2 / 22
2.異世界からの招待状 その1
しおりを挟む
四年生のあの日以来、まゆかはイラストを描いていない。そんな休み時間は退屈で、だれかといっしょに過ごすことも考えなかった。
(あのとき、だれかが縄元くんがしたことを見ていたら)
そう何度思ったことだろう。クラスの子たちは気づいていなかったのだ。まゆかが声を上げるタイミングを失っていたからか、それとも楽しい休み時間に夢中だったからか、それとも両方なのかはわからないが。まゆかにとってクラスの子たちは、ただ同じ教室にいるだけの人たちで、友達ではない。そんな風に思うようになった。
まゆかはいつもどおり、六年二組の教室ではなく、中庭にある森を小さくしたような場所――心の中で小さな森と呼んでいる――で過ごしていた。なにもせずに教室にいるのは、あまりにも退屈だった。
木の根元に座っているまゆかは、地面を見つめる。落ちた葉っぱが裏向きに落ちており、土の上ではアリたちがエサを求めて歩いている。
(アリにとって、同じ巣の子たちは友達なのかな? 家族なのかな?)
もしも友達なのだったら、少しうらやましい。まゆかには、人間の友達はいないから。お母さんがつくってくれた、ミルクだけだから。でもそれでいい。また傷つくのなら、一人でいたほうがいい。
(ミルクも学校に来られたらいいのに)
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。まゆかはおしりの土を払って、教室にもどった。
机の中から教科書を出す。【異世界 六年生】と書かれている。
自分たちがいるところ以外にも世界が――異世界があるとわかって、百年が経った。しかし異世界に旅行に行けるようになったのは、五十年ほど前。以前におばあちゃんが「異世界なんてものがわかったってニュースで流れたとき、いったいなにかと思ったわ」と言っていたことを思い出す。
異世界の授業が始まるのは五年生からで、六年生になると異世界について詳しく調べたり、異世界への行き方などを学習したりする。
(異世界に行ったら、どんな気持ちになるんだろう? ……苦しいとかって、なくなるのかな?)
先生が十ページを開くように言った。十ページには【異世界の行き方】と大きく書かれていた。
「それじゃあ、今日は異世界への行き方について学習していくぞー」
先生が黒板にチョークで【異世界に行く方法 一】と書きはじめた。
「まずは異世界に行くための通行証を使う方法。外国に行くための、パスポートと同じだな。ちなみにこれは、先生の異世界通行証だ。みんな、回して見ていってくれ」
そう言って先生は窓側の一番前の席に座っている子に、通行証を渡した。
しばらくすると、まゆかの席にも回ってきた。プラスチックでできているようだ。大きく【異世界通行証】と書かれていて、その下には先生の顔写真と注意書きがある。
(ええっと、『この通行証は本人以外使えません。使った場合は罰則があります』……。へえ、本人以外は使っちゃいけないんだ。それから……え、三人まではこの通行証で、いっしょに異世界に行けるの? すごい)
通行証を見るのもほどほどにして、後ろの席の子に渡す。
「昔は顔写真なんてなかったけど、数年前から写真をつけるのが義務になった」
「先生、この通行証ってどうやったら、つくれるんですか?」
一人の男子が手を挙げて質問した。先生は話しながら、黒板に文字を書きはじめる。
「まずは一番近いところにある、異世界センターに行く。異世界に関する手続きは、すべてこの異世界センターで行われるぞ。そして申込書があるから、それを書いて手続きが終われば、後日家に送られてくるんだ」
意外と簡単にできそうだ。まゆか一人でも通行証を手に入れられるのだろうか。
「ただし、十八歳以下は家族の同意がいるからな」
つまりお父さんかお母さんといっしょに行く必要があるようだ。まゆかはがっかりした。
(一人で行けたら……ううん、ミルクといっしょに行けたら、すごく楽しいんだろうな)
自力で異世界に行くには、まだ時間がかかりそうだ。
先生の手元に通行証が戻ってくると、黒板に【異世界に行く方法 二】と書かれた。
「もう一つは招待状をもらう、だな。招待状はその世界によって、見た目がちがう。教科書を見てくれ」
教科書には異世界の招待状の写真が三枚のっている。キノコの絵が描かれているもの、文字だけのもの、ブレスレットが招待状となっているもの。
(招待状だからって、紙とは限らないんだ)
招待状をもらえるとすれば、どんな状況なのだろうか。まったく思いつかない。
異世界についての授業は続き、まゆかは黒板の内容を書き写した。
(あのとき、だれかが縄元くんがしたことを見ていたら)
そう何度思ったことだろう。クラスの子たちは気づいていなかったのだ。まゆかが声を上げるタイミングを失っていたからか、それとも楽しい休み時間に夢中だったからか、それとも両方なのかはわからないが。まゆかにとってクラスの子たちは、ただ同じ教室にいるだけの人たちで、友達ではない。そんな風に思うようになった。
まゆかはいつもどおり、六年二組の教室ではなく、中庭にある森を小さくしたような場所――心の中で小さな森と呼んでいる――で過ごしていた。なにもせずに教室にいるのは、あまりにも退屈だった。
木の根元に座っているまゆかは、地面を見つめる。落ちた葉っぱが裏向きに落ちており、土の上ではアリたちがエサを求めて歩いている。
(アリにとって、同じ巣の子たちは友達なのかな? 家族なのかな?)
