか……」



涙目で宣言する遊亀だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...