98 / 129
第9章
女性枢機卿ミリアムの日々
しおりを挟む
出血が多かったミリアムは、すぐに客間に案内され、休むことになる。
しかも、ミリアムの手を握ったまま眠ってしまったアルフィナを抱いて何故か、アーティスが椅子に座っている。
「全く……ミリアム。君、解ってるの? 足の傷、歩けないように腱が斬られてたんだよ? アルフィナは元に戻す能力もあったから、治っているはずだけど、しばらく静養して歩く練習からしなくちゃいけないと思うよ」
「解っているわ! しばらくは大人しくするわ。パッチワークをしているから、完成させたいの」
「君……あの細々しく、ずーっとチクチクしてるの楽しいの? それに器用だよね?」
キョトンと自分を見るアーティスに、
「私は貴方に聞きたいわ。色々なところに行って文献探して、楽しいの? 手当たり次第って感じがするわ。一点集中できない人ね」
「うーん……それはそうだね。でも、文献読んでた時に、例えば『翼ある獣舞い降りる』だったら、君の国のエメルランドのペガサスとか、この国のドラゴン、そして僕の国の……ケツァール……もあるでしょ? だから、ハッと思って、次々取り寄せちゃうんだよね。で、門外不出とか言って面倒な時は、集めてた裏ネタで取り引き。そう言うのって後ろ暗いもの持ってるもんね」
「……貴方に言われたくないと思うわ」
溜め息を吐く。
「貴方ほどふざけている人はいないし、天才もいない。貴方は今こそ心があるように見えるわ。でも、アソシアシオンでは氷の様だったわ。無表情でそれでいて微笑みを浮かべたら、氷柱で貫くって……」
「まぁ、本気出したらここにいないし、ここにいたいんだ……毎日墓参りに行けるように……」
「お墓参り?」
「うん、息子夫婦のお墓は行ったけれど、数日中に恋人の遺品とお骨を引き取りに行くから……」
「えぇぇぇぇ! 貴方、子供いたの?」
ミリアムは目を見開く。
「うん。先会ったでしょ? あの子がイザーク。長男かなぁ……イザークにはセリアーナって言う娘と最近生まれたラファエルがいるんだ。で、イザークの妹のセリナっていう子が次男の嫁。次男はアルキールって言って……この国の最後の処刑執行人。馬鹿王子の命令で聖女をギロチンで……その日の晩、二人は命を絶ったんだ。アルキールの母親は僕が初めて結婚したいと思った。枢機卿なんて辞めようと思ったよ。一度別れて、迎えに行こうと思った時、探しても見つからなかったんだ……」
「枢機卿辞める……」
「うん。辞めたかった。姿を消した彼女を追いかけて、探し続けた。でも、もう生きていないって……」
ボーッとと言うより、心が失われたような瞳に息を呑む。
「……もう、面影はここにしかないから、戻らないの」
「……そうなの。貴方のしたいようにすればいいと思うわ」
「……えっ? 帰れって言わないの?」
「言っても無理でしょ? 貴方は頑固で決めたら絶対、教皇様が止めても出て行って、9割以上無理だって言うやり取りすら、幾つもまとめたわ。しかもその交渉に嘘は言わなかった。ちゃんとこちら側の意見を聞いて貰ったら、向こう側の難題を全部……。貴方、頑張っていたものね。それなら余計に帰れなんて言えない。だって、失った家族を取り戻すなんて、失われた闇魔法にしかないわ」
「やだよ……もう会えないなら、恋人と子供たちは穏やかに眠っていてほしい」
目を閉じボロボロと涙を流す。
「わがままだけど、酷い男だけど……」
「……貴方がそんなに泣くなんて知らなかったわ」
「僕も泣き虫だなんて思ってなかったよ」
後ろにいたジェイクが顔を拭う。
「坊っちゃま。そろそろ、ミリアム様もお疲れでしょう。アルフィナ様は私がお抱きしますので、帰りませんか?」
「あ、うん。じゃぁ、ミリアム。無理は駄目だよ。それに、君は第二枢機卿という次の教皇に一番近い存在。僕のように信心深くないものより、君は純粋で最もアソシアシオンの教皇にふさわしいと思う。純粋な力、日々の仕事に取り組む姿……一番だとおもうよ。だから、推薦状も送るから……」
「……解りましたわ。では、私休みたいですわ」
「あ、じゃぁ、アルフィナと下がるね」
立ち上がるアーティスに、ジェイクは慌ててアルフィナを抱き取る。
「お嬢様ねんね中ですよ。抱き方を考えて下さい!」
「はーい。じゃぁ、ミリアム安静にするんだよ」
と言い、部屋を出て行った。
「ミリアム様。後で娘のセアラを来させますので、失礼致します」
ジェイクは頭を下げて出て行ったのだった。
しかも、ミリアムの手を握ったまま眠ってしまったアルフィナを抱いて何故か、アーティスが椅子に座っている。
「全く……ミリアム。君、解ってるの? 足の傷、歩けないように腱が斬られてたんだよ? アルフィナは元に戻す能力もあったから、治っているはずだけど、しばらく静養して歩く練習からしなくちゃいけないと思うよ」
「解っているわ! しばらくは大人しくするわ。パッチワークをしているから、完成させたいの」
「君……あの細々しく、ずーっとチクチクしてるの楽しいの? それに器用だよね?」
キョトンと自分を見るアーティスに、
「私は貴方に聞きたいわ。色々なところに行って文献探して、楽しいの? 手当たり次第って感じがするわ。一点集中できない人ね」
「うーん……それはそうだね。でも、文献読んでた時に、例えば『翼ある獣舞い降りる』だったら、君の国のエメルランドのペガサスとか、この国のドラゴン、そして僕の国の……ケツァール……もあるでしょ? だから、ハッと思って、次々取り寄せちゃうんだよね。で、門外不出とか言って面倒な時は、集めてた裏ネタで取り引き。そう言うのって後ろ暗いもの持ってるもんね」
「……貴方に言われたくないと思うわ」
溜め息を吐く。
「貴方ほどふざけている人はいないし、天才もいない。貴方は今こそ心があるように見えるわ。でも、アソシアシオンでは氷の様だったわ。無表情でそれでいて微笑みを浮かべたら、氷柱で貫くって……」
「まぁ、本気出したらここにいないし、ここにいたいんだ……毎日墓参りに行けるように……」
「お墓参り?」
「うん、息子夫婦のお墓は行ったけれど、数日中に恋人の遺品とお骨を引き取りに行くから……」
「えぇぇぇぇ! 貴方、子供いたの?」
ミリアムは目を見開く。
「うん。先会ったでしょ? あの子がイザーク。長男かなぁ……イザークにはセリアーナって言う娘と最近生まれたラファエルがいるんだ。で、イザークの妹のセリナっていう子が次男の嫁。次男はアルキールって言って……この国の最後の処刑執行人。馬鹿王子の命令で聖女をギロチンで……その日の晩、二人は命を絶ったんだ。アルキールの母親は僕が初めて結婚したいと思った。枢機卿なんて辞めようと思ったよ。一度別れて、迎えに行こうと思った時、探しても見つからなかったんだ……」
「枢機卿辞める……」
「うん。辞めたかった。姿を消した彼女を追いかけて、探し続けた。でも、もう生きていないって……」
ボーッとと言うより、心が失われたような瞳に息を呑む。
「……もう、面影はここにしかないから、戻らないの」
「……そうなの。貴方のしたいようにすればいいと思うわ」
「……えっ? 帰れって言わないの?」
「言っても無理でしょ? 貴方は頑固で決めたら絶対、教皇様が止めても出て行って、9割以上無理だって言うやり取りすら、幾つもまとめたわ。しかもその交渉に嘘は言わなかった。ちゃんとこちら側の意見を聞いて貰ったら、向こう側の難題を全部……。貴方、頑張っていたものね。それなら余計に帰れなんて言えない。だって、失った家族を取り戻すなんて、失われた闇魔法にしかないわ」
「やだよ……もう会えないなら、恋人と子供たちは穏やかに眠っていてほしい」
目を閉じボロボロと涙を流す。
「わがままだけど、酷い男だけど……」
「……貴方がそんなに泣くなんて知らなかったわ」
「僕も泣き虫だなんて思ってなかったよ」
後ろにいたジェイクが顔を拭う。
「坊っちゃま。そろそろ、ミリアム様もお疲れでしょう。アルフィナ様は私がお抱きしますので、帰りませんか?」
「あ、うん。じゃぁ、ミリアム。無理は駄目だよ。それに、君は第二枢機卿という次の教皇に一番近い存在。僕のように信心深くないものより、君は純粋で最もアソシアシオンの教皇にふさわしいと思う。純粋な力、日々の仕事に取り組む姿……一番だとおもうよ。だから、推薦状も送るから……」
「……解りましたわ。では、私休みたいですわ」
「あ、じゃぁ、アルフィナと下がるね」
立ち上がるアーティスに、ジェイクは慌ててアルフィナを抱き取る。
「お嬢様ねんね中ですよ。抱き方を考えて下さい!」
「はーい。じゃぁ、ミリアム安静にするんだよ」
と言い、部屋を出て行った。
「ミリアム様。後で娘のセアラを来させますので、失礼致します」
ジェイクは頭を下げて出て行ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる