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-第23夜- 狙われた議員
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バリス邸宅の地下室からバリス夫妻とその子供達や遊びに来ていた親戚と思われる子供の遺体が数多く発見された。
空きの酒樽の中から発見された彼らはアルコール特有の臭くも甘い良い香りがしたが私とトルグレム・アートはどうにも引っかかることがあった。
いつもの部屋で私は来客用のソファへと腰を下ろし、温かい紅茶を飲みながら専用のデスクを持つ彼と話す。
「サテライト、やはりこれが真実なのだろうか」
珍しくを気を落としているトルグレム。それもその筈だ。何故ならば、旧友のバリス・ケルディは生前、猟奇的な殺人鬼だった可能性が出てきているからだ。一体、何故、こんなことになってるかって?それは読み進めてみれば解る話さ。もう既に真実は出ているのだから……。
「まぁ間違いは無いかと。樽からは明らかにバリス家とは無縁そうな遺体が複数出てきた。それも死後数ヶ月から長くて1年弱のものだ。これに関してはあの成り済ましていた3人組や狼の犯行とは到底思えない。それにあの地下室。バリス邸の本邸にある居間と台所から地下へと通じる扉と階段が隠されてあり、しかもその空間はあの本邸から少し離れた小さな小屋。平屋の地下へと通じていた。トルグレムはその地下室の存在すら知らなかったんだろ?」
「あぁ……」
情けない声を出すトルグレムに私は自分の憶測をぶつけた。
「恐らく、鍛治職人のバリスはあの小屋で剣や刀を作り、定期的にテストを行っていた。勿論、武器の斬れ味や強度を試すテストをな。その過程でどうしても人が必要だったのだろう、意思のある生身の人間の身体が……それで定期的に人を自宅へと招待してはなんらかの方法であの地下室へと連れていき、試し斬りをしていた。多分だけど、奥さんもそれに気付いていた筈だ。だからその愚行に手を貸していたのだろう。そうやって彼は今までに何人もの人々を自分の造り上げた武器で試し斬りをしては殺し、遺体を空となった酒樽に詰めていた。だからあの地下室から異様な数の空き樽が発見されたんだ」
「そうか……それで、たまたま自宅へ遊びに来ていた親戚達と共に事件に巻き込まれ、自分達も樽の中へ押し込まれたというのか?」
「あぁ、そうだ。彼らが何目的でバリス家を襲ったのかは知らぬが、ある意味では彼らがその悍ましい事実を暴いてくれた……とも解釈るな」
私は再度、紅茶を啜り、マカロンに手を伸ばそうとした。するとトルグレムは「では何故、私の元へ手紙を出した?この手紙はバリス本人からの筈だ。その目的は?」と尋ねできたのだ。
私は指で掴んだまま静止せていたマカロンを、また口の中へと運ぶとモグモグとその味を噛み締めてから紅茶でゴクリと飲み干し、ゆっくりと答えた。
「自分の街にたまたま狼が現れたから、連絡を寄越したのだろう。差し詰め、タイミングを見計らって遺体の処理を狼にしてもらい、そして、その狼を私とレーネに倒してもらおうという狙いだったのだろうな。まぁ、その全ては招かれざる3人組によって壊されてしまった訳だが……なんとも皮肉な話だ。彼もまさか自分が死後、酒樽の中に詰められるとは思わなかっただろうな。まぁ、多くの他人を犠牲にした上で完成させた武器を売って、利益を得ていたんだ。これも一種の因果……かもな」
決して嫌味で言った訳じゃなかったのだが私の言葉が気に入らなかったのか、トルグレムは両手の拳をドンッと机の上に叩き付けた。
まぁ、そんなんでビビる私では無いが。
「所で、今回の件。ちゃんと隠蔽出来るんだろうな?トレグレム」
「誰にものを言っている?当然だ。今回の件は公にするつもりは無い。未来永劫に、な」
「そうか。それなら良かった。流石はトルグレム・アート。隠蔽のことなら、『なんでもお任せあれだな』」
またしても彼は眉を引くつかせて反応を見せた。
「所であの3人の身元は割れたのか?」
「いいや、まだだ。この件はクリックタウンの警務署に任せてある」
