上 下
16 / 16
異世界とはどんなものかしら?

続いては産廃を減らしましょうか?

しおりを挟む
「マザー・ミーム。この神殿で余剰……私が使っても問題ないものってないかしら?」

 ベッドの上でいるのも飽きたので、ソファに座っています。
 そういえば、まあやが目覚める前の聖女の使っていた家具は、ベッド以外全部運び出して貰いました。
 無駄にギラギラした宝石箱は、必要のない金目のものを全部売るためにマザーたちに中身を確認してもらった。
 猫足のテーブル、椅子、飾り棚と言ったものは、見ただけでげんなりするほど趣味が合わなかったので、即クラウス商会に売ろうと思ったけれど、見た目はド派手で高そうだったけれど、人気の白木の材製ではない上に、金属も粗悪だったので二束三文にもならないとのこと……。
 そういえば触った時の感覚が悪かったなぁとがっかりした。
 でも、それなら商会に頼むより神殿でフリーマーケットをして欲しい人に譲ろうと言うと、みんなが首を傾げました。

「フリーマーケットというのは?」

 ブラザー・ドロスは眉を顰めます。

「あ、市場の朝市……常時露天というわけでなく、広場を開放して、例えば、自分の田畑で採れた野菜の余剰や裁縫の得意な人が作った刺繍、家の子供さんの小さくなった服をそのサイズが欲しい他の家族に安く譲るものです。料理に使う刃物とかだったら研ぎ師さんがきて、他のお店を見ている間に研いでもらうのもいいですよね? 他にも大工さんだったら余った木で箱を作って、それを売ってもいいですし……で、誰でも出店できます。代わりにその場所代ということで、お金をお布施として受け取ります」
「えっと、誰でも……ですか?」

 シスター・サラが目を見開いています。

「えぇ。例えば、こういうこともできます。自分の特技はないけれど、その時間何かお手伝いできればいいなと思ったら、預かり場所とか出来ませんか? 番号を書いた板を2枚作っておいて、買い物に時間がかかるとか、重いからと預けたい人がいれば、荷物を受け取って一枚の札を荷物に結んで、もう一つは持ち主に渡す。その時に預かりのお金として硬貨を一枚受け取る。買い物が終わり受け取りに来たら、渡していた札を返してもらう代わりに荷物を渡す。それでも商売です」
「あのっ! 孤児院の子供たちでも出来ますか?」
「読み書きができなくても、札に同じ模様を書いておくだけでもいいですし、数人が簡単な算数ができれば大丈夫ですよ? シスター・サラは孤児院のお友達がいるのですか?」

 困ったような顔になったあどけない少女は、

「私……孤児院出身で……マザーたちに優しくしていただいたのです。それで、もし……そういうことが孤児院の弟妹たちに、できるのなら……」
「あら、大丈夫よ。それに、とってもいいことだわ。他にはお届けものを配達とか、できるわね。他には……街の人のいらないものを回収して、直せるものは直して、ダメなものは作り直して中古品って売ってもいいのよね……これぞリサイクル」
「リサイクル……」
「そうよ。リメイクだけでなくリデュース、リユース、リサイクルね」
「リデュース、リユース、リサイクル……」

呟く数人の前に、何かイメージできないかと目の前に、縮小された真っ直ぐな木を見せる。

「リデュースというのは、物を作る時、使うものから生まれるゴミの量を少なくすること、リユースは作ったものを修理しながら何度も使うこと、リサイクルは例えば個人の家で使い終わった棚などを集めて壊れていても分解して最終的には燃やすなり別の用途で使い切ること……ですかね? 例えば、私が知っている方法です。このスギというこの一本の木をほぼ全部使い切るには、切る時に……丸い幹を四角形にします。外側は壁やもしくは屋根に使えるので板材にするのですが、その前に木の皮をむいちゃいます。枝もこの葉も捨てませんよ?」
「えっ?」

 まず枝をスパンスパンと刃物で切り、杉の皮をむいてみせ、その後、中央部を四角い柱に切って見せる。
 そして、かまぼこ型に残った板を、揃えて長方形の断面の板に加工して、残った部分を見せる。

「で、これは、もったいないので孤児院の練習用のペンか、食事用のカトラリーににします」
「……はぁ? カトラリー? それに、ペンというのはどういうことですか?」

 瞬きをするブラザー・ドロスににっこり笑う。

「カトラリーとは、食事の時に使うフォークとかスプーンですよ? こういった木は、真っ直ぐなので加工がしやすいのと、折れたりしたら最後に煮炊き用の焚き付けとしてしまえばいいのです。その燃え残った灰も洗濯に、畑の肥料に使えます。捨てるところなんてないのですよ」
「えっ……えぇぇぇ! なんて斬新なんですか! ほ、他には?」
「じゃぁ、続いてこの木の皮です。乾燥させて、家の屋根に貼るとか、板と板の隙間に詰めたりすると、水が染み込みにくくなり、雨漏りも減ります。枝は乾かして細かくして道に撒いたり、畑の肥料にできます。で、葉っぱは……乾燥させることで、火をおこす時の燃料になります」

 目の前で順番に木を変化させていく。
 でも、お箸はみんな使わないかな……でも、割り箸の先を削って筆ペンがわりにするって誰かに聞いたからやってみようと思った。

「こ、これは?」

 墨をつけて文字を書く様子を映し出していると、シスター・サラが声を上げる。

「文字を書くのね。墨という……インク。インクはちょっと手間はかかるけれど作れるかな? でも、地面に棒で文字や数字を書けば、誰でも勉強できるでしょ? 終わったらさっと足で消せばいいんだし」
「……マーヤ様! どうか、どうか! その技術を!」
「ブラザー・ドロス……えっと……これは、普通……」
「ではありません! 木の皮なんてゴミでした! 屋根はあっても雨漏り、隙間風なんて当たり前で……そんな技術知りませんよ! マザー・ミーム? ご存知でしたか?」
「いいえ、いいえ! なんて素晴らしいのでしょう! 私もこのような御技……みたことがない……あぁ」

 マザーは必死にメモを取っていた……あれ? そういえば、すごく書き心地の悪そうな紙です。
 それに、文字はカリカリと紙の上を削るような書き方……。
 そっか……そんなふうに書くから固い筆致なんだね。
 これって……。

「もしかして、それが羊皮紙?」
「はい……」
「うわぁ……うーんと、紙ならいらない布や木の皮と言った繊維質のものを、叩いてほぐして水で混ぜて漉いてもいいと思うんだけど……羊皮紙は羊の皮から一枚しかとれないでしょう? だから高級なんだよね?」
「……」

 目を見開くみんなに首を傾げる。
 えっ? 羊皮紙って高いよね? 普通の紙ってそうやって作るよね?
 あぁ、真彩の頃のノートがあった時代が懐かしい……でも……。

 ブラザー・ドロスが、懐から携帯用の板の筆記用具を出し、必死に書き始める。
 しかも、板にとがった針金のようなもので書き込んでる。
 かまぼこ板のような厚みの板に押し付けるようにしている……これが簡易用のメモ帳らしいです。
 教典などを残す際は羊皮紙だそうです。

「ぜひ作り方を教えてください!」
「えっ? あ、えっと……私がわかっているのは……こういう風だったと思う」

 簡単な説明をしてみた。

 ちなみに、日本の和紙は、コウゾとかミツマタの皮……皮でも内側の白い部分を取り出して加工する。
 そういった木の枝を見つけてみるのもいいかも。
 繋ぎに使われる、トロロアオイというものが見つからない時には、ノリで代用できる。
 そういうのも将来的に産業にできるといいなぁ。

