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12.もう一度 その1
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サナさんと仲よくなって一週間。その日、まゆかとミカラちゃん、サナさんはソファー席でぬいものをすることになった。ミカラちゃんがサナさんに「針の使い方、教えてくださいっ」とたのんだからだ。せっかくなので、まゆかもなにか作ることにした。ミルクは見学だ。布はジートさんがたくさんくれた。
「ジートはマイスターだからね。たくさん持ってるのよ。それに基本的に午前中はぬいぐるみをつくってることが、多いんですって」
そんな風にサナさんが教えてくれた。男の人が苦手なミカラちゃんは複雑そうな顔をしていたけれど、ジートさんから別の布をもらっていた。ホテルのぬいぐるみに買ってきてもらったらしい。ミカラちゃんはその話を聞くと、安心した様子で布を受けとっていた。
まゆかは、ミルクのためにリボンをつくることにした。
「ミルク、なに色がいい?」
「ぼくねー、紺色がいい」
「え、もっと明るい色じゃなくていいの?」
まゆかが尋ねると、ミルクはにっこり笑って腰に手を当てた。
「かっこいい男の子には、かっこいい色だよ。パパさんが着てる服みたいでしょ?」
どうやらお父さんのスーツのことを言っているようだ。たしかにあの服は紺色だ。まゆかは「わかった」とうなずく。
サナさんに教えてもらいながら生地を切る。
「そうそう、それで半分に折って。そうすると、生地を切った部分が隠れて、きれいに見えるのよ」
まゆかは、ミルクがつけている緑色のリボンを見た。お母さんがつくったので、きれいな形をしている。
(お母さんって、やっぱりすごいんだなあ)
でもこのリボンはまゆかがつくって、ミルクにプレゼントしたかった。
「でもぼくね、ママさんのリボンも好きだよ。ぼくにぴったりの色を選んでくれたんだよ」
ミルクがまゆかの手をのぞきながら言う。
「まゆかちゃんのお母様も、手芸がお好きなの?」
「ぬいぐるみ作家なんです。ミルクもお母さんがつくってくれた子で。あたしの世界では、ぬいぐるみってどの子もしゃべらないから、ミルクがここで話せるようになって、すごくうれしいんです」
「そう。それなら、お母様はこっちに来たら、マイスターになれるかもしれないわね」
「サナさあん、ここ、どうぬうんですかあ? まったくわからなくってえ……」
ミカラちゃんが泣きそうな顔をしながら、助けを求めたので、サナさんは丁寧に教えはじめた。
(あっちに帰ったら。……あっちに帰るって、いつだろう)
まゆかはふと、疑問に思った。このホテルは、心が傷ついた人なら何日でも泊まることができる。だからこそ、いつまでもいたいと思ってしまう。
(あたしは……またイラスト、描けるのかな?)
もしも、またかわいい服を着た女の子のイラストが描けたら。でも、まただれかに、破かれたり捨てられたりしたら。
(すっごく、こわい)
まゆかの手がとまる。
「まゆかちゃん、どうしたの?」
ミルクに尋ねられて、まゆかはどう答えようか迷った。するとサナさんがこちらを見た。
「つらいことでも、思い出しちゃった?」
まゆかは小さくうなずく。サナさんは百合に似た花のししゅうをさしながら、話してくれた。
「やっぱり、悲しかったことや苦しかったことって、ふと思い出しちゃうわよね。ねえ、まゆかちゃん。あなたは、これから先、どんな心で過ごしたい?」
「え?」
考えたこともなかった。まゆかは手元を見ながら考えてみる。
(これから、先。【コットンフラワー】から家に帰ってから、あたしはどんな心でいたい?)
