ホテル・コットンフラワーからの招待状

翼 翔太

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2.異世界からの招待状 その1

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 四年生のあの日以来、まゆかはイラストを描いていない。そんな休み時間は退屈で、だれかといっしょに過ごすことも考えなかった。
(あのとき、だれかが縄元くんがしたことを見ていたら)
 そう何度思ったことだろう。クラスの子たちは気づいていなかったのだ。まゆかが声を上げるタイミングを失っていたからか、それとも楽しい休み時間に夢中だったからか、それとも両方なのかはわからないが。まゆかにとってクラスの子たちは、ただ同じ教室にいるだけの人たちで、友達ではない。そんな風に思うようになった。
 まゆかはいつもどおり、六年二組の教室ではなく、中庭にある森を小さくしたような場所――心の中で小さな森と呼んでいる――で過ごしていた。なにもせずに教室にいるのは、あまりにも退屈だった。
 木の根元に座っているまゆかは、地面を見つめる。落ちた葉っぱが裏向きに落ちており、土の上ではアリたちがエサを求めて歩いている。
(アリにとって、同じ巣の子たちは友達なのかな? 家族なのかな?)
 もしも友達なのだったら、少しうらやましい。まゆかには、人間の友達はいないから。お母さんがつくってくれた、ミルクだけだから。でもそれでいい。また傷つくのなら、一人でいたほうがいい。
(ミルクも学校に来られたらいいのに)
 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。まゆかはおしりの土を払って、教室にもどった。

 机の中から教科書を出す。【異世界 六年生】と書かれている。
 自分たちがいるところ以外にも世界が――異世界があるとわかって、百年が経った。しかし異世界に旅行に行けるようになったのは、五十年ほど前。以前におばあちゃんが「異世界なんてものがわかったってニュースで流れたとき、いったいなにかと思ったわ」と言っていたことを思い出す。
 異世界の授業が始まるのは五年生からで、六年生になると異世界について詳しく調べたり、異世界への行き方などを学習したりする。
(異世界に行ったら、どんな気持ちになるんだろう? ……苦しいとかって、なくなるのかな?)
 先生が十ページを開くように言った。十ページには【異世界の行き方】と大きく書かれていた。
「それじゃあ、今日は異世界への行き方について学習していくぞー」
 先生が黒板にチョークで【異世界に行く方法 一】と書きはじめた。
「まずは異世界に行くための通行証を使う方法。外国に行くための、パスポートと同じだな。ちなみにこれは、先生の異世界通行証だ。みんな、回して見ていってくれ」
 そう言って先生は窓側の一番前の席に座っている子に、通行証を渡した。
 しばらくすると、まゆかの席にも回ってきた。プラスチックでできているようだ。大きく【異世界通行証】と書かれていて、その下には先生の顔写真と注意書きがある。
(ええっと、『この通行証は本人以外使えません。使った場合は罰則があります』……。へえ、本人以外は使っちゃいけないんだ。それから……え、三人まではこの通行証で、いっしょに異世界に行けるの? すごい)
 通行証を見るのもほどほどにして、後ろの席の子に渡す。
「昔は顔写真なんてなかったけど、数年前から写真をつけるのが義務になった」
「先生、この通行証ってどうやったら、つくれるんですか?」
 一人の男子が手を挙げて質問した。先生は話しながら、黒板に文字を書きはじめる。
「まずは一番近いところにある、異世界センターに行く。異世界に関する手続きは、すべてこの異世界センターで行われるぞ。そして申込書があるから、それを書いて手続きが終われば、後日家に送られてくるんだ」
 意外と簡単にできそうだ。まゆか一人でも通行証を手に入れられるのだろうか。
「ただし、十八歳以下は家族の同意がいるからな」
 つまりお父さんかお母さんといっしょに行く必要があるようだ。まゆかはがっかりした。
(一人で行けたら……ううん、ミルクといっしょに行けたら、すごく楽しいんだろうな)
 自力で異世界に行くには、まだ時間がかかりそうだ。
 先生の手元に通行証が戻ってくると、黒板に【異世界に行く方法 二】と書かれた。
「もう一つは招待状をもらう、だな。招待状はその世界によって、見た目がちがう。教科書を見てくれ」
 教科書には異世界の招待状の写真が三枚のっている。キノコの絵が描かれているもの、文字だけのもの、ブレスレットが招待状となっているもの。
(招待状だからって、紙とは限らないんだ)
 招待状をもらえるとすれば、どんな状況なのだろうか。まったく思いつかない。
 異世界についての授業は続き、まゆかは黒板の内容を書き写した。
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