74 / 95
第二章……帰還後、生きる意味を探す
63……drei und sechzig(ドライウントゼヒツィヒ)……リハビリの合間
しおりを挟む
すぐに転院した後、瞬は傷の治療だけでなく、リハビリを始める。
するとその帰りに、小柄な女性が女の子の手を引きながら、歩いているのをみる。
女の子は、どことなくディーデリヒの妹のフィー……ニュンフェに似ている。
「あ、パパ!」
「おぉぉ! 観月と柚愛! よく来たなぁ……」
祐次は瞬の車椅子をロックし、二人に駆け寄ると抱き上げてくるくる回す。
「祐次さん! 皆さん見てますよ!」
「大丈夫、大丈夫」
「パパ~! くるくる~!」
瞬は、仲良し家族だなぁと微笑ましげに見ていた。
「祐次……職場で何やってんだ?」
「おぉ。よっ! 臣、元気で何より」
「祐次さん。臣さんは年上ですよ。失礼ですよ」
「いいのいいの。観月。な~? 臣、俺たち兄弟みたいなもんだよな~?」
「……時々、お前が医者って嘘だと思う」
瞬の見舞いに来た雅臣は、幼なじみを見る。
初めて会った時は、実兄の祐也より野生児一平のミニチュアっぽかった。
でも乱暴というより、天然さと大らかさ、そして一平にない女性に気を使う優しさ。
日向に近いフェミニストである。
でも、医者になれる程賢いというのに、大らかすぎる上にジャージ姿もあって、世界中のオリンピック選手直々のご指名で、何人にも是非にと取り合いされる程の名サポートトレーナー兼主治医に見えない。
「時々、お前が医者だって忘れるよ」
「ありがとう。で、何に見えるんだ?」
「一平さんの様に自由人」
「やめい!」
実は、一平はヴィヴィと結婚したのだが、一平程自由で、人に無条件に好かれる人は滅多にいない。
しかも、妻のヴィヴィの実家に居候である。
ヴィヴィは一人娘で、家を継がなくてはいけなかった。
するとあっさり、家どころか国を離れ婿養子になったのだが、仕事と言うのも屋敷の使用人と一緒に庭や馬、家畜の世話に、柔道、空手、合気道の教室を、妻の実家の一角に施設を作って貰い、それを上の子供達や習いたいという子供達に教えているのだが、それ以外は義父母とヴィヴィにお願いするだけである。
でも、最愛のヴィヴィや子供達、ヴィヴィの家族を大切にして、そんなに収入はないのだが、それでも妻やその両親、そして子供たちのボディーガードを自主的にしたりして、ヴィヴィの家の収入で暮らしている……しかし、英語はもう20年以上住んでいるのに、単語しか喋れないという恐ろしさで、日々切り抜けているらしい。
「俺は一平兄ちゃんと違うからな! ……ん? どうしたんだ? 瞬ちゃん」
瞬はおろおろするが、答える。
「えっと、祐次先生の奥さんと子供さん、とっても素敵ですね。可愛いです」
「だろう~! 観月は弁護士で、この病院の理事長の孫で理事の一人。俺も理事なんだけどな。柚愛は、お花屋さんになるんだよな?」
「うん! それにね、テディベア作家になるの!」
「素敵!」
「お姉ちゃんは?」
その言葉に、瞬は一瞬躊躇い、そして、
「うーん。まずは元気になるかな。そして、お姉ちゃんたちの夢の応援をしてあげたい」
「結婚して嫁って手もあるぞ」
「えぇぇ。まだ高校一年ですよ。留年というか休学になってますが……それに、お付き合いしてる人なんていません! あ、最近、睛ちゃんと那岐お兄ちゃん、とっても仲良しなんですよ。那岐お兄ちゃんがお兄ちゃんになってくれたらいいなぁ……」
「……那岐かぁ……」
祐次と雅臣は遠い目をする。
「すぅ姉ちゃん、絶対喜んで『これ、喜んで差し上げます!』とかいうぞ? で、『瞬ちゃん、下さい』とかいうぞ」
「そうだね……」
「それより、臣の所の両親は、どうだよ」
「うーん、母さんが聖地巡礼中。方向音痴だから、父さんが連れて行ってる」
「『聖地巡礼』……お前の声を吹き込んだ、アニメ映画やテレビアニメの地域か……」
雅臣の母は、二人の息子と嫁の糺が可愛く、糺達の息子達も溺愛している。
ちょうど孫達も成人したし、夫も退職したので、上の孫のいる関西に家をと思っていたら、孫の世話になっている病院の理事長が、祐次の妻観月の祖父という縁もあり、今、ほぼ空き家になっていた理事長の実家に住んで貰い、時々泊まる祐次の面倒を見て貰えないかと提案してきた。
那岐の兄の風早も大学が近かった為、ここに下宿する予定だったこともあり、やったぁ! と引っ越した。
「……まぁ、あの家には、お手伝いさんもいるから大丈夫……」
「申し訳ないというか……」
「聖地巡礼……えっ? もしかして、あの、初期の吹き替えのとかもですか?」
「そうそう。俺の実家に観月の実家も同じ地域だからな。瞬ちゃんも体の調子が良くなったらいくか?」
瞬がどうしようとおろおろする。
「ほたるまつりが明日明後日であるんだけど、行ってみようか?」
「えっ! 連れて行ってくれるんですか?」
雅臣は微笑む。
「那岐も戻るらしい。瞳ちゃんや睛ちゃんも見に行ったらすごいと思うよ」
「まぁ、兄ちゃんも大分良くなったのと疲れだろうから薬処方して退院。後は向こうの大先生に見て貰おうと思ってる。じゃないとこれ以上置いとくと、蛍姉ちゃんが泣く」
