君のことを本当に……?

刹那玻璃

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《腕》……温もり

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 穐斗あきとに引っ張られつつ、二人は早足で大きな建物の引き戸に到着した。
 引き戸をひいた穐斗が、

「ただいま~! ママ~? 風遊ふゆちゃん、おじいちゃんとおばあちゃん~! 祐次ゆうじお兄ちゃんと観月みづきちゃんだよ~!」
「あ~? あきちゃん。またかくれんぼ? ダメでしょ~? 心配したんだよ?」

土間に三和土たたき、その上に障子、昔の雰囲気の残った大きな家をすごいなぁと見回していた観月。
 そして、障子から顔を覗かせたのは、穐斗に瓜二つの女性。

「あ、ようきたねぇ、祐次くんに観月ちゃん。お入りや」
「久しぶり。ほたる姉ちゃん。お邪魔します」
「初めまして、突然ですみません。失礼します」

 靴とサンダルを脱ぎ、上がっていく。
 すると、大きなこたつがあり、70代の夫婦と蛍の姉らしいこれまた瓜二つの黒髪の美女が座っており、そして穐斗と同年代から下の女の子たちが、あちこちで6人それぞれ遊んでいる。

「ようきたなぁ。祐次」
「疲れたやろ? お入りや」
「お菓子もあるけんなぁ」

 蛍に勧められ、こたつに足を入れると、

「あ、ほりごたつ?」
「そうそう。冬は炭を入れるんよ。今は入れてないけど、暖かいやろ?」

蛍は微笑む。
 頷くと、はっと思い出したように、

「ほ、本当にご挨拶もなく申し訳ございません。私は大塚観月おおつかみづきと申します。突然お邪魔しまして……」

頭を下げる。

「えぇんよ? 観月ちゃんは悪ぅない。あぁ、そうやった。うちは蛍って言います」
「観月。蛍姉ちゃんは兄ちゃんの奥さんで、隣が風遊さん。蛍姉ちゃんのお母さんで、醍醐だいご兄ちゃんの奥さん」
「えっ? お、お姉さんじゃ……」
「あらあら……もう、50のおばさんなのよ」
「まだ46歳なんよ~」
「蛍。酷いじゃないの。年をばらすなんて」

 瓜二つ……髪と瞳が違うだけの親子が顔を見合わせる。

「そして、風遊さんのお父さんの麒一郎きいちろうじいちゃんと晴海はるみばあちゃん。俺の母さんの方のじいちゃんばあちゃんはもうおらんけん、本当のじいちゃん、ばあちゃんや」
「ようおいでたなぁ。疲れたやろ? 後で祐也や醍醐に、日向ひなたたちも来るやろ。ゆっくりしいや?」
「あぁ、そうやった」

 蛍が歩いていった部屋の隅に薪ストーブがあり、そこにかけていたやかんを持ってきて、何かを作る。

「柚子湯よ。時期が違うけん、絞りたては飲めんけど……お飲みぃや? 甘いけん」
「ありがとうございます」

 マグカップを受けとるとホッとする。

「あの、ご迷惑だけは……かけたくないんです……でも、お願い致します」
「何いよんの。迷惑どころか、祐次くんは弟だもん。柚月ちゃんは妹やけんね?」
「祐次くーん!」

 玄関が開かれると、二人の少年と可愛らしい女性が姿を見せる。

「あっ! 祐次兄ちゃんだ!」
「お帰り~!」
「あぁ、スゥ姉ちゃん。それに、風早かざはや那岐なぎも元気そうだな。あ、観月。紹介する。後で来ると思うけど、最初に兄ちゃんと喋りよったんがひな兄ちゃん。ひな兄ちゃんの奥さんがスゥ姉ちゃん。ただすって言うんだ。京都の下鴨神社の森、糺ノ森の漢字。風早は穐斗より一つ上で、那岐は大きいけど穐斗より年下だよ」
「は、初めまして。大塚観月です。祐次くんのどう……」
「俺の彼女だよ! で、あっちに固まっているのは、蛍姉ちゃんの妹の六花りっか花菜はな七海ななみ桔梗ききょうで、穐斗の妹の杏樹あんじゅ結愛ゆめ

 振り返った子供たちは、

「おねーちゃん。こんにちは~!」
「なのー」

と挨拶をする。

「わぁぁ、兄弟多いんですね」
「そうそう。なぁ、じいちゃん、ばあちゃん。俺、ここにおる間、多分兄ちゃんとの関係で迷惑かけるかもしれん……」
「それがどがいしたんぞ。祐次はわの孫や。孫を守らんでどがいするんぞ」
「でもな? 俺、学校にも行けん。スマホは嵯峨さがさんに渡したけんええけど、観月は……家族に連絡……」

 すると、可愛らしい『子犬のワルツ』のオルゴール音に、バッグから電話を出した観月は目を見開く。

「お、お父さん……!」

 震える手で電話をとると、耳元で懐かしいと言うよりも、恐ろしい声が響いた。

『お前! 何しているんだ! あぁ? あのツイッターの写真は、お前だろう? 名前が出ているだろうが! 何考えとるんぞ! このくずが! お前なんか!』
「ご、ごめんなさい! お、お父さん……ごめんなさい! 捨てないで!」
『うるさいっ! お前なんか、あの女に生ませるんじゃなかったわ! 柚月ゆづきも柚月や! 恥さらしが!』
「お姉ちゃんのことは言わないで! お姉ちゃんは何も悪くないの!」
『黙れや!』

