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第一章……ゲームの章
7……sieben(ズィーベン)
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アストリットは抱き上げたラウと共に食堂に向かうと、青い顔をした母のエリーザベトが涙ぐみながらディーデリヒに頭を下げていた。
「本当に……ディーデリヒさま、ごめんなさい。本当に……」
「エリーザベトさま。ありがとうございます。泣かないでください。命は限りがありますから」
「でも……」
「それよりも、エリーザベトさま。ご無理は禁物です。お腹には赤ん坊がいらっしゃると伺いました。お体を大事にして元気な赤ちゃんを……そして、私に抱かせてください。エリーザベトさまは、私にとってもう一人の母です。赤ちゃんはそうすると、弟か妹ですね」
ディーデリヒは微笑む。
ディーデリヒの実母は、生まれた弟と共に逝った。
……でも、疲労で青ざめていた母はともかく、弟はよく泣いていたのに、夜に容体が急変したのだ。
でも、5歳だった自分には、母と弟の死に顔を父は見せてくれなかった……まだ若かった祖父母や、母の兄にも……。
その後しばらくして、まだ母と弟の喪も明けていないのに、2歳の娘を連れた妊婦が城にやってきた。
ディーデリヒは母に似て金髪と青い瞳だが、父はくせ毛の栗色の髪と瞳……しかし、チリチリとひどいくせ毛で焦げ茶色の髪と瞳の義母に、何故か真っ直ぐの黒髪と焦げ茶色の瞳の妹は全く父に似ていなかった。
すぐに生まれた子供もグリーンの瞳と明るい赤毛、成長して来ると上の姉と同様にそばかすが現れる。
一番最後に生まれた妹だけがふわふわとした栗色の髪と瞳に、肌は綺麗で父に似ていた。
しかし、エルンストとエリーザベト夫婦は、対照的な子供を生んだのだなと思った。
長男のカシミールと長女のアストリットは、美貌で知られたエリーザベトによく似ている。
ここを追い出されたフレデリックは、父親に似たらしい。
顔だけだが……。
性格はカシミールは腹黒、アストリットは女性としてのマナーや嗜みも完璧で、話し上手、聞き上手で気がきき優しい、領地で聞いた噂以上の出来た女性である。
領地で噂半分に聞いていたのは、ワガママな妹たちと義母のヒステリックな叫びに、ドレスだ宝石だと散財していたこともあり、女性は信用できないと考えていたこともある。
領主一族ということもあり、安易にお金を散財せず、飢饉や水害などに備えた方がいいと注意しても、父にディーデリヒに酷いことを言われたなどと訴え、父は父で妻と娘を甘やかし、ディーデリヒには冷たく当たるようになっていった。
苦り切っていた時、何故か珍しく苛立った様子で姿を見せたカシミールが、いつもなら自分の住む別館に来るのに本館に乗り込んだ。
「そう言えば、伯父上? 先日、我が領地に勝手に入り込んだ者がおりました」
「カシミール? そちらの領にか?」
「えぇ。武器を手に、うちの鉱山に来ました。そして、採掘師を脅して採れたばかりのDiamant……ダイヤモンドを奪っていきました。あのDiamantは久しぶりに出た質の高い、透明度も大きさも申し分のないものでした。それに……中央から、高額を出してでも購入したいと先日使いが参り、準備していたものでした。失ったのは仕方がないと、仕方なく模様の美しいものを選び、Achat……瑪瑙を贈りましたが、品が落ちる。献上するのが恥ずかしい。と、早く送れと催促されて困っているのですよ」
カシミールはディーデリヒの義母と、その年齢に似合わぬ装飾を身にまとう上の二人の妹を見る。
「その事件の時、何人かは逃げたので後を追わせました。するとこの領のある館に逃げ込みました。その後、宝飾の職人がこの館に出入りしていたことも突き止めました。誰が命じたかは、こちらと私の一族との長い間の付き合いもありますので、伺いません。代わりに領主の伯父上の命令で、返していただけませんか? 鉱山に入るのは本当に命がけで、大きな粒の石が出るのは稀。それを返していただけさえすれば、中央にも訴えませんし、事件はなかった事に致します。ですから……お返しいただけませんか?」
