夜が長いこの世界で

柿沼 ぜんざい

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-第10夜- 怪しげな村長とその影に

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「グレモリー村長。教会本部から話は聞いていると思いますが、人狼の犯行と思しき可能性がある限り、暫しの間、この村の簡易的な閉鎖を求むのですが……」

 そんな私に対し

「人狼等、この村には存在しない」

 彼はその一点張りだ。

「村役場の方に保管している遺体を見させて頂きました。あの捕食痕は人の歯型では付かない。人狼による犯行が濃厚かと」

「……」

「襲われていてるのはいずれも女性ばかりです。ですので19時以降の女性の外出を禁止するよう村長の方から禁止令を出して頂きたいのですが」

 険しい表情を少し見せてから彼はこう答えた。

「それをして何になるというのだ?誰も女性が外に出なければ、今度は男性が襲われるかもしれぬ。はたまた、これ以降は犯行が早い時間に変わるかもしれぬ。しくはもうこれっきりという事も……」

「その事に関しては私にお任せを。良い案が既にあります」

 村長との話を終えた私は用意された宿へとその身体を置いてた。

 宿泊部屋の中で備え付けの古びた木製のベッドの上で腰を下ろしながら私は考え事をしている。今回の人狼についてだ。

 (襲われた数は決して多いとは言えない。むしろどちらかと言えば少ない方だ。少数による形成のものか、単独犯か……いずれにせよ、狼のタイプが分からない。女性ばかりを狙うのは犯行している者がオスだからだろうか?遺体を全て食べないのは美食タイプだから?住処に持ち帰らず、その場で放棄するのは愉快犯だから?有り得る可能性が多過ぎて今回の狼のプロファイリングが難しい)

 そんな事を考えていると『コンコン』と扉を叩く音が。

「はい」

「夕食をお持ち致しました」

「どうぞ」


 * * *


「なぁんだぁ、教会本部から聖職者が送られて来たって言うからどんな奴かと思ったら、ただの女子供じゃねぇか。しかもたった一人で来やがって」

 村長の部屋の後ろの影にずっと隠れている若く容姿端麗な金髪の男。そう、この男こそ今回の事件の犯人……いや、犯狼である人狼だ。

 名をカリアと名乗った男は遠方から仕事の都合でコリダク村へと越してきた……というていで、1ヶ月前にやって来た。そして村の長たるグレモリー氏の一人娘であるシェイリを口説き始め、モノにした。婚約を前提に付き合い出した彼は自身の正体を隠してその一家に住み着いていたのだ。だがある夜、村長はたまたまその光景を目にしてしまった。第一の犯行が起きたその日、飲み屋から出て来た彼はカリアが人を喰らい狼から人間に戻る決定的瞬間を見てしまったのだ。

 それからというものカリアはグレモリー村長を脅し、「可愛い一人娘のシェイリを殺されたくなければ、このまま俺に協力をするんだな」と言い、遺体の処理をさせていたのだ。その間、村人4名が彼に殺され、その処理をグレモリー氏がしていたのだ。

 だがある日の出来事であった。カリアはグレモリー氏にこう言ったのだ。

「襲った女性が甲高い悲鳴をあげ、遺体を役場の奴に見られてしまった。その為、遺体の回収が出来なかった」と。

 この事から村ではこれまでの行方不明だった女性も同じように人狼によって殺されたのではないか?と疑うようになったのだ。それからというもの、カリアはまるで開き直ったかのように人を喰らい殺し続けた。遺体もその場で放置し、村民に発見させていったのだ。まるでその時の発見した彼らの表情を、反応を楽しむかのように。連日で夜に襲われる若い女性の事件は瞬く間に村全体に広がり、女性は不安と恐怖で怯えていた。

