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第二章……帰還後、生きる意味を探す
64……vier und sechzig(フィーアウントゼヒツィヒ)……短期退院
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金曜日に一時退院をすることになった瞬は、眼鏡とラフな帽子に、シャツにデニム姿の雅臣が、車椅子を押してくれるのをニコニコと笑う。
雅臣のくれたテディベアを腕に抱き、普段は滅多に着ない純白のワンピースに麦わら帽子を被っている。
「臣さん。雅臣さん。どうですか?」
「すごく可愛いよ。お姉さんたちと少し形は違うけど、お揃いなんだね?」
「はい。睛ちゃんが作ってくれるんです! 今日は瞳ちゃんとも一緒で嬉しいです」
えへっ
頬を赤くして照れ笑う。
「おーい、臣。そこで二人きりの世界作るな。それに、兄ちゃん。もう疲れてんだから車椅子乗れ!」
祐次は兄を車椅子に乗せる。
「過労だ過労。寝てろ。これから空港行って、飛ぶから」
「車は誰が運転するんだ?」
「あぁ、ここの職員。車置いてたら金かかるし」
車に乗り空港に移動すると、そうして飛行機に乗る為に車椅子から雅臣に抱き上げられて飛行機の座席に移り、そして降りる時も雅臣が降ろしてくれる。
「ありがとうございます」
「大丈夫だよ。行きは階段だからね……帰りは車椅子移動可能だけど」
「えっと、那岐お兄ちゃんは、お父さんとお母さんと先に帰っちゃったんですね」
「あぁ、ほら、あそこにいる」
示す先を見ると、こちらはダサい眼鏡に野球帽に、着古した感じの服の那岐と、その横で細身の青年が立っている。
青年は童顔で、糺……いや雅臣に似ている。
「お帰り~! それにようこそ」
「お世話になります」
頭を下げる家族を見て青年は驚くが、すぐに、
「ようこそ。結城瞬ちゃんのご家族ですね。初めまして。私はこの那岐の兄の風早と申します。こちらに車を用意していますので、どうぞ」
「風早。私達はエレベーターで降りるから、祐也さん、祐次、場所知ってますか?」
「あぁ。こっち」
何とか歩いている感じの祐也を支え、歩いて行く。
「車椅子持ってきた方がよかったか?」
「……そんなもの使えるか。大丈夫だ。すぐ良くなる。紀良さんに会ってすぐ倒れたのが情けない。申し訳ない……紀良さんは俺の兄さんで、嫌いじゃない。調子が良くなかっただけなのに、話せなくなって……」
「兄ちゃんは真面目すぎるからな……紀良さん……瞬ちゃんのお父さんは分かってるよ」
瞬は余り顔を見ていない祐也に、持っていたテディベアの手をそっと伸ばす。
「えと、祐也叔父さん。無理しちゃダメですよ。うちのお父さんは穏やかで、叔父さんみたいに優しくて、私の自慢のお父さんです。大丈夫です。えと、祐也叔父さんのことは雅臣さんや那岐お兄ちゃんが教えてくれました。強くて優しくて、努力家ですごい人。でも、家族を愛してる人。叔父さんはびっくりしたんでしょ? 私達もおばあちゃんが黙ってたから、家族皆びっくりしました。でも、本当は、瞳ちゃんも睛ちゃんもお父さんとお母さんも嬉しかったんですよ。だって、叔父さんは私達のたった一人の叔父さんでしょう?」
「……瞬ちゃん……」
「おばあちゃんは祐也叔父さんに迷惑をかけたかった訳じゃなくて、一人でお父さんを外国で育てたの。祐也叔父さんのこと、知らなかったんだって。初めて知ったのは祐也叔父さんが19歳の時だったんだって」
