【一旦完結】回想モブ転生~ヒロインの過去回想に登場するモブに転生した~

ファスナー

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過去回想に映りこむモブ編

第44話 狂った計画

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ああ、やっと。やっとだわ。
アクシデントはあったけれど、概ね予定通りね。

辛くしんどい日々だったけれど、辛抱強く待ったかいがあったというものよ。
もうすぐすべてを終わらせることが出来るわ。

楽しみね。ああ、楽しいわ。
こんなに胸躍るような高まりはいつ以来かしら。

待っててね、あなた。
もうすぐ終わらせるから。

月夜に照らされて女はテラスで怪しく笑う。

  ***

「ねぇ。私は都合のいい女じゃないんだけど。」
ムスッとしながらエドワードをジト目で見つめてくるのはシスターマリア。

シスターマリアはマルライト=セルビーの治療の後、エドに送ってもらいイーレ村に帰っていた。
そして今日、再びイーレ村にやってきたエドワードに拉致られてここ、パドレス=ミュートの部屋に訪れている。

訪問理由は、ミュートの治療。
実は、茶会事件の時のレインの貢献―治癒魔法でキルミィとミュートを治療した―が認められたことからパドレス辺境伯からミュートの治療の依頼を受けたのだ。

茶会事件のあった日の夜、再び襲われて例の薬を盛られたパドレス=ミュートはレインの迅速な治療により一命を取り留めたものの、完治はしていなかった。
ダリウスの時と同じく治癒魔法や回復薬を投与しても回復しない状態、つまり魔力ゼロの状態になっていたのだ。
ちなみに、その時は龍の血―いざと言う時のためにヘカテから採取していた―を使い、無理やり回復させた。

「あの治療法はダメだったの?」
シスターマリアの言葉にレインは首を横に振る。
セルビーの時は壊れている魔力器官を<再建>で壊れる前の状態に戻すことで治療した。
当然、ミュートにもその治療を実施したが結果は効果なし。魔力器官の機能は停止したままだった。
ちなみにダリウスにはこの方法を試していない。この治癒魔法は古い怪我―ダリウスの場合は魔人襲撃から3年が経過している―には効果が無いからだ。

シスターマリアが気にしているのはエドワード達以外の存在。
部屋にはミュート、シスターマリア、レイン、エドワードそして、執事モドキ=セーバスがいる。
今回の治療の話を聞いた正妻リンダリンの助言により彼は監視役として同行しているのだ。
セーバスは闇ギルドに通じている男で、初対面ではシドーの刺客として襲ってきた。
エドワード達と戦った警戒すべき存在だ。

エドワード達がピリピリと警戒している一方で、セーバスはリラックスした様子でニコニコと笑顔をふりまいている。

シスターマリアは深呼吸して思考を切り替えた。
スキルを発動するとシスターマリアの顔が驚きの表情に変わるが、直ぐに気を取り直して作業を続行し、ミュートの治療は無事終わった。

  ***

「さて、どうしました?」
ミュートの部屋から出るとセーバスは笑顔のままシスターマリアに尋ねてきた。
シスターマリアの表情の変化をセーバスは見逃さなかった。

「あんたに言うつもりはないわ。」

「そうですか。てっきり面白いことが分かったのかと思ったのですが。
 例えば、ミュート様は辺境伯の子では無い。とかね。」

「「なっ」」
セーバスの爆弾発言に驚いたのはレインとエドワード。
一方、シスターマリアは無言のまま表情を変えないでいる。

「下手なことは考えない方が身のためですよ。
 今の私はリンダリン様から派遣された執事ですので。」

睨みつけるシスターマリアと笑顔で受け止めるセーバス。
やがて観念したのはシスターマリアだった。

「知ってたのね。あなた、悪趣味だわ。
 だけど私は可能性があるってだけの話よ。
 あのミュートって子の魔力総量は55しかなかったの。」

シスターマリアの<ステータス偽装>スキルはステータスの値を変更することが出来る。ただし、変更範囲はまでだ。
つまり魔力ゼロになる前までミュートが持っていた最大魔力量は55と言うことになる。
10歳の子どもの魔力平均は貴族で500、平民で50と言われている中で、この数値は貴族の子としては明らかにおかしい。
つまり、『パドレス辺境伯の子では無い』可能性が高い。

「耳が痛いですね。ですが、その証言だけで結構ですよ。
 お陰で今回の事件の全容がわかりました。」

「興味深い話をしてるじゃない。私も聞かせてもらえるかしら。」
パドレス辺境伯の正妻パドレス=リンダリンがそこにいた。

  ***
カナン帝国には後継者指名制度というものがある。
伯爵以上の爵位を持つ貴族は事前に後継者指名を皇帝の前で宣言しなければならないという義務を負うものだ。
そして、今日はパドレス辺境伯の後継者指名の日。

現パドレス辺境伯であるパドレス=リップリングは悩んでいた。
正妻リンダリンの子ノイズと側室キルミィの子ミュート。

通常であれば、正妻の子で長男でもあるノイズ。彼は賢く優秀な少年だ。
だが、だからこそリップリングは言い知れぬ危機感を抱いている。

だから、リップリングは後継にミュートを指名しようとしていた。
ミュートはノイズと違い、お世辞にも賢いとは言い難い。
加えて自己顕示欲が強いので、裏で操ることは容易い。
その欲求さえ満たしてやれば辺境伯の位を退いた後も自分の影響力を残すことができると考えた。

幸いノイズの母であるリンダリンは愛人の男を連れ込んでいるという話は聞いている。
なので、ノイズも自分の子ではないのだろうと突っぱねればなんとでもなる。

しかし予想外の急報が舞い込んだ。
ミュートが襲撃に会い、毒を受けたと言うのだ。一命は取り留めたものの、魔力が著しく低下しているという。

ただ、同時に光明ももたらされた。
それはミュートと同じ症状に陥ったマルライト家の娘を治療した人物が給仕係として働いていると言うのだ。

リップリングは即座にその人物を治療役として依頼を出した。

もし魔力が戻ってくればまだ望みはある。
しかしリップリングの願いは叶わなかった。

続報でもたらされた情報によると、ミュートの魔力はそれほど回復せず、平民と同じくらいしか無いという。

それにより、リップリングの計画は狂い、ミュートを後継者指名は絶望的となった。

 ***

「後継者はノイズを指名した。」
リップリングは妻達を集めてそう宣言した。

リンダリンは口元を扇で隠すが胸を張っている様子から喜んでいるのがよくわかる。

「…、そうですか。」
一方でキルミィは肩を落とし俯きながら弱々しい声呟いた。

リンダリンはキルミィの側に行くと、彼女にだけ聞こえる声で囁く。

「どう?貴女の計画通りにいった感想は?」
キルミィはハッとして顔を上げ、険しい表情でリンダリンを睨む。

「あら、こわいこわい。でも、やっと本当の貴女の貌《かお》が見えたわね。」
扇子で顔を隠すリンダリンの目は嗤っていた。
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