ミルクがこちらを見て、小さく首をかしげた。まゆかはそんなミルクも頭を、またなでる。
「あたしは……ミルクと笑顔でいたいです。ミルクといろんなところに行って、いろんなことを話して、楽しいことをいっぱいしたいです」
「ぼくも、まゆかちゃんといっぱい笑いたーいっ」
そう言いながら、ミルクはまゆかのうでに、抱きついてきた。
(そっか。ミルクといっしょに笑っているためには、あの苦しみはいらない。……それなら、わすれればいい。わたしも、わすれよう。あたしは、たくさん悲しんだ。いっぱい泣いた。だから、もういい)
まゆかはミルクを抱きかかえ、自分の太ももの上に座らせた。
「ねえ、ミルク。あたし、またイラスト描けるようになりたいな」
「なれるよ、絶対に。だって、ぼくがいるでしょ?」
「うん、そうだね。ミルクがいるから、だいじょうぶだもんね」
まゆかはミルクを抱きよせて、ほほをくっつけた。ミルクも顔をこすりつけてくる。
(あたしは、一人じゃない。だからきっと、だいじょうぶ。ミルクもいる。ミカラちゃんや、サナさんも。お母さんも、お父さんも。だから、きっとだいじょうぶ)
まゆかはミルクのリボンづくりを再開した。
お昼ごはん前に、ミルクのリボンも完成した。つけ外しができるように、スナップボタンもぬいつけた。
「ねえねえ、まゆかちゃん。つけてつけて」
「うん、いいよ」
まゆかは緑色のリボンを外して、完成したものをつけてあげた。背中をむけていたミルクがくるりと回る。
「ねえねえ、どう? かっこいい?」
「うん、かっこいいよ」
「やったあ」
ミルクはその場でぴょんぴょんとはねた。
「まゆかちゃん、上手だなあ。アタシなんて、こんな感じだよ」
そう言ってミカラちゃんは完成したものを広げた。どうやら、ひもで開け閉めするタイプのポーチのようだ。
「でも完成したんだから、すごいよっ」
「うう、でもぬい目ガタガタで……」
「だいじょうぶよ、ミカラちゃん。ワタシなんて最初は完成させられなかったのよ」
「ええ? サナさんでもできなかったときって、あるんですか?」
ミカラちゃんが驚いた様子で言う。まゆかも同じ気持ちだ。サナさんはうなずくと、続けて言った。
「だから、完成させただけで十分。楽しいって思えた時間が少しでもあれば、それはいいことなのよ、きっとね。さあ、片づけてお昼ごはん、食べに行きましょうか」
「「はーい」」
まゆかたちは、あまった布や裁ほう箱などを片づけた。
「ジートはマイスターだからね。たくさん持ってるのよ。それに基本的に午前中はぬいぐるみをつくってることが、多いんですって」
そんな風にサナさんが教えてくれた。男の人が苦手なミカラちゃんは複雑そうな顔をしていたけれど、ジートさんから別の布をもらっていた。ホテルのぬいぐるみに買ってきてもらったらしい。ミカラちゃんはその話を聞くと、安心した様子で布を受けとっていた。
まゆかは、ミルクのためにリボンをつくることにした。
「ミルク、なに色がいい?」
「ぼくねー、紺色がいい」
「え、もっと明るい色じゃなくていいの?」
まゆかが尋ねると、ミルクはにっこり笑って腰に手を当てた。
「かっこいい男の子には、かっこいい色だよ。パパさんが着てる服みたいでしょ?」
どうやらお父さんのスーツのことを言っているようだ。たしかにあの服は紺色だ。まゆかは「わかった」とうなずく。
サナさんに教えてもらいながら生地を切る。
「そうそう、それで半分に折って。そうすると、生地を切った部分が隠れて、きれいに見えるのよ」
まゆかは、ミルクがつけている緑色のリボンを見た。お母さんがつくったので、きれいな形をしている。
(お母さんって、やっぱりすごいんだなあ)
でもこのリボンはまゆかがつくって、ミルクにプレゼントしたかった。
「でもぼくね、ママさんのリボンも好きだよ。ぼくにぴったりの色を選んでくれたんだよ」
ミルクがまゆかの手をのぞきながら言う。
「まゆかちゃんのお母様も、手芸がお好きなの?」
「ぬいぐるみ作家なんです。ミルクもお母さんがつくってくれた子で。あたしの世界では、ぬいぐるみってどの子もしゃべらないから、ミルクがここで話せるようになって、すごくうれしいんです」
「そう。それなら、お母様はこっちに来たら、マイスターになれるかもしれないわね」
「サナさあん、ここ、どうぬうんですかあ? まったくわからなくってえ……」
ミカラちゃんが泣きそうな顔をしながら、助けを求めたので、サナさんは丁寧に教えはじめた。
(あっちに帰ったら。……あっちに帰るって、いつだろう)
まゆかはふと、疑問に思った。このホテルは、心が傷ついた人なら何日でも泊まることができる。だからこそ、いつまでもいたいと思ってしまう。
(あたしは……またイラスト、描けるのかな?)
もしも、またかわいい服を着た女の子のイラストが描けたら。でも、まただれかに、破かれたり捨てられたりしたら。
(すっごく、こわい)
まゆかの手がとまる。
「まゆかちゃん、どうしたの?」
ミルクに尋ねられて、まゆかはどう答えようか迷った。するとサナさんがこちらを見た。
「つらいことでも、思い出しちゃった?」
まゆかは小さくうなずく。サナさんは百合に似た花のししゅうをさしながら、話してくれた。
「やっぱり、悲しかったことや苦しかったことって、ふと思い出しちゃうわよね。ねえ、まゆかちゃん。あなたは、これから先、どんな心で過ごしたい?」
「え?」
考えたこともなかった。まゆかは手元を見ながら考えてみる。
(これから、先。【コットンフラワー】から家に帰ってから、あたしはどんな心でいたい?)
ミルクがこちらを見て、小さく首をかしげた。まゆかはそんなミルクも頭を、またなでる。
「あたしは……ミルクと笑顔でいたいです。ミルクといろんなところに行って、いろんなことを話して、楽しいことをいっぱいしたいです」
「ぼくも、まゆかちゃんといっぱい笑いたーいっ」
そう言いながら、ミルクはまゆかのうでに、抱きついてきた。
(そっか。ミルクといっしょに笑っているためには、あの苦しみはいらない。……それなら、わすれればいい。わたしも、わすれよう。あたしは、たくさん悲しんだ。いっぱい泣いた。だから、もういい)
まゆかはミルクを抱きかかえ、自分の太ももの上に座らせた。
「ねえ、ミルク。あたし、またイラスト描けるようになりたいな」
「なれるよ、絶対に。だって、ぼくがいるでしょ?」
「うん、そうだね。ミルクがいるから、だいじょうぶだもんね」
まゆかはミルクを抱きよせて、ほほをくっつけた。ミルクも顔をこすりつけてくる。
(あたしは、一人じゃない。だからきっと、だいじょうぶ。ミルクもいる。ミカラちゃんや、サナさんも。お母さんも、お父さんも。だから、きっとだいじょうぶ)
まゆかはミルクのリボンづくりを再開した。
お昼ごはん前に、ミルクのリボンも完成した。つけ外しができるように、スナップボタンもぬいつけた。
「ねえねえ、まゆかちゃん。つけてつけて」
「うん、いいよ」
まゆかは緑色のリボンを外して、完成したものをつけてあげた。背中をむけていたミルクがくるりと回る。
「ねえねえ、どう? かっこいい?」
「うん、かっこいいよ」
「やったあ」
ミルクはその場でぴょんぴょんとはねた。
「まゆかちゃん、上手だなあ。アタシなんて、こんな感じだよ」
そう言ってミカラちゃんは完成したものを広げた。どうやら、ひもで開け閉めするタイプのポーチのようだ。
「でも完成したんだから、すごいよっ」
「うう、でもぬい目ガタガタで……」
「だいじょうぶよ、ミカラちゃん。ワタシなんて最初は完成させられなかったのよ」
「ええ? サナさんでもできなかったときって、あるんですか?」
ミカラちゃんが驚いた様子で言う。まゆかも同じ気持ちだ。サナさんはうなずくと、続けて言った。
「だから、完成させただけで十分。楽しいって思えた時間が少しでもあれば、それはいいことなのよ、きっとね。さあ、片づけてお昼ごはん、食べに行きましょうか」
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