「何故、私たちを疑うのですか? 私を馬鹿にするのですか! カシミールさん」
「そうですわ!」
「……そちらは、ディレンブルク辺境伯夫人……でしたか?」
カシミールは酷薄な笑みを浮かべる。
「私は、貴方がたとファーストネームで呼び合う仲でしたでしょうか? それに貴方は中央で、正式にディレンブルク辺境伯夫人と名乗ることを許されていますか?」
「……っ!」
ディーデリヒの義母は身分のある家柄の女性ではなく、村の食堂の娘だった。
ディーデリヒの母も父との関係を知っていたが、中央から嫁いで来た令嬢であり、夫の浮気には見て見ぬ振りをしていた。
ディーデリヒの母はプライドがなかった訳ではなく、そういう時代であり我慢するしかなかったのだ。
しかし、父にとっては自分よりも身分のある令嬢を妻にして、プライドが刺激され、村に出ては浮気を繰り返したらしい。
「失礼ですが、私に失礼だと思いませんか? ついでに、Diamantが行方不明になる前に、私の元に貴方のお嬢さんを正妻にとのお話を送られましたが……伯父上がお決めになられたのですか?」
にっこりと微笑むカシミールの凄みのある笑みに、ディレンブルク辺境伯は首を振る。
「いいや! 送ってはいない! それに、ディーデリヒがもし娘であれば、カシミール……君にとは思ったが、これは正妻ではないし娘たちは庶子。そんな娘をカシミールの嫁にはやれぬ。本当に失礼をした。その手紙を書いた者を調べよう」
「……厳しい処分を期待します。それと、Diamantは1日でも早く探していただきたい。もし返還がなされなければ、こちらの領の者が侵入して奪い取ったと中央に送りますので。その時に、私の元に送られた手紙も、共に提出させて頂きますので……」
領主は青ざめるが、カシミールは楽しげに笑う。
「大丈夫ですよ? 伯父上。伯父上には立派な後継者がいるではありませんか。勘違いな意味のないプライドのみで、頭がすっからかんの愛人なんて追い出したらいかがです? ディーデリヒのおじいさまやおばあさま、伯父上との仲も良くなるでしょうに」
ディーデリヒですらここまではっきりと言えない嫌味に、呆然とする辺境伯、その横でギャンギャンと喚く3人……ちなみに末っ子は体が弱く、しかし賢いので親よりもディーデリヒに懐いている。
「私たちを馬鹿にするのですか! それならそちらの妹さんは……」
「私の妹ですか? ご存知の通り、妹はそちらとは違い正妻の母の娘です。それに母に似て美しく聡明で、自分の分を弁えた少女ですよ。同じ……いえ、お一人は年上ですよね? ご結婚の予定は? ……あぁ、まだですか? ですが、マナーもなっていないし、化粧もケバいし、髪の手入れもきちんとされていませんね。それに、時間帯や客人によって衣装を変えるのは常識。そのように貧相な胸をはだけて、昼間から歩き回るのがこのディレンブルク領の常識でしょうか? はぁ……趣味の悪いドレスに、山程のレースをつけて、下品としか言えないそんな姿で過ごすのですね。こんなところには妹は嫁に出せませんね。妹が可哀想です」
美形の毒舌はかなり凄まじい。
「それに、私にも選ぶ権利があります。伯父上? もう一度お伺いしますが、私にこの二人のどちらかを嫁に考えていたなどと言いませんよね?」
「そ、それは……」
「私がそちらの娘さんを娶らされるくらいなら、ディーデリヒに妹を嫁がせます。その時には、伯父上は隠居されることが条件です。後ろでピーチクパーチク喚くKrähe……カラスと即刻、この城から去ってください」
「あの~な? カシミール。末の妹のニュンフェ……フィーにその喋り方はやめてくれよ?」
ディーデリヒは、親友の怒りを何とか抑えようと口を挟む。
他の姉妹とは仲が悪いが、まだ幼いNymphe……愛称がFeeはディーデリヒに懐いていて素直で可愛い。
「フィーは、体が弱いんだ……」
「あぁ、フィーは別だよ。本当に名前の通り可愛くて、アストリットと仲良いからね」
