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《指》……繋ぎ止める
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ところで、買い物も出来ないまま哲哉は妻子と自宅に戻ったが、隣の家の前に集まる……つまり、突き当たりの自分の家の前の道路に集まる取材陣に、問答無用でクラクションを鳴らす。
車を止め、窓を開ける。
「何しとんで! 迷惑やろが! はよどかんか!」
温厚な哲哉だが、今回は激怒している為、粗い口調である。
その横で苺花が、スマホで映像を撮影している。
「何、人んちの門を開けて、入り込んどんぞ!」
朗らかな愛は庭に花壇をつくり、可愛い花を育てていた。
それも踏み荒らされている。
哲哉もスマホで撮影し、ボタンを押す。
数コールで電話が繋がる。
『もしもし、警察ですが』
「すみません。霞が台の大角と言いますが、隣の家の門を開けて、無断侵入しとるんですけど? うちは奥なんで、車も通れなくて迷惑しとるんですが? 何とかして貰えませんか~! おい、逃げんなや!」
「すみません~名刺下さい! くれないと、警察に映像を送っておきますよ~!」
苺花が窓を開け、手を差し出す。
「すみません! もう家に帰れんけん、迷惑しとるんですけど、すぐ来て貰えませんか~? それに、Twitterに勝手にうちの娘の写真が了承もなく出回って、迷惑しとんですけど~?」
『Twitterですか?』
「えぇ! 家族ぐるみで付き合いのある隣のご一家と一緒に、娘と今度生まれる子供用品を買いに行ったんですけどね? 隣のお兄ちゃんが娘は大好きで、だっこをせがんでいて、抱いて貰っていて喜んでいる写真を、知らん人に撮られてツイッターに流されたんです。顔が隠されてないですし、個人情報じゃないですか? しかも、流した人間を調べずに、撮られて迷惑しとる家に押し掛けるんはおかしないですか?」
『向かわせましたのでお待ち下さい。お名前をお伺いしてもよろしいですか?』
「大角哲哉です。よろしく頼みます。自分の家にも帰れんので、人の家に入り込んどる人間を逃げんようにしときますので」
電話を切ると、映像に切り替え車を出る。
「逃げんなや。嫁が撮りよるで。ほら、名刺を渡すけん、そっちも貰えるかいな?」
自分の名刺を渡すと、相手も仕方なく名刺を出してくる。
渡さない者はちゃんと映像に納めておく。
これは、証拠として提出するつもりである。
「で、あんたらはどこからその情報を持ってきたんで?」
「Twitterに……」
「あの不知火寛爾選手の息子やって」
「写真に撮られとる子供は、うちの子供や! 不知火さんの息子さんが、うちの子を抱いてくれとったんや! うちの嫁が二人目がおって、大変やけん抱いとくわ、言うて! 知り合いの子を不知火さんが預かっとって、その子と並んで歩きよったんや! 家の子の服や、二人目が生まれるけん、その準備にと出掛けとったのに!」
哲哉は怒鳴り付ける。
「証拠も何もなく、よう、ここにこれたな? Twitterに流した人間には連絡したんか? 言うてみいや!」
「えっと、その……」
「ここにおれ! 警察が来るわ! 逃げんなや! あんたらのお陰で、俺も家族もえぇ迷惑や! 家の子供の写真も流れてしもた! 告訴するわ! それに、不知火さん家に勝手に入り込んだって、言うとこわい。弁護士さんもう準備しよるで!」
一喝すると、丁度警察の車両が姿を見せる。
「通報されたのは……」
出てきた警察官に手をあげる。
「私です。ここの奥に家があるんですが、その前を陣取っとって……その上に、この家の庭とかにも入りこんどったんで通報しました。私は、こういうものです」
名刺を差し出す。
受け取った警官に、スマホを差し出し、撮っていた映像を見せる。
「こんな感じです……何かTwitterに上げられた情報を鵜呑みにして来たそうですが、私も見たのですが、写っていたのは隣の息子さんに知り合いの子、そして家の子供です。なのに調べもせずにここにおるんですけど?」
「……これは……」
「この人らに、帰るように言うて下さい。このことはもうすでに、お隣と一緒に弁護士を依頼しとるんで……Twitterをあげた人もあおった人も、今回名刺も戴いとんで、この映像も弁護士さんにお渡ししますわ」
「えと……」
どう対処しようかと考えていた警官の耳に、子供の泣き声が届いた。
車の中で待っている子供らしい。
「マンマー。マンマー! ふあぁぁん!」
「あー! ごめんね~! おやつ持ってきてなかった。待ってね? お家に帰れないから」
「うぎゃぁぁぁ~! マンマー!」
泣き声が激しくなる。
哲哉は、振り返りつつ、
「すいません。子供も小さいんで、後は頼みます。追い払って下さいや」
「解りました」
警官も子供が泣くのは困ると、車が通れるように移動させ、その後、名刺などを預かり立ち去らせたのだった。
泣きじゃくる娘を抱いて家に入った哲哉は、食事を苺花に頼み、電話を掛ける。
「もしもし、嵯峨さんですか?」
『えぇ、大丈夫でしたか?』
「いえ、取材陣が殺到していたので、警察呼んで追い払って貰いました。一応あの写真の子供はうちの子だと言っておいたんですが……すみません」
『同じ案件ですから、哲哉くんのお子さんも被害にあったと先方に伝えます。大丈夫ですよ』
「よろしくお願い致します。でもお隣が、庭とかにも侵入した跡があって……酷く荒れてました。私と苺花のスマホで撮影してます」
『又、後でお伺いしますね? 私は今、錦……同僚を待っているところです。柚月さんの所に向かいました』
哲哉はホッとする。
「そうですか。良かったです。観月ちゃんのことが心配でしょうし……。じゃぁ、又後でよろしくお願い致します」
電話を切ると哲哉は、苺花が昼御飯を作っている間、ぐずる苺をあやしに戻っていったのだった。
5年前の憔悴しきってやつれていた顔が、少し健康そうだが、何処と無く雰囲気が違うことに気がついた。
「お久しぶりです。大塚さん」
「本当に、あの時はありがとうございました」
観月は本当に年齢に見えない程幼かったが、嵯峨よりも2つ下の柚月も年齢に見えない程童顔である。
その上、親子と間違う程うり二つである。
「いえ、あの時は仕事ですから」
と言い、嵯峨は慌てて、
「すみません。実は、今回相談を戴いた件なのですが、私は祐次くんの個人情報の方を優先する為に、代わりに同僚に来て貰うつもりです。申し訳ありません」
「そ、そうですか……」
「あ、観月ちゃんの事についても関わりますので、きちんとさせて戴きます」
「はい! み、観月のことは、どうか!」
不安そうだったが、一瞬にして表情が変わった。
孤独に追い込まれていた5年前とは違う……10年前の事件の時の風遊や晴海、せとかの眼差しに、表情に似ている。
「……あぁ、そうなのですね」
「えっ?」
「あ、いえ……今の柚月さんは、私の知人のお母さんとよく似た顔になっていて……貴方はもう、観月ちゃんのお母さんなのだと思いまして」
「えっ!」
頬に手を当てる柚月に、普段は固い嵯峨もふっと微笑む。
「前にお会いした時よりも、本当に強い、そして愛情に溢れる眼差しで安心しました」
「老けたと思いますが……」
「いえ、逆にお若く見えますよ。私は白髪も増えて、幼馴染みにしわがと言われるので、拳をお見舞いしているのですが……」
苦笑する。
「幼馴染み?」
「あ、聞かれていませんでしたか? 祐次くんや観月ちゃんに。私は出身が京都で『まつのお』の双子とこれからくる錦……北山錦と幼馴染みなのです。双子の鬱陶しい方の標野が、祐次くんの従姉と結婚しているんですよ」
「誰が鬱陶しいや。おっさんが」
二人の女性をつれた細身の男性。
「あれー? うわぁ、わっかいなぁ。錦、あかんわ。おばはんや。38やもんなぁ」
「女性の歳を言うなんて……媛ちゃんに後で締めて貰いなさい!」
「アイッタァァ! ヒールでグリグリ……に、ギャァァ! 嫁はん、悪かったわ! それはやめて! 仕事でけへんようになるさかいに~!」
スーツ姿の美女と快活そうな女性に、文字通り締められているのを冷たく、
「あれが、恥ずかしながら幼馴染みの松尾標野です。で、小柄な方は幼馴染みの奥さんの公には安部媛さん。もう一人が北山錦。幼馴染みで同僚です」
「大塚柚月さんですね。お久しぶりです。何度かお会いしましたが……あの頃よりも若返りました?」
錦が本気で真顔で問いかける。
「羨ましい! 本気で美容方法をお伺いしたいわ!」
「仕事中に無駄話は、給料からカット!」
「何ですって? 女性にとって、美しさと愛らしさと素直さをとったら、醜いだけよ! 私も夫と子供の為に……」
「お前がいつもきゃんきゃん言っているからだ。しわとシミに注意しろ。それとお前が今更可愛くなっても誰も喜ぶか。無駄な知識仕入れるより、仕事をしろ」
「きぃぃ~! ムカつく! もう、コイツと居たくないわ! シィ! コイツ連れて行きなさいよ! 仕事仕事って、過労死しなさい! ボケ!」
錦が、スーツのミニスカで嵯峨を蹴りあげようとしたが、スッと避ける。
「では、柚月さん。うるさい奴ですが、情はあるので安心して下さい」
「は、はぁ……」
一礼して立ち去る嵯峨を、柚月はぼんやりと見送ったのだった。
「うっわー、気持ち悪っ」
「ほんまやなぁ……」
幼馴染みの二人は奇妙な顔をする。
「えっ? 気持ち悪い……?」
「あ、あぁ、こっちの話ですわ。な? 錦」
「えぇ、柚月さん。仕事は?」
「あ、個人病院の看護師をしていて、宿直だったのですが……ご迷惑になってはと、先生と先輩に連絡をして、しばらく休みを戴きました……ですが思った以上に大変なことになっているようですね? 祐次くんは悪くないのに……それに、大原さんだけで無く、北山さんまでお忙しくなる事案ということは、私は観月の為にも退職を申し出ようかと……5年前の慰謝料がありますし……切り崩せばしばらく生活できると思います。駄目なら実家に戻って……」
俯く柚月に、
「それは、嵯峨……大原に言いましたか?」
「いえ。私事なので……」
「違うでしょう」
錦は電話を掛ける。
「あ、大原さん? え? 仕事に私情は持ち込むなでしょ? 仕事よ仕事。柚月さん。今日からしばらく仕事を休むそうよ。……あ、知ってる?違うわよ。今、考えているのは、思った以上に事件の大変さに、職場に迷惑はかけられないのと観月ちゃんの傍にいた方がいいかもしれないって、退職も視野にいれているそうよ。それは、そっちの仕事でしょ? つけといて……えぇ、そう。退職も視野。そっちの案件で情報が漏れたかもしれないでしょ? すぐに職場に向かうから。……えぇ、私はここは不案内だから、アシは標野にさせるわ。標野から交通費に仕事に支障が出たって書類も提出させるから、よろしくね」
と切った美女は嬉しそうに、
「では、シィ! 運転よろしくね? 帰りに柚月さんの家に行って、荷物を取りに行きましょう。私と同じホテルに滞在して戴くわ」
とどや顔で、幼馴染みに指示をしたのだった。
車を止め、窓を開ける。
「何しとんで! 迷惑やろが! はよどかんか!」
温厚な哲哉だが、今回は激怒している為、粗い口調である。
その横で苺花が、スマホで映像を撮影している。
「何、人んちの門を開けて、入り込んどんぞ!」
朗らかな愛は庭に花壇をつくり、可愛い花を育てていた。
それも踏み荒らされている。
哲哉もスマホで撮影し、ボタンを押す。
数コールで電話が繋がる。
『もしもし、警察ですが』
「すみません。霞が台の大角と言いますが、隣の家の門を開けて、無断侵入しとるんですけど? うちは奥なんで、車も通れなくて迷惑しとるんですが? 何とかして貰えませんか~! おい、逃げんなや!」
「すみません~名刺下さい! くれないと、警察に映像を送っておきますよ~!」
苺花が窓を開け、手を差し出す。
「すみません! もう家に帰れんけん、迷惑しとるんですけど、すぐ来て貰えませんか~? それに、Twitterに勝手にうちの娘の写真が了承もなく出回って、迷惑しとんですけど~?」
『Twitterですか?』
「えぇ! 家族ぐるみで付き合いのある隣のご一家と一緒に、娘と今度生まれる子供用品を買いに行ったんですけどね? 隣のお兄ちゃんが娘は大好きで、だっこをせがんでいて、抱いて貰っていて喜んでいる写真を、知らん人に撮られてツイッターに流されたんです。顔が隠されてないですし、個人情報じゃないですか? しかも、流した人間を調べずに、撮られて迷惑しとる家に押し掛けるんはおかしないですか?」
『向かわせましたのでお待ち下さい。お名前をお伺いしてもよろしいですか?』
「大角哲哉です。よろしく頼みます。自分の家にも帰れんので、人の家に入り込んどる人間を逃げんようにしときますので」
電話を切ると、映像に切り替え車を出る。
「逃げんなや。嫁が撮りよるで。ほら、名刺を渡すけん、そっちも貰えるかいな?」
自分の名刺を渡すと、相手も仕方なく名刺を出してくる。
渡さない者はちゃんと映像に納めておく。
これは、証拠として提出するつもりである。
「で、あんたらはどこからその情報を持ってきたんで?」
「Twitterに……」
「あの不知火寛爾選手の息子やって」
「写真に撮られとる子供は、うちの子供や! 不知火さんの息子さんが、うちの子を抱いてくれとったんや! うちの嫁が二人目がおって、大変やけん抱いとくわ、言うて! 知り合いの子を不知火さんが預かっとって、その子と並んで歩きよったんや! 家の子の服や、二人目が生まれるけん、その準備にと出掛けとったのに!」
哲哉は怒鳴り付ける。
「証拠も何もなく、よう、ここにこれたな? Twitterに流した人間には連絡したんか? 言うてみいや!」
「えっと、その……」
「ここにおれ! 警察が来るわ! 逃げんなや! あんたらのお陰で、俺も家族もえぇ迷惑や! 家の子供の写真も流れてしもた! 告訴するわ! それに、不知火さん家に勝手に入り込んだって、言うとこわい。弁護士さんもう準備しよるで!」
一喝すると、丁度警察の車両が姿を見せる。
「通報されたのは……」
出てきた警察官に手をあげる。
「私です。ここの奥に家があるんですが、その前を陣取っとって……その上に、この家の庭とかにも入りこんどったんで通報しました。私は、こういうものです」
名刺を差し出す。
受け取った警官に、スマホを差し出し、撮っていた映像を見せる。
「こんな感じです……何かTwitterに上げられた情報を鵜呑みにして来たそうですが、私も見たのですが、写っていたのは隣の息子さんに知り合いの子、そして家の子供です。なのに調べもせずにここにおるんですけど?」
「……これは……」
「この人らに、帰るように言うて下さい。このことはもうすでに、お隣と一緒に弁護士を依頼しとるんで……Twitterをあげた人もあおった人も、今回名刺も戴いとんで、この映像も弁護士さんにお渡ししますわ」
「えと……」
どう対処しようかと考えていた警官の耳に、子供の泣き声が届いた。
車の中で待っている子供らしい。
「マンマー。マンマー! ふあぁぁん!」
「あー! ごめんね~! おやつ持ってきてなかった。待ってね? お家に帰れないから」
「うぎゃぁぁぁ~! マンマー!」
泣き声が激しくなる。
哲哉は、振り返りつつ、
「すいません。子供も小さいんで、後は頼みます。追い払って下さいや」
「解りました」
警官も子供が泣くのは困ると、車が通れるように移動させ、その後、名刺などを預かり立ち去らせたのだった。
泣きじゃくる娘を抱いて家に入った哲哉は、食事を苺花に頼み、電話を掛ける。
「もしもし、嵯峨さんですか?」
『えぇ、大丈夫でしたか?』
「いえ、取材陣が殺到していたので、警察呼んで追い払って貰いました。一応あの写真の子供はうちの子だと言っておいたんですが……すみません」
『同じ案件ですから、哲哉くんのお子さんも被害にあったと先方に伝えます。大丈夫ですよ』
「よろしくお願い致します。でもお隣が、庭とかにも侵入した跡があって……酷く荒れてました。私と苺花のスマホで撮影してます」
『又、後でお伺いしますね? 私は今、錦……同僚を待っているところです。柚月さんの所に向かいました』
哲哉はホッとする。
「そうですか。良かったです。観月ちゃんのことが心配でしょうし……。じゃぁ、又後でよろしくお願い致します」
電話を切ると哲哉は、苺花が昼御飯を作っている間、ぐずる苺をあやしに戻っていったのだった。
5年前の憔悴しきってやつれていた顔が、少し健康そうだが、何処と無く雰囲気が違うことに気がついた。
「お久しぶりです。大塚さん」
「本当に、あの時はありがとうございました」
観月は本当に年齢に見えない程幼かったが、嵯峨よりも2つ下の柚月も年齢に見えない程童顔である。
その上、親子と間違う程うり二つである。
「いえ、あの時は仕事ですから」
と言い、嵯峨は慌てて、
「すみません。実は、今回相談を戴いた件なのですが、私は祐次くんの個人情報の方を優先する為に、代わりに同僚に来て貰うつもりです。申し訳ありません」
「そ、そうですか……」
「あ、観月ちゃんの事についても関わりますので、きちんとさせて戴きます」
「はい! み、観月のことは、どうか!」
不安そうだったが、一瞬にして表情が変わった。
孤独に追い込まれていた5年前とは違う……10年前の事件の時の風遊や晴海、せとかの眼差しに、表情に似ている。
「……あぁ、そうなのですね」
「えっ?」
「あ、いえ……今の柚月さんは、私の知人のお母さんとよく似た顔になっていて……貴方はもう、観月ちゃんのお母さんなのだと思いまして」
「えっ!」
頬に手を当てる柚月に、普段は固い嵯峨もふっと微笑む。
「前にお会いした時よりも、本当に強い、そして愛情に溢れる眼差しで安心しました」
「老けたと思いますが……」
「いえ、逆にお若く見えますよ。私は白髪も増えて、幼馴染みにしわがと言われるので、拳をお見舞いしているのですが……」
苦笑する。
「幼馴染み?」
「あ、聞かれていませんでしたか? 祐次くんや観月ちゃんに。私は出身が京都で『まつのお』の双子とこれからくる錦……北山錦と幼馴染みなのです。双子の鬱陶しい方の標野が、祐次くんの従姉と結婚しているんですよ」
「誰が鬱陶しいや。おっさんが」
二人の女性をつれた細身の男性。
「あれー? うわぁ、わっかいなぁ。錦、あかんわ。おばはんや。38やもんなぁ」
「女性の歳を言うなんて……媛ちゃんに後で締めて貰いなさい!」
「アイッタァァ! ヒールでグリグリ……に、ギャァァ! 嫁はん、悪かったわ! それはやめて! 仕事でけへんようになるさかいに~!」
スーツ姿の美女と快活そうな女性に、文字通り締められているのを冷たく、
「あれが、恥ずかしながら幼馴染みの松尾標野です。で、小柄な方は幼馴染みの奥さんの公には安部媛さん。もう一人が北山錦。幼馴染みで同僚です」
「大塚柚月さんですね。お久しぶりです。何度かお会いしましたが……あの頃よりも若返りました?」
錦が本気で真顔で問いかける。
「羨ましい! 本気で美容方法をお伺いしたいわ!」
「仕事中に無駄話は、給料からカット!」
「何ですって? 女性にとって、美しさと愛らしさと素直さをとったら、醜いだけよ! 私も夫と子供の為に……」
「お前がいつもきゃんきゃん言っているからだ。しわとシミに注意しろ。それとお前が今更可愛くなっても誰も喜ぶか。無駄な知識仕入れるより、仕事をしろ」
「きぃぃ~! ムカつく! もう、コイツと居たくないわ! シィ! コイツ連れて行きなさいよ! 仕事仕事って、過労死しなさい! ボケ!」
錦が、スーツのミニスカで嵯峨を蹴りあげようとしたが、スッと避ける。
「では、柚月さん。うるさい奴ですが、情はあるので安心して下さい」
「は、はぁ……」
一礼して立ち去る嵯峨を、柚月はぼんやりと見送ったのだった。
「うっわー、気持ち悪っ」
「ほんまやなぁ……」
幼馴染みの二人は奇妙な顔をする。
「えっ? 気持ち悪い……?」
「あ、あぁ、こっちの話ですわ。な? 錦」
「えぇ、柚月さん。仕事は?」
「あ、個人病院の看護師をしていて、宿直だったのですが……ご迷惑になってはと、先生と先輩に連絡をして、しばらく休みを戴きました……ですが思った以上に大変なことになっているようですね? 祐次くんは悪くないのに……それに、大原さんだけで無く、北山さんまでお忙しくなる事案ということは、私は観月の為にも退職を申し出ようかと……5年前の慰謝料がありますし……切り崩せばしばらく生活できると思います。駄目なら実家に戻って……」
俯く柚月に、
「それは、嵯峨……大原に言いましたか?」
「いえ。私事なので……」
「違うでしょう」
錦は電話を掛ける。
「あ、大原さん? え? 仕事に私情は持ち込むなでしょ? 仕事よ仕事。柚月さん。今日からしばらく仕事を休むそうよ。……あ、知ってる?違うわよ。今、考えているのは、思った以上に事件の大変さに、職場に迷惑はかけられないのと観月ちゃんの傍にいた方がいいかもしれないって、退職も視野にいれているそうよ。それは、そっちの仕事でしょ? つけといて……えぇ、そう。退職も視野。そっちの案件で情報が漏れたかもしれないでしょ? すぐに職場に向かうから。……えぇ、私はここは不案内だから、アシは標野にさせるわ。標野から交通費に仕事に支障が出たって書類も提出させるから、よろしくね」
と切った美女は嬉しそうに、
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