「19歳の……」
「うん。イギリスでの事件。お父さんに初めて実のお父さんのこと話したんだって。お父さんね、見た目はおっとりだけど怒るとすごく口が悪いの。その話聞いて、おじいちゃん? えと、その人のことものすごく怒ったんだよ? それにね? 外国点々として育ったからね、お酒を飲むと色々な国の歌を歌うんだよ。小さい頃は、あの少年合唱団に入りたかったんだって」
エレベーターに乗ると、長身の叔父を見上げて笑う。
「叔父さん、ゲームの中で私のお父様だったエルンスト様にそっくり。優しくてね、強くてね、私、雅臣さんや那岐お兄ちゃんたちが迎えに来なかったら、向こうのお父様たちといたかもしれない」
「……!」
雅臣は息を飲む。
「あのね? この国、時代が嫌いじゃないの。あのゲームの世界に入ってしまった時、びっくりしたけど、あの世界のお父様やお母様達が大好きで、自分に何かできないかって考えたくなったの。お父さんに少しドイツ語教えて貰っていたから、だいたい分かったの。ゲームの世界は、ちょうどじゃがいもやさつまいもがヨーロッパに広がり始めた時期で、『悪魔の実』って言われるじゃがいもの話とか、一杯。旅にも出たの。一人で出て行こうとしたらディーデリヒさまに追いつかれるのよ。それに昶さんとも会ったの」
「……楽しかった?」
「怖いこととかあったけれど、でも、ゲーム程度だと思うけれど、自分で選んだ道もあったのよ。それに後悔しない。叔父さんもそうでしょう? じゃないと私、叔父さんに会えなかった」
祐也はじっと姪に当たる少女を見つめる。
キラキラとした丸い瞳、髪の毛は肩にかかる程度、でも、美人というより可愛らしい。
祐也は微笑むと、帽子を取り、姪の頭を撫でる。
「そうだね。叔父さんも、瞬ちゃんたちに会えなかった。あ、そうだ。叔父さんの子供は4人いて、上が愛来、2番目が杏樹、3番目が結愛。末っ子が一登。蛍の妹にも全員女の子ばかりで、じいちゃん……蛍の祖父が、初めての男のひ孫を喜んで本当に溺愛してるよ」
「愛来さんって、前に雅臣さんにテディベア貰いました! ほら!」
2体のベアの一体を示す。
「可愛いです。それに会いたかったんです。その上、従姉だなんて思わなかったです」
「愛来は叔父さんの嫁の蛍にそっくりだよ。風早と結婚したんだけど、テディベアは本当に可愛い子を作れるのに、そそっかしいし、すぐ転んで泣きじゃくるのを風早や那岐がおぶって連れて帰ることが多かったよ。杏樹はお転婆で、もうね……今はイギリスの大学留学。夏に帰ってくるのかと思ったら『うーん、ユーロ圏を旅したいのよね~。ヒッチハイクもいいかしら?』とかいうものだから、兄貴の息子のロナウドと、娘のクリスに頼んどいたよ」
はぁぁ……
ため息をつく。
「本当に、どっちに似たのか……」
「瞳ちゃんに似てます。瞳ちゃんは瞳って書いて、英語の『eye』を当てたんです。とても元気で夢が舞台に立つのが夢で、でも、家族が大好きなの。睛ちゃんは『画竜点睛を欠く』から名前をつけられたんですけど、とても我慢強くて、穏やかで優しいんです。私のお姉ちゃん達はとっても自慢です。えっと、愛来お姉さんも杏樹お姉さんも、結愛お姉さんも一登くんも私の自慢の従姉妹です。叔父さんもです」
「……結愛は17歳。一登はまだ3歳なんだ。一登だけが歳が違うんだよね」
「わぁ。可愛いでしょうね!」
「……嫁に似たら愛来と蛍に似る。でも、俺に似てるとも言い難い……」
考え込む祐也に、祐次が、
