絶対に可愛い妹をバッドエンドから取り戻す。

第一章

リリーの姿を見失った兄……。

「リリー！」

　馬車を入り口にと伝え戻ってきた三の兄ことラディスラフは、待っているはずの妹のリリー……スティファーリアの元に早足で戻ったはずだった。



　ちなみに何故スティファーリアがリリーなのか？
　それは従兄弟であり、幼なじみである王太子グスタフが、

「私は、スティファーリアをティファと呼ぶけど、他は同じように呼んだらダメ！」

とガキのようなわがままを言い出したのである。

　面倒くせぇ……と思ったものの、兄弟は話し合いリリーと呼ぶことにした。



　話を戻そう。
　ラディスラフは女性にしては背が高い妹を探すが、その場所には誰もいなかった。

　慌てて周囲を見回すが、見えるのは向こうで大声で喋るアルチョム男爵と、リリーの元友人のダグマル子爵令嬢グラフィーラ。
　どちらも不快感しか覚えない二人組である。

　二人を無視し、最愛の妹を探そうと歩き出した。

「リリー？　リリー！　どこだ？」

　すると、ベランダの向こうから悲鳴が上がる。

「う、上から落ちてきた！」
「キャァァ！」
「誰？」

　悲鳴の方に駆けつけ身を乗り出すと、リリーの着ていたドレスと同じ空色の布が庭に落ちていた。

「……リリー！」



　それからのことは覚えていない。
　ラディスラフは、呆然と布に包まれた妹の側で立ち尽くしていた。