86 / 95
第二章……帰還後、生きる意味を探す
75……fünf und siebzig(フュンフウントズィープツィヒ)……テディベアに想いを
しおりを挟む
雅臣は、テディベアのブースのところに戻っていた。
ハンドメイドのテディベアの中、瞬が気にしていたのは、風遊達のハンドメイドのベアだけではなく、例年置かれたことのない、シュタイフ社やメリーソートと言った有名メーカーのヴィンテージテディベア。
「愛来ちゃん。このベアは何でここにいるの? 風遊さんや蛍さんのベアじゃないよね?」
「うん。さすが、臣お兄ちゃん。これは、はーくんの大学のお友達のおばあちゃんの集めてたベアで、おばあちゃんが亡くなったから捨てるって。だから慌てておばあちゃんがそのお家に行って、全部買い取ったの。今日はこの五体だけど、明日と明後日で欲しい人に譲る予定」
「じゃぁ、ここにいないベアも、一緒に全部買い取りたいんだけど」
「えっ? 全部?」
「あぁ。お金は幾らかなぁ? 足りなかったら銀行から引き出してくるから」
財布を出そうとする雅臣に、近づいてきた風遊が、
「臣くん。本当にええんかね? 結構珍しい、ビンテージもおるんよ?」
「でも、譲るってことは、同じベアをもう風遊さん達持ってるってことでしょう? 皆バラバラにするより、まとめて引き取りたいです」
「……うーん。そうやねぇ……臣くんなら大事にしてくれそうやけん、かまんよ。愛来。ここのミニチュアベアやシュタイフ社のベアとチーキーなどを全部下げてや」
「はーい!」
愛来は一つ一つ丁寧に箱に収めると段ボールに入れ、風遊がそれを後ろの台に置き、売約済みとメモを貼る。
風遊は、一つの箱を開け、
「向こうの人は価値が分からんかったみたいで、タダでくれようとしたんよ。でも、後で問題になっても嫌やし、最低限のお金をお渡ししたんよ。シュタイフのこのベアは、タグが白で、文字が黒やろ~? 昔のベアの限定再販なんよ。濃いネイビーの1909年のベアのレプリカ。多分、当時の販売価格は10万弱やね。今はそんな値段はないと思うけれど、それでも、茶色とかベージュが多いのに、このネイビーは綺麗やろ?」
「はい。瞬ちゃんは、特にそのネイビーの子を気にしていました」
「あら、瞬ちゃんは見る目があるねぇ」
「で、すぐに戻したんですけど、うちの母もテディベア好きでしょう? 少しですが教えて貰ってて、気になったので……」
「うちらも、普段は自分のテディベアを販売するだけなんよ。でも、今回はどうしても家に置いておけなくて……」
祖母と孫は顔を見合わせ苦笑する。
「臣くん。瞬ちゃんにあげるんかね?」
「全部一度にあげたりすると、逆に重荷になると思うので、他のベアは家に飾ろうかと思います。前に愛来ちゃんに貰ったベアから、とても気になってたんです。祐也さんみたいに自分で作るのは難しいと思いますけど」
「あら、器用そうやと思うんやけど?」
「あの。お幾らになるんでしょう?」
「えぇと、確か、売って貰ったんが50万円ね。でも、そのうちの半分を私と蛍と愛来が、選んだんよ。だから20万円くらいやねぇ」
雅臣は財布を出し、札を手渡す。
「じゃぁ、これを。一応領収書を頂けますか?」
「えぇと……臣お兄ちゃん。これ30万円あるよ?」
「包装分込みだよ。素人の俺が包装したら、傷がついたりする可能性もあるから、愛来ちゃんもお願いするね」
風遊は苦笑する。
雅臣は、昔から気を使うのがうまい。
育ての親や、兄姉にちゃんとしつけられたおかげだろう。
包装道具など、百均やホームセンターにあり、普段からテディベアの包装の為に風遊は準備しているし、包装など慣れたものだ。
それなのに……。
「臣くんは、変わらんね」
「そうですか?」
「すぅちゃんとひなくんによう似とる。送料はここから払うけんね」
風遊は孫からお金を受け取ると、金庫に仕舞い込んだ。
そして、瞬達の元に戻ると、
「あ、臣さん、臣さん! お帰りなさい」
「ただいま。はい、瞬ちゃん、せいちゃん。あいちゃんの分も」
雅臣が差し出したのは、柄は違うがお揃いの2way肩掛けバッグ。
戻る途中で見つけた、ハンドメイドの大きながま口を使った可愛い柄の物である。
「ほら、瞬ちゃんとせいちゃんのテディベアを入れられるよ。そんなに重くないし、瞬ちゃんのは俺が持つから」
「うわぁ! 可愛い! まーちゃん。どの柄がいい?」
「えっと、『不思議の国のアリス』風と、原作の『くまのプーさん』柄と、あぁ! せいちゃんの好きな『Elements』だね」
「うん。私は『Elements』がいいなぁ。まーちゃんは?」
「えへへ……『不思議の国のアリス』可愛い」
睛の珍しい希望と、可愛い柄を選ぶ瞬に、雅臣は微笑む。
「じゃぁ、はい」
「ありがとうございます!」
「瞬ちゃんは、ベアを入れておく? 那岐。この後、うどんと飲み物飲もうか?」
「そうやね。臣兄。せいちゃんも行こうか」