「醍醐兄ちゃんに似たら困るぞ。見た目は穏やか、内面全部腹黒」
「……祐次、祐次……それ以上は……」
「ん? ……げっ!」
「誰が腹黒やて?」
「醍醐さん、すみません」
祐次を睨んでいた醍醐と呼ばれた作務衣姿の男性が、祐也を見てギョッとする。
「どうしたんや? 祐也」
「兄ちゃんは過労。それに、後で説明するけど、雅臣が連れているのが結城瞬ちゃん」
「あぁ、瞬ちゃん。初めまして。あては清水醍醐言います。祐也の義父です。よろしゅう」
「ぎ、義父?」
「醍醐兄ちゃん。面白がるなよ。瞬ちゃん。醍醐兄ちゃんは、祐也兄ちゃんの奥さんのお母さんの旦那。ほら、那岐の父ちゃんの日向兄ちゃんと同じ歳。蛍姉ちゃんのお母さんは、若い頃に蛍姉ちゃん産んだから」
思い出す。
そう言えば、映画の時、母親役に初挑戦だと言う若く美しい女優が明良と言う少年の母親役をしていた。
「は、初めまして。清水さん。私は結城瞬です。よろしくお願いします」
「あはははは! 瞬ちゃん。あてんとこは皆、苗字清水やわ。あてんとこは蛍含めて娘も7人おるし、祐也が婿養子やさかいにそこもや。醍醐でええよ? あ、あては生まれが京都やさかいに、こっちの方言と向こうのが混ざっとんのや。聞き取りにくかったらごめんなぁ?」
「優しいです。醍醐叔父さん。よろしくお願いします」
「ええ子やなぁ……で、そう言えば、祐也? 毛布があるさかいに、後ろで休みぃや」
「すみません……ちょっと無理そうです」
祐次が車椅子を借りてきて祐也を駐車場に連れて行き、大型の車の後部座席に祐也が小さくなって横たわろうとするのを、
「叔父さん、真ん中の座席を倒した方が楽ですよ。私後ろにいるので大丈夫です。
「それはいかん」
「大丈夫です。私はちゃんとシートベルトするので」
「そうやなぁ、祐也。瞬ちゃんの言うこと聞き。これは7人乗りや。後2人乗るけん」
最初奥に小柄な瞬が座り、その横に雅臣、瞬の前の祐也の座席を倒し寝かせると、その隣に祐次がつく。
そして、待っているとドアが開き、
「どないしたんや?」
「えっ?」
顔を覗かせるのが瓜二つの壮年の男性。
「あぁ、兄はん。瞬ちゃん。この髪の長い方が双子の兄の紫野兄はん。娘が声優の高凪光流の嫁の茜。そして、短い髪の方が双子の弟の標野兄はん。奥さんが祐也の妹の安部媛や。安部家に婿養子に入ったんよ」
「……安部媛さんって、オリンピックで……瞳ちゃんが大ファンです!」
「あぁ、白いワンピースの女の子達が、媛にサインして下さい! 言うてたなぁ……」
「初めまして。紫野叔父さん、標野叔父さん。結城瞬です。よろしくお願いします」
横で雅臣が帽子を脱がせたりと世話をしているのを見て、二人は顔を見合わせるが、
「初めまして。あてが紫野言います。瞬ちゃんはどんな漢字書くんかな?」
「一瞬とか瞬間の瞬です。紫野叔父さんと標野叔父さんは、学校で習った万葉集……だったと思うのですが、額田王の『茜指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る』からですか?」
「そうそう。で、紫野は娘に茜ってつけたんや」
「綺麗な名前ですね」
「瞬ちゃんも綺麗な名前や」
微笑むと、
「だいちゃん。あてらはこっちに残るさかいに、明日行くわ。おとうはんとおかあはん頼むわ」
「醍醐、よろしくな」
二人が抜けると、乗り込んできたのは着物のお似合いの美魔女。
助手席にはがっしりとした60代の男性。
「お久しゅう。雅臣はん。そして、初めまして。瞬ちゃん。あては醍醐達の親の嵐山と櫻子言いますのんや」