フィーの本名ニュンフェは妖精のことであり、フィーも同じである。
母親の育児放棄で育ち、勘違い姉達に嫌がらせを受けていた為、ディーデリヒが戦場に出向く際に隣の領に預けた。
エリーザベトやアストリットは、もう一人の娘や妹ができたと可愛がっていたのだが……。
「ねぇ? ディーデリヒ? うちの両親、フィーをもう一人の娘みたいだって言ってるんだけど、ディーデリヒはうちの領との諍いには関わりないし、フィーもそうでしょう? うちにおいでよ。両親喜ぶよ。アストリットも」
「そうだなぁ……転地もいいかもしれない。父上? 私は関係ありませんので、同じく関係ないフィーと親友の家に行って参りますね。では」
と、自分の身の回りのものをまとめ、数人の護衛とペット達、そしてフィーを連れここにきた。
フィーは長旅で少々疲れたのか熱を出し、現在は中庭の中に建てられた小さい別宅に静養している。
普通の屋敷内ではなく、中庭は日当たりがいい上に、すぐに会いに行ける。
実はその別宅は、元々親馬鹿だったエルンストが一人娘のアストリットがおままごとで遊ぶために、子供用のお家を作らせたらしく、精巧に作られたひと回り小さな家具やベッド、装飾品の数々に初めて入った時には唖然としたものである。
しかし、寂しくないようにとお人形や絵本などが並べられ、花が飾られているのを見て微笑む妹に、連れてきてよかったとホッとしたのだった。
「それよりもエリーザベトさま。フィーのことを気を使ってくださって、ありがとうございます。フィーは本当に嬉しそうで、エリーザベトさまやエルンストさまがお父様とお母様だったら良かったのにと、昨日寝かしつけていたら言っていました」
「あら、フィーちゃんは私の娘だもの。それに、ディーデリヒくんを息子って呼びたいわ。アスティの旦那様になって頂戴ね」
うふふっ、
と愛らしく微笑む。
「母上、私はまだ甥か姪の世話はしたくありません。遠慮させてください」
「カーシュも早くお嫁さんを探しなさいな。そして私にお嫁さんを紹介して頂戴」
長男にめっとにらむ。
「それに、カーシュ。フィーちゃんを迎えに行って頂戴」
「はい、行ってきます」
と出ていくのを見送ったのだった。
「本当に……ディーデリヒさま、ごめんなさい。本当に……」
「エリーザベトさま。ありがとうございます。泣かないでください。命は限りがありますから」
「でも……」
「それよりも、エリーザベトさま。ご無理は禁物です。お腹には赤ん坊がいらっしゃると伺いました。お体を大事にして元気な赤ちゃんを……そして、私に抱かせてください。エリーザベトさまは、私にとってもう一人の母です。赤ちゃんはそうすると、弟か妹ですね」
ディーデリヒは微笑む。
ディーデリヒの実母は、生まれた弟と共に逝った。
……でも、疲労で青ざめていた母はともかく、弟はよく泣いていたのに、夜に容体が急変したのだ。
でも、5歳だった自分には、母と弟の死に顔を父は見せてくれなかった……まだ若かった祖父母や、母の兄にも……。
その後しばらくして、まだ母と弟の喪も明けていないのに、2歳の娘を連れた妊婦が城にやってきた。
ディーデリヒは母に似て金髪と青い瞳だが、父はくせ毛の栗色の髪と瞳……しかし、チリチリとひどいくせ毛で焦げ茶色の髪と瞳の義母に、何故か真っ直ぐの黒髪と焦げ茶色の瞳の妹は全く父に似ていなかった。
すぐに生まれた子供もグリーンの瞳と明るい赤毛、成長して来ると上の姉と同様にそばかすが現れる。
一番最後に生まれた妹だけがふわふわとした栗色の髪と瞳に、肌は綺麗で父に似ていた。
しかし、エルンストとエリーザベト夫婦は、対照的な子供を生んだのだなと思った。
長男のカシミールと長女のアストリットは、美貌で知られたエリーザベトによく似ている。
ここを追い出されたフレデリックは、父親に似たらしい。
顔だけだが……。
性格はカシミールは腹黒、アストリットは女性としてのマナーや嗜みも完璧で、話し上手、聞き上手で気がきき優しい、領地で聞いた噂以上の出来た女性である。
領地で噂半分に聞いていたのは、ワガママな妹たちと義母のヒステリックな叫びに、ドレスだ宝石だと散財していたこともあり、女性は信用できないと考えていたこともある。