「あ、これくらいの箱状に作って、小さい紙を作る道具も作るといいよ。そして、水に混ぜた紙の元をその箱に溜めて、水を落として……他にも……」
「お待ちください! 頭も文字も追いついておりません! 今日はここまででお願いいたします!」
「あ、うん、あ、そうだ。この作っちゃった木の柱とか、何に使っていいか分からないから、板材と角材にして、テーブルと椅子にします。この端の部分も釘にしちゃうね! あぁ……宮大工の技術とか勉強しておいてよかった~」

 せっかくの杉だし、いいよね?
 ちょうど数本作っててよかった~。
 あぁ、前はノコギリできってたなぁ。
 その時は木を切り倒すのは本当大変だったけど……考えてできるのって一瞬で楽だけど、あの達成感はない。
 ちょっと寂しいな……と思いつつ、作ってみた。

 うん、昔風の長机と椅子は背もたれなしのもの。
 角は削って危なくないようにしてみた。
 でも、強度は考えてみたよ。
 壊れたら意味ないし、それにニスはいるよね?
 出来るだけもったいないを解消するために、天板の長さとかはギリギリのサイズにしてみた。
 その上に木の皮とカトラリー……難しい作りじゃなく平べったいふたまたのフォークに小さめのスプーン、お箸も並べてみたよ。
 そして割り箸の先のような、文字練習用のペンとかも並べた。
 あとは、作業で出たおが屑を混ぜた粉砕した枝、乾燥させた葉っぱを分けておいた。
 完璧だ!
 あ、大きさを戻して、積み上げておいたからね。

「こんな感じです。どうでしょう? 全部捨てずに作りました!」
「……あの……このテーブルと椅子は」
「えっ? あぁ、シスター・サラ? 孤児院があると言いましたよね? そちらに全部これを持って行って使ってください。あ、木の皮だけは屋根の修理の時に使うので、おいておいてください」
「こ、こんな立派なものを?」

 目を見開いてブルブル震える同年代か少し年下の少女。
 いいなぁ……妹とかいたらこんな感じだったかも。

「いいのよ。それに、孤児院っていうのは将来がある子供たちの生活が成り立つように支える施設だと思うの。でも、権力を持つ人は目先の自分の欲を優先させてしまう……だから、愚かなのよね。近くにいる貴方達がいくら子供たちに教育や支援したいと思っても、一番近いってことは欲から遠く、日々を必死に生きているから……やっぱり子供達に何かをと思っても、自分の着られなくなった古着とかになってしまうものでしょう? それより足りるかしら? 椅子の数が足りないなら、他に準備しなきゃ……」
「じゅ、十分です! マーヤ様!」
「お身体は大丈夫ですか?」
「それに、紙というものの作り方を!」
「ブラザー・ドロス! また、マーヤ様を疲れさせる気ですか! 必要なものを書き込んだら、ブラザー・ケインを呼びに行って、この机と椅子を運びなさい!」

 マザー・ミームに怒られ逃げるようにブラザー・ドロスは出て行った。

「シスター・サラ。アネッサ様にすぐに来ていただけるか、確認してちょうだい。これでは……マーヤ様を自由にできませんからね」
「はい!」
「ゆっくりでいいですからね?」

 マザー・ミームは優しく見送ると、私をみて、

「では、マーヤ様。明日から三日間……私、マザー・ライム、マザー・オーリーに、聖女としてのお勉強をいたしましょうか」
「えっ」
「聖女の役割とはなんなのか……そして、むやみやたらに力の無駄遣いをするものではありません!」

それからアネッサが来るまでずっとこんこんと言い聞かせられた私。



 創造は簡単に使ってはいけないと言われました。
 次から許可を得て作ることにします……できるかな?
 でも、気になったことは、聞いておきたいな。
 それに創造の力を制御する代わりに、周りにあるもので何かここで出来ないかなと思います。
 まずは、フリーマーケットをできればいいな。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...