もしも友達なのだったら、少しうらやましい。まゆかには、人間の友達はいないから。お母さんがつくってくれた、ミルクだけだから。でもそれでいい。また傷つくのなら、一人でいたほうがいい。
(ミルクも学校に来られたらいいのに)
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。まゆかはおしりの土を払って、教室にもどった。
机の中から教科書を出す。【異世界 六年生】と書かれている。
自分たちがいるところ以外にも世界が――異世界があるとわかって、百年が経った。しかし異世界に旅行に行けるようになったのは、五十年ほど前。以前におばあちゃんが「異世界なんてものがわかったってニュースで流れたとき、いったいなにかと思ったわ」と言っていたことを思い出す。
異世界の授業が始まるのは五年生からで、六年生になると異世界について詳しく調べたり、異世界への行き方などを学習したりする。
(異世界に行ったら、どんな気持ちになるんだろう? ……苦しいとかって、なくなるのかな?)
先生が十ページを開くように言った。十ページには【異世界の行き方】と大きく書かれていた。
「それじゃあ、今日は異世界への行き方について学習していくぞー」
先生が黒板にチョークで【異世界に行く方法 一】と書きはじめた。
「まずは異世界に行くための通行証を使う方法。外国に行くための、パスポートと同じだな。ちなみにこれは、先生の異世界通行証だ。みんな、回して見ていってくれ」
そう言って先生は窓側の一番前の席に座っている子に、通行証を渡した。
しばらくすると、まゆかの席にも回ってきた。プラスチックでできているようだ。大きく【異世界通行証】と書かれていて、その下には先生の顔写真と注意書きがある。
(ええっと、『この通行証は本人以外使えません。使った場合は罰則があります』……。へえ、本人以外は使っちゃいけないんだ。それから……え、三人まではこの通行証で、いっしょに異世界に行けるの? すごい)
通行証を見るのもほどほどにして、後ろの席の子に渡す。
「昔は顔写真なんてなかったけど、数年前から写真をつけるのが義務になった」
「先生、この通行証ってどうやったら、つくれるんですか?」
一人の男子が手を挙げて質問した。先生は話しながら、黒板に文字を書きはじめる。
「まずは一番近いところにある、異世界センターに行く。異世界に関する手続きは、すべてこの異世界センターで行われるぞ。そして申込書があるから、それを書いて手続きが終われば、後日家に送られてくるんだ」
意外と簡単にできそうだ。まゆか一人でも通行証を手に入れられるのだろうか。
「ただし、十八歳以下は家族の同意がいるからな」
つまりお父さんかお母さんといっしょに行く必要があるようだ。まゆかはがっかりした。
(一人で行けたら……ううん、ミルクといっしょに行けたら、すごく楽しいんだろうな)
自力で異世界に行くには、まだ時間がかかりそうだ。
先生の手元に通行証が戻ってくると、黒板に【異世界に行く方法 二】と書かれた。
「もう一つは招待状をもらう、だな。招待状はその世界によって、見た目がちがう。教科書を見てくれ」
教科書には異世界の招待状の写真が三枚のっている。キノコの絵が描かれているもの、文字だけのもの、ブレスレットが招待状となっているもの。
(招待状だからって、紙とは限らないんだ)
招待状をもらえるとすれば、どんな状況なのだろうか。まったく思いつかない。
異世界についての授業は続き、まゆかは黒板の内容を書き写した。
12
あなたにおすすめの小説
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。
takemot
児童書・童話
薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。
「シチュー作れる?」
…………へ?
彼女の正体は、『森の魔女』。
誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。
そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。
どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。
「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」
「あ、さっきよりミルク多めで!」
「今日はダラダラするって決めてたから!」
はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。
子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。
でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。
師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。
表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる