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8.よどみ その1
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次の日、まゆかとミカラちゃん、ミルクの三人は朝ごはんを食べるために、一緒に食堂へむかった。今日の朝ごはんはコーンスープと、食パンにほうれん草のソテーと目玉焼きをのせたものだった。
「アタシね、実はよどみになりかけたことがあるんだ」
ほうれん草のソテーと目玉焼きの食パンをかじったミカラちゃんが、視線を落として言った。
「よどみって?」
「あれ、まゆかちゃんの世界によどみってないの?」
まゆかがうなずくと、ミカラちゃんは説明してくれた。
「よどみっていうのはね、苦しみや悲しみが暴走して生まれる存在でね、人に災いを与えるの。一回でも、よどみになった人は、ずっとその場所に留まり続けるんだって。だからこの世界にはね、立ち入り禁止のところが何か所があるんだ」
ミカラちゃんは、ゆっくりとまばたきをした。
「よどみになりそうになったとき、すっごく悲しくって、息ができないくらい、つらくって。あのまま、よどみになってたら……まゆかちゃんとミルクくんに、会えてなかった」
「どうやって、よどみじゃなくなったの?」
ミルクが尋ねた。するとミカラちゃんは一口モロンの実のジュースを飲んでから、教えてくれた。
「お母さんがね、何回もアタシのこと呼んでくれたの。あったかくて、やさしい声だった。その声聞いてたら、すごく落ち着いて。気がついたら……お母さんがいたんだ。それで、よどみになりかけてたって言われたの」
「じゃあ、ミカラちゃんはわかってなかったんだ?」
まゆかの質問にミカラちゃんはこくんと、うなずいた。
「からかわれた次の日にね、学校に行きたくないって思ったんだ。それで悲しかった気持ちとか思い出しちゃって。そしたら……よどみになりかけてたみたい」
まゆかは食事をやめ、ミカラちゃんのとなりに移動すると、立ったままミカラちゃんを抱きしめた。
「ありがとう、まゆかちゃん。もう、よどみになるほどの気持ちはないよ。だいじょうぶ」
「だいじょうぶだったら、ここに来ないよ」
「そりゃそっか」
ミカラちゃんがぎゅっと抱きしめ返してきた。
「本当はね、食堂のごはんを食べるのも、ちょっといやなんだ。男の人がつくってるみたいだから」
ミカラちゃんの言葉に、まゆかはあることを思い出した。初めてこの食堂でおしゃべりをすることになったとき、ぬいぐるみに耳打ちをしていた。
(もしかして、ガルニーさんも男の人だから? それだけ……ミカラちゃんは悲しい思いをしたんだよね)
まゆかはもう一度、ミカラちゃんを抱きしめた。
食堂で朝ごはんを終えた三人は、フロントのほうに足がむいた。ソファー席には、いつもどおりサナさんがすわっていた。
「あの女の人、毎日あそこの席にいるんだよね」
まゆかがふと口にすると、ミルクは女の人のところにかけ出した。
「ミルクッ?」
ミルクは女の人の足元にくると、声をかけた。
「こんにちは、ぼくミルクっていうの。なんてお名前?」
サナさんはミルクを見たが、すぐにふいっと視線を外した。まゆかはあわてて、ミルクにかけ寄る。
「す、すみませんでしたっ」
まゆかは頭を下げると、足早にミカラちゃんのところにもどった。
「だめだよ、ミルク。知らない人のところに行っちゃ」
「でも、お話できたら楽しいと思うよ?」
「そうだけど……」
するとミカラちゃんが口をへの字に曲げて言った。
「でもあの人、感じ悪かったよね。せめてあいさつは返したらいいのに」
たしかに怖いふんいきはあった。けれど、もしそれがまゆかのように、心を守っているのだとしたら。
(もしかしたら、あたしもあんな風に見えたのかな)
もしかすると、サナさんもだれかと接するのが、こわいのかもしれない。そう思うと、まゆかはミカラちゃんの言葉にうなずくことができなかった。
その日の夕食はオムライスと、からあげ三個、サラダだった。
「オムライスとからあげなんて、すごく豪華だったね、ミルク」
「まゆかちゃん、おいしそうに食べてたね。ぼくも食べられたらなあ」
そんな風に話しながら部屋にもどっていると、一番手前の部屋、二〇一号室の前にジートさんが立っていた。まゆかはなんとなく、壁のかげに姿を隠した。
「まゆかちゃん、どうしたの?」
「シーッ」
まゆかはミルクを抱き上げ、ジートさんを見る。ジートさんは二〇一号室にノックをする。するとドアが開いた。しかしドアがじゃまで、だれの部屋なのかまではわからない。
「調子はどう? サナ」
どうやら二〇一号室はサナさんの部屋のようだ。
「別に。いつもどおりよ。……話あるんなら、中入ったら」
ドアが静かに閉まる。まゆかはそっと壁から顔を出し、足音をなるべく立てずに、自分の部屋に入った。
(ジートさんとサナさんって、知り合いだったんだ。それにしても、いったいなんの用事だったんだろ?)
まゆかがそんな風に考えていると、ミルクが「下ろしてー」とうったえてきた。まゆかはミルクを床に立たせる。
「まゆかちゃん、明日はなにして遊ぶ?」
「そうだなー、ミカラちゃんもいっしょに相談してみよ。ミルクはしたいこと、ある?」
「ぼくはねー……」
まゆかはミルクとおしゃべりをしながら、今日も眠りについた。
「アタシね、実はよどみになりかけたことがあるんだ」
ほうれん草のソテーと目玉焼きの食パンをかじったミカラちゃんが、視線を落として言った。
「よどみって?」
「あれ、まゆかちゃんの世界によどみってないの?」
まゆかがうなずくと、ミカラちゃんは説明してくれた。
「よどみっていうのはね、苦しみや悲しみが暴走して生まれる存在でね、人に災いを与えるの。一回でも、よどみになった人は、ずっとその場所に留まり続けるんだって。だからこの世界にはね、立ち入り禁止のところが何か所があるんだ」
ミカラちゃんは、ゆっくりとまばたきをした。
「よどみになりそうになったとき、すっごく悲しくって、息ができないくらい、つらくって。あのまま、よどみになってたら……まゆかちゃんとミルクくんに、会えてなかった」
「どうやって、よどみじゃなくなったの?」
ミルクが尋ねた。するとミカラちゃんは一口モロンの実のジュースを飲んでから、教えてくれた。
「お母さんがね、何回もアタシのこと呼んでくれたの。あったかくて、やさしい声だった。その声聞いてたら、すごく落ち着いて。気がついたら……お母さんがいたんだ。それで、よどみになりかけてたって言われたの」
「じゃあ、ミカラちゃんはわかってなかったんだ?」
まゆかの質問にミカラちゃんはこくんと、うなずいた。
「からかわれた次の日にね、学校に行きたくないって思ったんだ。それで悲しかった気持ちとか思い出しちゃって。そしたら……よどみになりかけてたみたい」
まゆかは食事をやめ、ミカラちゃんのとなりに移動すると、立ったままミカラちゃんを抱きしめた。
「ありがとう、まゆかちゃん。もう、よどみになるほどの気持ちはないよ。だいじょうぶ」
「だいじょうぶだったら、ここに来ないよ」
「そりゃそっか」
ミカラちゃんがぎゅっと抱きしめ返してきた。
「本当はね、食堂のごはんを食べるのも、ちょっといやなんだ。男の人がつくってるみたいだから」
ミカラちゃんの言葉に、まゆかはあることを思い出した。初めてこの食堂でおしゃべりをすることになったとき、ぬいぐるみに耳打ちをしていた。
(もしかして、ガルニーさんも男の人だから? それだけ……ミカラちゃんは悲しい思いをしたんだよね)
まゆかはもう一度、ミカラちゃんを抱きしめた。
食堂で朝ごはんを終えた三人は、フロントのほうに足がむいた。ソファー席には、いつもどおりサナさんがすわっていた。
「あの女の人、毎日あそこの席にいるんだよね」
まゆかがふと口にすると、ミルクは女の人のところにかけ出した。
「ミルクッ?」
ミルクは女の人の足元にくると、声をかけた。
「こんにちは、ぼくミルクっていうの。なんてお名前?」
サナさんはミルクを見たが、すぐにふいっと視線を外した。まゆかはあわてて、ミルクにかけ寄る。
「す、すみませんでしたっ」
まゆかは頭を下げると、足早にミカラちゃんのところにもどった。
「だめだよ、ミルク。知らない人のところに行っちゃ」
「でも、お話できたら楽しいと思うよ?」
「そうだけど……」
するとミカラちゃんが口をへの字に曲げて言った。
「でもあの人、感じ悪かったよね。せめてあいさつは返したらいいのに」
たしかに怖いふんいきはあった。けれど、もしそれがまゆかのように、心を守っているのだとしたら。
(もしかしたら、あたしもあんな風に見えたのかな)
もしかすると、サナさんもだれかと接するのが、こわいのかもしれない。そう思うと、まゆかはミカラちゃんの言葉にうなずくことができなかった。
その日の夕食はオムライスと、からあげ三個、サラダだった。
「オムライスとからあげなんて、すごく豪華だったね、ミルク」
「まゆかちゃん、おいしそうに食べてたね。ぼくも食べられたらなあ」
そんな風に話しながら部屋にもどっていると、一番手前の部屋、二〇一号室の前にジートさんが立っていた。まゆかはなんとなく、壁のかげに姿を隠した。
「まゆかちゃん、どうしたの?」
「シーッ」
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「調子はどう? サナ」
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「ぼくはねー……」
まゆかはミルクとおしゃべりをしながら、今日も眠りについた。
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