睛は瞳のバッグを一緒に肩にかけ、那岐と手を繋いで歩いて行ったのだった。
ハンドメイドのテディベアの中、瞬が気にしていたのは、風遊達のハンドメイドのベアだけではなく、例年置かれたことのない、シュタイフ社やメリーソートと言った有名メーカーのヴィンテージテディベア。
「愛来ちゃん。このベアは何でここにいるの? 風遊さんや蛍さんのベアじゃないよね?」
「うん。さすが、臣お兄ちゃん。これは、はーくんの大学のお友達のおばあちゃんの集めてたベアで、おばあちゃんが亡くなったから捨てるって。だから慌てておばあちゃんがそのお家に行って、全部買い取ったの。今日はこの五体だけど、明日と明後日で欲しい人に譲る予定」
「じゃぁ、ここにいないベアも、一緒に全部買い取りたいんだけど」
「えっ? 全部?」
「あぁ。お金は幾らかなぁ? 足りなかったら銀行から引き出してくるから」
財布を出そうとする雅臣に、近づいてきた風遊が、
「臣くん。本当にええんかね? 結構珍しい、ビンテージもおるんよ?」
「でも、譲るってことは、同じベアをもう風遊さん達持ってるってことでしょう? 皆バラバラにするより、まとめて引き取りたいです」
「……うーん。そうやねぇ……臣くんなら大事にしてくれそうやけん、かまんよ。愛来。ここのミニチュアベアやシュタイフ社のベアとチーキーなどを全部下げてや」
「はーい!」
愛来は一つ一つ丁寧に箱に収めると段ボールに入れ、風遊がそれを後ろの台に置き、売約済みとメモを貼る。
風遊は、一つの箱を開け、
「向こうの人は価値が分からんかったみたいで、タダでくれようとしたんよ。でも、後で問題になっても嫌やし、最低限のお金をお渡ししたんよ。シュタイフのこのベアは、タグが白で、文字が黒やろ~? 昔のベアの限定再販なんよ。濃いネイビーの1909年のベアのレプリカ。多分、当時の販売価格は10万弱やね。今はそんな値段はないと思うけれど、それでも、茶色とかベージュが多いのに、このネイビーは綺麗やろ?」
「はい。瞬ちゃんは、特にそのネイビーの子を気にしていました」
「あら、瞬ちゃんは見る目があるねぇ」
「で、すぐに戻したんですけど、うちの母もテディベア好きでしょう? 少しですが教えて貰ってて、気になったので……」
「うちらも、普段は自分のテディベアを販売するだけなんよ。でも、今回はどうしても家に置いておけなくて……」
祖母と孫は顔を見合わせ苦笑する。
「臣くん。瞬ちゃんにあげるんかね?」
「全部一度にあげたりすると、逆に重荷になると思うので、他のベアは家に飾ろうかと思います。前に愛来ちゃんに貰ったベアから、とても気になってたんです。祐也さんみたいに自分で作るのは難しいと思いますけど」
「あら、器用そうやと思うんやけど?」
「あの。お幾らになるんでしょう?」
「えぇと、確か、売って貰ったんが50万円ね。でも、そのうちの半分を私と蛍と愛来が、選んだんよ。だから20万円くらいやねぇ」
雅臣は財布を出し、札を手渡す。
「じゃぁ、これを。一応領収書を頂けますか?」
「えぇと……臣お兄ちゃん。これ30万円あるよ?」
「包装分込みだよ。素人の俺が包装したら、傷がついたりする可能性もあるから、愛来ちゃんもお願いするね」
風遊は苦笑する。
雅臣は、昔から気を使うのがうまい。
育ての親や、兄姉にちゃんとしつけられたおかげだろう。
包装道具など、百均やホームセンターにあり、普段からテディベアの包装の為に風遊は準備しているし、包装など慣れたものだ。
それなのに……。
「臣くんは、変わらんね」
「そうですか?」
「すぅちゃんとひなくんによう似とる。送料はここから払うけんね」
風遊は孫からお金を受け取ると、金庫に仕舞い込んだ。
そして、瞬達の元に戻ると、
「あ、臣さん、臣さん! お帰りなさい」
「ただいま。はい、瞬ちゃん、せいちゃん。あいちゃんの分も」
雅臣が差し出したのは、柄は違うがお揃いの2way肩掛けバッグ。
戻る途中で見つけた、ハンドメイドの大きながま口を使った可愛い柄の物である。
「ほら、瞬ちゃんとせいちゃんのテディベアを入れられるよ。そんなに重くないし、瞬ちゃんのは俺が持つから」
「うわぁ! 可愛い! まーちゃん。どの柄がいい?」
「えっと、『不思議の国のアリス』風と、原作の『くまのプーさん』柄と、あぁ! せいちゃんの好きな『Elements』だね」
「うん。私は『Elements』がいいなぁ。まーちゃんは?」
「えへへ……『不思議の国のアリス』可愛い」
睛の珍しい希望と、可愛い柄を選ぶ瞬に、雅臣は微笑む。
「じゃぁ、はい」
「ありがとうございます!」
「瞬ちゃんは、ベアを入れておく? 那岐。この後、うどんと飲み物飲もうか?」
「そうやね。臣兄。せいちゃんも行こうか」
睛は瞳のバッグを一緒に肩にかけ、那岐と手を繋いで歩いて行ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる