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出陣の直前に……
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出陣の直前、遊亀は、安成にポツリと告げた。
「安成君。あんた、おひいさんを見過ぎたらいかんで?」
「は?さっき、あれだけ日から時間や方角を見るって……」
「それなんやけど……ここで言うのも何やけど、お父さんの目が見えんなった原因の1つに、太陽の見過ぎもあったかもしれんなって……」
「はぁ?わしのか?」
亀松はキョトンとする。
「いえ、実は最近……うちのおった時代には、日差しを浴びすぎると、皮膚に悪いできもんが出来て、それが身体中に……お腹ん中に移って苦しんで死んでいくって言う病気があるって解ったんです。それと一緒で、太陽を見過ぎると、目に火傷のようなものが起きて、お父さんのように見えんなるって言う病気の説があるんよ」
「やけど、おひいさん見んかったら困るがね」
義母の浪子が顔をしかめる。
「そうなんですよね。でも、ちょっとはいいんですよ?それとか、日差しがないと作物も育たんし……やけど、ずっと見ていると、残像って言って、太陽の丸い姿が黒く残ったりしません?あれも良くないんですよ」
「遊亀……そう言うんなら、何か方法でもあるんか?」
「あぁ、はい。太陽を見る為のメガネ!」
手渡す。
ちなみに紙製である。
良く現代で、日蝕などの時にイベントで配られるもの。
遊亀はちゃっかり手に入れて、持ち歩いていたらしい。
「安もんやけど、太陽を観測する時に重宝するんよ。2つ持っとるけん、あげるわ~」
「観測?」
「そう。皆既日食とか、部分日食とか……」
「部分日食……って何?」
「えっ?知らんかった?この地球と月が太陽と重なり合う現象で……」
3人が真っ青になる。
「寿永2年に起こった、水島の合戦の……あれは不吉や!」
「寿永2年……えっと、いつ頃の話?」
「平家の琵琶法師の話や」
「あぁ!あれは金環食!西暦1183年11月17日……確か、寿永2年閏10月1日。水島の合戦ですね。あれは、一応原理が分かれば不吉も何もありません。それにあの時は、平家が日が欠けることを前もって知っていて、それを利用して木曽義仲軍に勝利したんですよ?ある程度予測できたんです。と言うか、この国には陰陽道があり、その陰陽道の中に天文道と言って、星の位置や太陽と月の満ち欠けを専門に観る者もいるのですよ。安倍晴明は、その天文道の官吏だったのですから」
遊亀は3人を見る。
しかし青ざめている家族に、ふと思い立ったように、バッグから丸いメモ帳を出すと、三枚取る。
「大きさはそれぞれ違いますけど、良いですか?分かりやすく説明しますね?まず、太陽……おひいさんがあります」
日と書いたメモ帳を床に置くと、少し離れて、
「ここが地球……うちらがここにいると思って下さい。で、月……月はうちらの星の周りを回ってます。そして、うちらもおひいさんの周りを回っとるんです」
「ハァ?回りよったら、目が回る!」
「黙ってってば!話を聞かんか~!」
夫を叩きかけ、今現在触れないことを思い出す。
「だからね。うちの時代の研究で言われとるんよ。星のこととかも。だから、続きを聞いて」
「解った!」
「よし。で、月の満ち欠けも太陽と月のおる位置で変わってくるけど、今回は日食な?おひいさんが空に昇っとる時に、時々空に見えるお月さんがゆっくりおひいさんのおるところにこうやってくるんよ」
太陽と地球……3人は地球はあまり解っていないが、遊亀はその間にスススッと月と書いたメモ帳を移動させる。
「こんな状態になります。おひいさんの前に月が入ってきて、段々日が欠ける……日を食べていくように見えるから日食って言うんだよ。これは、全部隠しちゃうと皆既日食。一部だけだと部分日食。でも、これは、悪いことじゃなくて、自然現象」
「自然現象?」
「うーん……例えば、安成君が馬でこの島を一周するとするやろ?」
遊亀は考えながら説明する。
「つまり、おひいさんは、大山積神を祀るお社。で、安成君がこれ」
地球を書かれた紙を示す。
「で、馬の周りを回ったら危ないけん。うちは、お父さんとお母さんとゆっくりお社の周りを歩く。そうしたら、何回か出会わんにしろ、お社とお父さんらと、安成君は直線にして一直線になる時がある。おひいさんとお月さんと地球……それが並ぶんよ。それを日食って言うんよ。日が欠けていくからね」
「じゃぁ、こう言うんもあるんかね?」
浪子は、日と月の間に地球の紙を置く。
「あー!お母さん!そうです!それもあります!その時は月が欠けていくんです!月食と言います。お母さん!凄いです!」
「月食……」
「あ、日食も月食も食べるの『食』とも書くのですが『日蝕』『月蝕』とも書きます。でも、怖くはないんですよ。でも怖いのは、その時直接その様子を……日光を見ることです。そうすると目をやられます。ですので、お勧めしません。今回は確か……そういったことはないですが、日の光は本当に大切ですが、見続けると危険です。日の光が目を傷めることもあるので……今回は本当に、勝って欲しいし……それに、無事やったらもっと……」
遊亀に安成は笑いかける。
「大丈夫や。俺は勝てる。神さんや遊亀達がおる。行ってこうわい」
出陣前にも嫁の簡単な授業を聞かされ、追い出された安成だった。
「安成君。あんた、おひいさんを見過ぎたらいかんで?」
「は?さっき、あれだけ日から時間や方角を見るって……」
「それなんやけど……ここで言うのも何やけど、お父さんの目が見えんなった原因の1つに、太陽の見過ぎもあったかもしれんなって……」
「はぁ?わしのか?」
亀松はキョトンとする。
「いえ、実は最近……うちのおった時代には、日差しを浴びすぎると、皮膚に悪いできもんが出来て、それが身体中に……お腹ん中に移って苦しんで死んでいくって言う病気があるって解ったんです。それと一緒で、太陽を見過ぎると、目に火傷のようなものが起きて、お父さんのように見えんなるって言う病気の説があるんよ」
「やけど、おひいさん見んかったら困るがね」
義母の浪子が顔をしかめる。
「そうなんですよね。でも、ちょっとはいいんですよ?それとか、日差しがないと作物も育たんし……やけど、ずっと見ていると、残像って言って、太陽の丸い姿が黒く残ったりしません?あれも良くないんですよ」
「遊亀……そう言うんなら、何か方法でもあるんか?」
「あぁ、はい。太陽を見る為のメガネ!」
手渡す。
ちなみに紙製である。
良く現代で、日蝕などの時にイベントで配られるもの。
遊亀はちゃっかり手に入れて、持ち歩いていたらしい。
「安もんやけど、太陽を観測する時に重宝するんよ。2つ持っとるけん、あげるわ~」
「観測?」
「そう。皆既日食とか、部分日食とか……」
「部分日食……って何?」
「えっ?知らんかった?この地球と月が太陽と重なり合う現象で……」
3人が真っ青になる。
「寿永2年に起こった、水島の合戦の……あれは不吉や!」
「寿永2年……えっと、いつ頃の話?」
「平家の琵琶法師の話や」
「あぁ!あれは金環食!西暦1183年11月17日……確か、寿永2年閏10月1日。水島の合戦ですね。あれは、一応原理が分かれば不吉も何もありません。それにあの時は、平家が日が欠けることを前もって知っていて、それを利用して木曽義仲軍に勝利したんですよ?ある程度予測できたんです。と言うか、この国には陰陽道があり、その陰陽道の中に天文道と言って、星の位置や太陽と月の満ち欠けを専門に観る者もいるのですよ。安倍晴明は、その天文道の官吏だったのですから」
遊亀は3人を見る。
しかし青ざめている家族に、ふと思い立ったように、バッグから丸いメモ帳を出すと、三枚取る。
「大きさはそれぞれ違いますけど、良いですか?分かりやすく説明しますね?まず、太陽……おひいさんがあります」
日と書いたメモ帳を床に置くと、少し離れて、
「ここが地球……うちらがここにいると思って下さい。で、月……月はうちらの星の周りを回ってます。そして、うちらもおひいさんの周りを回っとるんです」
「ハァ?回りよったら、目が回る!」
「黙ってってば!話を聞かんか~!」
夫を叩きかけ、今現在触れないことを思い出す。
「だからね。うちの時代の研究で言われとるんよ。星のこととかも。だから、続きを聞いて」
「解った!」
「よし。で、月の満ち欠けも太陽と月のおる位置で変わってくるけど、今回は日食な?おひいさんが空に昇っとる時に、時々空に見えるお月さんがゆっくりおひいさんのおるところにこうやってくるんよ」
太陽と地球……3人は地球はあまり解っていないが、遊亀はその間にスススッと月と書いたメモ帳を移動させる。
「こんな状態になります。おひいさんの前に月が入ってきて、段々日が欠ける……日を食べていくように見えるから日食って言うんだよ。これは、全部隠しちゃうと皆既日食。一部だけだと部分日食。でも、これは、悪いことじゃなくて、自然現象」
「自然現象?」
「うーん……例えば、安成君が馬でこの島を一周するとするやろ?」
遊亀は考えながら説明する。
「つまり、おひいさんは、大山積神を祀るお社。で、安成君がこれ」
地球を書かれた紙を示す。
「で、馬の周りを回ったら危ないけん。うちは、お父さんとお母さんとゆっくりお社の周りを歩く。そうしたら、何回か出会わんにしろ、お社とお父さんらと、安成君は直線にして一直線になる時がある。おひいさんとお月さんと地球……それが並ぶんよ。それを日食って言うんよ。日が欠けていくからね」
「じゃぁ、こう言うんもあるんかね?」
浪子は、日と月の間に地球の紙を置く。
「あー!お母さん!そうです!それもあります!その時は月が欠けていくんです!月食と言います。お母さん!凄いです!」
「月食……」
「あ、日食も月食も食べるの『食』とも書くのですが『日蝕』『月蝕』とも書きます。でも、怖くはないんですよ。でも怖いのは、その時直接その様子を……日光を見ることです。そうすると目をやられます。ですので、お勧めしません。今回は確か……そういったことはないですが、日の光は本当に大切ですが、見続けると危険です。日の光が目を傷めることもあるので……今回は本当に、勝って欲しいし……それに、無事やったらもっと……」
遊亀に安成は笑いかける。
「大丈夫や。俺は勝てる。神さんや遊亀達がおる。行ってこうわい」
出陣前にも嫁の簡単な授業を聞かされ、追い出された安成だった。
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