ホテル・コットンフラワーからの招待状

翼 翔太

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2.異世界からの招待状 その2

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 まゆかはマンションの郵便受けを開けた。まゆかがしているお手伝いの一つだ。いつもお父さんやお母さんにあてたものや、チラシが多い。
(あれ。これ、あたしあてだ。だれからだろ?)
 まゆかには手紙をくれるような友達はいない。赤と青と白が封筒のふちを彩っている。裏面を見ると【ホテル・コットンフラワー】と書かれていた。
(聞いたことない。……いたずら? 一応部屋で確認しよっと)
まゆかは自分あての手紙をランドセルに入れ、郵便物を持って階段を上った。そして二階にある家のドアを開ける。
「ただいま」
 リビングからお母さんの「おかえりー」という声が聞こえた。玄関のげた箱の上に郵便物を置き、チラシは近くのごみ箱に捨てた。げた箱の上には朝に座らせたミルクもいる。
「ただいま、ミルク」
 まゆかはミルクを抱き、ランドセルを自分の部屋に置いて手洗いうがいをした。
 リビングに行く。今日のお母さんは、いすに座ったまま両手をだらりと垂らし、天井を見ていた。この状態のお母さんは、仕事の調子が悪いことが多い。まゆかは冷蔵庫から麦茶を出し、お母さんの分もいれてあげた。
「お母さん、お茶飲んだら?」
「ありがとう、そうするわ」
 お母さんはゆっくり体を起こし、ごはんを食べるときのテーブルにやってきた。まゆかのむかいに座る。
 まゆかはミルクをテーブルの上に座らせて、麦茶を飲んだ。緑のチェックのちょうネクタイをつけているミルク。まゆかのたった一人の友達。
(ミルクとなら、どこに行っても、きっと楽しい)
 まゆかはお母さんを見た。コップの中身はもう空っぽで、難しそうな顔をしている。きっとつくっているぬいぐるみについて、なにか悩んでいるのだろう。
「もういい。あまいもの食べよ。まゆか、プリン食べる?」
「食べる」
 立ち上がったお母さんが、冷蔵庫から二つのプリンをとり出した。プリンといっしょにスプーンも渡される。まゆかはプリンのふたをはがすと、ミルクの前にプリンとスプーンを置いた。
「ミルク、今日のおやつはプリンだって。先にどうぞ」
 まゆかの目には、ミルクがおいしそうにプリンを食べている様子が見える。なんとなく「まゆかちゃん、これおいしいよっ」と言っているような気がして、まゆかは小さく笑った。
 ミルクがじゅうぶん食べ終わっただろうと感じてから――三分くらいのときもあれば、十分以上かかるときもある――まゆかもおやつを食べる。けれど手紙の内容が気になってしまい、プリンをいつもより早く食べ終わってしまった。
 ミルクといっしょに自分の部屋にもどったまゆかは、ランドセルから先ほどの封筒をとり出した。ミルクを抱きかかえたまま、ベッドに腰かける。封筒にはよく見ると、テディベアの切手が貼られていた。
「ねえ、ミルク。これ、あたしに届いたんだよ。全然知らないホテルだし、なんだろうね?」
 まゆかは首をかしげながら封筒を開ける。そこには折りたたまれた紙が二枚と【招待状】と書かれたものが入っていた。紙を広げてみる。

『遠藤まゆか様

 はじめまして。わたくしどもは、コーリという世界にある、ホテル・コットンフラワーと申します。遠藤様から見れば異世界にあるホテルになります。パンフレットを同封しておりますので、ぜひご確認くださいませ。
 われわれのホテルは、心に傷をかかえている方限定となっております。このたび、遠藤様から近い方のお気持ちが当ホテルの従業員の耳に入り、お部屋をご用意いたしました。そちらの時間で七月十日にむかえを送りますので、コーリの異世界ゲート前でお待ちくださいませ。ご都合がつかない場合はお手数をおかけしますが、パンフレットに明記している電話番号にまでご連絡をおねがいいたします。
 ホテル従業員一同、お待ちしております』

 まゆかはどきりとした。四年生にあったことはミルクにしか話しておらず、お父さんやお母さんも知らないはず。【近いお方】とはだれのことだろうか。
 まゆかはもう一枚の、折りたたまれた紙を見た。これが手紙に書かれていたパンフレットだろう。パンフレットの表紙にはたくさんのぬいぐるみたちとホテルらしき建物が写っている。ドーム状のこげ茶色の屋根と、白い建物のコントラストがかわいらしい。煙突までついている。
(え、コーリって生きてるぬいぐるみたちが住んでる世界なの?)
 まゆかは道にぬいぐるみが歩いている様子を想像した。かわいい。ぜひともこの目で見てみたい。しかもホテル・コットンフラワーは、どうやらぬいぐるみたちが働いているようだ。
「ミルク、すごいホテルだね。……あれ、でも七月十日って」
 明日だ。
「ど、どうしよう、ミルク。明日だなんて、急すぎるよ。お母さんに相談……」
 立ち上がろうとしたまゆかは、ぴたりと動きをとめた。お母さんに相談するということは、四年生のときのことを話さなくてはいけなくなる。
(それは、いやだ)
 まゆかが、まゆかとして過ごせるのは家だけだ。家にいるときだけ、安心できる。そんな場所を壊したくない。
心に傷をかかえている人だけのホテル。行けば、この苦しみが消えるのなら。悲しい気持ちがなくなるなら、行ってみたい。
 まゆかはミルクを自分のほうに向け、問いかけた。
「ねえ、ミルク。あたし、どうしたらいいかな?」
 ミルクのつぶらなひとみが「いっしょに行こうよ」と言っている気がした。
(部屋に手紙を置いておけば、多分だいじょうぶだよね? ……そういえば、一泊いくらなんだろう?)
 まゆかはもう一度パンフレットを見た。そこには【代金はご相談ください】と書かれていた。具体的な金額がわからない以上、おかづかいはすべて持っていったほうがよさそうだ。まゆかは必要なものを考えはじめた。
 服一式や洗面用具などを、林間学校のときの大きなカバンに入れて、ベッドの下に隠す。次の問題は出発する時間だ。
(学校……別に行かなくっていいか)
 それなら朝早くに出発したほうが、お父さんやお母さんも眠っているので、動きやすいだろう。まゆかは目覚まし時計を五時にセットした。
「ミルク、いっしょに行こうね」
 まゆかは小声でミルクに話しかける。今日は早く寝なくては。
 そのときドアがノックされた。
「まゆかー、ごはんよー。お父さんも帰ってきたわよー」
「は、はーいっ」
 まゆかはあわてて返事をした。もうそんな時間だったとは。まゆかはミルクを連れてリビングにむかった。
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