君のことを本当に……?

刹那玻璃

文字の大きさ
12 / 50

《瞳》……伝えたい言葉

しおりを挟む
 電話を切った柚月ゆづきは、躊躇いを断ち切り、電話を掛ける。

 二回のベルで電話が繋がる。

「もしもし……大原さんでしょうか?」
『はい。どちら様で……』
「お久しぶりです。5年前は本当にありがとうございました。前の姓は田宮。旧姓に戻しましたので現在は大塚柚月おおつかゆづきです」
『あぁ、大塚さんですか! お元気でしたか?』
「はい……離婚して、ホッとしています」

 柚月はため息をつくと、本題に入る。

「申し訳ありません。今のこの電話は、姪で現在同居している観月みづきに教わってかけさせて戴きました。祐次ゆうじくんが大変な目に遭われたことは伺っております。お忙しいとは思うのですが、少しだけ相談に乗って戴けませんか?」
『お会いしましょうか?』
「お忙しいでしょう?」
『では、簡単にお伺いさせて下さい。それで決めさせて戴きます』

 柚月は、ゆっくりと伝える。

「実は、昔……姪の観月の父である私の兄が、育児放棄と言うか、奥さんを亡くし、仕事に観月の面倒に、家のことにと忙しくなり、ストレスで観月には殴りはしませんが、家中を壊しまくり、暴言を吐き、粗相をすると押し入れに閉じ込めたり、一度苦しいと目を開けると首を絞められていたとか……小さい頃の観月は怯えていました。両親と私が兄が転勤を期に、観月を兄の元から離そうと話し合い、観月も友達がいるから……本心は父親に怯えていたのだと思います……ここに残ると言い、私と一緒に住むようになったのですが、観月が中学校を卒業する頃から、兄からの養育費が滞り始めました」
「そうですか……」
「私は働いていますし、観月を育てることも何とか出来ます。それよりも観月を責任感のない兄に奪われたくない……お金よりも観月の親権が欲しいのです。観月を傍に置いておきたいのです。兄からの連絡はありません。観月も電話をしても繋がらないと、自分が悪いのだと心を痛めています。兄にも事情があるのでしょう……でも、連絡もせず、娘を哀しませて……養育費のことも隠していますが、きっと賢い観月は気づいています。だから……きっと、度々推薦や奨学金を口にするのです。頑張るから、大丈夫だよと……」

 柚月の声は悲嘆にくれている。

「私はあの時のお金を使うものかと、手をつけていません。本当は観月の為に使おうと思いましたが、使っていません。出来たら……あのお金を全額使って下さっても構いません。兄から観月の親権を私に! 私が母になります。お願いします!」
『……解りました。お引き受けいたします。柚月さんは今現在、どちらに?』
「……今は職場である病院におります。菜の花町の病院です。家は、津路町つじまちです」

 説明する。

「隣の市に両親がおり、両親にも連絡がなく、もう兄のことを諦めています……あ、この電話での相談は……」
『大丈夫ですよ。電話相談と言うか、友人からの電話です。確か、この番号は祐次くんに聞いたのでしょう?』
「はい」
『もしかして、あの前の相談と番号が違うと思いませんでしたか?』
「ビックリしました。名前を聞いて……」

 柚月は苦笑する。

「ご縁があるのだなぁと……」
『この電話は私的な電話で、幼馴染みや友人、彼らの親族のみと通話をしているのです。ですから、柚月さんも友人ですから、大丈夫ですよ』
「ありがとうございます。それに、私は後でいいのです。祐次くんと観月をよろしくお願い致します」
『はい。大丈夫です。柚月さんも何かあったら、こちらに連絡を下さい』
「はい」

 電話が切れた。
 その電話を見つめ……嵯峨は呟く。



「……見つかったわ……」
「何?」

 ショックを受け泣き続ける祐次の両親に、今戻っても何も出来ないと、祐次たちとは別、標野しめのの親族の元に身を隠す為に、空港に車を走らせていた標野は問いかける。

「……5年前に……仕事で知り合ったんや……けど、相手は離婚調停を依頼してきた人で……」
「嵯峨の私用のスマホやないんか? それ」
「……祐次くんに聞いたと本人から電話があった……大塚観月ちゃんの叔母で、今一緒に暮らしてる、柚月さんや」
「はぁぁ!」

 標野は驚く。
 幼馴染みの嵯峨は、仕事上のパートナーの北山錦きたやまにしきがいる。
 小さい頃の錦は嵯峨のことが好きだった上に、お互いの家で婚約にまで至っていたが、仕事に没頭し、全く恋愛や結婚に気を留めない為に婚約は破談になり、仕事のみの関係になっている。
 ちなみに7年前に錦は結婚している。
 で、5年前に、嵯峨はある女性に出会ったのである。

 田宮柚月。
 一度だけ、標野が聞いた名前である。
 個人情報がと厳しい嵯峨が珍しく女性の名前を言っていたので、覚えていたのだった。

「柚月さんて、嵯峨の昔の仕事のお客やろ?」
「……相談されたんや。観月さんの親権を、父親から自分に移して欲しいて……」
「嵯峨は、祐次の仕事で手一杯やないんかな~? あぁ、錦はどないなっとん?」
「言いにくいわ……」

 同じ事務所のパートナーである錦にも、言いにくいらしい。

「何言うとんのや。嵯峨は祐次の方に集中してくれんかな~? あの祐次が泣きよったんやで? しかも、まぁ、あの混乱の場所ではあるけど、告白みたいなんが言えるようになったようやけどなぁ……」
「そう言えば、写真がどうの……」
「あ、嵯峨さん、見ます? これは葵衣あおいが撮ったんだけど」

 叔父叔母を落ち着かせるように座っていたひめがスマホを見せる。

「……あぁ、柚月さんに似ていますね」
「ねえ、嵯峨さん。お願いします。祐次のことを守って下さい。それに、弁護士ならわたくしの面を出してはいけないのでしょう? 柚月さんのお願いの仕事は錦さんにお願いして、精神的に柚月さんをサポートしてはいけませんか?」

 媛が訴える。

「お願いします。祐次はやんちゃだけど……」
「……そうですね。解りました」

 私的の電話を仕舞い、仕事用のスマホを操作し、耳に当てる。

「あぁ、錦。私だ」
『何? 仕事?』
「あぁ、説明しただろうが……」
『あぁ、酷いツイッターは情報として残しているわ』
「それとは別に、頼みたいんだが……」

 言いにくそうに呟く嵯峨に、

『えぇぇ? 又、仕事? あんたねぇ! 私にも家庭があるのよ! 家庭!』
「だから、私がその仕事に集中するつもりだ。代わりに、もう一つ依頼されたんだ。そちらを錦に頼む……」
『どう言うことよ?』
「……依頼者は大塚柚月さん。祐次くんの同級生、大塚観月ちゃんの叔母で、観月ちゃんの父親が養育費などを払わないから、親権など全て観月ちゃんの父親から移して欲しいと……言っていた。5年前の慰謝料を全部使って良いと言っている。電話番号を後でメールする。女性同士で……よろしく頼む」
『5年前……あぁ、柚月さんと言うと、あの田宮寿一たみやとしかずさんだったかしら? あの離婚調停の?』
「後でメールする……じゃぁな」

 電話を切る。



 しばらく走り、到着した空港で、

「では、寛爾かんじさん。めぐみさん。こちらのことはお任せ下さい」
「本当に……申し訳ありません」

憔悴しているものの、妻を支え頭を下げる。

「会社にも休職届を送ります。どうなるか……私にも解りませんが……祐次と葵衣の学校にも休学を……」
「それはあてがしときますわ」

 標野は微笑む。

「空港にはサキがおりますさかいに、安心して」
「本当に……よろしくお願い致します」

 二人がチケットを持って去っていくのを見送るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...