領主一族ということもあり、安易にお金を散財せず、飢饉や水害などに備えた方がいいと注意しても、父にディーデリヒに酷いことを言われたなどと訴え、父は父で妻と娘を甘やかし、ディーデリヒには冷たく当たるようになっていった。
苦り切っていた時、何故か珍しく苛立った様子で姿を見せたカシミールが、いつもなら自分の住む別館に来るのに本館に乗り込んだ。
「そう言えば、伯父上? 先日、我が領地に勝手に入り込んだ者がおりました」
「カシミール? そちらの領にか?」
「えぇ。武器を手に、うちの鉱山に来ました。そして、採掘師を脅して採れたばかりのDiamant……ダイヤモンドを奪っていきました。あのDiamantは久しぶりに出た質の高い、透明度も大きさも申し分のないものでした。それに……中央から、高額を出してでも購入したいと先日使いが参り、準備していたものでした。失ったのは仕方がないと、仕方なく模様の美しいものを選び、Achat……瑪瑙を贈りましたが、品が落ちる。献上するのが恥ずかしい。と、早く送れと催促されて困っているのですよ」
カシミールはディーデリヒの義母と、その年齢に似合わぬ装飾を身にまとう上の二人の妹を見る。
「その事件の時、何人かは逃げたので後を追わせました。するとこの領のある館に逃げ込みました。その後、宝飾の職人がこの館に出入りしていたことも突き止めました。誰が命じたかは、こちらと私の一族との長い間の付き合いもありますので、伺いません。代わりに領主の伯父上の命令で、返していただけませんか? 鉱山に入るのは本当に命がけで、大きな粒の石が出るのは稀。それを返していただけさえすれば、中央にも訴えませんし、事件はなかった事に致します。ですから……お返しいただけませんか?」
「何故、私たちを疑うのですか? 私を馬鹿にするのですか! カシミールさん」
「そうですわ!」
「……そちらは、ディレンブルク辺境伯夫人……でしたか?」
カシミールは酷薄な笑みを浮かべる。
「私は、貴方がたとファーストネームで呼び合う仲でしたでしょうか? それに貴方は中央で、正式にディレンブルク辺境伯夫人と名乗ることを許されていますか?」
「……っ!」
ディーデリヒの義母は身分のある家柄の女性ではなく、村の食堂の娘だった。
ディーデリヒの母も父との関係を知っていたが、中央から嫁いで来た令嬢であり、夫の浮気には見て見ぬ振りをしていた。
ディーデリヒの母はプライドがなかった訳ではなく、そういう時代であり我慢するしかなかったのだ。
しかし、父にとっては自分よりも身分のある令嬢を妻にして、プライドが刺激され、村に出ては浮気を繰り返したらしい。
「失礼ですが、私に失礼だと思いませんか? ついでに、Diamantが行方不明になる前に、私の元に貴方のお嬢さんを正妻にとのお話を送られましたが……伯父上がお決めになられたのですか?」
にっこりと微笑むカシミールの凄みのある笑みに、ディレンブルク辺境伯は首を振る。
「いいや! 送ってはいない! それに、ディーデリヒがもし娘であれば、カシミール……君にとは思ったが、これは正妻ではないし娘たちは庶子。そんな娘をカシミールの嫁にはやれぬ。本当に失礼をした。その手紙を書いた者を調べよう」
「……厳しい処分を期待します。それと、Diamantは1日でも早く探していただきたい。もし返還がなされなければ、こちらの領の者が侵入して奪い取ったと中央に送りますので。その時に、私の元に送られた手紙も、共に提出させて頂きますので……」
領主は青ざめるが、カシミールは楽しげに笑う。
「大丈夫ですよ? 伯父上。伯父上には立派な後継者がいるではありませんか。勘違いな意味のないプライドのみで、頭がすっからかんの愛人なんて追い出したらいかがです? ディーデリヒのおじいさまやおばあさま、伯父上との仲も良くなるでしょうに」
ディーデリヒですらここまではっきりと言えない嫌味に、呆然とする辺境伯、その横でギャンギャンと喚く3人……ちなみに末っ子は体が弱く、しかし賢いので親よりもディーデリヒに懐いている。
