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第10章
バロン以外は無鉄砲……ストッパーは大変です
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と、最初の隠しボタンを押して入った5人だが、明かり玉を準備していたバロン以外は、周囲を見回してワクワクするか、武器を確認するか、地図を見て、
「これ、こっちでいいの~? ねぇねぇ」
「うーん、多分」
などと言いながら歩き出そうとするユールとメイを、バロンは慌てて止めた。
しかし片手は埋まっていたので妹は手を引っ張り、その反動を利用して、止まりもせず進もうとするユールの背後から飛び蹴りを喰らわせる。
小柄なバロンは、小さい頃声を失ったので、手話と口を動かすことである程度周囲とコミュニケーションを取っていたが、兄のグレイとユールは自由奔放。
お転婆なメイも似たようなものだが、バロンのことを考えてくれる可愛い双子の妹には手は出さない。
それに、目の前の乳兄弟の父と兄にはくれぐれも、単独行動しがちなユールのことを頼まれている。
つまり、尊敬するセシル曰く、
「バロン、相手は小柄なバロンを侮る場合がある。その時は容赦しないでいい。半殺しにしてもいいから、こちらが強いことを叩き込むんだよ? それでも言うことを聞かないなら、父上や私の名前を出していいからね?」
とのことを懇々と言い聞かされた。
バロンは、セシルの命令をちゃんと聞いているだけである。
「イッテェ! バロン、何するんだよ!」
小柄でも少年の背後からの蹴りは、ユールを壁に叩きつける効果があった。
振り返り睨もうとしたユールに、にっこり笑う。
「(どこ行ってるの? ユール。単独行動禁止って……前にもセシル兄さんに言われたよね? 覚えてないのかなぁ?)」
「あ、えっと……」
「(ラインハルト様にも容赦なくって言われてるから、言うこと聞かないなら奥様に!)」
バロンの背後から、
「ねぇねぇ、バロン。この紋様は何かしら? 載ってない?」
マゼンタは問いかける。
壁に這う紋様に興味をもったらしい。
「(えっと、多分、この国の初期時代のものだよ。えっと……)」
ポケットからメモを出すと書き込む。
「へぇ……聖華紋。花は、何の花なのかしら?」
「(それが、これ、逆聖華なんだよ? だから花は、黒百合。正式紋様なら白百合だから)」
「白と黒どう見分けるの?」
「(花の開き方。それと、白百合だったら色を塗るから。でもこれは塗ってないし、この模様は下向きでしょ?)」
指で示しながら、説明する。
「そっかぁ……よく分かったわ。探検先で時々見るのよね。でも、説明してくれないの。あ、アーティス様とかじゃないのよ。神殿で学んでいた時ね。私はじっとしてるの嫌な方だし、それに座学は私のような身分のない女を聖女だって呼ばないんだって。自分はどこかの国の伯爵夫人の従妹だからお偉いさんだって威張るのよね。これくらい常識とか言うの。教えるシスターも神殿では平等とか言いながら、そう言う子を優遇するのね。馬鹿みたい」
「本当ね。でも、マゼンタはアーティス様が後見人でしょ?」
「アーティス様の執事補と、侍女の子供で孫だもの。爵位はないわよ」
「爵位で生きてる訳じゃないのにね。馬鹿みたい」
メイは笑うが、横でバロンが地図と壁の模様を見比べる。
「どうしたの?」
「(……逆聖華だと思ってたのに……ううん、なんだけど……黒百合じゃない。これ。あ、これ、月下美人だ)」
「月下美人?」
「(サボテン科クジャクサボテン属の貴重な花で、夜に咲く花。これはもしかしたら、アルフィナ様の一族……の紋章かもしれない。この国の紋章は白百合だけど、本当の紋章。バルナバーシュ様に確認していただこう)」
紋様をささっと書き込む。
メイとマゼンタは見るが、急いで書いているのにとても美しい。
「……バロンって凄いのね」
「そうなの……って、あの馬鹿! 兄さんまで!」
地図を確認してゆっくり進むと約束していたと言うのに、脳筋乳兄弟は勝手に進み始めており、グインは周囲を見ておらず、ユールは地図が読めない。
「ちょっと待ちなさい!」
「えっ?」
マゼンタの声に止まった二人の真正面に、ズドーンと金属の壁が落ちた。
「げっ!」
二人は真っ青になる。
「この馬鹿!」
メイとバロンが駆け寄り、本気で締め上げる。
「何考えてんのよ! だから言ったじゃないの!」
「(どうすんの! 先に進めなくなったじゃないか! あぁ、やっぱりユールと兄さんは置いてくればよかった!)」
「ぎゃぁぁ! ギブ!」
「鳩尾、いてぇ!」
「鳩尾に肘鉄食らって、平気なのは変人よ!」
メイは襟元を掴み、兄に顔を寄せたままグリグリと今度は顎に拳を当てる。
「……言うこと聞けって言ったよね? 忘れたのか? オラァ? 約束守れないと、本気で殺すよ?」
「……」
「返事は?」
「はい……」
むかついたのでそのまま、壁に投げつけておく。
手を叩くと、バロンが羽交い締めにしているユールを見る。
本気で命をかけているのを忘れてんのかと、腹立たしくなる。
回し蹴りをかまし、ついでにかかと落としを脳天にかますと、気絶した主人の息子を冷たい目で見る。
「ねぇ、マゼンタ。バロンと三人で行こうよ。こんなの邪魔」
「そうだね~……馬鹿二人より、メイとバロンの方が強いわ……頭いいし」
と腹立たしげに呟き、バロンは乳兄弟を見捨て、ため息をつく。
「(……本当は、僕、こっちの研究したいんだけどなぁ……どうして、僕の周囲は煩いんだろう……あ、メイとマゼンタは良いんだよ。仲良しだもん)」
「……バロンって優しいよね。紳士だわ……」
「でしょう? 自慢なの」
兄達がバカをやったおかげで、正面の道が閉ざされてしまった三人は、脇道へのスイッチか、地面に何か見つからないかを確認しつつ奥へと向かう決意を固めたのだった。
「これ、こっちでいいの~? ねぇねぇ」
「うーん、多分」
などと言いながら歩き出そうとするユールとメイを、バロンは慌てて止めた。
しかし片手は埋まっていたので妹は手を引っ張り、その反動を利用して、止まりもせず進もうとするユールの背後から飛び蹴りを喰らわせる。
小柄なバロンは、小さい頃声を失ったので、手話と口を動かすことである程度周囲とコミュニケーションを取っていたが、兄のグレイとユールは自由奔放。
お転婆なメイも似たようなものだが、バロンのことを考えてくれる可愛い双子の妹には手は出さない。
それに、目の前の乳兄弟の父と兄にはくれぐれも、単独行動しがちなユールのことを頼まれている。
つまり、尊敬するセシル曰く、
「バロン、相手は小柄なバロンを侮る場合がある。その時は容赦しないでいい。半殺しにしてもいいから、こちらが強いことを叩き込むんだよ? それでも言うことを聞かないなら、父上や私の名前を出していいからね?」
とのことを懇々と言い聞かされた。
バロンは、セシルの命令をちゃんと聞いているだけである。
「イッテェ! バロン、何するんだよ!」
小柄でも少年の背後からの蹴りは、ユールを壁に叩きつける効果があった。
振り返り睨もうとしたユールに、にっこり笑う。
「(どこ行ってるの? ユール。単独行動禁止って……前にもセシル兄さんに言われたよね? 覚えてないのかなぁ?)」
「あ、えっと……」
「(ラインハルト様にも容赦なくって言われてるから、言うこと聞かないなら奥様に!)」
バロンの背後から、
「ねぇねぇ、バロン。この紋様は何かしら? 載ってない?」
マゼンタは問いかける。
壁に這う紋様に興味をもったらしい。
「(えっと、多分、この国の初期時代のものだよ。えっと……)」
ポケットからメモを出すと書き込む。
「へぇ……聖華紋。花は、何の花なのかしら?」
「(それが、これ、逆聖華なんだよ? だから花は、黒百合。正式紋様なら白百合だから)」
「白と黒どう見分けるの?」
「(花の開き方。それと、白百合だったら色を塗るから。でもこれは塗ってないし、この模様は下向きでしょ?)」
指で示しながら、説明する。
「そっかぁ……よく分かったわ。探検先で時々見るのよね。でも、説明してくれないの。あ、アーティス様とかじゃないのよ。神殿で学んでいた時ね。私はじっとしてるの嫌な方だし、それに座学は私のような身分のない女を聖女だって呼ばないんだって。自分はどこかの国の伯爵夫人の従妹だからお偉いさんだって威張るのよね。これくらい常識とか言うの。教えるシスターも神殿では平等とか言いながら、そう言う子を優遇するのね。馬鹿みたい」
「本当ね。でも、マゼンタはアーティス様が後見人でしょ?」
「アーティス様の執事補と、侍女の子供で孫だもの。爵位はないわよ」
「爵位で生きてる訳じゃないのにね。馬鹿みたい」
メイは笑うが、横でバロンが地図と壁の模様を見比べる。
「どうしたの?」
「(……逆聖華だと思ってたのに……ううん、なんだけど……黒百合じゃない。これ。あ、これ、月下美人だ)」
「月下美人?」
「(サボテン科クジャクサボテン属の貴重な花で、夜に咲く花。これはもしかしたら、アルフィナ様の一族……の紋章かもしれない。この国の紋章は白百合だけど、本当の紋章。バルナバーシュ様に確認していただこう)」
紋様をささっと書き込む。
メイとマゼンタは見るが、急いで書いているのにとても美しい。
「……バロンって凄いのね」
「そうなの……って、あの馬鹿! 兄さんまで!」
地図を確認してゆっくり進むと約束していたと言うのに、脳筋乳兄弟は勝手に進み始めており、グインは周囲を見ておらず、ユールは地図が読めない。
「ちょっと待ちなさい!」
「えっ?」
マゼンタの声に止まった二人の真正面に、ズドーンと金属の壁が落ちた。
「げっ!」
二人は真っ青になる。
「この馬鹿!」
メイとバロンが駆け寄り、本気で締め上げる。
「何考えてんのよ! だから言ったじゃないの!」
「(どうすんの! 先に進めなくなったじゃないか! あぁ、やっぱりユールと兄さんは置いてくればよかった!)」
「ぎゃぁぁ! ギブ!」
「鳩尾、いてぇ!」
「鳩尾に肘鉄食らって、平気なのは変人よ!」
メイは襟元を掴み、兄に顔を寄せたままグリグリと今度は顎に拳を当てる。
「……言うこと聞けって言ったよね? 忘れたのか? オラァ? 約束守れないと、本気で殺すよ?」
「……」
「返事は?」
「はい……」
むかついたのでそのまま、壁に投げつけておく。
手を叩くと、バロンが羽交い締めにしているユールを見る。
本気で命をかけているのを忘れてんのかと、腹立たしくなる。
回し蹴りをかまし、ついでにかかと落としを脳天にかますと、気絶した主人の息子を冷たい目で見る。
「ねぇ、マゼンタ。バロンと三人で行こうよ。こんなの邪魔」
「そうだね~……馬鹿二人より、メイとバロンの方が強いわ……頭いいし」
と腹立たしげに呟き、バロンは乳兄弟を見捨て、ため息をつく。
「(……本当は、僕、こっちの研究したいんだけどなぁ……どうして、僕の周囲は煩いんだろう……あ、メイとマゼンタは良いんだよ。仲良しだもん)」
「……バロンって優しいよね。紳士だわ……」
「でしょう? 自慢なの」
兄達がバカをやったおかげで、正面の道が閉ざされてしまった三人は、脇道へのスイッチか、地面に何か見つからないかを確認しつつ奥へと向かう決意を固めたのだった。
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