ホテル・コットンフラワーからの招待状

翼 翔太

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1.自由帳

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 休み時間は楽しい。先生は職員室に行っているし、四年三組の教室のあちこちから聞こえる笑い声は、まゆかを明るい気持ちにさせる。ふだんはもう少し静かだが、前日に大雨が降ったせいで、晴れているのにもかかわらず、運動場や中庭は使えない。そのため多くの子たちが教室にいるからだろう。
 机にむかっているまゆかは、鉛筆を走らせ続ける。よく見ると自由帳のページには、消した線が何本も見える。いつも気がつかないあいだに力が入ってしまうせいで、ページがへこんでしまうのが困りものだ。
 まゆかの自由帳には、かわいい服を着た女の子のイラストがたくさん描かれている。こんな服を着たい、この服をだれかに着てほしいと思いながら描いていると、どんどんアイディアが浮かんできた。
 開いているページの女の子は、まゆかと同じツインテールに星型のヘアピンをつけている。流れ星のブローチは右胸に。
(ワンピースはどんな模様にしよう?)
 まだどんな色にもなっていない、真っ白なワンピース。星のヘアピンとブローチをつけているのだから、夜空をイメージしたデザインにしたい。
 服はちょっとしたことで、イメージが大きく変わる。
(この子は大人っぽいけど、ちょっとかわいいところもある人だから、紺色だけよりレースとかがあったほうが、いいと思うなあ)
 いつも服を描くときは、着る女の子の性格も想像する。ワンピースが似合う子、キュロットスカートがぴったりな子などが、この自由帳の中にはいる。
 そのとき、休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴った。みんな席につき、まゆかも自由帳を閉じる。
 先生が入ってきて、二限目の国語が始まる。博士が日本全国を旅するお話を読んだり、出てきた漢字を練習したりしていると、まゆかの頭の中にワンピースのデザインが浮かんだ。
(そうだ。紺色にして、すそのほうにたくさん白い点を描いて、天の川にすればいいんだっ)
 そうなると、そでは空気を入れたようにふっくらさせたデザインにしたほうが、かわいいかもしれない。まゆかは今すぐ自由帳を開きたくなった。しかしまだ授業中だ。
(どうしよう……。そうだっ)
 まゆかは教科書の空白に手早くワンピースのデザインを描いた。描き終わってから消しても跡が残らないように、鉛筆をにぎる力は弱くした。
(ああ、早くかわいくしたいっ)
 真っ白なワンピースを、星空にしたくてたまらない。まゆかは何度も時計を見てしまっていた。
 まゆかの願いがかない、チャイムが鳴った。二限目と三限目のあいだにある休み時間は二十分もあるので、好きなだけイラストを描くことができる。
 まゆかはときどき教科書にさっと描いたワンピースを見て、イラストを完成させた。机から色鉛筆を出していると、自由帳のページにだれかの影が落ちる。
 まゆかが顔を上げると、そこには縄元くんがいた。
 まゆかはなんとなく、縄元くんが苦手だ。耳をすますと、いつもだれかの悪口を言っているし、授業でまちがえた子がいると休み時間にからかっているのを、何度も見たことがある。
「おい、遠藤。お前ずっと自由帳になにか描いてるよな。見せろよ」
 笑ってる顔の下に、なんとなくいやなものが隠れているような気がして、まゆかは首を横にふった。すると縄元くんはむっとして「いいから見せろよ」と、まゆかの自由帳を奪った。縄元くんはイラストを見ると鼻で笑った。
「なんだよ、これ。こんなのだったら、おれのほうがうまく描けるぜ。……うわ、全部女の絵じゃん」
「別にいいじゃん。返して」
 まゆかが手をのばすと、縄元くんは自由帳をひょいっと動かした。とり戻せなかった自由帳は変わらず縄元くんの手にある。
「なんでお前は好きなことして、好きな絵描いて、だれにもなんにも言われないんだよ。ずるいだろ」
 まゆかは縄元くんの言っていることの意味がわからなかった。
「じゃあ、縄元くんも好きなことすればいいじゃない」
 まゆかがそう言うと、縄元くんが眉をつり上げた。
「それができたら、とっくにやってるってんだよ」
 強い言い方にまゆかはびっくりしてしまった。なぜまゆかが怒られなくてはいけないのだろうか。まったくわからない。
「むかつくな」
 ぼそり、と縄元くんがつぶやく。まゆかはいやな予感がした。縄元くんが窓に近づきながら自由帳を四つに引きさくのが見えた。そしてバラバラになった自由帳を窓の外に投げた。紙になってしまった自由帳は舞いながら中庭に落ちる。
 まゆかはなにが起こったのか、わからなかった。さっきまで好きにイラストを描いていただけだったのに。ぼう然としているまゆかの顔を見た 縄元くんが笑った。
「ウケる」
 そしてスッキリした様子で男子のグループの中に加わった。
 とにかく、イラストをとりに行かなくては。なんとか働きだした頭でそう思った。
まゆかは速足でろうかを歩き、階段を下りた。まゆかたち四年生は南校舎の三階。いつもより階段の数が多く感じるなか、なんとか中庭まで下りてきた。
 水分をふくんで、いつもより濃い茶色に染まった中庭のあちこちに、水たまりができている。まゆかは教室の真下に移動した。大きな水たまりに、自由帳だった紙切れが浮かんでいる。
 かわいい服を着た、女の子たち。何度も描いた子もいれば、一度だけだった子もいるが、まゆかにとっては全員大切だった。大好きだった。女の子たちも、服も。紙切れを見下ろしていると、なみだが落ちた。
(どうして? あたし、なにかした? ただ、好きなことをしてただけなのに。ただ、かわいい服や女の子を描いてただけなのに。……好きなことをするって、そんなにいけないことなの?)
 まゆかは四つになってしまった自由帳を見つめることしか、できなかった。

 その日、まゆかは学校から帰ってくると、部屋にこもった。ぬいぐるみ作家であるお母さんは作業に熱中していて、まゆかが帰ってきたことに気がついていないようだった。
ランドセルを置くと、ベッドの上にいる白い猫のぬいぐるみ、ミルクに話しかけた。
「ミルク……あたし、今日、苦しくて悲しいことがあったの……」
 ミルクのつぶらなひとみが、まゆかを見つめる。まるで「どうしたの?」と尋ねてくれているようだった。まゆかはミルクにすべてをはき出した。
「いつもみたいに、イラスト描いてたら、縄元くんが自由帳とって破って捨てたの。あたしの大切なイラストだったのに。なんで? ねえ、なんでこんなことされなくちゃいけないの? ミルク、あたし、なにかいけないこと、したのかな? してないよね?」
 たくさんのなみだがあふれてくる。
「ただ、好きなことしてただけなのに。もう、好きなことなんて、しない。こんな思いするくらいなら、なにもしない。イラストもやめる。ミルク……ミルク……」
 まゆかはなみだを流しながら、ミルクを強く抱きしめた。
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