【一旦完結】回想モブ転生~ヒロインの過去回想に登場するモブに転生した~

ファスナー

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過去回想に映りこむモブ編

第43話 茶会事件―襲撃3

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ミュートが目を覚ました時、そこは自室のベッドの上だった。
既にお茶会が終了していることにがっかりするミュートだったが、枕元にメモが置いてあるのに気づく。
メモを手に取るとミュートは嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。

夜、食事を終えて就寝の時間になるとミュートはこっそりと屋敷から抜け出した。
悪戯好きのミュートは以前から屋敷から抜け出すことが多く慣れっこだった。

彼が向かうのは街の中央公園。
ミュートは指定の場所に着くとキョロキョロとあたりを見渡し、メモに書かれていた待ち人を探す。

「来てくれたんですね。ありがとうございます。」
ミュートが声のする方を向くと、そこにいたのは見知らぬ女性。
誰か分からず首を傾げているミュートがおかしいのか女性はクスクスと笑う。

「私はパドレス家でメイドをしています、カヤと申します。
 ミュート様にお伝えしたいことがありましてご足労願いました。」

「エトナに関してだと聞いたが?」

「それは口実でございます。」
そう言ってカヤはミュートに近づくと、首に針を刺した。

「!!」
反応することもできず刺されたミュートはヒドい痙攣に襲われその場に倒れる。

その直後、今度はカヤが小さな悲鳴をあげた。
公園に植林されている木に身体を押し付けられていた。首元には短剣の刃が触れている。

「ミュート様に何を刺した?」
低い声で脅すように尋ねるのは黒装束に身を包んだ男。

男の名はモドキ=セーバス。
いつもの爽やかイケメンスマイルはなりを潜め、冷徹な目でカヤを観察している。

カヤは無言のまま懐から青い液体が入った小瓶を取り出した。
それは超高濃度の魔力増強薬。

一刻も早く処置する必要がある。しかし、目の前の女の身柄も押さえたい。
セーバスのその逡巡があだとなった。
カヤは一瞬のスキをついて、セーバスから逃げ出すことに成功。

「来なさい、私のジャミー。」
カヤの言葉に呼応して<召喚>の魔法陣が出現、その中から巨大な黒い蜘蛛が現れた。
黒い蜘蛛はセーバスに向けて糸を吹きかけた。

セーバスはミュートを抱きかかえて糸を避けようとするが、避けきれずに足に糸が絡まる。

「いやー、危なかったわ。流石は帝国の影ね。警戒は怠って無かったのに気づかないなんてね。
 寸止めされていなければあれで決まっていたのに残念。」
カヤはニヤニヤを笑みを浮かべている。

「僕を知っているということは裏の者かな?
 昨日まではお前のようなメイドはいなかったはずだがどうやって入った?」

「うふふ、それはひ・み・つ。教えてあげないわ。
 魅力的な女性は秘密を持ってるって言うでしょ。
 といっても、検討はついてるんでしょ?」

「ちっ、やっぱりか。あの女狐め。」

「あら、つまんない。
 でも狂気が見れて楽しい仕事だったわ。
 あの女相当イかれてるからもっと面白いものが見れるかもね。
 あなたはここでサヨナラだけど」

「情報提供感謝する。
 じゃあお暇させてもらうよ。<炎舞>」
セーバスは足に絡みついた糸を炎で燃やす。
そのまま糸をつたい、蜘蛛本体に向けて炎が走る。
蜘蛛は即座に糸を切り離す。

一方、自由になったセーバスはミュートを抱えたままその場を離脱しようと動く。

「いかせるわけないでしょ。<石刃>」
鋭利な石の小刀がセーバス達の動線上に発射され、セーバスは思わず足を止めた。

「<土壁>」
ミュートを抱えて激しい動きが出来ないセーバスは土の障壁で小刀を防ぐ。

「ジャミー、毒霧よ。」
カヤの言葉に連動するように蜘蛛から霧状の毒がセーバス達に散布された。

蜘蛛の毒は神経毒。
霧を吸い込んだ相手は激しく咳き込み血を吐く。
その後、身体中が痙攣しだしてやがて息絶えていく。

土の障壁で防ぐことができない毒霧を吸い込んだセーバスは激しく咳き込んだ後その場で痙攣して倒れた。
やがて痙攣も収まり静かになる。


「帝国の影も無様ね。守る者がいるとこうもあっけないもの。」
カヤはセーバスだったものを見下ろし踵を返そうとした。
しかし、何故か動けないでいる。
カヤがそのことに戸惑っていると声が聞こえた。

「うふふ。無様なのはあなたよ。」

声のするほうに顔を向けると、白い翼を持つ天使が立っていた。

「居ない。どういうこと?」
セーバスとミュートの姿が見えないことを訝しんだカヤは目の前の女に尋ねる。

「あの子たちの行方のことかしら?
 もういったわよ。」

「うそ。蜘蛛の毒霧を受けて動けるはず無いわ。」

「毒霧?ああ、なるほど。まだ気づいてないのね。
 あなたが見ていたのは幻よ。
 あの子の<幻惑>にすっかり騙されちゃったのね。
 今動けないのはその証拠よ。」

急に幻惑だと言われたカヤは戸惑う。
<幻覚>魔法であればその起こりからわかる。
初見こそ見破るのは難しいが、一度コツさえ掴んでしまえば誰でも対処できるものだ。
カヤは幻惑魔法の対処法は知っているし先ほどまでそう言った違和感は無かった。


「馬鹿な。いつから…。」
カヤは思わず呟いた。

「うふふ。いい表情ね。
 きっかけは最初に短剣を突き付けた時。
 その時に彼は仕込みをしてたの。
 彼が意味も無く寸止めするわけ無いじゃない。
 <幻覚>に切り替えたのは彼が障壁を展開した時ね。
 <土壁>を使ったことで彼の姿を見失ったでしょ?
 その時にスイッチしたの。」

ふと横を見ると、召喚していた蜘蛛がいつの間にか倒されていた。
ご丁寧に蜘蛛の腹にはセーバスが使っていた短剣が刺さっている。
あの蜘蛛は簡単に倒せるような魔獣ではない。

<召喚>した魔獣は通常の個体とは明確な違いがある。
それは、召喚者の指示がないと動かないということだ。

もし<幻覚>に掛かっている状態なら、蜘蛛は待機状態にある。
そうであればセーバスの攻撃で倒すことは容易だ。
そのことが、カヤが<幻覚>に掛かっていたことを示していた。

カヤは茫然とした。

「あら、戦意喪失しちゃったのかしら。
 それじゃチャチャッと情報いただくわね。」
カヤが最後に見たのはにっこりと微笑む天使だった。


  ***

酒の入ったグラスを傾けながら隣に座るシドーに語る。

「とりあえず、一命は取り留めたよ。
 ほんと、レインちゃんがいてくれて助かったよ。」

ミュートが刺された後、大急ぎで屋敷に戻ったセーバスは使用人達を叩き起こした。
その中の1人にレインと懇意にしているおばさんメイドが居て、そこからレインに連絡がいったとのこと。

その結果、ミュートは無事一命を取り戻したらしい。
今は警備体制を強化してミュート様を守っているとのこと。


「あんた、自分で自分の首絞めてるよな。
 最初に出会った時に刺客なんて立ち位置で会わなけりゃ普通に協力要請できただろうに。」

「それを言わないでよ、シドーさん。
 頼ることになると思わなかったんだもん。
 
 僕の立ち位置特殊だからさー。
 いい子たちとは距離とっとかないと潰されちゃうじゃん。」

セーバスは帝国の影と言われる裏の組織に所属している。
そこに所属する人間は基本的に戸籍を持たないスパイとして暗躍している。

優秀な平民を子どもの頃にヘッドハンティングして組織で徹底教育する。
そうやってできたのがモドキ=セーバス。

現在、セーバスに与えられた役割はパドレス辺境伯の監視任務。
不穏な動きありとの情報を掴んだ上層部の命により、パドレス辺境伯の動向をチェックをしている。
その過程で、闇ギルドに所属することになった。

現在、セーバスの事情を知っているシドーがフォロー役として携わっている。
ちなみにシドーは帝国の影の一員ではない。


「それで?」
これからどうするのか?そう言った意味での質問。
しかし、セーバスはすぐに答えず、グラスの酒を煽った。

「なんだ?らしくないじゃないっすか。
 ヘラヘラ笑って面白おかしく。それがあんたでしょうよ。」

「今回の事件なんですけどね。
 どう蹴りをつけるのが穏便かなーって悩んでまして。
 かといってあまり悩んでる時間も無いんですけど。」
セーバスははぁっとため息を吐く。
 
「何を言いたいかわかんないですけどね。
 これだけは言えますよ。
 今最善だと思ってる選択肢は間違いです。
 これは俺の持論ですけどね、悩んだ時の最善はだいたい最善じゃないんすよ。
 2番目を選んだ方が結果的に上手くいくもんなんです。」
シドーの言葉にセーバスは目を丸くして思わず笑う。

「流石『二枚舌のシドー』さん。思わず感心しちゃいましたよ。
 じゃ、2番目の選択肢にします。
 ということで、シドーさんはめでたく巻き込まれます。」

「はっ?いや、なんでだよ。」
シドーはしかめ面をするが、セーバスは余計笑顔になる。

「僕の予想だと、もう一波乱起きると思うんですよね。
 だから付き合ってくださいね。」
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