「初めまして! 嵐山伯父さん、櫻子さん。結城瞬です。よろしくお願いします」
「まぁ……かいらしいなぁ」
「じゃぁ、おとうはん、おかあはん。シートベルトしたかな? 行きますよ」
醍醐は車を動かした。
雅臣のくれたテディベアを腕に抱き、普段は滅多に着ない純白のワンピースに麦わら帽子を被っている。
「臣さん。雅臣さん。どうですか?」
「すごく可愛いよ。お姉さんたちと少し形は違うけど、お揃いなんだね?」
「はい。睛ちゃんが作ってくれるんです! 今日は瞳ちゃんとも一緒で嬉しいです」
えへっ
頬を赤くして照れ笑う。
「おーい、臣。そこで二人きりの世界作るな。それに、兄ちゃん。もう疲れてんだから車椅子乗れ!」
祐次は兄を車椅子に乗せる。
「過労だ過労。寝てろ。これから空港行って、飛ぶから」
「車は誰が運転するんだ?」
「あぁ、ここの職員。車置いてたら金かかるし」
車に乗り空港に移動すると、そうして飛行機に乗る為に車椅子から雅臣に抱き上げられて飛行機の座席に移り、そして降りる時も雅臣が降ろしてくれる。
「ありがとうございます」
「大丈夫だよ。行きは階段だからね……帰りは車椅子移動可能だけど」
「えっと、那岐お兄ちゃんは、お父さんとお母さんと先に帰っちゃったんですね」
「あぁ、ほら、あそこにいる」
示す先を見ると、こちらはダサい眼鏡に野球帽に、着古した感じの服の那岐と、その横で細身の青年が立っている。
青年は童顔で、糺……いや雅臣に似ている。
「お帰り~! それにようこそ」
「お世話になります」
頭を下げる家族を見て青年は驚くが、すぐに、
「ようこそ。結城瞬ちゃんのご家族ですね。初めまして。私はこの那岐の兄の風早と申します。こちらに車を用意していますので、どうぞ」
「風早。私達はエレベーターで降りるから、祐也さん、祐次、場所知ってますか?」
「あぁ。こっち」
何とか歩いている感じの祐也を支え、歩いて行く。
「車椅子持ってきた方がよかったか?」
「……そんなもの使えるか。大丈夫だ。すぐ良くなる。紀良さんに会ってすぐ倒れたのが情けない。申し訳ない……紀良さんは俺の兄さんで、嫌いじゃない。調子が良くなかっただけなのに、話せなくなって……」
「兄ちゃんは真面目すぎるからな……紀良さん……瞬ちゃんのお父さんは分かってるよ」
瞬は余り顔を見ていない祐也に、持っていたテディベアの手をそっと伸ばす。
「えと、祐也叔父さん。無理しちゃダメですよ。うちのお父さんは穏やかで、叔父さんみたいに優しくて、私の自慢のお父さんです。大丈夫です。えと、祐也叔父さんのことは雅臣さんや那岐お兄ちゃんが教えてくれました。強くて優しくて、努力家ですごい人。でも、家族を愛してる人。叔父さんはびっくりしたんでしょ? 私達もおばあちゃんが黙ってたから、家族皆びっくりしました。でも、本当は、瞳ちゃんも睛ちゃんもお父さんとお母さんも嬉しかったんですよ。だって、叔父さんは私達のたった一人の叔父さんでしょう?」
「……瞬ちゃん……」
「おばあちゃんは祐也叔父さんに迷惑をかけたかった訳じゃなくて、一人でお父さんを外国で育てたの。祐也叔父さんのこと、知らなかったんだって。初めて知ったのは祐也叔父さんが19歳の時だったんだって」
「19歳の……」
「うん。イギリスでの事件。お父さんに初めて実のお父さんのこと話したんだって。お父さんね、見た目はおっとりだけど怒るとすごく口が悪いの。その話聞いて、おじいちゃん? えと、その人のことものすごく怒ったんだよ? それにね? 外国点々として育ったからね、お酒を飲むと色々な国の歌を歌うんだよ。小さい頃は、あの少年合唱団に入りたかったんだって」