「そうか。それなら安心だ。人探しは我々の専門じゃないからな。管轄区域の警務官らに任せるのが賢明だろうな。では、奴の件はどうした?」
「オルエストか?その件は副課長に一任している。心配するな。奴なら必ず人狼の居場所を暴いてくれるだろう」
「だといいがな。教会の聖職者が狼一匹如きを見失ったなんて世間に知られれば笑い者にされるからな」
すると、彼も仕返しのつもりか嫌味でそれを返して来た。
「何処かの誰かさんがたかが一匹を仕留めきれなかったからな」
彼はとても嬉しそうな顔で私を見てくる。
「トルグレム……貴さ、」
「まぁ、いづれにせよ、奴が見つかるのは時間の問題だ。広域指名手配をされた以上にメルエムに奴の逃げ場は無い」
「それもそうだな」
言葉を被せてきたのが少し気に食わなかったが、美味しい紅茶とマカロンを頂けのでまぁ、良しとしよう。
話を終え、最後の一滴を飲み干した私はソファから立ち上がると「ご馳走様、トルグレム。私は今日は休みを摂るとするよ、また後日からレーネと任務に当たろうと思う。それでは失礼したな」と伝え、部屋を後にしようとすると、目の前で課長室のの扉が開いた。
「イアン……」
イアンは目の前の私にも目もくれず、足速で課長の元へと向かうと、手に持っていた紙を彼のデスクの上に叩き付けるように乗せ、こう言った。
「さ、さ、殺害予告です、じ、人狼根絶派のリーダーである、アルヴァロア国選議員が過激派人狼組織、“クラロアの唄”から殺害予告を受けましたっ!!!」
「何!?」
まるでさっきまでの落ち込みようが嘘の様な反応をトルグレムは見せる。
「そ、それは本当……なのか?」
「え、えぇ。残念ながら。この紙はアルヴァロア議員秘書のエリッサ氏から郵送された正式な護衛依頼書です。2日後に行われる厳選された政界の人々を招くホームパーティーを聖導教会に護ってもらいたいと、の事です」
突然の大規模な護衛依頼。かつてない程の責任重大の任務にトルグレムも唖然としていた。
「どうしますか?引き受けますか!?断ることも出来ますよ?」
焦り口調のイアンに口をポカンとしているトルグレム。全く呆れる2人だこと。「しっかりしてください!課長!」と彼の肩を揺さぶる同僚の背中を眺めながら私は意味も無く「アルヴァロア国選議員……ね」と呟いた。
空きの酒樽の中から発見された彼らはアルコール特有の臭くも甘い良い香りがしたが私とトルグレム・アートはどうにも引っかかることがあった。
いつもの部屋で私は来客用のソファへと腰を下ろし、温かい紅茶を飲みながら専用のデスクを持つ彼と話す。
「サテライト、やはりこれが真実なのだろうか」
珍しくを気を落としているトルグレム。それもその筈だ。何故ならば、旧友のバリス・ケルディは生前、猟奇的な殺人鬼だった可能性が出てきているからだ。一体、何故、こんなことになってるかって?それは読み進めてみれば解る話さ。もう既に真実は出ているのだから……。
「まぁ間違いは無いかと。樽からは明らかにバリス家とは無縁そうな遺体が複数出てきた。それも死後数ヶ月から長くて1年弱のものだ。これに関してはあの成り済ましていた3人組や狼の犯行とは到底思えない。それにあの地下室。バリス邸の本邸にある居間と台所から地下へと通じる扉と階段が隠されてあり、しかもその空間はあの本邸から少し離れた小さな小屋。平屋の地下へと通じていた。トルグレムはその地下室の存在すら知らなかったんだろ?」
「あぁ……」
情けない声を出すトルグレムに私は自分の憶測をぶつけた。
「恐らく、鍛治職人のバリスはあの小屋で剣や刀を作り、定期的にテストを行っていた。勿論、武器の斬れ味や強度を試すテストをな。その過程でどうしても人が必要だったのだろう、意思のある生身の人間の身体が……それで定期的に人を自宅へと招待してはなんらかの方法であの地下室へと連れていき、試し斬りをしていた。多分だけど、奥さんもそれに気付いていた筈だ。だからその愚行に手を貸していたのだろう。そうやって彼は今までに何人もの人々を自分の造り上げた武器で試し斬りをしては殺し、遺体を空となった酒樽に詰めていた。だからあの地下室から異様な数の空き樽が発見されたんだ」
「そうか……それで、たまたま自宅へ遊びに来ていた親戚達と共に事件に巻き込まれ、自分達も樽の中へ押し込まれたというのか?」
「あぁ、そうだ。彼らが何目的でバリス家を襲ったのかは知らぬが、ある意味では彼らがその悍ましい事実を暴いてくれた……とも解釈るな」
私は再度、紅茶を啜り、マカロンに手を伸ばそうとした。するとトルグレムは「では何故、私の元へ手紙を出した?この手紙はバリス本人からの筈だ。その目的は?」と尋ねできたのだ。
私は指で掴んだまま静止せていたマカロンを、また口の中へと運ぶとモグモグとその味を噛み締めてから紅茶でゴクリと飲み干し、ゆっくりと答えた。
「自分の街にたまたま狼が現れたから、連絡を寄越したのだろう。差し詰め、タイミングを見計らって遺体の処理を狼にしてもらい、そして、その狼を私とレーネに倒してもらおうという狙いだったのだろうな。まぁ、その全ては招かれざる3人組によって壊されてしまった訳だが……なんとも皮肉な話だ。彼もまさか自分が死後、酒樽の中に詰められるとは思わなかっただろうな。まぁ、多くの他人を犠牲にした上で完成させた武器を売って、利益を得ていたんだ。これも一種の因果……かもな」
決して嫌味で言った訳じゃなかったのだが私の言葉が気に入らなかったのか、トルグレムは両手の拳をドンッと机の上に叩き付けた。
まぁ、そんなんでビビる私では無いが。
「所で、今回の件。ちゃんと隠蔽出来るんだろうな?トレグレム」
「誰にものを言っている?当然だ。今回の件は公にするつもりは無い。未来永劫に、な」
「そうか。それなら良かった。流石はトルグレム・アート。隠蔽のことなら、『なんでもお任せあれだな』」
またしても彼は眉を引くつかせて反応を見せた。
「所であの3人の身元は割れたのか?」
「いいや、まだだ。この件はクリックタウンの警務署に任せてある」
「そうか。それなら安心だ。人探しは我々の専門じゃないからな。管轄区域の警務官らに任せるのが賢明だろうな。では、奴の件はどうした?」
「オルエストか?その件は副課長に一任している。心配するな。奴なら必ず人狼の居場所を暴いてくれるだろう」
「だといいがな。教会の聖職者が狼一匹如きを見失ったなんて世間に知られれば笑い者にされるからな」
すると、彼も仕返しのつもりか嫌味でそれを返して来た。
「何処かの誰かさんがたかが一匹を仕留めきれなかったからな」
彼はとても嬉しそうな顔で私を見てくる。
「トルグレム……貴さ、」
「まぁ、いづれにせよ、奴が見つかるのは時間の問題だ。広域指名手配をされた以上にメルエムに奴の逃げ場は無い」
「それもそうだな」
言葉を被せてきたのが少し気に食わなかったが、美味しい紅茶とマカロンを頂けのでまぁ、良しとしよう。
話を終え、最後の一滴を飲み干した私はソファから立ち上がると「ご馳走様、トルグレム。私は今日は休みを摂るとするよ、また後日からレーネと任務に当たろうと思う。それでは失礼したな」と伝え、部屋を後にしようとすると、目の前で課長室のの扉が開いた。
「イアン……」
イアンは目の前の私にも目もくれず、足速で課長の元へと向かうと、手に持っていた紙を彼のデスクの上に叩き付けるように乗せ、こう言った。
「さ、さ、殺害予告です、じ、人狼根絶派のリーダーである、アルヴァロア国選議員が過激派人狼組織、“クラロアの唄”から殺害予告を受けましたっ!!!」
「何!?」
まるでさっきまでの落ち込みようが嘘の様な反応をトルグレムは見せる。
「そ、それは本当……なのか?」
「え、えぇ。残念ながら。この紙はアルヴァロア議員秘書のエリッサ氏から郵送された正式な護衛依頼書です。2日後に行われる厳選された政界の人々を招くホームパーティーを聖導教会に護ってもらいたいと、の事です」
突然の大規模な護衛依頼。かつてない程の責任重大の任務にトルグレムも唖然としていた。
「どうしますか?引き受けますか!?断ることも出来ますよ?」
焦り口調のイアンに口をポカンとしているトルグレム。全く呆れる2人だこと。「しっかりしてください!課長!」と彼の肩を揺さぶる同僚の背中を眺めながら私は意味も無く「アルヴァロア国選議員……ね」と呟いた。
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