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第10章

武器オタク達と、不器用な親父達

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 サーシャの棺は、一旦霊安室に置かれた。
 そして、イーリアスに案内された一番広い居間に入って、テーブルに置かれたのは、

「これ、何?」

外交官で儀式用の武器と身を守るための短剣のみ身に帯びるカーティスは、見たことのない武器の数々に微妙な顔になる。

「えっとね~? これが『明けの明星モーニングスター』で、これは、連弩クロスボウを進化させた、十箭じゅっせんをここに入れて射る連弩れんど長剣ロングソードにフランベルジュ。大刀クレイモアにジャマダハル。ジャマダハルは元々防具の盾を進化させていったとも言われているんだ。円形のチャクラムは外に刃がついてて、内側を自分の指で回して投げる武器。この鉄の薄い板を折り畳んだものはウルミー。七支刀しちしとうは、攻撃用の武器じゃなく神聖な祭祀の時の武器。袖箭ちゅうせん……あ、袖箭ない! ジェイク盗ったね! 僕だって欲しかったのに!」
「不器用な坊っちゃまには、使えませんよ」
「ふーん……私、気になるなぁ。このウルミーって言う武器。薄い刀。鞭みたいにしならせて使うんでしょう?」
「よく分かったね、ルシアン殿」
「ジャマダハルは使ったことがありますよ。僕は武器を滅多に持たないので、これは防御用に持ちなさいと。これなら扱えますね」
「へぇ……凄いなぁ。器用」

 感心するアーティス。
 その横でユールが、

「このフランベルジュ、かなりヤバそう。傷が。それに、チャクラムも一種のブーメランだから、戻ってきたのを受けきれないと自分も斬られるもんな……」
「この連弩、すごい仕組みですね。私はこれが気になります」

セシルは興味津々と言った顔で見る。

「解体してみたいです」
「か、解体?」

 美少年の物騒な一言に、アーティスとジェイクはギョッとする。

「あ、アーティスさま達。うちのセシルの趣味は、こう言った細かいものを組み立てて作ったものを解体しながら、紙にその形を写し取って、そしてもう一度きちんと組み立てるのが好きなんですよ。多分袖箭って言うのはしてるはずです。連弩も」
「これもですか?」

 ジェイクが見せたものをじっくり見たセシルは、

「これより小さいタイプのなら解体しましたね。これは多分、小さい箭でしょう? 私は、金属の玉をバネで飛ばすタイプをしました。自分が撃たれたものだったので調べてみようと思って」
「う、撃たれた? それ、銃の一種じゃないですか!」
「はい、一回父が襲われそうになって、私が庇ったんです。えっと実は、左利きなのに左手を基本使わないのは、この時、筋を痛めちゃったので……簡単な動きは大丈夫ですが重いものは持てないんです」

服の袖をめくり上げ、前腕に残る傷跡を見せる。
 金属の玉が入ったにしては、酷く広い傷跡である。

「出血の多さと毒を塗られていたのと、結構中にめり込んでいたらしくて、出す為に大きく切ったそうで、そのせいもあって手術に時間がかかって。リハビリも結構かかりましたし……」
「それにやめろと言うのに、手術して1ヶ月しないうちに戦場に出るからだ! 傷が開くし、血が止まらなくなるし、本当に、本当にどれだけ心配したと思っている!」
「父上はこの国一の騎士です。その息子の私が、この程度の怪我で出られないなんて恥をかかせたくなかったですし、死ななかったんですから良いじゃないですか」
「良くないわ! 俺は、この程度を察知できなかったのか、馬鹿息子! と親父に延々と説教され殴られたし、駆けつけてきたカーティスに姉上たちにはボッコボコで、母上とアルベルティーヌは何も言わないけれど、ずっと泣いていて……それが一番堪えた! お前は1週間、目を覚さなかったんだぞ!」
「そうなんですよね……思ってたより毒も回っていたみたいで、最後にフェリシアに来て貰わなかったら、どうなってたか」

 セシルの言葉にラインハルトは遠い目をする。

「お前が言うな! 母上やアルベルティーヌが倒れ、もう姉上がお願いしてくれて、目を開けた時には死なずに済んだと思ったな……」
「起きた時の父上と、ユールの顔が怖かったです……あざだらけで……」
「叔母さん達に、ずっと特訓だったんだよ! お前はまだ弱い、鍛えてやるって。どんな特訓より地獄を見た……」

 ユールも青ざめる。

「兄貴が生きててよかった……」
「お前なら大丈夫だろう。うん」
「兄貴! 俺は親父じゃない! 不死身じゃないぞ!」
「お前は殺しても蘇る」
「……ユール。お前が俺をどう思っているのかよく分かった」

 ラインハルトは、次男の頭を掌で掴む。

「ぎゃぁぁ! ギブ! 親父! ギブ!」
「その程度か。まだまだだな」
「くっそー!」
「頑張れ。鬼神の息子」
「兄貴もだろ!」

 親子のやりとりに、アーティスはクスクス笑う。

「ラインハルト殿は、本当に息子達が可愛いんだね。アマーリエから聞いていたけど、想像以上だね。私も、ラインハルト殿のような父親になれるのかな……」

 ふと思い出したように考え込む。

「父親じゃないですか」

 ベルンハルドは優しく微笑む。

「イザーク兄さんが怪我をした時、顔色変えて兄さんに会えるまで名前を呼んで、会えたらすぐ怪我を診ていましたよね。私も実の親はクズだったので、父上や母上、兄上に引き取られて可愛がられた時、最初はとても照れ臭かったですけど嬉しかったです。でも、イザーク兄さんも時々照れ臭そうに伯父上のことを言っていますよ。ちょっと変わり者というか、不器用なんだけど、優しい人だって」
「……えぇぇぇ! イザークが?」
「えぇ……伯父上もイザーク兄さんのお父さんで、家族もいるんですから、泣かせたりしないで下さいね」
「うん。大丈夫!」

 その言葉に周囲は安堵したものの、ただ一人妹のアマーリエだけは兄のいつにない真面目な顔つきと様子に、嫌な予感を覚えていたのだった。
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