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逆転サヨナラ……安打?
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「完結かぁ。それなぁ。しゃぁないけどなー」
「だよな。俺悪くないよな」
「どんだけ作家が頑張っても、出版社がやめろ言うたらなぁ」
「区切りも良かったし、ちょうどいい感じだったから俺は納得してるんだけど、読者であるユキちゃんが泣いちゃってさ」
「……あんな可愛い子泣かせた時点でギルティやな」
「何でだよ」
「うっさいわ!! 爆ぜろ!! むしろハゲろ!!」
「頭皮への攻撃はやめて!! デリケートなお年頃なんだから!!」
最近は月に数回は東京まで出てくる売れっ子ライトノベル作家『キノコ王子』は、ネクタイを緩めつつ店員に追加の牛タンを注文し、半分ほどジョッキに残った生ビールを一気にあおる。
そんな彼と一緒にいる俺はというと、今日も今日とて焼く係だ。しかし毎回牛タンばかり焼いていると焼き方がプロ並みに上手くなるな。柔らかくちょうどいい焼き加減が分かってくる。無駄なスキルを会得してしまった。
ちなみに彼がユキのことを知っているのは、俺が彼女とのツーショットを見せて自慢したからだ。ひと回り以上の年の差に「犯罪だ!」と連呼されたのは良い思い出だ。ついさっきの話だけど思い出にしとこう。
「まぁ、ベタやけど解決策はなくもない」
「え? 本当に?」
「ここ奢りな」
「……くっ、その案を起用したらな!」
こうして俺はニヤつく関西人に泣く泣く諭吉を手渡したのだった。
「ユキちゃん、お待たせ」
「いえ、ちょうど区切りの良いところまで出来たので良かったです」
俺とユキが出会った喫茶店で、彼女はいつものように作業をしていたようだ。その小さな手でノートパソコンをパタンと閉じると小さく息を吐いた。
店員に注文していたアイスコーヒーが置かれると、それをブラックのままひと口飲んで唇を湿らせる。
「順調?」
「はい。ほぼ完成しているので、誤字脱字が無ければ校了でしょうか」
「お疲れ様。がんばったね。えらいよ」
「えへへ……」
照れて頬を染めるユキの頭を優しく撫でてやる。彼女の髪はサラサラで抜群のさわり心地だ。そのまま抱きしめたいけど喫茶店という公共の場だから、今は抑えておかねばならぬ。うむ。
「ぎゅーっとして欲しいけど、がまんします」
目の前で小さく握りこぶしを作ってぷるぷるしてる彼女に、俺は立ち上がってテーブルの向こうに素早く回り込む。そして驚いて目を見開いた彼女を抱きしめること五秒、再び何事もなかったかのように席に着く。
「え? あの、今の……」
「ん、残りは後でね」
はわはわと真っ赤になったユキに俺は笑顔で返してやると、そのままテーブルに突っ伏してしまった。そんな彼女を愛でつつも、俺は早速本題に入ることにする。
「それでね。この前の……シリーズが完結するって話なんだけど」
「……はい。分かってます。しょうがないことなんだって」
ユキは羞恥で突っ伏していた体を起こすと、今度は落ち込んだ様子で俯いてしまう。そんな彼女のリアクションに苦笑しつつ、俺は話を進めていくことにする。
「まぁ、始まりがあれば終わりがある、からね。でも嬉しいよ」
「え?」
しょんぼり俯いていたユキは、俺の言葉に顔を上げてくれる。そのきょとんとした顔が可愛い。愛でたい。持ち帰りたい。
「作者としては、惜しんでくれるくらい作品を好きになってくれる読者がいるってだけで、一週間はハイテンションで過ごせる自信はあるね!」
「あはは、トオヤさんったら大げさですよ」
「ユキちゃんの作品だって終わったら、俺も悲しいよ。外伝書いてって言うよ」
「ええ!? そんな……そうですね。私も嬉しいです」
「でしょ?」
お互い笑顔になる。そうだよな。嬉しいよな。分かる分かる。
「それでさ、さっき関西のキノコから、良い解決策が二つあるって聞いてきたんだけど……どうかなって思って」
「解決策ですか?」
「うん。ユキちゃんが笑顔になる方法」
そう言って俺は自分の鞄からノートパソコンを取り出すと、ネットに接続して『小説家をやろう』のマイページを画面に表示させたままユキの前に置く。
「え……これってルナ先生の新作?」
「おう、さっきサラッと書いた」
「でもこれ、全年齢対象ですよ?」
「おう、初めて書いてみた。結構書けるもんだと思った」
二千五百文字くらいを三話ほど、勢いで書いたその作品を目の前でユキが読んでいる。
気づくかな。気づくよな。
うん、気づいたな。耳まで赤くなってるからな。
「トオヤさん」
「おう、ありそうな話だろ?」
「……はい……きっとこうやって……ネット小説の外側で、私たちみたいに泣いたり笑ったりしてるんですね」
「そうだよ。それできっと……」
きっと、これからもこうやって、俺たちは一緒に……。
「ところでトオヤさん、解決策は二つあるって言ってましたよね」
「ああ、そっちはどうかなーって思ってさ。ユキちゃんの好みもあるし……」
「どんな内容だったんですか?」
「んー、まぁ……フリーライターの主人公がネット小説を書き始めるんだけど、色々な壁にぶつかって悩んで苦しんでいた時に一人の作家に出会うんだ」
「作家に、ですか?」
「突然現れたチャラい関西人のラノベ男性作家に、なぜか惹かれていく男性フリーライター……なーんちゃって……」
「トオヤさん!!」
「は、はい!!」
「それはいつ書くんですか!!」
「はい?」
「いつ書くんですか!! 早よ!! 早よ!!」
「え、ちょ、近い、ユキさん、いやまって!! ちょっと!! いや、いやあああああ!?」
……覚えてろよキノコ野郎。
「だよな。俺悪くないよな」
「どんだけ作家が頑張っても、出版社がやめろ言うたらなぁ」
「区切りも良かったし、ちょうどいい感じだったから俺は納得してるんだけど、読者であるユキちゃんが泣いちゃってさ」
「……あんな可愛い子泣かせた時点でギルティやな」
「何でだよ」
「うっさいわ!! 爆ぜろ!! むしろハゲろ!!」
「頭皮への攻撃はやめて!! デリケートなお年頃なんだから!!」
最近は月に数回は東京まで出てくる売れっ子ライトノベル作家『キノコ王子』は、ネクタイを緩めつつ店員に追加の牛タンを注文し、半分ほどジョッキに残った生ビールを一気にあおる。
そんな彼と一緒にいる俺はというと、今日も今日とて焼く係だ。しかし毎回牛タンばかり焼いていると焼き方がプロ並みに上手くなるな。柔らかくちょうどいい焼き加減が分かってくる。無駄なスキルを会得してしまった。
ちなみに彼がユキのことを知っているのは、俺が彼女とのツーショットを見せて自慢したからだ。ひと回り以上の年の差に「犯罪だ!」と連呼されたのは良い思い出だ。ついさっきの話だけど思い出にしとこう。
「まぁ、ベタやけど解決策はなくもない」
「え? 本当に?」
「ここ奢りな」
「……くっ、その案を起用したらな!」
こうして俺はニヤつく関西人に泣く泣く諭吉を手渡したのだった。
「ユキちゃん、お待たせ」
「いえ、ちょうど区切りの良いところまで出来たので良かったです」
俺とユキが出会った喫茶店で、彼女はいつものように作業をしていたようだ。その小さな手でノートパソコンをパタンと閉じると小さく息を吐いた。
店員に注文していたアイスコーヒーが置かれると、それをブラックのままひと口飲んで唇を湿らせる。
「順調?」
「はい。ほぼ完成しているので、誤字脱字が無ければ校了でしょうか」
「お疲れ様。がんばったね。えらいよ」
「えへへ……」
照れて頬を染めるユキの頭を優しく撫でてやる。彼女の髪はサラサラで抜群のさわり心地だ。そのまま抱きしめたいけど喫茶店という公共の場だから、今は抑えておかねばならぬ。うむ。
「ぎゅーっとして欲しいけど、がまんします」
目の前で小さく握りこぶしを作ってぷるぷるしてる彼女に、俺は立ち上がってテーブルの向こうに素早く回り込む。そして驚いて目を見開いた彼女を抱きしめること五秒、再び何事もなかったかのように席に着く。
「え? あの、今の……」
「ん、残りは後でね」
はわはわと真っ赤になったユキに俺は笑顔で返してやると、そのままテーブルに突っ伏してしまった。そんな彼女を愛でつつも、俺は早速本題に入ることにする。
「それでね。この前の……シリーズが完結するって話なんだけど」
「……はい。分かってます。しょうがないことなんだって」
ユキは羞恥で突っ伏していた体を起こすと、今度は落ち込んだ様子で俯いてしまう。そんな彼女のリアクションに苦笑しつつ、俺は話を進めていくことにする。
「まぁ、始まりがあれば終わりがある、からね。でも嬉しいよ」
「え?」
しょんぼり俯いていたユキは、俺の言葉に顔を上げてくれる。そのきょとんとした顔が可愛い。愛でたい。持ち帰りたい。
「作者としては、惜しんでくれるくらい作品を好きになってくれる読者がいるってだけで、一週間はハイテンションで過ごせる自信はあるね!」
「あはは、トオヤさんったら大げさですよ」
「ユキちゃんの作品だって終わったら、俺も悲しいよ。外伝書いてって言うよ」
「ええ!? そんな……そうですね。私も嬉しいです」
「でしょ?」
お互い笑顔になる。そうだよな。嬉しいよな。分かる分かる。
「それでさ、さっき関西のキノコから、良い解決策が二つあるって聞いてきたんだけど……どうかなって思って」
「解決策ですか?」
「うん。ユキちゃんが笑顔になる方法」
そう言って俺は自分の鞄からノートパソコンを取り出すと、ネットに接続して『小説家をやろう』のマイページを画面に表示させたままユキの前に置く。
「え……これってルナ先生の新作?」
「おう、さっきサラッと書いた」
「でもこれ、全年齢対象ですよ?」
「おう、初めて書いてみた。結構書けるもんだと思った」
二千五百文字くらいを三話ほど、勢いで書いたその作品を目の前でユキが読んでいる。
気づくかな。気づくよな。
うん、気づいたな。耳まで赤くなってるからな。
「トオヤさん」
「おう、ありそうな話だろ?」
「……はい……きっとこうやって……ネット小説の外側で、私たちみたいに泣いたり笑ったりしてるんですね」
「そうだよ。それできっと……」
きっと、これからもこうやって、俺たちは一緒に……。
「ところでトオヤさん、解決策は二つあるって言ってましたよね」
「ああ、そっちはどうかなーって思ってさ。ユキちゃんの好みもあるし……」
「どんな内容だったんですか?」
「んー、まぁ……フリーライターの主人公がネット小説を書き始めるんだけど、色々な壁にぶつかって悩んで苦しんでいた時に一人の作家に出会うんだ」
「作家に、ですか?」
「突然現れたチャラい関西人のラノベ男性作家に、なぜか惹かれていく男性フリーライター……なーんちゃって……」
「トオヤさん!!」
「は、はい!!」
「それはいつ書くんですか!!」
「はい?」
「いつ書くんですか!! 早よ!! 早よ!!」
「え、ちょ、近い、ユキさん、いやまって!! ちょっと!! いや、いやあああああ!?」
……覚えてろよキノコ野郎。
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