Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第一章……ゲームの章

31……ein und dreißig(アインウントドライスィヒ)

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 準備をしたディーデリヒはアストリットを馬に乗せ、その後ろに乗ると、

「行くぞ。イタル」
「あれ? アスティは馬に乗れないの?」
「……っ」

 ぶしゅー……

頬を赤くして、馬に覆いかぶさるようにしてアストリットは告げる。

「城に置いてきた私の馬ならよ、横向きは何とか……歩かせるのも出来ますが、で、でも、この馬は軍馬で背丈も高くて、この高さが滑り落ちそうで怖いんです……で、ですから、ロバでいいと言ったのに……」
「走らせるから追いつけないよ」
「む、無理……むーりー!」

 絶対嫌だと言わんばかりにブンブンと首を振る。

「後から追いかけます……降ろしてください」
「それはダメだよ」

 ディーデリヒよりも早く、イタルが声をかける。

「僕たちが早駆けで進んで、君がゆっくり別行動なんて、何かあったら大変だよ」
「大丈夫です。アナスタージウスもいてくれるし……」
「ダメ。じゃぁ行こう。イタル。アスティ。馬の邪魔になるから、離れて」
「どこ握ればいいの? 鞍? たてがみはダメでしょう?」

 半分ベソをかくアストリットの手を、自分の腰に回す。

「ここ。掴まってたら大丈夫だから、行くよ」

 手綱を操り、走り出した馬の速さにアストリットは、

「ひっ! は、速い! 待って! 待って!」
「今止まると、到着が遅くなるから、我慢して……イタル。ついてこれるよな?」
「大丈夫! 全速力は無理だけどね……それと、アスティ頑張れ」
「が、頑張れって、ふわぁぁ~! 怖い! 速い!」

必死にディーデリヒに抱きつく。

「揺れる~! 揺れるよ~!」
「落ち着いて、アスティ。馬も暴走している訳じゃない。蹄鉄もきちんとしているし、地面を蹴って走っているんだ」
「う、後ろからしがみつく方が良かった……」
「僕もそう思った」

 後ろからイタルが近づく。

「ディ。途中で降りて、前後を変えてみたら? その方がアスティも安心するかも」
「そうなのか?」

 一旦止まり、アストリットを軽々と後ろに乗せる。
 降りることなく移動させる力技に感心するイタルの前で、フード姿のアストリットは手を広げ、掴める限りディーデリヒの腰のベルトを掴む。
 アストリットは小柄な為、自分の手を握れなかったらしい。

「頑張れ、ディ」
「はぁ? 大変なのはアスティだと思うが……アスティ。辛くなったら言うんだぞ」
「はい! 落ちないようにべったりくっつくようにします!」

 アストリットは宣言し、ぎゅっとしがみついた。

 それを確認し、愛馬に合図を送り速足で走らせ始めたディーデリヒは、いつもと違う体勢、しがみつくアストリットの震えや息が耳に届き、次第に集中力を欠いていく。
 しかし、それをアストリットには悟られぬように、街に向かって走って行く。

 後もう少しで、ディーデリヒのよく知る街にたどり着く直前、アストリットの声が響く。

「ディ様! 目の前にロープ!」
「!」

 慌てて手綱を引くことも考えたが、あぶみで指示を変え、ロープを飛び越えた。
 イタルも棹立ちにはなったが、何とか寸前で持ち堪え、汗を拭った。

「な、何だ? これは?」

 ゆっくりと戻ってきたディーデリヒとアストリットの前に現れたのは、薄汚れた服のフレデリックである。

「チッ! 倒れるか怪我でもしてくれりゃ、殺すのも楽だったのに」

 荒んだ目をしたフレデリックは、持っていたクロスボウを構えた。

「財産を置いていけ。そうすれば、命だけは助けてやるさ」
「断る。それに、よくも俺の実家の領地に住んでいたものだ。出て行って貰おう」
「はっ。誰がお前の命令を聞くか! 俺はここの領主に許可を得て、住んでいるんだよ」
「何だと!」
「それに、お前達が来るのを待っていた人間が、他にいてなぁ……」

 茂みから出てきたのは、タクマとエリア。
 ニヤニヤと笑っている。

「フレデリック様。このイタルは1000テーラー持っていますよ!」
「ほぉ、貰ってやろう」
「って、簡単にやれるか!」

 ディーデリヒは馬でフレデリックに近づくと剣を抜き、手を斬りつける。
 そして、タクマとエリアはイタルが緑を急速に成長させ、蔓で手足を巻きつけ縛り上げる。

「この馬鹿が! 自分の弱さを見せるな!」
「クッソー! 何で俺が! 何で! お袋に似てないからか? 許せねぇ! アストリット! お前が、いや兄貴とお前がいなければ!」

 馬から降りたディーデリヒは、剣の柄で後頭部を殴りつけ、そして縛り上げる。
 ちなみに口を塞ぐように、3人に布を巻きつけておく。

「馬に乗せて……街に連れて行くか……」
「あの……ディ様」

 心細そうに馬上にいたアストリットは告げる。

「あの……先の、お兄様の……『ここの領主に許可を得ている』というのが気になります。遠回りでも、私のお父様の元に一度戻りませんか?」
「これを連れてか……」

 ディーデリヒは渋い顔をする。
 その間に森に入ったイタルが、3頭の馬に荷物を持って現れる。

「馬も手入れされていないね。荷物も纏まってない。お金、湯水のように使い果たしたみたいだね。一種の追い剥ぎをしてたみたいだ」
「ロープなんて……馬も乗り手も大怪我をするのに……酷い」
「まぁ、死んでもいいのさ。金や保存食さえ奪えば殺してもいいと思っているからね」
「それはそうだね」

 聞き覚えのない第三者の声に、3人は驚く。
 いや、アストリットの中にいるまどかは聞いたことのある声……大好きな声優の丹生雅臣にゅうまさおみの先輩声優、久我直之くがなおゆきである。
 色っぽい雅臣の声とは違い、はっきりとした声質である。
 そして姿を見せたのは、長いプラチナシルバーに瞳は淡いブルー、純白のローブをまとった無表情の……。

「誰だ!」

 アストリットを守るように剣を抜こうとするディーデリヒを止め、アストリットは告げる。

「伯父様……」
「久しぶりだね。アストリット」
「ど、どうしてここに?フュルヒテゴット伯父様」
「フュルヒテゴット様!」

 フュルヒテゴット・カールハインツ・オルデンブルク【Fürchtegott Karlheinz Oldenburg】
 帝国でも有力な貴族の当主である。
 その上、有能な外交官であり、アストリットの母の兄である。

 ディーデリヒとイタルは慌てて、それぞれの身分にあった仕草をするが、彼は、

「あぁ、それはやめてくれないかな。今回はお忍びでね。伯父様でいいよ」

と微笑む。
 その笑みは、ディーデリヒには見慣れた悪友に瓜二つ。
 さすがはカシミールと血が近い。
 多分、ディーデリヒがそう呼ぶと血を見るだろう。

「それよりも伯父様? お一人ですか?」
「そうでもないよ。向こうに騎士や数人連れているからね」

 フュルヒテゴットは示す。
 すると、10人余りの一団が立っていた。

「それにどうして……」
「エルンストから、エリーザベトが子供を身ごもったと便りが届いて、カシミールからフレデリックを追い出したと緊急の使いも来たのでね。ちょっと様子を見に来たんだよ」
「伯父様遠いのに……お忙しい中ありがとうございます」
「アストリットに会いたかったことが一番かな。小さいお姫様」
「伯父様が言い出したんですね……カシミールお兄様がいつもそう呼ぶんですよ」

 少し頬を膨らませる。
 すると、うっとりとするような微笑みを浮かべ、

「アストリットはエリーザベトに本当によく似ているよ。私の娘になってほしいものだ」
「伯父様には、ビルギット様がいらっしゃいます」
「あれはダメだ」

冷たく言い放つ。

「ビルギットは、お前のように自分の立場を理解できない。そのフレデリックと同じ……フレデリックは男で追い出せば済むが、あの娘は追い出しても男の元に行き、騒ぎを大きくする。修道院に入れてしまいたいが、カルラが溺愛して始末に負えない」
「カルラ様……」

 フュルヒテゴットの後妻である。
 フュルヒテゴットは前妻との間に男児が二人、上に娘が一人おり、その娘は嫁いでいる。
 そして前妻が病死後、政略結婚でカルラを娶ったが、生まれたのが末娘ビルギット一人。
 しかし、親娘は跡取りである長男とそれを支える次男を邪険にし、最近それが目に余る。
 今回の旅は、自分が旅をしている間に仕出かしたら、それを追求し、離婚しようという腹づもりである。
 そして、妹の見舞いと、その家族に会いに来たのもある。

「所で3人かな? これらはディーツ領に一回連れて行くといい。馬車がある。それに載せよう。そして、ディーデリヒとエルフ殿、共にアストリットと来てくれまいか」
「えと、緑のエルフのイタルです。よろしくお願いします」
「お久しぶりです。フュルヒテゴット様。かしこまりました」

 二人は、頷き準備をするのだった。
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