待ち合わせはモリスで

翼 翔太

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初めての楽しさ

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 もうすぐ冬休みになるこの日も、京は『モリス』に行った。すると二階ではほうかちゃんと、編み物が得意な店員さん、富原さんがなにかしていた。作業場に店員さんがいるのはめずらしい。
「ほうかちゃん、なにしてるの?」
「あ、京ちゃん。ブレスレットつくってるんだ。なんか今日ね、体験教室してるんだって。こんなの」
 ほうかちゃんが編みかけのブレスレットを見せてくれた。どうやら編みもので使うかぎ針でつくっているようだ。赤と白でなんとなくクリスマスのふんいきを感じた。
「やっぱり平日の昼間だからあんまりお客さんもこなくてね。ほうかちゃんが参加してくれてよかった」
 富原さんが言った。
「せっかくだし、やってみようと思って。京ちゃんもやろう」
 かぎ針を使うのも、ビーズ以外でブレスレットをつくるのも初めてだ。京は少し考えた。ほうかちゃんと富原さんを見る。
 京がうまくつくれなかったとしても、この人たちは笑わない。そう思うとやってみたくなった。京は「うん」と首を縦にふる。
 京は用意されていた道具を富原さんから受けとった。一メートルもある、刺しゅう糸が白と黄色の二色、編みもので使うかぎ針、パールに似たビーズ二個。
「今日はこの刺しゅう糸を編んで、ブレスレットをつくります。慣れてくると簡単よ」
 京は富原さんに教えてもらったとおりに、つくりはじめる。しかしかぎ針がするすると滑ってしまう。ようやくかぎ針に刺しゅう糸がひっかかったと思ったら、次は輪にかぎ針がとおらない。
「ここの、交差してるところあるでしょう? ここを少しゆるめてから、左手の親指と薬指で押さえると、とおしやすくなるわよ」
 富原さんに言われたようにすると、輪の中にかぎ針がとおった。その後も編み方を教えてもらいながら、ブレスレットを編む。力を入れ過ぎず、頭の中で編む順番を考えながら手を動かした。最初はどう動かせばいいのかわからず、ひんぱんに富原さんに尋ねた。しかし何度も編んでいるうちに、どのようにすればいいのかわかってきた。
 京は、いやほうかちゃんもいつものようにおしゃべりはせず、夢中になってブレスレットを編んだ。
「できたっ」
 先にはじめていたほうかちゃんが、久しぶりに声を上げた。京は頭の片隅に次にすることを覚えておき、ほうかちゃんのほうを見る。
「どんな風になったの?」
 ほうかちゃんは編んだブレスレットを見せてくれた。富原さんがつくったお手本のように交互に二色並んでいるわけではないが、その見た目が反対におしゃれに見えた。
「いい感じだね」
「えへへ。いろんなところで頭が混乱しちゃった。それにまっすぐにならなかったんだよね」
 よく見るとたしかに、ブレスレットは内側に少し曲がっていた。するとそれを見た富原さんが、納得した様子でほうかちゃんに言った。
「編むときの力加減が均一じゃなかったのね。力加減がばらばらだと、曲がっちゃうの。あと力を入れ過ぎてもね」
「そうなんだ。でもけっこう楽しいかも」
「うん」
 うなずいて、京は再びブレスレットを編みはじめた。
 しばらく編み続けると、ようやくブレスレットが完成した。
「できた」
 京は少し離してブレスレットを見た。
「あ」
 京はようやく気づいた。三カ所ほど編み方をまちがえていて、柄が不自然になっているのだ。
「失敗しちゃった……」
 京が落ちこんでいると、ブレスレットを見たほうかちゃんが「そんなことないよ」と言った。
「だってほら、ここと、ここと、ここ。大体同じぐらいの位置にあるでしょ? だからそういう柄に見えて、おしゃれな感じするよ。それにまっすぐできてるし、すごいよ」
 すると富原さんもうなずいた。
「そうね。二人とも初めてつくったのに、とても上手。クリスマスらしいブレスレットと、明るくって元気が出そうなブレスレット。どっちもすてきよ」
 京とほうかちゃんは互いのブレスレットを見たあとに、自分のものを見る。富原さんの言うとおりで、どちらもすてきに思えた。
 ふと、京はあることを思いつき、ビーズのケースを開けた。そこにはリースづくりのときに余った、星が三つ入っている。
「ほうかちゃん、針と糸借りていい?」
「うん。はい」
 京は針がささった針山と、白い糸を借りると、ブレスレットに星をぬいつけた。
「わあっ、すごくいいよ、京ちゃんっ」
「本当、星とブレスレットの色がよく合ってるわ。白も入ってるから、星が黄色でもきちんとわかるし。すてきなアクセサリーになったわね」
 京は小さくうなずくと、うれしい気持ちをおさえきれず、星のブレスレットを身に着けた。星が電気の光を反射して、ほこらしげにきらりと光る。
「いいなあ。わたしもなにかフェルトで、かざりつけしようかなあ」
「あら、すてきね。ちょうど冬だし、フェルトみたいな温かみのある素材って、ぴったりだと思うわ」
 富原さんがほうかちゃんに言った。ほうかちゃんは「よーしっ」と言って、ブレスレットのかざりをつくる準備をはじめた。
「どんなのにするの?」
「花にしようかなって。でも冬の花ってなにがあるかな?」
 京は首をかしげながら考えた。花には詳しくないので、まったく浮かばない。どうやらほうかちゃんも同じらしく、似たようなポーズをとっていた。すると富原さんが言った。
「水仙とかアネモネとか、スノードロップが冬の花ね。あとはシクラメンとか」
「全然見た目のイメージがつかない」
 ほうかちゃんの言葉に京もうなずいた。すると富原さんが「ちょっと待っててね」と言って、一階へ下りて、すぐにもどってきた。その手にはスマートフォンがにぎられている。そして教えてくれた花の画像を見せてくれた。ほうかちゃんはかわいらしい見た目から、アネモネにすることにしたらしく、完成図を描きはじめた。
 ふと京の頭の中にブレスレットのデザインが浮かんだ。編みこんだところの両端にビーズを三つずつとおすと、ふんいきが大人っぽくなる気がした。
「あの、もう一本編んでもいいですか?」
「ええ、もちろん。どうぞ」
 富原さんは色とりどりの刺しゅう糸を出してくれた。京はビーズのケースを見る。使いたいのは、割れない程度にひびが入った濃いピンク色の丸いビーズ。その色に合うように、紫と白を選んだ。かぎ針でブレスレットを編みはじめる。
 しばらくすると、ほうかちゃんが小さく肩をつついてきた。
「できたよっ」
 ほうかちゃんがブレスレットを見せてくれた。赤いフェルトでつくったアネモネがまん中についている。
「かわいいっ。でも大人っぽい雰囲気もあるね」
「えへへ、ありがとう。京ちゃんも、新しいブレスレットつくるの?」
「うん。あのね、ビーズをこんな風にとおして……」
 京は頭に浮かんでデザインを説明した。すると富原さんが「いいわねえ、それ」と言ってくれた。
初めてのことなのに、すごく楽しい。初めてはこんなに楽しいのだ。
 京はブレスレットを見る。
このブレスレットは、壊れても絶対に捨てない。そう決めた。京に初めての楽しさを思い出させてくれた、大切なものなのだから。
 手首ごとブレスレットをにぎる。ビーズのかたい感触が心地よかった。
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