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第二章……帰還後、生きる意味を探す
57……sieben und fünfzig(ズィーベンウントフュンフツィヒ)……瞳(あい)の策略?
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睛は、大学の授業が終わった後、妹の元に向かおうと歩いてると電話がかかった。
知らない電話番号だが、躊躇うよりすぐに取る。
「もしもし……」
「あ、申し訳ありません。突然電話致しまして。私は明地出版社の守本と申します。結城睛さんでしょうか?」
「は、はい……出版社の?」
「あ、ご存知ではなかったのですね。実は私共の出版社では、日向糺先生の新作の出版を予定しておりまして、先日伺ったのですが、その時に糺先生が結城さんの作品を勧められて、お借りしたんです」
「えっ……」
睛は真っ白になる。
まぁ、図々しいと思ったものの、那岐に頼んだのに……話が大きくなっている?
「早速読ませて頂きました。結城さんの作品ですが、とても丁寧で優しい文章です。ですが、淡々としていて若いのに、粗さと言うか、感情を込めるのを躊躇っている戸惑い、迷いを素直に書き上げています。もしよろしければ、私共の出版社の雑誌に掲載させて頂ければと思っております」
「えっ……」
「今度一度、お伺いさせて頂けたらと思うのですが、日向先生に伺うと、先生の息子さんが結城さんのことをご存知だと伺いまして、突然のこの電話ですので、不安になられるかと思います。出来れば、日向先生の息子さんに連絡をさせて頂きますので、お話を聞いて頂けますでしょうか?」
睛は躊躇わなかった。
「はい。どうぞよろしくお願い致します」
その後、歩きながら、双子の姉に電話をかける。
「瞳ちゃん……あのね、あのね、どうしよう……」
「どうしたの?」
「あのね……」
今の電話を説明する。
そうすると、
「エェェェ! 睛ちゃん、那岐くんのお父さんとお母さんに認められたの? それに凄い! 凄いよ! 出版社から直接電話なんて!」
「で、でも……まーちゃん大変なのに、良いのかなぁ……」
「まーちゃんも喜ぶよ!」
言いながら駆け寄って来た。
二人は顔を見合わせて笑うと、妹の元に向かうことにしたのだった。
瞬は、英語の訳をしている那岐の台本に顔を寄せ、
「……那岐さん、二重線入れてますけど、この意味はなんですか?」
「あぁこれは、間違ってる英語……日本語英語って言えば良いのかな。もう、百年位前の人が使ってた単語とかなんだ。これをそのまま相手に話しても、意味が通じない。だから、会話文に訳す。でも、おかしな英語だから、元々の台本も持ち出したんだ。でも、俺のテオドールとやりとりをよくする臣さんのディーデリヒと、今度ウェイン兄さんが声を当てるカシミールに、ヴィヴィ姉さんのカサンドラは良いんだが、アストリットの訳が難しいな。キャラが分からない。瞬ちゃんのままで良いのかなと思う。それにその次には他の地域の台本を取り寄せて訳すから、時間かかるかな。でも、一番多いのがディーデリヒにカシミール達だから、これさえ終われば、そんなにかからないな」
「凄ーい。那岐さん」
「あはは。臣さんや、瞬ちゃんのお姉さん達の方がすごいさ。本当良いなぁ。俺、瞬ちゃんみたいな妹、欲しかった~」
頭を撫でる。
トントン……
扉がノックされ、入ってくるのは瞬の双子の姉達。
「あ、瞳ちゃん、睛ちゃん!」
「まーちゃん! 可愛い! ただいまぁ!」
「まーちゃんと那岐さん。ただいま……です」
「お帰り~。瞳ちゃん、睛ちゃん」
那岐も顔を上げて笑う。
「何してるの? 二人で」
「私は見てるの。那岐さんがお仕事してるの」
「仕事?」
「あぁ、バイトみたいなものだよ。誤訳の訂正」
ペンを置き、そしてうーんと背伸びをすると、
「あ、そうだ! 睛ちゃん。うちの親父から連絡があったんだけど、あの小説、出版社の……」
「あの、今さっき連絡がありました。あ、あの……出版社の方が、出版してる雑誌に掲載させて貰いたいって」
「はやっ! それより、電話で契約とか……」
「いえ、あの……忙しくない時で構いませんので……那岐さんと一緒に会えないかとか……む、無理でしょうか」
睛のおずおずと、しかも何故か申し訳なさそうに、わざとらしくない上目遣い……つまり、那岐が知る限り兄嫁とか、兄嫁の母親とか、瞬とかちんまり可愛い女の子にされるとドキドキするそれに、
「くぅぅ……」
うめく那岐に、瞳はニヤッと笑う。
キリッとした自分と那岐は友人以上にはなれないが、最初の頃から那岐は瞬だけでなく睛を気にかけていた。
睛は穏やかで落ち着いているようで、自分に自信のない、三姉妹の中で一番気の弱い女の子らしい女の子。
瓜二つの瞬は、何だかんだ言って、末っ子らしい甘えん坊なところもあるが、好きな人に追い付きたいと背伸びをしたがる。
那岐のことはお兄ちゃんと思っているが、本当に好きな人には、お子さまと思われたくないと思っているようだ。
それに、瞳は結婚願望は薄い。
恋愛より演劇。
睛が教えてくれた、那岐が瞳にもっと広い世界を見てみるのもどうかと言っていたことも、自分の道は閉ざされていないことを教えてくれた。
じゃぁ、進もう。
両親には親不孝な娘と思われるだろうが、両親には二人の妹がいる。
瞬の方は跡取り息子、睛の好きな那岐は次男坊。
向こうには申し訳ないが、婿養子に来て貰おうではないか。
瞳が恐ろしい計画を考えていることも知らず、3人は楽しそうに話をしていたのだった。
知らない電話番号だが、躊躇うよりすぐに取る。
「もしもし……」
「あ、申し訳ありません。突然電話致しまして。私は明地出版社の守本と申します。結城睛さんでしょうか?」
「は、はい……出版社の?」
「あ、ご存知ではなかったのですね。実は私共の出版社では、日向糺先生の新作の出版を予定しておりまして、先日伺ったのですが、その時に糺先生が結城さんの作品を勧められて、お借りしたんです」
「えっ……」
睛は真っ白になる。
まぁ、図々しいと思ったものの、那岐に頼んだのに……話が大きくなっている?
「早速読ませて頂きました。結城さんの作品ですが、とても丁寧で優しい文章です。ですが、淡々としていて若いのに、粗さと言うか、感情を込めるのを躊躇っている戸惑い、迷いを素直に書き上げています。もしよろしければ、私共の出版社の雑誌に掲載させて頂ければと思っております」
「えっ……」
「今度一度、お伺いさせて頂けたらと思うのですが、日向先生に伺うと、先生の息子さんが結城さんのことをご存知だと伺いまして、突然のこの電話ですので、不安になられるかと思います。出来れば、日向先生の息子さんに連絡をさせて頂きますので、お話を聞いて頂けますでしょうか?」
睛は躊躇わなかった。
「はい。どうぞよろしくお願い致します」
その後、歩きながら、双子の姉に電話をかける。
「瞳ちゃん……あのね、あのね、どうしよう……」
「どうしたの?」
「あのね……」
今の電話を説明する。
そうすると、
「エェェェ! 睛ちゃん、那岐くんのお父さんとお母さんに認められたの? それに凄い! 凄いよ! 出版社から直接電話なんて!」
「で、でも……まーちゃん大変なのに、良いのかなぁ……」
「まーちゃんも喜ぶよ!」
言いながら駆け寄って来た。
二人は顔を見合わせて笑うと、妹の元に向かうことにしたのだった。
瞬は、英語の訳をしている那岐の台本に顔を寄せ、
「……那岐さん、二重線入れてますけど、この意味はなんですか?」
「あぁこれは、間違ってる英語……日本語英語って言えば良いのかな。もう、百年位前の人が使ってた単語とかなんだ。これをそのまま相手に話しても、意味が通じない。だから、会話文に訳す。でも、おかしな英語だから、元々の台本も持ち出したんだ。でも、俺のテオドールとやりとりをよくする臣さんのディーデリヒと、今度ウェイン兄さんが声を当てるカシミールに、ヴィヴィ姉さんのカサンドラは良いんだが、アストリットの訳が難しいな。キャラが分からない。瞬ちゃんのままで良いのかなと思う。それにその次には他の地域の台本を取り寄せて訳すから、時間かかるかな。でも、一番多いのがディーデリヒにカシミール達だから、これさえ終われば、そんなにかからないな」
「凄ーい。那岐さん」
「あはは。臣さんや、瞬ちゃんのお姉さん達の方がすごいさ。本当良いなぁ。俺、瞬ちゃんみたいな妹、欲しかった~」
頭を撫でる。
トントン……
扉がノックされ、入ってくるのは瞬の双子の姉達。
「あ、瞳ちゃん、睛ちゃん!」
「まーちゃん! 可愛い! ただいまぁ!」
「まーちゃんと那岐さん。ただいま……です」
「お帰り~。瞳ちゃん、睛ちゃん」
那岐も顔を上げて笑う。
「何してるの? 二人で」
「私は見てるの。那岐さんがお仕事してるの」
「仕事?」
「あぁ、バイトみたいなものだよ。誤訳の訂正」
ペンを置き、そしてうーんと背伸びをすると、
「あ、そうだ! 睛ちゃん。うちの親父から連絡があったんだけど、あの小説、出版社の……」
「あの、今さっき連絡がありました。あ、あの……出版社の方が、出版してる雑誌に掲載させて貰いたいって」
「はやっ! それより、電話で契約とか……」
「いえ、あの……忙しくない時で構いませんので……那岐さんと一緒に会えないかとか……む、無理でしょうか」
睛のおずおずと、しかも何故か申し訳なさそうに、わざとらしくない上目遣い……つまり、那岐が知る限り兄嫁とか、兄嫁の母親とか、瞬とかちんまり可愛い女の子にされるとドキドキするそれに、
「くぅぅ……」
うめく那岐に、瞳はニヤッと笑う。
キリッとした自分と那岐は友人以上にはなれないが、最初の頃から那岐は瞬だけでなく睛を気にかけていた。
睛は穏やかで落ち着いているようで、自分に自信のない、三姉妹の中で一番気の弱い女の子らしい女の子。
瓜二つの瞬は、何だかんだ言って、末っ子らしい甘えん坊なところもあるが、好きな人に追い付きたいと背伸びをしたがる。
那岐のことはお兄ちゃんと思っているが、本当に好きな人には、お子さまと思われたくないと思っているようだ。
それに、瞳は結婚願望は薄い。
恋愛より演劇。
睛が教えてくれた、那岐が瞳にもっと広い世界を見てみるのもどうかと言っていたことも、自分の道は閉ざされていないことを教えてくれた。
じゃぁ、進もう。
両親には親不孝な娘と思われるだろうが、両親には二人の妹がいる。
瞬の方は跡取り息子、睛の好きな那岐は次男坊。
向こうには申し訳ないが、婿養子に来て貰おうではないか。
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