3 / 40
‐第3夜‐ 唯一の目撃者
しおりを挟む
「いや、実は目撃者は既にいるんだ」
「え?」
それもっと早く言ってよ。
「なら目撃者に早く会わせ…」
「それがな……」
私に言葉を被せたメイルは事件目撃者の少年の事を教えてくれた。だが少年は狼の後ろ姿しか見ていないと言う。つまり、人間体が全く不明という事だ。だが目撃証言から狼が一体は確実にこの街にいる事が分かったのだ。
「なるほどね」
「既に警務局と協力し、市内まで閉鎖している。つまりこの街は二重に閉鎖されたということだ。これで一先ずは安心だろう」
「住民はどうする?まさか夜は一歩も家から出るな……なんて言うんじゃないんだろうな?」
私は恐れていた。このまま狼が姿を現さない事を。閉鎖するならするでもっと徹底的にすべきだった。人手不足など論外にも程がある。確実に一体を炙り出すには少なくとも一人の“犠牲”が必要だ。
「市民の命の方が優先だ。2週間で既に12名の命が奪われているんだ。これ以上犠牲者を増やす訳にはいかぬだろう?」
「確かにそうだ。これ以上、聖職者の無能さを世間に露呈させる訳にはいかないからな。それに人件費と税金の無駄にもなる」
「随分と大した事を言うが、お前一人で何が出来るんだ?」
「さぁ?なんでも出来るかもしれないし……何も出来ないかもしれない。いつだって結果は後にしか分からない」
「そういう事を言っているんじゃないっ!」
少し怒り気味のメイルをほっとき、私は同僚から捜査資料を数枚貰い。それから目撃者の住所を聞きいて、ホテルを後にする事にした。
「メイル。気持ちは分かるがあまりカッカするな。身体に良くない」
そう言い残した。
ホテルの外には同僚のイアン・トルコスが立っていた。
「どうした?イアン」
「相変わらず無愛想な奴だな。赤ずきん。久しぶりに顔を合わせたんだ。少しは嬉しそうにしろよ」
「悪いけど、これから目撃者に話を聞きに行く所だから」
ホテル出入り口から少しした所にある短い石段を駆け下り、彼とすれ違う。
「待てよっ」
イアンは私の腕を掴んだ。
「何?」
「俺も同行してやる」
「保護者でも気取ってるの?」
「同僚だろ?なんか問題あるか?」
「ない」
こうして彼と共に目撃者の家を訪れる事となった。
「あの家がそうか」
「みたいね」
私とイアンは目撃者の家へと入る。そこでは一人のおばあさんが出迎えてくれた。彼の部屋は2階だと教えてくれた。
「で、君が人狼を目撃した子かい?」
イアンは彼の部屋でそう尋ねる。ベッドの上で寝そべる少年。この子が唯一の目撃者であった。
「君じゃない。ちゃんとした名前がある」
「じゃあ、なんて言うんだい?教えてくれ」
イアンの問い掛けに彼はそっぽを向く。全く、子供の扱いを分かっていない。
「人に名前を尋ねる時はまず自分からだろう。同僚が失礼な事をして済まなかった。私はサテライト=ヴィル・アストレア。教会本部の聖職者」
私は視線でお前もしろとイアンに訴える。彼はその意図に気付いたのか挨拶を始めた。
「同じく教会本部のイアン・トルコスだ。今回は人狼を目撃したという君に話を聞きに来た。是非、教えて欲しい」
少年はベッドで身体を起こし、床に足を着けて座ると「カルム・トリー。それが僕の名前。何を話せばいい?」と答えた。
「そうか、カルムって言うのか。カルム、まず君が見た人狼について教えてくれ」
「え?」
それもっと早く言ってよ。
「なら目撃者に早く会わせ…」
「それがな……」
私に言葉を被せたメイルは事件目撃者の少年の事を教えてくれた。だが少年は狼の後ろ姿しか見ていないと言う。つまり、人間体が全く不明という事だ。だが目撃証言から狼が一体は確実にこの街にいる事が分かったのだ。
「なるほどね」
「既に警務局と協力し、市内まで閉鎖している。つまりこの街は二重に閉鎖されたということだ。これで一先ずは安心だろう」
「住民はどうする?まさか夜は一歩も家から出るな……なんて言うんじゃないんだろうな?」
私は恐れていた。このまま狼が姿を現さない事を。閉鎖するならするでもっと徹底的にすべきだった。人手不足など論外にも程がある。確実に一体を炙り出すには少なくとも一人の“犠牲”が必要だ。
「市民の命の方が優先だ。2週間で既に12名の命が奪われているんだ。これ以上犠牲者を増やす訳にはいかぬだろう?」
「確かにそうだ。これ以上、聖職者の無能さを世間に露呈させる訳にはいかないからな。それに人件費と税金の無駄にもなる」
「随分と大した事を言うが、お前一人で何が出来るんだ?」
「さぁ?なんでも出来るかもしれないし……何も出来ないかもしれない。いつだって結果は後にしか分からない」
「そういう事を言っているんじゃないっ!」
少し怒り気味のメイルをほっとき、私は同僚から捜査資料を数枚貰い。それから目撃者の住所を聞きいて、ホテルを後にする事にした。
「メイル。気持ちは分かるがあまりカッカするな。身体に良くない」
そう言い残した。
ホテルの外には同僚のイアン・トルコスが立っていた。
「どうした?イアン」
「相変わらず無愛想な奴だな。赤ずきん。久しぶりに顔を合わせたんだ。少しは嬉しそうにしろよ」
「悪いけど、これから目撃者に話を聞きに行く所だから」
ホテル出入り口から少しした所にある短い石段を駆け下り、彼とすれ違う。
「待てよっ」
イアンは私の腕を掴んだ。
「何?」
「俺も同行してやる」
「保護者でも気取ってるの?」
「同僚だろ?なんか問題あるか?」
「ない」
こうして彼と共に目撃者の家を訪れる事となった。
「あの家がそうか」
「みたいね」
私とイアンは目撃者の家へと入る。そこでは一人のおばあさんが出迎えてくれた。彼の部屋は2階だと教えてくれた。
「で、君が人狼を目撃した子かい?」
イアンは彼の部屋でそう尋ねる。ベッドの上で寝そべる少年。この子が唯一の目撃者であった。
「君じゃない。ちゃんとした名前がある」
「じゃあ、なんて言うんだい?教えてくれ」
イアンの問い掛けに彼はそっぽを向く。全く、子供の扱いを分かっていない。
「人に名前を尋ねる時はまず自分からだろう。同僚が失礼な事をして済まなかった。私はサテライト=ヴィル・アストレア。教会本部の聖職者」
私は視線でお前もしろとイアンに訴える。彼はその意図に気付いたのか挨拶を始めた。
「同じく教会本部のイアン・トルコスだ。今回は人狼を目撃したという君に話を聞きに来た。是非、教えて欲しい」
少年はベッドで身体を起こし、床に足を着けて座ると「カルム・トリー。それが僕の名前。何を話せばいい?」と答えた。
「そうか、カルムって言うのか。カルム、まず君が見た人狼について教えてくれ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる