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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》
番外編……乳母子ミル
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「ミ~ル~ちゃん……あそぼ?」
うちの姫は、今日も標準装備内容から可愛い!
本当はお嬢様だけど、本当に本当に姫可愛いのだ!
「ダメですよ。姫さま。パジャマのままじゃないですか」
母さんが、眠い目を擦ってテディを抱っこして現れた姫にメッとした。
あたしはミル。
一応父さんは元騎士。
でも迷惑なことに父さんが配属されたばかりの時に、イキがる同期同士の喧嘩に巻き込まれて怪我をした。
ちなみに父さんは、喧嘩に突っ込んだというより、仲裁しようとして背後から斬られたのだとか。
背後からなんて卑怯だと父さんの指導官や先輩から、喧嘩した奴ら全員は吊るし上げられ、父さんが回復するまで全員の給料を半額にされた挙句、それは父さんの見舞い金と入院費となったようだ。
父さんは武器を扱う剣士としては飛び抜けて優秀とは言い難かったらしいけれど、元々参謀系騎士を嘱望されていた。
でも、刺された場所が悪かったようで、剣を振る腕が上がらないとか、寒い時には痛むとか後遺症に悩んでいたらしい。
リハビリと他の職種を考えるべきと言われ、まず、元々前線にいたものの内勤の多い王都の部署に異動、その時、王宮勤めをしていた母と出会い結婚した。
その後、父さんは騎士団総帥の甥の子であり、先輩騎士だった千夜さま付きとして引き抜かれた。
騎士としての勲章、栄誉は騎士団に残るものの、騎士としての籍は失うことになる。
けれど、月々定額の慰謝料は入る。
そして、騎士団にいた頃の数倍の給料が入る職場に配属された……もう一度言うが、千夜さま付きとして。
千夜さまは、本当に艶のある漆黒の髪と瞳をした、深みのある優しい声の騎士さま。
一般だった父さんと違い、エリート騎士。
国王陛下の従兄弟だからと言うだけではなく、海の向こうの国に外交に出向く国王陛下に同行したり、他国からの使者との交渉に赴いたり、大変お忙しい。
父さんも千夜さまについてあちこち行く。
あたしが生まれた頃も、忙しかったそうだ。
そうしていたら、半年前、今まで仕事はほぼ私服だったのに、新しい服が次から次に運ばれてきて、
「……千夜さまについて王宮に出入りしていたら……王太子殿下に気に入られて、後宮騎士団に入ることになった……」
と言っていた。
ちなみに後宮騎士団というのは、通常騎士とも一線を画した、国王陛下やその一家の側近集団。
千夜さまもそのお一人だ。
父さんは、千夜さま付きの時代も一般使用人にしてはかなり高給取りだったらしいのだが、後宮騎士団に取り立てられた時に渡された契約書を見て、絶句していた。
「……あの……これ、オレの騎士の初任給の何百倍ですかぁぁ!」
「それ、後でチェックしたら、阿呆な部隊長が君の給料抜いてたからね? 締めといて、君の当時の給料分は回収しといたよ?」
次期騎士総帥になるリュシオンさまが、にっこりと笑っていた。
可愛い顔してこの方はやる人なんだなと、あたしは思った。
「で、こっちが勤務表。傷に触ることはさせないけど、王太子殿下御一家中心に、特にヤンチャな第一皇子の調教よろしく」
「調教って、乗獣じゃありませんよ? 王子ですよね?」
「千夜たちの子供の千夏たちと同年代だよ。もう、遠慮なしに躾よろしく。王太子妃殿下は生来身体が丈夫じゃないから、ちょっと無理をするとすぐに倒れられる。やんちゃ坊主の世話なんて無理だからね。王太子殿下は真面目な方だけどちょっと抜けてて、詰めが甘いから、後で王弟殿下にどやされる。まぁ、出来はいいんだよ? でもバカほど可愛いっていうでしょ?」
「……」
迫力のある微笑みでそう聞かされた父さんは、必死に仕事に励んでいるらしい。
でも、千夜さまによると、総帥である現在の伯爵さまが規格外な人なので、その人が暴れる前にリュシオンさまにメッて言われておくと色々と安全なのだそうだ。
王太子殿下の弟王子はリュシオンさまの長女の夫で、その方もある意味無茶ばかりしていたそうだ。
ついでに次女のティアさまの夫のマルセルさまも手負いの獣だそうだ。
「カズール家は猛獣の檻だよね」
と迂闊なこと言って、殴り飛ばされた姫の叔母さまである月歩さまの旦那さんを見たのは記憶に新しい。
「テメェは、南の最前線に行ってこい! もう二度とフェリスタ家に戻ってくんな! この馬鹿亭主!」
姫とは物心ついた頃から一緒にいるけど、本当に可愛い。
昔は別の名前で呼んでいた。
その名前は意味のない言葉になったとかで、新しい名前になった。
乳母で現在姫付きの侍女長をしている母さんは、本当に嬉しそうだった。
姫の祖父母だったエドワードさまやレイ奥様はとてもとても優しい方で、あたしや母さんにも良くしてくださっていたけれど、他の人があたしも苦手だった。
「もう二度と会うことはないと思うわ」
そう言ってくださったのは、姫の今のお母様、日向夏さま。
千夜さまの奥様で優しい方だ。
「ミルちゃん、おはよう」
「あ、奥様おはようございます!」
「あら、今日はポニーテールなのね! とても似合ってるわ」
「姫さまとお揃いなんです。嬉しいです」
「あら? 今日はどこに行くの?」
姫は今母さんたちと着替え中。
そしてあたしは、
「剣の稽古です! あ、私は姫さま付きの護衛になろうと思います!」
「そうなの……気をつけてね? 向こうの稽古場に千夏や風深もいるから」
「はい!」
あたしは勉強時間前に今日も中庭で練習する幼馴染たちの元に向かう。
あたしは姫と一緒にいたい。
その為にも父さんのように勉強をしっかりして、色々と覚えていくつもりなのだ。
うちの姫は、今日も標準装備内容から可愛い!
本当はお嬢様だけど、本当に本当に姫可愛いのだ!
「ダメですよ。姫さま。パジャマのままじゃないですか」
母さんが、眠い目を擦ってテディを抱っこして現れた姫にメッとした。
あたしはミル。
一応父さんは元騎士。
でも迷惑なことに父さんが配属されたばかりの時に、イキがる同期同士の喧嘩に巻き込まれて怪我をした。
ちなみに父さんは、喧嘩に突っ込んだというより、仲裁しようとして背後から斬られたのだとか。
背後からなんて卑怯だと父さんの指導官や先輩から、喧嘩した奴ら全員は吊るし上げられ、父さんが回復するまで全員の給料を半額にされた挙句、それは父さんの見舞い金と入院費となったようだ。
父さんは武器を扱う剣士としては飛び抜けて優秀とは言い難かったらしいけれど、元々参謀系騎士を嘱望されていた。
でも、刺された場所が悪かったようで、剣を振る腕が上がらないとか、寒い時には痛むとか後遺症に悩んでいたらしい。
リハビリと他の職種を考えるべきと言われ、まず、元々前線にいたものの内勤の多い王都の部署に異動、その時、王宮勤めをしていた母と出会い結婚した。
その後、父さんは騎士団総帥の甥の子であり、先輩騎士だった千夜さま付きとして引き抜かれた。
騎士としての勲章、栄誉は騎士団に残るものの、騎士としての籍は失うことになる。
けれど、月々定額の慰謝料は入る。
そして、騎士団にいた頃の数倍の給料が入る職場に配属された……もう一度言うが、千夜さま付きとして。
千夜さまは、本当に艶のある漆黒の髪と瞳をした、深みのある優しい声の騎士さま。
一般だった父さんと違い、エリート騎士。
国王陛下の従兄弟だからと言うだけではなく、海の向こうの国に外交に出向く国王陛下に同行したり、他国からの使者との交渉に赴いたり、大変お忙しい。
父さんも千夜さまについてあちこち行く。
あたしが生まれた頃も、忙しかったそうだ。
そうしていたら、半年前、今まで仕事はほぼ私服だったのに、新しい服が次から次に運ばれてきて、
「……千夜さまについて王宮に出入りしていたら……王太子殿下に気に入られて、後宮騎士団に入ることになった……」
と言っていた。
ちなみに後宮騎士団というのは、通常騎士とも一線を画した、国王陛下やその一家の側近集団。
千夜さまもそのお一人だ。
父さんは、千夜さま付きの時代も一般使用人にしてはかなり高給取りだったらしいのだが、後宮騎士団に取り立てられた時に渡された契約書を見て、絶句していた。
「……あの……これ、オレの騎士の初任給の何百倍ですかぁぁ!」
「それ、後でチェックしたら、阿呆な部隊長が君の給料抜いてたからね? 締めといて、君の当時の給料分は回収しといたよ?」
次期騎士総帥になるリュシオンさまが、にっこりと笑っていた。
可愛い顔してこの方はやる人なんだなと、あたしは思った。
「で、こっちが勤務表。傷に触ることはさせないけど、王太子殿下御一家中心に、特にヤンチャな第一皇子の調教よろしく」
「調教って、乗獣じゃありませんよ? 王子ですよね?」
「千夜たちの子供の千夏たちと同年代だよ。もう、遠慮なしに躾よろしく。王太子妃殿下は生来身体が丈夫じゃないから、ちょっと無理をするとすぐに倒れられる。やんちゃ坊主の世話なんて無理だからね。王太子殿下は真面目な方だけどちょっと抜けてて、詰めが甘いから、後で王弟殿下にどやされる。まぁ、出来はいいんだよ? でもバカほど可愛いっていうでしょ?」
「……」
迫力のある微笑みでそう聞かされた父さんは、必死に仕事に励んでいるらしい。
でも、千夜さまによると、総帥である現在の伯爵さまが規格外な人なので、その人が暴れる前にリュシオンさまにメッて言われておくと色々と安全なのだそうだ。
王太子殿下の弟王子はリュシオンさまの長女の夫で、その方もある意味無茶ばかりしていたそうだ。
ついでに次女のティアさまの夫のマルセルさまも手負いの獣だそうだ。
「カズール家は猛獣の檻だよね」
と迂闊なこと言って、殴り飛ばされた姫の叔母さまである月歩さまの旦那さんを見たのは記憶に新しい。
「テメェは、南の最前線に行ってこい! もう二度とフェリスタ家に戻ってくんな! この馬鹿亭主!」
姫とは物心ついた頃から一緒にいるけど、本当に可愛い。
昔は別の名前で呼んでいた。
その名前は意味のない言葉になったとかで、新しい名前になった。
乳母で現在姫付きの侍女長をしている母さんは、本当に嬉しそうだった。
姫の祖父母だったエドワードさまやレイ奥様はとてもとても優しい方で、あたしや母さんにも良くしてくださっていたけれど、他の人があたしも苦手だった。
「もう二度と会うことはないと思うわ」
そう言ってくださったのは、姫の今のお母様、日向夏さま。
千夜さまの奥様で優しい方だ。
「ミルちゃん、おはよう」
「あ、奥様おはようございます!」
「あら、今日はポニーテールなのね! とても似合ってるわ」
「姫さまとお揃いなんです。嬉しいです」
「あら? 今日はどこに行くの?」
姫は今母さんたちと着替え中。
そしてあたしは、
「剣の稽古です! あ、私は姫さま付きの護衛になろうと思います!」
「そうなの……気をつけてね? 向こうの稽古場に千夏や風深もいるから」
「はい!」
あたしは勉強時間前に今日も中庭で練習する幼馴染たちの元に向かう。
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