「私たちを馬鹿にするのですか! それならそちらの妹さんは……」
「私の妹ですか? ご存知の通り、妹はそちらとは違い正妻の母の娘です。それに母に似て美しく聡明で、自分の分を弁えた少女ですよ。同じ……いえ、お一人は年上ですよね? ご結婚の予定は? ……あぁ、まだですか? ですが、マナーもなっていないし、化粧もケバいし、髪の手入れもきちんとされていませんね。それに、時間帯や客人によって衣装を変えるのは常識。そのように貧相な胸をはだけて、昼間から歩き回るのがこのディレンブルク領の常識でしょうか? はぁ……趣味の悪いドレスに、山程のレースをつけて、下品としか言えないそんな姿で過ごすのですね。こんなところには妹は嫁に出せませんね。妹が可哀想です」
美形の毒舌はかなり凄まじい。
「それに、私にも選ぶ権利があります。伯父上? もう一度お伺いしますが、私にこの二人のどちらかを嫁に考えていたなどと言いませんよね?」
「そ、それは……」
「私がそちらの娘さんを娶らされるくらいなら、ディーデリヒに妹を嫁がせます。その時には、伯父上は隠居されることが条件です。後ろでピーチクパーチク喚くKrähe……カラスと即刻、この城から去ってください」
「あの~な? カシミール。末の妹のニュンフェ……フィーにその喋り方はやめてくれよ?」
ディーデリヒは、親友の怒りを何とか抑えようと口を挟む。
他の姉妹とは仲が悪いが、まだ幼いNymphe……愛称がFeeはディーデリヒに懐いていて素直で可愛い。
「フィーは、体が弱いんだ……」
「あぁ、フィーは別だよ。本当に名前の通り可愛くて、アストリットと仲良いからね」
フィーの本名ニュンフェは妖精のことであり、フィーも同じである。
母親の育児放棄で育ち、勘違い姉達に嫌がらせを受けていた為、ディーデリヒが戦場に出向く際に隣の領に預けた。
エリーザベトやアストリットは、もう一人の娘や妹ができたと可愛がっていたのだが……。
「ねぇ? ディーデリヒ? うちの両親、フィーをもう一人の娘みたいだって言ってるんだけど、ディーデリヒはうちの領との諍いには関わりないし、フィーもそうでしょう? うちにおいでよ。両親喜ぶよ。アストリットも」
「そうだなぁ……転地もいいかもしれない。父上? 私は関係ありませんので、同じく関係ないフィーと親友の家に行って参りますね。では」
と、自分の身の回りのものをまとめ、数人の護衛とペット達、そしてフィーを連れここにきた。
フィーは長旅で少々疲れたのか熱を出し、現在は中庭の中に建てられた小さい別宅に静養している。
普通の屋敷内ではなく、中庭は日当たりがいい上に、すぐに会いに行ける。
実はその別宅は、元々親馬鹿だったエルンストが一人娘のアストリットがおままごとで遊ぶために、子供用のお家を作らせたらしく、精巧に作られたひと回り小さな家具やベッド、装飾品の数々に初めて入った時には唖然としたものである。
しかし、寂しくないようにとお人形や絵本などが並べられ、花が飾られているのを見て微笑む妹に、連れてきてよかったとホッとしたのだった。
「それよりもエリーザベトさま。フィーのことを気を使ってくださって、ありがとうございます。フィーは本当に嬉しそうで、エリーザベトさまやエルンストさまがお父様とお母様だったら良かったのにと、昨日寝かしつけていたら言っていました」
「あら、フィーちゃんは私の娘だもの。それに、ディーデリヒくんを息子って呼びたいわ。アスティの旦那様になって頂戴ね」
うふふっ、
と愛らしく微笑む。
「母上、私はまだ甥か姪の世話はしたくありません。遠慮させてください」
「カーシュも早くお嫁さんを探しなさいな。そして私にお嫁さんを紹介して頂戴」
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「それに、カーシュ。フィーちゃんを迎えに行って頂戴」
「はい、行ってきます」
と出ていくのを見送ったのだった。
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