エレベーターに乗ると、長身の叔父を見上げて笑う。
「叔父さん、ゲームの中で私のお父様だったエルンスト様にそっくり。優しくてね、強くてね、私、雅臣さんや那岐お兄ちゃんたちが迎えに来なかったら、向こうのお父様たちといたかもしれない」
「……!」
雅臣は息を飲む。
「あのね? この国、時代が嫌いじゃないの。あのゲームの世界に入ってしまった時、びっくりしたけど、あの世界のお父様やお母様達が大好きで、自分に何かできないかって考えたくなったの。お父さんに少しドイツ語教えて貰っていたから、だいたい分かったの。ゲームの世界は、ちょうどじゃがいもやさつまいもがヨーロッパに広がり始めた時期で、『悪魔の実』って言われるじゃがいもの話とか、一杯。旅にも出たの。一人で出て行こうとしたらディーデリヒさまに追いつかれるのよ。それに昶さんとも会ったの」
「……楽しかった?」
「怖いこととかあったけれど、でも、ゲーム程度だと思うけれど、自分で選んだ道もあったのよ。それに後悔しない。叔父さんもそうでしょう? じゃないと私、叔父さんに会えなかった」
祐也はじっと姪に当たる少女を見つめる。
キラキラとした丸い瞳、髪の毛は肩にかかる程度、でも、美人というより可愛らしい。
祐也は微笑むと、帽子を取り、姪の頭を撫でる。
「そうだね。叔父さんも、瞬ちゃんたちに会えなかった。あ、そうだ。叔父さんの子供は4人いて、上が愛来、2番目が杏樹、3番目が結愛。末っ子が一登。蛍の妹にも全員女の子ばかりで、じいちゃん……蛍の祖父が、初めての男のひ孫を喜んで本当に溺愛してるよ」
「愛来さんって、前に雅臣さんにテディベア貰いました! ほら!」
2体のベアの一体を示す。
「可愛いです。それに会いたかったんです。その上、従姉だなんて思わなかったです」
「愛来は叔父さんの嫁の蛍にそっくりだよ。風早と結婚したんだけど、テディベアは本当に可愛い子を作れるのに、そそっかしいし、すぐ転んで泣きじゃくるのを風早や那岐がおぶって連れて帰ることが多かったよ。杏樹はお転婆で、もうね……今はイギリスの大学留学。夏に帰ってくるのかと思ったら『うーん、ユーロ圏を旅したいのよね~。ヒッチハイクもいいかしら?』とかいうものだから、兄貴の息子のロナウドと、娘のクリスに頼んどいたよ」
はぁぁ……
ため息をつく。
「本当に、どっちに似たのか……」
「瞳ちゃんに似てます。瞳ちゃんは瞳って書いて、英語の『eye』を当てたんです。とても元気で夢が舞台に立つのが夢で、でも、家族が大好きなの。睛ちゃんは『画竜点睛を欠く』から名前をつけられたんですけど、とても我慢強くて、穏やかで優しいんです。私のお姉ちゃん達はとっても自慢です。えっと、愛来お姉さんも杏樹お姉さんも、結愛お姉さんも一登くんも私の自慢の従姉妹です。叔父さんもです」
「……結愛は17歳。一登はまだ3歳なんだ。一登だけが歳が違うんだよね」
「わぁ。可愛いでしょうね!」
「……嫁に似たら愛来と蛍に似る。でも、俺に似てるとも言い難い……」
考え込む祐也に、祐次が、
「醍醐兄ちゃんに似たら困るぞ。見た目は穏やか、内面全部腹黒」
「……祐次、祐次……それ以上は……」
「ん? ……げっ!」
「誰が腹黒やて?」
「醍醐さん、すみません」
祐次を睨んでいた醍醐と呼ばれた作務衣姿の男性が、祐也を見てギョッとする。
「どうしたんや? 祐也」
「兄ちゃんは過労。それに、後で説明するけど、雅臣が連れているのが結城瞬ちゃん」
「あぁ、瞬ちゃん。初めまして。あては清水醍醐言います。祐也の義父です。よろしゅう」
「ぎ、義父?」
「醍醐兄ちゃん。面白がるなよ。瞬ちゃん。醍醐兄ちゃんは、祐也兄ちゃんの奥さんのお母さんの旦那。ほら、那岐の父ちゃんの日向兄ちゃんと同じ歳。蛍姉ちゃんのお母さんは、若い頃に蛍姉ちゃん産んだから」
思い出す。
そう言えば、映画の時、母親役に初挑戦だと言う若く美しい女優が明良と言う少年の母親役をしていた。
「は、初めまして。清水さん。私は結城瞬です。よろしくお願いします」
「あはははは! 瞬ちゃん。あてんとこは皆、苗字清水やわ。あてんとこは蛍含めて娘も7人おるし、祐也が婿養子やさかいにそこもや。醍醐でええよ? あ、あては生まれが京都やさかいに、こっちの方言と向こうのが混ざっとんのや。聞き取りにくかったらごめんなぁ?」
「優しいです。醍醐叔父さん。よろしくお願いします」
「ええ子やなぁ……で、そう言えば、祐也? 毛布があるさかいに、後ろで休みぃや」
「すみません……ちょっと無理そうです」
祐次が車椅子を借りてきて祐也を駐車場に連れて行き、大型の車の後部座席に祐也が小さくなって横たわろうとするのを、
「叔父さん、真ん中の座席を倒した方が楽ですよ。私後ろにいるので大丈夫です。
「それはいかん」
「大丈夫です。私はちゃんとシートベルトするので」
「そうやなぁ、祐也。瞬ちゃんの言うこと聞き。これは7人乗りや。後2人乗るけん」
最初奥に小柄な瞬が座り、その横に雅臣、瞬の前の祐也の座席を倒し寝かせると、その隣に祐次がつく。
そして、待っているとドアが開き、
「どないしたんや?」
「えっ?」
顔を覗かせるのが瓜二つの壮年の男性。
「あぁ、兄はん。瞬ちゃん。この髪の長い方が双子の兄の紫野兄はん。娘が声優の高凪光流の嫁の茜。そして、短い髪の方が双子の弟の標野兄はん。奥さんが祐也の妹の安部媛や。安部家に婿養子に入ったんよ」
「……安部媛さんって、オリンピックで……瞳ちゃんが大ファンです!」
「あぁ、白いワンピースの女の子達が、媛にサインして下さい! 言うてたなぁ……」
「初めまして。紫野叔父さん、標野叔父さん。結城瞬です。よろしくお願いします」
横で雅臣が帽子を脱がせたりと世話をしているのを見て、二人は顔を見合わせるが、
「初めまして。あてが紫野言います。瞬ちゃんはどんな漢字書くんかな?」
「一瞬とか瞬間の瞬です。紫野叔父さんと標野叔父さんは、学校で習った万葉集……だったと思うのですが、額田王の『茜指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る』からですか?」
「そうそう。で、紫野は娘に茜ってつけたんや」
「綺麗な名前ですね」
「瞬ちゃんも綺麗な名前や」
微笑むと、
「だいちゃん。あてらはこっちに残るさかいに、明日行くわ。おとうはんとおかあはん頼むわ」
「醍醐、よろしくな」
二人が抜けると、乗り込んできたのは着物のお似合いの美魔女。
助手席にはがっしりとした60代の男性。
「お久しゅう。雅臣はん。そして、初めまして。瞬ちゃん。あては醍醐達の親の嵐山と櫻子言いますのんや」
「初めまして! 嵐山伯父さん、櫻子さん。結城瞬です。よろしくお願いします」
「まぁ……かいらしいなぁ」
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