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11.ティーパーティー その1
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次の日、まゆかとミルクはよどみの管理者がきて――今回は男の人だった――話をした。管理者の男の人が穏やかにほほえみながら話を聴いてくれたので、あまり緊張せずにすんだ。
ミカラちゃんとサナさんも、よどみの管理者に話をしたそうだ。詳しい内容までは聞いていないが、ミカラちゃんは「全然こわくなかったから、なんでも話しちゃった」と言っていた。
ジートさんも話を聞かれたそうだが、どちらかといえば、ぬいぐるみたちのチェックのほうが大変だったようだ。みんな怪我もなく、無事だったらしい。
よどみの管理者の人に話をした、さらに次の日。まゆかとミカラちゃんがいっしょに朝ごはんを食べていると、サナさんが食堂にやってきた。
「あ、サナさん。おはようございます」
「おはよう、サナさん」
「おはようございまーす」
「お、おは、よう」
サナさんの返事が少しぎこちなかったので、緊張しているのかもしれない。
「サナさんも、朝ごはんいっしょに食べませんか? 今日はフレンチトーストですって」
「いいの……?」
「ミカラちゃん、いいかな?」
「もちろん。いっしょに食べましょうよ」
「ぼくもいいよー」
サナさんは遠慮がちに、ミカラちゃんのとなりに座った。
「サナさん。アタシ、ミカラっていいます。ジェビーナからきました」
「まあ、そんなところから。あのあたりは海が近かったわね」
「ミカラちゃんの家、海の近くなんだ」
ミカラちゃんがうなずく。もう何年も友達のような気がするのに、ミカラちゃんについても知らないことが多そうだ。
「まゆかちゃんが住んでるところって、どんな感じ?」
ミカラちゃんに尋ねられ、まゆかは少し考えた。名物らしいものはないし、地下鉄の駅前こそにぎやかだが、少し離れると田んぼ、学校、家しかない。都会だとは言えないが、それでもまゆかは住んでいる町、明神抜町(みょうじんぬけちょう)が好きだと初めて気づいた。
「ええっとね、地下鉄の駅があって」
「え、ちかてつってなに?」
ミカラちゃんが食いついてきた。まゆかは地下鉄について説明していると、ミルクが口を開いた。
「サナさん、楽しそうだね」
「そう? ……そうかも、しれないわね。こんな風にだれかと食事をするのも、このホテルのぬいぐるみ以外と話すのも、とても久しぶりだから」
そういえば、食堂でサナさんを見た覚えがない。気になったまゆかは尋ねた。
「ふだん、どこでごはんを食べていたんですか?」
「自分の宿泊部屋よ。だれかと出会うのも話すのも、苦しくって、ずっと部屋にいたの」
サナさんは悲しみをごまかしているような、ほほえみを浮かべていた。それだけ、サナさんの心は傷ついていたのだ。想像すると、まゆかまで苦しくなる。
「でも、今日は食堂で食べようって思ったの。そのほうが、きっとおいしいだろうなって」
サナさんがそう言った直後、パンダのぬいぐるみがフレンチトーストを運んできた。サナさんはお皿などを受けとると、自分の前に置いた。たっぷりシロップをかけている。フレンチトーストをナイフとフォークで一口大に切って、口に運んだサナさんは笑った。
「おいしいわ、いつもより」
まゆかはミカラちゃんと顔を合わせ、にっこり笑った。
するとミカラちゃんが、すてきなアイディアを出してきた。
「そうだ、サナさん。部屋のそうじのあいだ、いっしょになにかしませんか? いつもまゆかちゃんとミルクくんと、遊んでるんです」
「いいの?」
「はい、もちろんです。ねー、まゆかちゃん」
「うん。サナさんは、なにかやりたいこととかあります?」
まゆかが尋ねると、サナさんは少し照れくさそうに言った。
「あなたたちと、おしゃべりがしたいわ。今まで最低限の会話しか、してこなかったから。それに、あなたたちのことをもっと知りたいの」
まゆかの心が温かいもので満たされていく。まゆかは首をたてにふった。
「じゃあ、おしゃべり、たくさんしましょう」
「ぼくもおしゃべり混ぜてくれる?」
「もちろんよ、ミルクくん」
「やったー」
ミルクはまゆかの太ももの上で、バンザイをした。まゆかはミルクの頭をなでる。
(サナさんのことも、どんどん知れたらいいな)
まゆかは上品にフレンチトーストを食べるサナさんを見て、そんな風に思った。
ミカラちゃんとサナさんも、よどみの管理者に話をしたそうだ。詳しい内容までは聞いていないが、ミカラちゃんは「全然こわくなかったから、なんでも話しちゃった」と言っていた。
ジートさんも話を聞かれたそうだが、どちらかといえば、ぬいぐるみたちのチェックのほうが大変だったようだ。みんな怪我もなく、無事だったらしい。
よどみの管理者の人に話をした、さらに次の日。まゆかとミカラちゃんがいっしょに朝ごはんを食べていると、サナさんが食堂にやってきた。
「あ、サナさん。おはようございます」
「おはよう、サナさん」
「おはようございまーす」
「お、おは、よう」
サナさんの返事が少しぎこちなかったので、緊張しているのかもしれない。
「サナさんも、朝ごはんいっしょに食べませんか? 今日はフレンチトーストですって」
「いいの……?」
「ミカラちゃん、いいかな?」
「もちろん。いっしょに食べましょうよ」
「ぼくもいいよー」
サナさんは遠慮がちに、ミカラちゃんのとなりに座った。
「サナさん。アタシ、ミカラっていいます。ジェビーナからきました」
「まあ、そんなところから。あのあたりは海が近かったわね」
「ミカラちゃんの家、海の近くなんだ」
ミカラちゃんがうなずく。もう何年も友達のような気がするのに、ミカラちゃんについても知らないことが多そうだ。
「まゆかちゃんが住んでるところって、どんな感じ?」
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「ええっとね、地下鉄の駅があって」
「え、ちかてつってなに?」
ミカラちゃんが食いついてきた。まゆかは地下鉄について説明していると、ミルクが口を開いた。
「サナさん、楽しそうだね」
「そう? ……そうかも、しれないわね。こんな風にだれかと食事をするのも、このホテルのぬいぐるみ以外と話すのも、とても久しぶりだから」
そういえば、食堂でサナさんを見た覚えがない。気になったまゆかは尋ねた。
「ふだん、どこでごはんを食べていたんですか?」
「自分の宿泊部屋よ。だれかと出会うのも話すのも、苦しくって、ずっと部屋にいたの」
サナさんは悲しみをごまかしているような、ほほえみを浮かべていた。それだけ、サナさんの心は傷ついていたのだ。想像すると、まゆかまで苦しくなる。
「でも、今日は食堂で食べようって思ったの。そのほうが、きっとおいしいだろうなって」
サナさんがそう言った直後、パンダのぬいぐるみがフレンチトーストを運んできた。サナさんはお皿などを受けとると、自分の前に置いた。たっぷりシロップをかけている。フレンチトーストをナイフとフォークで一口大に切って、口に運んだサナさんは笑った。
「おいしいわ、いつもより」
まゆかはミカラちゃんと顔を合わせ、にっこり笑った。
するとミカラちゃんが、すてきなアイディアを出してきた。
「そうだ、サナさん。部屋のそうじのあいだ、いっしょになにかしませんか? いつもまゆかちゃんとミルクくんと、遊んでるんです」
「いいの?」
「はい、もちろんです。ねー、まゆかちゃん」
「うん。サナさんは、なにかやりたいこととかあります?」
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「あなたたちと、おしゃべりがしたいわ。今まで最低限の会話しか、してこなかったから。それに、あなたたちのことをもっと知りたいの」
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ミルクはまゆかの太ももの上で、バンザイをした。まゆかはミルクの頭をなでる。
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まゆかは上品にフレンチトーストを食べるサナさんを見て、そんな風に思った。
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