 そんな時にカリアは村長にこんな提案をしたのだ。

 自身が若い女性を襲い、事件を演出し続ける。そこで人狼としてでっち上げた男を用意し、それを自身が仕留めると。

 そうする事でカリアはシェイリだけでは無く、村民からの信頼も手に入れ、この村を自身の家畜小屋として確立させようとしていたのであった。

 幸い、シェイリはその容姿から狙う男は山ほど居た。その中で気に食わない男、ベムを人狼と仕立てあげ、殺そうとしていたのだ。

 その為、村はこの事件を村民と村の保安所だけで解決しようとした為、教会への連絡が遅れたのであった。

 これが今回の事件の真実だ。

「にしても、教会へ連絡行った事に関してはあんたのミスだ。良かったな、自身の首と娘の首がなんとか繋がっててな」

「こんな事、いつまで続ける気だ。わしはもう、お前を庇え切れなぬ」

「なぁに、安心しろって。あの聖職者をさっさと殺したら、全て上手くいくからさ。これで俺はこの村と、あんたの娘を手に入れる事となる。シェイリの奴、俺に惚れ込んでいるからなぁ。新たな村長の座に着いたら、毎月この村から9名ずつ若い女を差し出してもらって喰らう事にするよ……ふふふっ、はははははっ」

 カリアは不気味な笑いをすると、立派な椅子に座る村長の方をポンポンと叩くと、ワインをグラスに注ぎ、飲み歩きながら部屋を後にした。

「こんな事いつまでも……」

 グレモリーのか細い声が夜の部屋に小さく広がっていった。


 * * *


 夕食を取り終えた私はシャワーを浴びてから、夜な夜な外を出歩いていた。村長が役場を通じてくれたのか知らないが私の提案した通り、夜の外出禁止令で男性含む全ての者は家の中だ。、私を除いて。つまり、この状況で外を出歩いている者が狼の可能性が高いという事になるが……。

「まぁ、流石にこんな簡単な手には乗ってこないか」

 今回の狼がどのようなタイプなのかは定かではないが、潜伏技術がある程度ある事は分かっていた。故にこの村の何処かで潜んでいる……というより、既に人として生活を営んでいる可能性の方が高い。だから、外出禁止令も知っている筈だ。これで暫くは犠牲者が出ずに済むという事だが……それと同時に狼の特定が難しくなった。だがこれを何日も繰り返す事により、奴は必ずその姿を見せる事になるであろう。人狼の空腹は人の数倍と聞いている。特に今回の狼は若い女性ばかりを集中して狙っている。何日も食べれなければ恐らく気がおかしくなるであろう。それ故に罠だと分かっていても毎晩外を出歩く私を襲わずにはいられなくなるという訳である。

「長期戦になりそうだが……暫しの辛抱か」

 私にはまだ仕事が2つ残っていた。この次に行く予定の歴史ある赤レンガ造りの街。エルアド。そこで組織的人狼の調査と、ゴルディの山奥にある人狼の住処アジト。そこでの掃討作戦を控えているのだ。

 だから、今回の事件をさっさと解決したいのだが……。

「まさか、そちらから姿を見せるとは。思いもよりませんでしたよ」

「ふーん、やるじゃん?俺の気に気付いたんだ」

 振り返るとそこには金髪にノーネクタイの白いタキシードのような格好の若い男が立っていた。かなりの長身だ。

「……狼、ですね?」

「その呼ばれ方好きじゃないんだよね?だって、普通のオオカミみたいじゃん?人狼って呼んでよ?ちゃんとさぁ?」

「どっちも変わりませんよ。人に害を出すけだものである事に間違いはないですから」

 マントの内に隠してある“白銀の双刃 エルシオン”を抜く。

「いいねぇ、話が分かる子って」

「お仲間は?たった一人ですか?」

「そちらこそ?一人で俺に勝てるとでも?」

 戦闘前の前戯を終えた私たちは互いに向かい合う。そして、冷たい風が私たちの身体を吹き抜けた時、戦いは始まった。





 

 
 
 

 
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