Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第二章……帰還後、生きる意味を探す

81……ein und achtzig(アインウントアハツィヒ)……輝く言葉

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 まどかはホタルを見たことがある。
 しかしそれは学校の授業で、別の地域から取って来てもらったホタルを水槽に入れ、その上に黒い布をかけ仮に夜を演出したもので、小さい空間にホタルが弱々しげに光を放っていた。

 だが、このホタル達はどうだろう。
 こんなに小さいのに力強く、大空を森を川を舞い狂い、恋人を探す。
 そして、次の命を遺し、死んでいくのだ。

「強いですね、ホタルは」
「そうだね……ほら、こっちの奥には、橋をくぐる通路がある、行ってみようか?」

 雅臣まさおみは、ゆっくりと車椅子を移動させる。
 上が道路で、少し薄暗い通路だが二人はお互いを見つめ微笑む。

「あれ? 向こう、キラキラしてますよ!」
「後ろ側も多いんだけど、こっちが穴場なんだ。那岐なぎに聞いたんだよ。この向こうに廃校になった小学校があるんだ。主に地域の集会場とか、今回のお祭りの第二会場になってる。そして、時々うちの会社が借り切って、夏合宿という名のもとに、那岐達の住む地区より若い人の少ない地域のボランティアをするんだ。増えすぎた竹や木を間引いたり、茂みを手入れしたり、地域に猪や野生生物が下りたりしないようにね。薪とかも作ったりするよ。で、最終日にはそれを使って、近所の人と一緒にバーベキューとかね。那岐の地域も多いよ?」
「行ってみたいなぁ……」
「元気になったら、行ってみたら良い。向こうは祐也さんが主催者なんだよ。今年は無理でもいつでも行けるよ」
「……雅臣さんは……その時、いないですか?」

 顎を持ち上げるように、雅臣を見る。

「……今回は例外だって分かってます。特別で、もう二度と起こらないんだって……でも、もう会えないですか? 私は未成年で、チビで、年齢以下にしか見えないお子様で……」

 瞳を潤ませる瞬に、雅臣は内心よろめく。

「でも、会いたい時に会いたいです。大好きです」

 雅臣は目を閉じて、大きくため息をついた。
 ダメだ……。
 自分よりも半分以下の歳の瞬はストレートに、言葉を告げる。
 自分は何をしているのか……告白なんてして貰える程できた人間じゃないのに……。

「……瞬ちゃん、『Ichイッヒ habeハーブ michミッヒ inイン dichディッヒ verliebtフェリーツェ.』」
「えっ……?」
「ディーデリヒの時も、今も……俺は、君の一所懸命さにひたむきさに、優しさに強さ……愛情に……とても惹かれていたよ」
「で、でもゲームは……」
「そうだね。ゲームだ。でも、君はゲームの中で、短い時であろうと生きていた。あの頑張る姿に目が離せなくなった。君のことが好きになっていた」

 背後から腕を回し、瞬の額に口付ける。

「私が、ディーデリヒ以上に、君に……」
「ま、雅臣さん……」
「『Ich habe mich in dich verliebt.』は、『私は恋に落ちた』という意味だよ。君が好きというドイツ語は『Ich liebeリーベ dich.』が普通だけど、もっと伝わればいいなと……だから……」

 照れ臭そうに雅臣は繰り返す。

「これからは英語だけど『I need you(君が必要だ)』『I always think about you(僕は君のことを考えている)』この言葉じゃ足りないくらいだ」
「う、嬉しいです……」
「泣かないで……えっと……」

 肩にかけていたショルダーバッグから、何かの箱を出す。

「えっと……指輪はまだダメだからね……プレゼント」
「えっ? いいんですか?」
「良いの。これ、瞬ちゃんに似合いそうだと思ったんだ」

 ネックレスである。
 卵形の乳白色の天然石に、翼が付いている。

「か、可愛いです! ありがとうございます」

 喜ぶが、雅臣は黙っているが結構高額なお買い物だった。
 ムーンストーンのランクが高かったのだ。
 しかし、

「車より安いし、可愛いから喜んでくれそう」

とあっさり即金で購入した。
 付き合い始めたら結構貢ぐタイプになりそうである。

「雅臣さん。つけてくれてありがとうございます。似合いますか?」
「うん。とても……それより……返事を聞かせてくれないかな?」
「……わ、私も、大好きです! 雅臣さんを愛しています」
「ありがとう……本当に、嬉しい」

 雅臣は恋人の額にもう一度口付ける。

「絶対に、今度こそ守るよ」
「よろしくお願いします」

 二人は笑い合った。



 物語の最後はめでたしめでたし……。
 結城家の三姉妹はそれぞれ、パートナーと過ごしている。

 長女のあいは、日本に帰りたいという祖母の代わりにアンティークショップを受け継ぎ、世界中を転々としつつ、声優やナレーター、舞台女優の道を進む。
 松尾家の教護きょうごと結婚してからは、

「早う帰って来てくれまへんか、あいはん! 子供達が……」

と言われている。

 次女のせいは、両親に、姓はそんなに気にしないで嫁に行っても良いと言われたのだが、那岐が、

「俺は次男だし、お父さんとお母さんが良ければ、婿養子もかまんよ?」
「で、でも、那岐くんのご両親は?」
「兄貴がもう少ししたら戻ってくるし、俺は俺の道を行けって。だからせいちゃん。俺が手を引くから、並んで一緒に生きてくれない?」

 その言葉に、ばばばっと睛の頬が赤くなる。

「わ、私で良いですか?」
「せいちゃんだからいいんだ」

 那岐は手を差し出す。
 その手を取り、微笑む。

「一条那岐から結城那岐になっちゃいますね」
「その程度、大丈夫だとも」

と言いつつ、手続きが少々時間がかかり、大変だったと後でぼやくのだった。



 そして、結城家の末っ子、瞬は、姉達より早く16の誕生日の日に雅臣と結婚。
 通っていた学校から、自宅の近所の学校に転入。
 将来は、声優になることを夢見ているのだった。
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