婚約者を陥れ処刑した王子が、自らの言葉によって永遠をループすることになる物語

刹那玻璃

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第10章

ユールの守る聖女マゼンタの趣味

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 目の前にいるのは、

「よっしゃ! うんっ! これでいいわね。一番動きやすいわぁ」

と、何故か、街の少年のような格好をして現れたマゼンタ。
 髪の毛を軽く結び、そばかすの見える顔。
 ベルトには、小刀ほど短くはないが、長くもない中型の剣。
 そして何故か、リュックサックを下ろし、その中を確認している。

「えっと、これが火炎弾で煙玉、しびれ玉、激辛玉、雷弾、大地弾……あ、アルフィナ様のポーション、ユール。貴方持ってなさいよ。こっちが回復、こっちが状態異常解除よ」

と、押し付ける。

「えっ? 俺も持つのか?」
「当たり前でしょ! 一緒に行動するつもりだけど、何かあったらはぐれるのよ? その時に怪我してごらんなさいよ! 私が間に合わなかったらどうするのよ!」
「そ、それもそうか……でも、どっちがどっちだ?」
「怪我したら、両方口に入れなさい!」
「お前、もったいないと思わないのかよ! ポーションだぞ!」

 ポーションは高価なものである。
 一般人だけじゃなく、騎士団でもこんなに大量に持ち歩いたり、軽々しく口にできるものではないのだ。
 命に関わる場合以外は、普段は薬草や手当てをするのだ。
 それなのに……ユールの言葉に、首を竦めたマゼンタは、

「あのね? 今回は何があっても仕方ない。どうしようもないことがある可能性が高いのよ! もし、状態異常……毒もった虫とかに噛まれたら薬でしょ? 敵が毒とかしびれ薬を忍ばせてる可能性があるのよ。傷を負ったら即飲みなさい……ってより、飲め!」
「命令かよ!」
「当然よ。一応私も自分の身を守るためにある程度は武術習ったけど、そんなの初心者が持つ程度よ。だから、貴方がいるんじゃない。まぁ、何かあったら、私がジョセフィと作ったこれで逃げるけどね」

持っているのは何故か、クルミの実を紐で巻いたものと、それよりひと回り大きい紙で包んだもの。

「それは?」
「ん? クルミの方は『先が見えないお先真っ暗』玉と『痺れくらげ百匹分』玉、激辛……あ、『激辛涙と鼻水止まらない』玉。こっちは『お酢より酸っぱい刺激』玉よ。ジョセフィにネーミングセンスないって言われちゃったわ。普通に言うと煙玉、しびれ薬、目潰し薬、ユールも苦手な酸味の強い酸っぱい薬よ。これは逃亡用ね。で、こっちは攻撃魔法に時間がかかるから、作ってみたのよ。卵の殻を溜めといて、中に魔法を待機しておける媒体を入れて、攻撃の時投げたらボーン!って訳。火炎弾、雷弾、大地弾……これは大地が裂ける方ね。で、突風弾。ケルト様の弟のヨルムくんと作ったのよ」
「はぁぁ?」
「私、何度も言うけど、攻撃魔法も少し使えるのよ。でも、そんなに強くないから、今はヨルムくんに教えてもらっているのよね。その時、昔作っていたのを作ってみたの。小さい頃に作っていたずらしてたのよね。ここまで強いのは、ヨルムくんのお陰だけど」
「ヨールームー!」

 聖女が、破壊兵器を作ってどうする!
 しかも絶対ヨルムは、新しい方法を知ったとか思って、絶対面白がっている!
 それも、多分ヨルムの父のルシアンも加担している!

 一応ガキ大将とはいえ、魔法爆弾をニヤニヤと楽しそうに持っているマゼンタにゾッとする。

「そ、それはちゃんと敵に投げろよな? コントロール大丈夫だろうな?」
「任せなさい! それは大丈夫。アーティスさまじゃダメだとおじいちゃん……えとジェイクさまにある程度鍛えてもらったから!」

 自信満々に笑う。

「私、聖女としてはある程度の教育受けたけど、ほとんど男装してジェイクさまと数日旅したりして、色々教わったのよ。ふふん」
「……お前、破壊兵器作るんじゃなくて、お前自身が破壊兵器だな」
「失礼ね!」

 二人は歩き出す。
 ちなみに、一応聖女と騎士団長の次男の二人きりで出て行くわけにはいかないので、ユールの父のラインハルトが、数人の部下をつけている。
 その中に、若手でユールやその兄のセシルと乳兄弟である青年達もいた。

「ユールさま。聖女さま。こちらです」

 乳兄弟の兄、セシル付きのグインと、弟のバロン、バロンの双子の妹メイも男装でついてくる。

「ねぇねぇ、ユールの彼女?」
「違うわ! 乳兄弟だよ。親父の側近の子供。グインは兄貴付き。でも、今回は兄貴が連れて行けって。グインは結構大型の武器を扱うし、色々使える技巧派。バロンは剣は強いんだけどな、いま一歩が進めない。代わりにメイは、ばあやが嘆く位凶暴……」
「ユール坊っちゃん、何か仰いましたか?」
「坊っちゃん言うな! ばあやの声色真似んな!」
「オホホホ! 坊っちゃまは、お小さい頃からお兄様のセシルさまに負けて、ビービーとバロンと良く泣いてましたね」

 きゅっと、高い位置に髪を縛り、ポニーテールを編み込んだ黒い髪で金色の吊り目のメイはからかう。

「お前がバケモンなんだ!」
「坊っちゃま? 今、何と?」

 物静かと言うか、部下である若い少年達に指示していたグインが振り返り、弟分を睨む。
 グインは黒い髪と茶色の瞳の長身のがっしりとした青年。

「私の妹は化物ではありませんよ」
「グイン兄貴! み、見た目じゃない! いや、見た目は普通なのに、異常に怪力で、武器が強弓ってありえねぇじゃん!」
「強弓! す、すごい!」
「それに近距離になったら、長くしなる鞭だぞ! トゲもついてる」
「オホホホ。一番私にあっただけですわ。一応、武器はあるだけ持っております。今日は強弓は持てませんので、連弩れんどですね」

 メイは背中を示すと、隣の物静かな瓜二つの顔立ちの存在に声をかける。

「それより、バロン。新しく見つけた刀はどう?」
「……(コクン)」
「あ、そう。やっぱりラインハルト将軍のお勧めで、使いこなしやすいのね?」
「……(コクコク)」
「……あの……バロンさんは……」

 マゼンタを振り返った少年は、小柄でメイと体格が変わらない。
 髪は白、瞳は赤、前髪が長く、後ろ髪はポニーテールである。

「あ、聖女さま。兄はバロン、私はメイとお呼び下さい。兄は喋れないんです。私が2倍喋るからですかね?」

カラッと笑う。
 しかし、バロンの首には薄手のストールが巻かれている。

「傷? 大丈夫? もし、治せるなら……」

 バロンは首を振ると、メイを見る。

「……兄は喋れなくても構わないそうです。目も耳もありますから、生きていけるそうです」
「……そう。じゃぁ、グインさんと、バロンとメイと呼ばせて貰うわね。私はマゼンタ。レッドでも良いわ。前の名前の愛称なの」
「あの、これは?」
「ポーションよ。メイは後方支援だから私が側にいると思うけど、グインさん、バロンは持ってて。同じ色は一緒に飲まないでね」

 二つの袋に分けて押し付ける。

「ユールに渡すより、3人に渡したほうが良かったかしら?」
「あはは! マゼンタも言うわね。それより、そのビリビリ弾とか良いわね。今度私にも使わせて?」
「良いわよ! あ、使う場所にもよるのよね。よろしくね」

 ユールは凶暴が2倍になったと青い顔になったが、バロンはポンポンと背中を叩いたのだった。
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