 泣きながら電話を持っている様子に、慌てて糺がどこかに電話を掛けると、観月から電話を取り上げ、聞こえるようにする。
 罵る声がしばらく続き、息をついた時を狙い、

『失礼します。私は、大塚柚月さんに相談を受けた弁護士の一人です。大塚観月さんの親権を兄である貴方から自分に移して欲しい。自分の娘にしたいという相談です。貴方は、小さい頃の観月さんに今のように暴言を吐かれ、中学校卒業頃から観月さんの養育費を柚月さんに振り込んでいないそうですね』
『なっ!』
『父親として何もしていない貴方が、被害者である娘を庇うなら兎も角、そのように責める権利もありません。貴方がそのように脅したことを、こちらで録音しました。裁判で提出します。そして、観月さんに今のように暴言をこれからも掛けて来たり、送ってくるようでしたら、こちらの電話番号にかけて下さいませんか? ご両親や柚月さんにも、私どもの事務所で弁護させて戴くことをお伝えしておりますので。私は主任弁護士の北山錦きたやまにしきの同僚、大原嵯峨おおはらさがと申します』

 嵯峨の声は冷静で、それでいて子供たちや観月は解らないが、かなり激怒していた。

『これ以上、観月さんや柚月さん、ご両親に近づくようでしたら、証拠は増えますので、よろしくお願い致します』
『クソッ! こんなガキ、生まれてこんかったら良かったんや!』
「うるせー! 観月にそんなこと言うな! それにそんなこというあんたなんか、観月の親父じゃない!」

 観月を抱き締め、祐次は怒鳴る。

「子供も育てんで、育てよる妹に文句、子供には怒鳴るだけ! 養育費も入れん、あんたは親父じゃない! 柚月さんに親権移せや! その前に裁判や! 覚えとけや! 番号覚えたで! 嵯峨さん、電話番号伝えるわ!」

 祐次は大声で番号をいうと、

『クソッ! ガキが! 番号を変えてやるわ!』
「アホか。あんたの情報は調べられるわ! それより、二度とかけてくんな!」

糺が観月の電話を切ると、

『本当にバカですね……録音しておきました。観月さん』

糺に渡された電話を耳に当てると、冷たい印象に見えた嵯峨の優しい声が聞こえる。

『柚月さんから電話を戴きました。観月さんを娘として引き取りたい、親権をとりたいと相談されました。今回私は、祐次くんのツイッターの件の裁判を主に担当します。祐次くんや家族、もしくは、あの人のようにあの写真の女性が観月さんと知って、情報が流れている可能性があります。その対応をしますので……代わりに私の同僚に、親権の件は頼んでいます。観月さんは、柚月さんやおじいさん、おばあさんとの連絡以外は電話をとらなくていいですよ? もしかかってきたら、番号を二つ教えます。書いて貰えませんか?』
「は、はい!」

 紙とペンを渡され、二つの電話番号を書き込む。

『最初の番号は私の仕事用の番号です。緊急なことがあったらかけて下さいませんか? そして、二つ目は北山錦と言って、今回の件の担当弁護士の名前です。女性です』
「は、はい! あ、ありがとうございます……」

 震える声でお礼を言った観月に、

『大丈夫ですよ……もしできたら……いえ、今度お会いしましょう。では』

何か言いたげだったが、電話が切れる。

「あ、ありがとうございます……」

 電話を糺に返す。

「嵯峨さんの電話番号と、北山錦さんの番号……」
「あてが打ち込んでおくさかいに、少しお休みなさいや?」

 祐也や葵衣に日向と戻ってきた醍醐が頭をなでる。

「奥に布団敷こか」
「すみません……すみません……」

 思い出したのかボロボロと涙をこぼし、しゃくりあげる観月を風遊が奥に連れていく。
 襖が閉ざされ、ため息をつく。

「最悪やな……可哀想に……」

 日向が心配そうに目で追いかけ、祐次を見る。

「祐次……眼鏡似合わんなぁ?」
「えぇ? 似合うとか解らんし……ひな兄ちゃん」
「お前は祐也に似とるのに、それはあかんわ。それに童顔なんや、もっと野暮ったいのでかまん」
「えーと……」

 葵衣が持ってきていた荷物から眼鏡を受けとると、見せる。

「あ、これや。シルバーとかの細いフレームは絶対に似合わんわ。太めのフレームで、こうだな」
「エェェ? めちゃくちゃ可笑しくない?」
「フレームが太いのと、帽子をかぶるから、少し野暮ったいのとお前は眼鏡をかけないし、今風の格好よりも逆に合うと思う」
「あ、観月……」
「あの子は、黒ぶちの眼鏡で十分だ。普段からあの髪型か?」

 祐次は首を振る。

「二つに分けて、三つ編みにしてる。苺(いちご)が引っ張って、崩れたからほどいたところだったんだ……」
「じゃぁ、髪型を変えてあげるといい」
「うん……でも、大丈夫かなぁ……」

 心配する祐次の後ろで、

「祐次、観月ちゃんの布団に潜り込んだり、寝てる顔を見よったらあかんで?」
「お前じゃあるまいし! こんな場面で言うな! 馬鹿が! 流石はシィさんの弟だな?」
「やめてや~! シィにいはんの名前出さんといてや」
「お前がアホなことをいうからや」

二人の言葉に祐次は吹き出し、力が抜けたのだった。
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