祐次はぼやいたのだった。
するとその帰りに、小柄な女性が女の子の手を引きながら、歩いているのをみる。
女の子は、どことなくディーデリヒの妹のフィー……ニュンフェに似ている。
「あ、パパ!」
「おぉぉ! 観月と柚愛! よく来たなぁ……」
祐次は瞬の車椅子をロックし、二人に駆け寄ると抱き上げてくるくる回す。
「祐次さん! 皆さん見てますよ!」
「大丈夫、大丈夫」
「パパ~! くるくる~!」
瞬は、仲良し家族だなぁと微笑ましげに見ていた。
「祐次……職場で何やってんだ?」
「おぉ。よっ! 臣、元気で何より」
「祐次さん。臣さんは年上ですよ。失礼ですよ」
「いいのいいの。観月。な~? 臣、俺たち兄弟みたいなもんだよな~?」
「……時々、お前が医者って嘘だと思う」
瞬の見舞いに来た雅臣は、幼なじみを見る。
初めて会った時は、実兄の祐也より野生児一平のミニチュアっぽかった。
でも乱暴というより、天然さと大らかさ、そして一平にない女性に気を使う優しさ。
日向に近いフェミニストである。
でも、医者になれる程賢いというのに、大らかすぎる上にジャージ姿もあって、世界中のオリンピック選手直々のご指名で、何人にも是非にと取り合いされる程の名サポートトレーナー兼主治医に見えない。
「時々、お前が医者だって忘れるよ」
「ありがとう。で、何に見えるんだ?」
「一平さんの様に自由人」
「やめい!」
実は、一平はヴィヴィと結婚したのだが、一平程自由で、人に無条件に好かれる人は滅多にいない。
しかも、妻のヴィヴィの実家に居候である。
ヴィヴィは一人娘で、家を継がなくてはいけなかった。
するとあっさり、家どころか国を離れ婿養子になったのだが、仕事と言うのも屋敷の使用人と一緒に庭や馬、家畜の世話に、柔道、空手、合気道の教室を、妻の実家の一角に施設を作って貰い、それを上の子供達や習いたいという子供達に教えているのだが、それ以外は義父母とヴィヴィにお願いするだけである。
でも、最愛のヴィヴィや子供達、ヴィヴィの家族を大切にして、そんなに収入はないのだが、それでも妻やその両親、そして子供たちのボディーガードを自主的にしたりして、ヴィヴィの家の収入で暮らしている……しかし、英語はもう20年以上住んでいるのに、単語しか喋れないという恐ろしさで、日々切り抜けているらしい。
「俺は一平兄ちゃんと違うからな! ……ん? どうしたんだ? 瞬ちゃん」
瞬はおろおろするが、答える。
「えっと、祐次先生の奥さんと子供さん、とっても素敵ですね。可愛いです」
「だろう~! 観月は弁護士で、この病院の理事長の孫で理事の一人。俺も理事なんだけどな。柚愛は、お花屋さんになるんだよな?」
「うん! それにね、テディベア作家になるの!」
「素敵!」
「お姉ちゃんは?」
その言葉に、瞬は一瞬躊躇い、そして、
「うーん。まずは元気になるかな。そして、お姉ちゃんたちの夢の応援をしてあげたい」
「結婚して嫁って手もあるぞ」
「えぇぇ。まだ高校一年ですよ。留年というか休学になってますが……それに、お付き合いしてる人なんていません! あ、最近、睛ちゃんと那岐お兄ちゃん、とっても仲良しなんですよ。那岐お兄ちゃんがお兄ちゃんになってくれたらいいなぁ……」
「……那岐かぁ……」
祐次と雅臣は遠い目をする。
「すぅ姉ちゃん、絶対喜んで『これ、喜んで差し上げます!』とかいうぞ? で、『瞬ちゃん、下さい』とかいうぞ」
「そうだね……」
「それより、臣の所の両親は、どうだよ」
「うーん、母さんが聖地巡礼中。方向音痴だから、父さんが連れて行ってる」
「『聖地巡礼』……お前の声を吹き込んだ、アニメ映画やテレビアニメの地域か……」
雅臣の母は、二人の息子と嫁の糺が可愛く、糺達の息子達も溺愛している。
ちょうど孫達も成人したし、夫も退職したので、上の孫のいる関西に家をと思っていたら、孫の世話になっている病院の理事長が、祐次の妻観月の祖父という縁もあり、今、ほぼ空き家になっていた理事長の実家に住んで貰い、時々泊まる祐次の面倒を見て貰えないかと提案してきた。
那岐の兄の風早も大学が近かった為、ここに下宿する予定だったこともあり、やったぁ! と引っ越した。
「……まぁ、あの家には、お手伝いさんもいるから大丈夫……」
「申し訳ないというか……」
「聖地巡礼……えっ? もしかして、あの、初期の吹き替えのとかもですか?」
「そうそう。俺の実家に観月の実家も同じ地域だからな。瞬ちゃんも体の調子が良くなったらいくか?」
瞬がどうしようとおろおろする。
「ほたるまつりが明日明後日であるんだけど、行ってみようか?」
「えっ! 連れて行ってくれるんですか?」
雅臣は微笑む。
「那岐も戻るらしい。瞳ちゃんや睛ちゃんも見に行ったらすごいと思うよ」
「まぁ、兄ちゃんも大分良くなったのと疲れだろうから薬処方して退院。後は向こうの大先生に見て貰おうと思ってる。じゃないとこれ以上置いとくと、蛍姉ちゃんが泣く」
祐次はぼやいたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる