絶対に可愛い妹をバッドエンドから取り戻す。

刹那玻璃

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第一章

マグダレーナの心残りは孫の顔が見られなかったことです。

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 マグダレーナは貴婦人のマナーギリギリで急いで戻っていく。
 そして、夫と娘が待つ一室の扉を開いた。
 そこには、頭に包帯を巻き、青白い顔で眠り続ける娘の頬や手足を優しく撫でる夫の姿。

「……リリー……辛かったな……このまま私と逝ってしまおうか」

 涙を流し呟く夫に駆け寄る。

「あなた!」
「マグダレーナ……私は、ひどい夫だ。父親らしいこともできなかった。だから、苦しむリリーを思いやることもできなかった。だから……スラヴォミールにまで……」
「嫌です!」

 扉を開けて入ってくるのは、三兄弟。

「すでに準備はしましたよ」
「……本当に、しっかりできましたわ。やっぱり巻き戻すとき、一気にわたくしが生まれる前まで戻して、女の子になろうかしら……」
「……笑えない冗談を言うな」

 スラヴォミールの言葉に、ラディスラフが突っ込む。
 時々、スラヴォミールの言っていることが冗談か本気かわからない。

「そこまで戻したら、かなり運命が変わるだろうが?」
「つまらないわ~」
「……一言言っておくけど、スラヴォミール。女の子に生まれたら、あの殿下がうざったいほど付き纏うかも、いいの?」

 次兄の一言に、ざっと青ざめたスラヴォミールは、

「……い、嫌です。冗談です。性格的に合わないし、想像もしたくないです。ごめんなさい、兄さん」
「よし! 私も二人妹だったとして、どっちも嫁に出すのは嫌だからね」
「じゃぁ、兄上が婿に行けばいいのに」

ラディスラフの一言に、カシュパルは手を伸ばし、ヘッドロックをかます。

「……どこに行けと言うのかな? 私がいなかったら、家はどうなってたと思うの?」
「ギブ! 俺が悪かったです。兄上」
「……もう……仲がいいのもいいけれど、スラヴォミール? どうなの?」
「母さま。そろそろ吸い上げ完了ですね。ツィリルの両親と妹にしては魔力はなさすぎです。その代わり濁ってはいますが命はしぶとそうですから、とことんまで使おうと思います」

 淡々と答える息子にため息をつくと、

「貴方達、お願いだから無事に戻ってきたら結婚して頂戴ね? 孫の顔を見せて頂戴」
「カシュパル兄上……マティ兄上にお願いしましょう!」
「……クリスチナがもう少し大きければ、婚約してもらったのに。あんなに可愛くて素直な子はいないわ」
「……まだ7歳ですよ? 結婚できるまで9年かかるじゃないですか」

首を竦めるラディスラフに、

「もう、幾つでもいいのよ! それに、異国の小説では、若い男性が身寄りのない幼い女の子を引き取って、自分好みに育て上げ、結婚するってお話があるのよ?」
「リアルに生々しい小説ですね? お願いですから、チナには読ませないでくださいね」
「当たり前でしょう? 絵本と数字に文字の本でしょう、今は。あの長編小説は、続きがその男性の女性遍歴の話になるのよね……」
「……母上、それはもしかして、去年、外交先の猊下に戴いた長編小説ですか? 結構重かったですし、2部限定でしたよね? 正妃さまと母上にと……」

カシュパルは問いかける。

「そうよ。読み終えたら、王宮とブレイハ公爵家の書庫というより宝物庫に納めるつもりだったのよ。わたくしはもう読み終えていたから、納めておいたわ。その後のことを、伝えるためにもマティアーシュかカシュパル、ラディスラフに嫁をと思っていたのに……お義父さまならわかっていただけると思うけれど……」

 母の言葉は家を心配するようでいて、責められているようで、名前を告げられた二人は居心地悪げにする。

「そ、れは……兄上がきっと……」
「そうそう。それに、カーシュ兄上はともかく、俺はモテないので!」
「なんでそこでそういうのかな? 私がそんなに女性をたらしているとかしているとでも?」
「兄弟の中で一番モテるの、カーシュ兄上だから!」
「そんなわけはない!」
「やめなさい」

 イェレミアーシュは注意するが、家族が戻ってくるまでの悲壮な表情ではなかった。
 スティファーリアのことは辛いが、息子達の成長が嬉しい。
 これから進む道は暗いものと思っていたが、そうではない。
 きっとスティファーリアを取り戻し、明るい未来を取り戻せるだろう。

「……お前達は、私達の自慢の息子だ。では行こう」

 近づいてきた妻を抱き寄せ、そしてスラヴォミールを見た。
 妻とスティファーリアにそっくりの四男は心苦しそうに告げる。

「では、過去に。安全な時まで戻れるようにします。……誰かの力が尽きるまで……」
「その時には、魔法を使用するお前より、私を優先しなさい。魔法が成功すること、それが最優先だよ」
「あなた!」
「これは変えられない。いいね?」

 父の言葉に頷き、魔法を展開していくのだった。
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