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第10章

アルフィナとアンネリのこれからを心配する両親

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「やれやれ、男達は、武器だけで自分の強さを過信するのかな? それに比べて、アマーリエやサリサたちやミリアムたちを見てご覧」

 バルナバーシュは弟というより子供のようにおもちゃ……武器に目を輝かせる彼らをたしなめる。

「それよりも、アルフィナとアンネリがお菓子を我慢しているよ。武器なんて物騒なもの、後にしなさい」
「アルフィナ、アンネリ。お兄様……アーティスおじいちゃんや、ユールとセシルのお菓子食べちゃいなさいな」

 アマーリエはコロコロ笑う。

「お、おじいちゃん!」
「あら、おじいちゃんじゃないの。お兄様。嫌なの?」
「う、嬉しいだけだもん! アルフィナとアンネリに、僕のおやつあげる!」

 椅子に座ったアーティスは、自分の前のお菓子の皿を二人に差し出す。
 難しい話に少し不満げだったアンネリは、伸び上がってクッキー二枚を取り、キャッキャと嬉しそうに笑う。

「あれ? アンネリ、お姉ちゃんにあげないの?」
「あーにぇりの! ねーねにあげにゃい」

と言いながら、かじる。

「アンネリ? 良い子はお姉ちゃんと半分こだよ?」
「そうしたら、ママがケーキをあげるわよ?」

 アルフレッドとキャスリーンに言われると、アンネリは即座に、

「ねーね。あい!」
「お姉たんにくれりゅの? あいがとう! アンニェリ」
「まーま、ケーキ! ケーキ!」

普段食べるクッキーと、キャスリーンたちが昨日作ったカップケーキを比べ、一瞬にしてケーキを選んだアンネリに、アルフレッドは顔を引きつらせる。

「……誰に似たんだろう……この計算高さ……」
「良いのよ。女は力はないけど知恵を持ち、したたかでなくてはね……でも」

 アマーリエははぐはぐと一気に食べ終えるアンネリが、ゆっくり食べている姉の皿からカップケーキを奪おうとしているのに気づき、皿ごと取り上げる。

「駄目よ? アンネリはこれ以上食べては、お腹が一杯で晩ご飯が食べられないわ」
「やぁぁ! あーにぇりたべゆぅぅ! ねーね、食べてゆもん!」
「アルフィナはゆっくり食べてるからよ。二人共同じ一個ずつよ?」
「アンネリ? 今日、お姉ちゃんのお菓子を取っちゃったら、明日おやつ抜きよ?」
「うわーん! たべゆぅぅ!」

 最近、自我が芽生え、イヤイヤ期に入ったアンネリに、ため息を吐く周囲の中、アルフィナはケーキを半分にすると、手渡す。

「あい、アンニェリ。しゃっき半分こしてくれたでしょ? ありがとうなの」
「ねーね、あいがとう!」
「もう……アルフィナ? アルフィナのおやつは、ご飯が食べられない分を食べるようにしてるんだよ? アンネリが可愛いのは分かるけど、甘やかせちゃ駄目」

 アルフレッドはめっと娘をたしなめると、半分こしたケーキを手にしたアンネリが姉の前に立つ。

「パーパ! ねーね、イジメちゃ、め! ねーねはあーにぇりの!」
「アンネリ? パパはお姉ちゃんを怒ってないよ。お姉ちゃんを心配してるの。お姉ちゃんはよく青い顔しているし、6歳にもなるのに小さくて痩せているから、心配してるんだよ」
「やせちぇ?」
「アンネリは歳の割によくお喋りするし、身長も高いけどね。アルフィナは痩せているから、なるべくちゃんと食べなさい。それに、好き嫌いとかも言って良いんだよ? 後で気分が悪いとか、吐いちゃったとか大変になるより、言って欲しいよ」

 二人にはどちらも可愛い子だが、特にアルフィナは特別なのである。

「アンネリは、もう食べちゃ駄目だよ。晩ご飯食べられないからね? 良いかな?」
「むぅぅ……」
「いやいや言うなら、明日のおやつから、アンネリはお姉ちゃんと別のお部屋だよ。知ってるんだよ? パパは。お姉ちゃんのお菓子を頂戴頂戴って、食べちゃってること。お姉ちゃんはご飯を、アンネリみたいに一度に沢山食べるのができないんだよ。だからおやつを増やしてるのに、お姉ちゃんのペースで食べてるの邪魔しているんだから」
「いやぁぁ!」
「駄目です」

 プリプリと幼児特有のぷくぷくした愛らしさのアンネリとは違い、アルフィナは平均身長より小さいと言うのに手足が長くひょろっとした少女になってきた。
 その体格のせいもあるのかアルフィナは体力はあまりなく、遊びで走り回ったり、それで汗をかいただけで熱を出したり、疲れて動けなくなるまで我慢する子なので、毎日朝晩アルフレッドとキャスリーンが時間をとって甘やかせたり、内緒でジュースを飲ませてお話の時間を作る。
 それにはミーナやジョン、リリやエリにセシルも同席することも多く、朝、青い顔をしていたり、微熱があると休ませる。



 どうすれば元気になるのか……両親である二人は色々と相談をするのだが、余り良い意見がなく、最後にキャスリーンが姉代わりでもあるミリアムに聞くと、

「そうねぇ……小さい頃、特に強い力を持った子は、その力に振り回されることが多いから……アルフィナはかなり影響を受けているようね。体に負担がかかるようならその力を封じるか、誰かに移す事かしら」
「移す?」
「えぇ。でも、その器を持っている人じゃないと無理ね。例えば、昔、癒しの力を持っていた方とか……アマーリエ様とか」
「……私じゃ無理なのかしら」
「貴方は器がないでしょう。アマーリエ様は聖女だから器があるはず。移す方法は貴方には言えないけれど……」

と答える。



 数日考えたキャスリーンは、今日、又微熱を出して父親に甘えているアルフィナを預ける。
 幼いアンネリたちは、イザークたちに預けて、もうお休みの時間である。
 そして、寝る前に色々と状況を話し合っている人々の元に向かう。

 扉がノックされ、入ってきたキャスリーンに皆は微笑む。

「キャスリーン。ようこそ。あら? アルフレッドやアルフィナは?」
「お母様。二人は今日一緒に寝るのだと……嬉しそうですわ」
「……そういえば、アルフィナは、又熱が出たのね。心配だわ」
「そ、そのことなのですが、お母様……ご相談があるのです」

 義理の親子、そして義母も娘とも血は繋がっていないが、それでもキャスリーンはアルフィナの母であり、アマーリエの娘として生きることを決意していた。

「あら、どうしたの?」
「お母様……アルフィナのことですの。あの子はもう6歳です。でもまだ小さくて、食も細く、身体が弱いです……回復や癒しの力が安定していないのかと思いますの」
「そうね……」
「私にできることがあれば、何でもしたいのです。でも私には無理なのです。お母様、お願いがありますの」

 真剣な眼差しのキャスリーンに、アマーリエはその母性本能や意志を認め口を開いた。

「なあに? キャスリーン。私が出来ることなら、言って頂戴」

 この後語ったキャスリーンの言葉に、アマーリエは息を飲んだのだった。
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